あの日見たアレの名前をゲンブはまだ知らない。
うおおおお何とか更新うおおおお
ゲンブの住処は、意外なことに森林だった。
これまで訪れた魔人の住処は洞窟や祠など、どれも屋内だったから意外だ。
シニが森林の入り口手前で止まる。
「ここがゲンブ様の住処です」
「ありがとう」
俺は皆の方を振り向いて確認した。
「皆……準備はいいか?」
「ヒデオ……それ一度言ってみたかったんでしょ」
「リカ、茶化すな」
今までもそうだったが、今回は特に何があるかわからない。
ゲンブはまだルーンガルドに使いを派遣して来ていないから、魔族側と手を組む気がない可能性だってある。
そうなると、顔を合わせた瞬間に攻撃されたりしても不思議はないのだ。
……まあ、これまでに会って来た魔人たちを見ればそんなことにはならない様な気もするが。
皆が頷いたのを確認してから森林の奥へと足を踏み入れる。
シニの案内に従ってどんどん奥へと進んで行くと、やがて開けた空間に出た。
そしてその空間の中央には……。
「こちらが地の魔人ゲンブ様です」
「…………」
「…………」
俺はソフィアと顔を見合わせてから言った。
「いや……ゲンブって言うか……ただの亀の甲羅じゃねえか」
俺たちの目の前にはただの巨大な甲羅が置いてある。
頭も手も足もない本当にただの甲羅だ。
しかし、そこから突然にょきっと頭だけが出て来た。
「うおっ」
「誰がただの巨大な亀の甲羅だって?……って、あれ……人間?」
「いや違う、俺たちは……」
「人間……許さないぞおおおおぉぉぉぉっ!!!!!!」
ゲンブが手足を甲羅から出してそう吠えると、強烈な地震が起きた。
震源地ど真ん中で震度も高く、俺たちは立っていることもままならない。
それを見て、浮いているから地震の揺れの影響を受けないシニが前に出た。
「ゲンブ様ゲンブ様、落ち着いてください。この方々は人間ではありません」
「君はルドラのところのシニか……どういうこと?どう見たって人間じゃないか」
シニの言葉を聞いてはいるが、気持ちが昂ったままらしく揺れは収まらない。
「確かに見た目は人間ですが、魔族なのです。それにスケルトンゾンビの方もいらっしゃいます」
言われてみれば遠征メンバーは俺、ソフィア、ゴンザレス、リカ、エレナ、ホネゾウ。
ホネゾウとソフィア以外見た目的には人間、あるいは人間側だ。
というかシニは勘違いしているが、リカやゴンザレスは人間だしな。
誤解を受けるのも無理はない。
ゲンブは少し落ち着いたようで、ようやく揺れが収まって来た。
「……確かに言われてみれば……じゃあ、ルドラが人間と手を組んだってわけじゃないんだね?」
「はい、ルドラ様は今後魔族側のみと懇意になさるお考えです」
「む……じゃあ僕の早とちりか……知らなかったとはいえ、ごめんね」
「いや……わかってくれればいいんだ。俺はヒデオ、こいつらは……」
ひとまず自己紹介と、遠征メンバーの紹介をした。
「新しい魔王の噂は聞いているよ。僕のところのシニたちからね……それじゃあ今日はどんな用で来たんだい?」
「今、俺たち魔族側の領域で地震……えーと、激しく地面が揺れる現象が度々起きてるんだ。ルドラに話を聞いたらゲンブがその揺れを起こしてるって聞いたんだけど、本当にそうなのか?」
「うん、そうだよ。あんなことが出来るのはこの魔王ランドでは僕しかいないからね……魔法でも出来るみたいだけど、あれは規模が小さいから」
そう言ってドヤ顔になるゲンブ。
「他の魔人も似た感じだったけど……ゲンブも気持ちが昂ると地面を揺らしてしまうってことでいいのか?」
「そうだよ」
そうだよじゃねーよ……。
「じゃああれは狙って起こしてる揺れか、それとも気持ちが昂ってやってしまっている揺れかどちらなんだ?」
「気持ちが昂ってやってしまっている方だね。と言っても、昂って、というのは正確じゃない」
「どういうことだ?」
「僕たちがああいった現象を起こすのは、気持ちが強く揺り動かされた時なんだ。だから気分が高揚した時だけじゃなくて、すごく落ち込んだりした時にも現象は起きるというわけだね」
「なるほど……じゃあお前が言いたいのは……」
「うん、嬉しいことじゃなくて、悲しいことや悔しいことがあったんだ……それで気持ちが動いて、最近揺れを起こしてしまっていてね……」
気分一つで地震を起こされたらたまったもんじゃないけど……。
と言うことは、ゲンブが悲しくなったり悔しくなったりする原因を取り除いてやれば、地震は収まるわけだな。
遠征メンバーは邪魔することがないよう、俺とゲンブのやり取りを黙って見守ってくれている。
「よかったら、何があったのか教えてくれないか?俺たちに出来る事なら、何でも協力するよ」
「そうだね……それじゃあ聞いてくれるかな」
〇 〇 〇
あれは、まだ僕たち魔人が封印される前のことだった。
ほとんどの時間をそれぞれの住処で過ごしている僕たちだけど、たまには外に出たりすることだってもちろんあるんだ。
ある日の夜、僕はこの住処から離れて、魔族の領域と人間の領域が隣接してる辺りを散歩していた。
そしたら突然人間の街がある方向で何かが光った気がして、そっちをじっと見ていたんだ。
すると次の瞬間、空に大きくて綺麗な花が咲いた。
あの距離で見えるくらいだから、随分と大きな花だったんじゃないかな。
魔法のように一瞬で咲いて一瞬で消えてしまったから、花ではないんだろうけど……とにかくすごく綺麗だったんだ。
その後も何回かその花は咲いては消えてを繰り返した。
僕はその光景に目を奪われ、しばらく立ち止まって見ていたよ。
やがて花が咲かなくなっても、また咲かないかな……なんて思って待ち、その場で一晩過ごしてしまったくらいだ。
その後も僕はあの辺りを散歩する度にまた花が咲かないかと人間の街の上空を見つめていたんだけど、とうとう同じものを見ることは出来なかった。
そしてある日、チート系主人公と呼ばれる人間たちがこの住処にやって来る。
何かと思えば彼らは僕を封印するとか言い出したんだ。
(どうして?僕が何をしたって言うんだい?)
(ごめんなさい、あなたは存在しているだけで危険なの!)
とは言っても、僕は人間に負けるなんて思っていなかったから、最初は油断していた。
でも、彼らはとても強かったよ。
一人ならまだ何とかなったけど、攻撃に特化した人や防御に特化した人がパーティーを組んで上手く連携を取って来たんだ。
僕は、とうとう追い詰められた。
封印するスキルに特化した魔法使いらしき女の子が瀕死の僕の前に出て来た時、思ったんだ。
ああ……だめだ、僕はこれから封印されちゃうんだ……って。
その時僕の頭の中をよぎったのは、何故かあの日見た、綺麗な花が咲いた夜空の風景だった。
だから僕は封印される前に、魔法使いらしき女の子に聞いたんだ。
(最後に教えて欲しい……いつかの夜、人間の街の上空でとても大きくて綺麗な花が咲くのを見たんだ……あれは何だったか、知らないかい?)
(……?)
魔法使いは、一瞬だけ仲間たちと相談していた。
すぐにこちらに向き直って喋り出す。
(……ああ、あれの事ね……大丈夫よ、どちらにしろあなたはもう観る事なんて出来ないから)
(どういう事だい?頼むよ、知ってるんなら何か教えておくれ。どうしてもまたあの綺麗な花を見たいんだ)
(それは出来ないわ)
(…………!!どうして?)
(あれはもうこの世界には存在しない。そして……これから封印されるあなたには関係のない事だから)
(…………)
(ごめんなさい……さよなら)
(……人間め……絶対に許さないぞ……)
そして僕は封印された。
〇 〇 〇
「僕は他の魔人と比べてあまり感情の起伏がない。だから普段は大丈夫なんだけど……封印が解けてからもぶらりと散歩をしてあの場所を通る度に、あの花の事と、僕を封印した人間たちの事を思い出して気持ちが揺れ動いてしまうんだ……」
「そんな事があったのか……」
ゲンブの話を聞き終わった俺たちの間には、しんみりとした空気が流れている。
ソフィアは途中から俺の頭の上で寝ていたけど。
「僕たちの封印が解けたのはあの魔法使いの女の子を新しい魔王が倒してくれたからだと聞いている……ヒデオ君、ありがとう。そこに関しては少しだけ気持ちが晴れたよ」
「礼を言われるような事じゃないよ。それよりさ、ゲンブはその花をまた見る事が出来れば気持ちが落ち着くのか?」
「うん……だけど、あの女の子はもうこの世に存在しないって言ってたし……もう見れないんだろうなあ……」
「そう落ち込むなよ、俺たちの方でも出来る限り探してみるからさ」
「ありがとうヒデオ」
それだけ話すと、俺たちはゲンブの住処を後にした。
森林から出ると、いつの間にやら消えていたシニがいる。
「あれ、お前まだいたのか……どこに行ってたんだ?」
「いえちょっと重苦しい雰囲気だったので、面倒くさいなと思いまして……」
「正直なやつだな……まあ案内の仕事の範囲外ではあるしいいと思うけど」
そしてシニと別れると、ゆっくり歩きながらルーンガルドまで帰ることにした。
テレポートで帰ってもよかったんだけど、少し話したいことがあったからだ。
俺は、リカを呼んで遠征メンバーから少し離れた。
ソフィアとの三人でなるべく小声で話し始める。
「おい、ゲンブが見たって言う花って……」
「もしかしなくても花火でしょうね」
リカは即答だった。
「有り得る話ではあります……魔人たちを封印したのがチート系主人公なら、逆に封印の少し前には日本からの転生者が続々とこの魔王ランドに集結していたと言うことですから」
「日本からの転生者がいれば、花火を作って打ち上げたやつがいても全然不思議じゃないからな。ただ問題は……その魔法使いの女の子が言ってたっていう、『もうこの世には存在しない』って言葉だよな」
「そうね……考えられるのは材料の関係かしら。この世界でも手に入れられないことはないのかもしれないけど、少し面倒だと思うわ」
「リカ、お前何でそんな事知ってんだよ」
「おじいちゃんが花火師だったのよ。だから詳しい事はわからないけど、少しぐらいなら知識があるわ」
「そうなのか……」
「それに、ゲンブさんが見た花火を作った人が花火について詳しく知っていたとも限りませんよ。例えばどこかしらの部品を魔石で代用していたりしたら……」
魔石って久々に聞いた言葉だな……。
ソフィアから聞くまで忘れてたよ。
魔石というのは、早い話が魔力のこもった石だ。
その辺で採掘出来るもので、そこまでレアではない。
ちなみに、俺の部屋にあるこたつにも使われている。
「たしかに魔石は希少ではないけど、採り過ぎるとさすがに枯渇するだろうし……あれを大量に使うからそれ以降の製作を諦めたのかもしれない」
「人間の街でも魔石は暮らしと密接に関わっていたしね」
「帰ったら花火について知ってるか、幹部たちに聞いてみるか。特にアムスブルクに住んでたゴンザレスやアリスなら何か知ってるかもしれないしな」
「そうしましょう」
リカの一言で俺たちの話し合いは終わり。
何だかさっきからエレナがこちらをちらちらと見ているのが気になる。
ゴンザレスは今そこにいるけど、ミーティングにアリスも呼んで幹部たちと一緒に情報収集した方が効率もいいだろう。
こうして、俺たちはルーンガルドに帰り着いた。




