『勇者』の資格を持つ者
ゴンザレスファンの皆様、お待たせいたしました!
ルネのジェンガ大会に参加し、エレナたちのメイド喫茶でオムライスを食べて一通りイベントを満喫した俺たちは、父兄席に座って雑談をしていた。
すると突然会場の人々から悲鳴があがる。
「何だ?」
「オムライスでもこぼしたんじゃない?」
「リカ……それで悲鳴をあげるのはお前くらいだろ」
「でもでも、何だか只事じゃなさそうですよ!」
ソフィアの言う通り、何だか物々しい様子だ。
悲鳴があがった方向にいた人々は、メイドさんも含めて蜘蛛の子を散らしたように逃げ出している。
人がいなくなった場所には数人のモンスターが倒れていた。
全員でその方向に何があるのかと目を凝らしていると、次第にその正体が浮かび上がってくる。
「モンスター……ですね」
「いや、でも……ライル、あの中に知ってる顔はあるか?」
「ありません……」
「「まさか……」」
俺とソフィアの声が被った。
そう、数日前のシャドウとのやり取りだ。
ソフィアの話によると、ほぼ確実に第二の魔王が誕生しているらしい。
その後にシャドウが言っていた。
第二の魔王が現れれば、そこに新たなモンスターの勢力が誕生すると。
つまりあれは……。
そこまで考えたところで、見覚えのないモンスターの集団から二人の女性が現れた。一人は黒髪のツインテール、もう一人はウェーブのかかったロングヘアーで同じく黒髪。
その内、ロングヘアーの女性が叫んだ。
「英雄にソフィア!出て来なさい!私はローズ!第二の魔王、三枝詩織が挨拶に来たわよ!」
何者かはわからないけど、どう考えても向こうには攻撃の意志がある。
既に被害が出ていて、ローズと名乗った女の足元にもルーンガルドから来たモンスターやダークエルフ娘が倒れている。これはほとんど、出て来なければ被害を更に拡大させるという脅しだろう。
「ヒデオ様……!」
「行ってくる。ライルは皆を連れて下がっててくれ。後、リカはエレナとルネと協力して、俺がヤツと話している隙に倒れてる人たちの回収と手当を」
「かしこまりました」
「わかったわ!」
「ローズ!!今行く!!それ以上は手を出さないでくれ!!」
ローズのところへと移動する間、ソフィアが申し訳なさそうに言って来た。
「あの、英雄さん、ごめんなさい……下っ端女神のせいで皆さんに迷惑をかけてしまって……」
「下っ端なのか、あれ?まあとにかくお前が謝ることじゃないから。第二の魔王も転生者なんだったら、話せばわかってくれるかもしれないしな」
「そうだといいんですけど……」
そしてローズの下に到着すると、傍らにはもう一人黒髪のツインテールがこちらをじっと見ている。じっと……見て……あれ……。
こ、こいつがまさか……。
「ようやく会えたわねえ、英雄にソフィア。特にソフィアは神界じゃ世話になったわ……ちょっとこっち見なさいよ」
ローズとか言うのが何か言ってるけど俺はそれどころじゃなかった。
「ま、まさかお前がロリ巨乳……?」
何だか期待に満ちたような目でこちらを見ていたツインテールの女の子に俺がそう言うと、女の子は途端にその顔を歪めて喋りだした。
「はぁ?キッモ!!バカじゃないの!?せっかく同じ日本人に会えたんだから少しくらい仲良くしてあげてもいいかなって思ってたけど……キモ!!」
な……ツンデレロリ巨乳ツインテールだと……!?
天然のロリ巨乳にツンデレを混ぜて醸成し、ツインテールで鮮やかに仕上げました……!みたいな。
そんなバカな……実在するのか!?こんな属性モリモリの女の子が!
「英雄さん……わかります、わかりますよ!私も初めて詩織ちゃんの資料をみたときに似たような反応をしてしまいましたから!」
「ちょっと!あなたたち、私の話を聞いてるの!?」
ソフィアの言うことも、ロ、ロー、ローゼンハイアー?さんの言うことも最早耳には入らない。それぐらい衝撃的だった。
「くっ……いつもいつも私の事をバカにして……!もういいわ!詩織、やってしまいなさい!」
「えっ……で、でも……」
「日本に帰りたくないの?」
「う、うう……あ、あなたたち!英雄を倒しなさい!」
ツンデレロリの号令がかかると、話をしている間ぴくりとも動かなかったモンスターたちが、一斉に動き出した。
「このスキル……まさか、詩織ちゃんをネクロマンサーに!?そういうことでしたか……」
ソフィアは何かに対して納得したようだけど、それどころじゃない。
まずい……これ全部相手にすんのか!?
いや、相手にするだけなら問題はない……ないけど!
「ソフィア!これ、やっちゃってもいいのか!?」
「待ってください!このモンスターたちはネクロマンサーのスキルによって操られているだけで、同じくネクロマンサーのスキルによって生み出されたゴースト系は倒しても構いませんが、それ以外はルーンガルドのモンスターたちの親戚に当たる人たちです!倒すのは極力避けなければなりません!」
「だよな……どうすりゃいいんだ!?さすがにこれだけの人数にボコスカやられたら俺だってまずいぞ!」
ネクロマンサーのスキル云々は知らなかったけど、こいつらを攻撃したらまずいことはすぐに理解出来ていた。
と、そこにモンスターたちをかき分けてこちらに突き進んでくる影が。
「ヒデオ!」
リカだ。
「『正義の献身』!!!!」
そう言ってリカが天高く手を掲げると、シェルターのような小さいドーム状の光の膜が俺たちを包んだ。
「同じモンスターだから魔王として攻撃出来ないんでしょう!だったらこの中に入ってなさい!これは指定した人が、この光の中に入っている間に受けたダメージを四人分まで私が肩代わり出来るスキルよ!」
RPGとかでよくある「かばう」みたいなスキルってことか。
リカは少し事情を誤解してるようだけど、その判断の早さに救われたな。
「悪い!助かった!」
「でもこのままじゃジリ貧よ!このスキルの効果が切れるまでにどうにかしないとまずいわ……!」
それもそうだ!どうする……!?
ソフィアはさっきから何やら難しい表情をしたまま事態を見守っている。
その時だった。
「ヒデオ様ーーーー!!!!」
どこかで聞いた声がした方を見ると、俺たちを囲むモンスターの向こうに騎士っぽいマントを着た中年親父がいた。ゴンザレスだ。
「ゴンザレス……!?何でこんなとこにいるんだ!お前も避難しろ!」
しかしゴンザレスは動かない。
そして何やら見たこともないような怒りの色をその顔ににじませている。
「リカ殿!『正義の献身』を発動しておられますかな!?」
「…………!?え、ええ!まだしばらく持つわ!」
それだけ聞くとゴンザレスはこちらに歩み寄り、まるで何かの芝居のように口上を述べ始めた。
「偉大なる魔王、ヒデオ様に仇なす愚かな反逆者たちよ!モンスターだからと手を出せないお優しい魔王様に代わり、この忠実なる僕、ゴンザレスが制裁を下してくれるわ!!」
そしてゴンザレスは一度高く掲げた右手を、片膝をついた体勢になってから地面につけて叫んだ。
「『聖なる大十字』!!!!」
はっ?
ゴンザレスがそうスキル名を宣言すると、ゴンザレスを中心として巨大な光の十字架が地面に生まれ、その光は天に向かって高く強く昇っていく。
これあれだわ。RPGとかで、ラスボスにダメージを与えることが出来るようにする為、保護をはがす目的で主人公とかが使うスキルだわ。
あっという間に俺たちは光の渦の中に飲み込まれ、何も見えなくなった。
どれぐらい経っただろうか、その光が失せて視界が回復すると、周囲のモンスターは気絶していて、ゴースト系は全て消失している。
「英雄さん、い、今のスキルは……チート系が出現する以前に、この世界で魔王を倒す役目を担うはずだった人類の希望、『勇者』になる資格を持つ者だけが使えるスキルの一つ……『聖なる大十字』、です……」
「えっ……」
「『聖なる大十字』は魔王やアンデッドの持つ特殊効果『不死身』を無視する天然のチートスキルなのですが……それをまさか、ゴンザレスさんが……」
ソフィアも、自分で言っておきながら信じられないと言う表情をしている。
俺は立ち尽くすゴンザレスに向かって問い掛けた。
「ゴンザレス……お前は一体、何者なんだ……?」
「何者でもありません。私はただのゴンザレス、魔王様の忠実なる僕……」
わけがわかんねえ……。
「な、何よこれ……何で『勇者』がいるのよ……聞いてないわよ……」
あっ、あの人忘れてた……えっと……何だったっけ……。
「あの、ルクセンブルクさん。こんな感じだし、今日のところは帰ってもらえないかな?魔王同士で争う理由ってのもよくわかんないし……ていうか、さっき見た感じだと詩織って子もやる気なさそうじゃん」
「ロンメダール……これ以上の乱暴は許しませんよ?」
何やら聞いたことのないようなソフィアの声に振り向くと、珍しくソフィアが眉間に皺を寄せている。先日のしょぼくれた表情に続き、これまたレアだ。
ていうか名前間違えんなよな……失礼だろ。
「おいソフィア、この人はロンメダールじゃなくてルードヴィッヒさんだぞ」
「あれっ……そうでしたか、ごめんなさい」
「どっちも違うわよ!あんたらわざとやってんでしょ!」
気付けばロンダルキアファイターさんの足元には詩織って子が倒れている。
あっ、そうか……グランドクロスに巻き込まれたのか。
何とか生きているようで少し身体は動いているんだけど、まるでそれに鞭打つかのようにルミナスビッグマウンテンさんは命令を下した。
「詩織!……まだアレがあるでしょ!アレを出しなさい!」
「うっ……うう……」
「おい!もうその子瀕死じゃねえか!まだ戦わせる気かよ!」
「うるさいうるさい!私はあんたたちに勝つまで諦めないわ!」
「このっ……」
俺が何とかって女神に更に抗議をしようとすると、突然俺たちの目の前にゴーストが大量に出現し、それが集まって一つの巨大なゴーストになる。
詩織はそのスキルの発動を終え、ゴーストにぼそぼそと命令を下すと気を失ってしまった。
「フフフ……ネクロマンサーの最上級スキル、『ゴーストユナイト』よ……さあ巨人よ、英雄を踏みつぶしてしまいなさい!」
こいつっ……!
巨大ゴーストごと何とかさんをぶっ飛ばしてしまいたいけど、あのゴーストを倒せるほどの英雄プロージョンとなると、詩織を巻き込むかもしれない。
迂闊に俺から手出しは出来ないか……。
さっきのゴンザレスの技で辺りに転がるモンスターたちは瀕死なので、もう一度ゴンザレスにあの技をやってもらうことも出来ない。
「ゴンザレス……悪い、さっきの技は今は撃たないでくれ!」
「かしこまりました……ですがここは私が食い止めます!魔王様はどうか避難を……!」
ゴンザレスはそう言うが、巨大ゴーストはかなり強そうだ。
一人で何とかなるのか……!?
巨大ゴーストがこちらに歩いて来て、今にもゴンザレスとの戦闘に入ろうかという時だった。
突然空からの光が遮られ、俺たちの周りを影が覆いつくした。
「あれっ……何だ?急に空が曇って……」
「ひ、英雄さん!あれは……!」
「…………っ!リカっ!詩織を頼む!」
「えっ……何を……っ!わかったわ!」
影の正体に気付いた俺たちは、リカに頼んでとりあえず詩織を避難させる。
その直後、影の正体が地面に降り立ち……。
「ヒデオ様~!こんにちは~!」
強烈な地鳴りと共に巨大ゴーストを踏みつぶした。




