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黄昏のシュブライヒェン

「『萌え萌え大運動会』?」


 何だ、その口にするのもちょっと恥ずかしいような名前は。


「はい、ダークエルフ村の村おこし的なもので……現在の村長さんがやろうと計画しているようです……。それで、イベント当日は私にも参加するようにと……」

「それで休みが欲しいわけか。いや、それは全然構わないんだけど」


 ドラゴンとの契約更新騒動からしばらく経ったある日の魔王城。

 いつもの日課通り、俺の部屋を掃除しに来てくれていたエレナが何か言いたげだったので聞いてみたところ、そんなことを言い出した。


「その……言いたかったのってそれだけなのか?」


 休みが欲しい、くらいならそんなに言いにくいことじゃない気もするし、それを言い終わった後もまだ何かもじもじとしているエレナ。


 その様子を見て、いつもエレナと一緒に家事をやってくれているアリスがエレナに近寄った。


「ほら~エレナちゃん、言いなよ~」

「や、やめてよアリスちゃん……」


 おお、初めて生で見た。漫画とかでよく見る女の子の「言っちゃいなよ~」っていうアレ。


 とはいえ余程言いにくい事なのか、エレナはそれでも切り出さない。

 問い詰めるのもかわいそうなのでのんびり返答を待っていると。


「あ、あの……もしよかったら、その……ヒデオ様に、む、村にお越し頂けないかと……」

「えっ……」


 気付けばエレナの顔が赤くなっている。


「エレナちゃんがね、ヒデオ様をお母さんに会わせたいそうですよっ」

「そ、そこまで言ってないからやめてよっ……」

「あらあら!親御さんに挨拶イベント発生ですよ!英雄さん!」

「アリスにソフィア……お前ら、毎回何かとそうやってエレナをからかうのはやめろよ、まあそれだけ仲良くなったってのはいい事だと思うけどさ」

「じゃあ英雄さんをからかっちゃおっかな~♪」

「何をする気だよ……っと、話が逸れたな。とにかくダークエルフ村に行くだけなら全然構わないよ。チート系襲撃の報せがあったらその度にここに戻る感じにはなると思うけど」


 エレナは俺の返事に喜んだような驚いたような表情を浮かべ。


「はいっ、それはもちろん……あ、ありがとうございます……!」


 深々と頭を下げた。


 俺にここを離れさせることになるから言いづらかったってとこだろうな。

 ホンマええ子やで。


 エレナにはまだこの前の契約更新騒動のお礼もしてないし、こういうことは遠慮なく言ってくれていいんだけど。


 とにかくダークエルフ村に行くことになったので、ライルやシャドウに連絡をしつつ色々準備をして、明日の朝から出発しようという話になった。




 そして俺は一通り通達を終えた後に、ギドの服飾店に来ている。


 最近アリスは何かとジンと二人で出かけるので、モンスターたちに俺の客人だと一目でわかるようにするため、俺の魔王っぽいマントについているものと同じ印の入ったスカーフをプレゼントすることにした。


 現在よほどのはぐれ者でなければ同盟関係にあるドラゴン族を含め、モンスターで俺の顔と魔王っぽいマントについている印を知らないものはいない。恐らく印を見ただけで俺の客人だとわかってもらえるはずだ。


 ついでに「エンチャント」という魔法の効果を装備品に付与する魔法系と生産系の中間のようなスキルで、何か護身に役立つような効果を与えておこうかと思っている。


「よう。元気にしてるか」

「これはこれは魔王様。ご注文いただいたスカーフ、出来上がっております」


 ギドは一度店の奥に引っ込み、スカーフを取って戻って来た。

 デザインはギドに任せてあるから見るのは初めてなんだけど、なかなかに鮮やかな色合いをしている。


「女性が身に付けるものだと聞いておりましたので、多少はおしゃれにしておきましたが、魔王様の印をつけると聞いて多少禍々しい感じも出しておきました」

「それは出さなくても良かったかもな……」

「でも、魔王っぽくて素敵ですよ!」


 ソフィアはお気に召したらしい。

 魔王っぽいって言ってもアリスが付けるものなんだけど。まあいいか。


「そういえば魔王様、客人と言えばもう一人ルーンガルドに人間がいるようですがあの者には何か与えなくても良いのですか?」

「あー……」


 ギドの言うもう一人の人間とは、もしかしなくてもゴンザレスのことだ。

 

 最近は農作業で異常なまでの功績をあげているし、何よりドラゴン族との騒動ではあいつがいないと材料がどうやっても足りなかった。何かお礼をするのが当然ではあるんだけど……。


 あいつには何を与えたら喜ぶんだろうか……?


 さすがに元無職で現在は農夫をやっている中年親父にプレゼントというのは未知の領域だ……。


 元いた世界では小さい頃に父親にプレゼントを贈ったことはあったけど、何か学校の授業とかで描いた絵だったし、本格的なプレゼントをしたことはない。そもそもここは異世界だ……父親にプレゼントをするのとはまたわけが違う。


「なあソフィア……ゴンザレスにプレゼントを贈るとしたら、どんなものがいいと思う?」


 ソフィアは、顎に指を当てて考え始めた。


「う~ん……正直何贈っても喜びそうですけど……あの人、前に様子見に行った時には『魔王様!魔王様!ガハハハ!』みたいな感じでしたし」

「ガハハハ!何て言ってたっけか?いや……言ってたな……」

「あっ、でもあの人、赤いリボンつけたまんまだし、ずっと上半身裸だから上に着るものをプレゼントしてあげた方がいいかもしれません!」

「いい案だけどそれはどちらかと言えばまともな服を着て欲しいっていう俺たちの希望だな。まあいいか。ギド、適当に何か上に着るものを作っておいてくれ。魔王印も付けてな」

「かしこまりました。それで……お代の方は……」


 俺は金貨袋からいくらか金貨を出した。


「これくらいでどうだ?」


 ゴンザレスに適当に贈るにしては上等な額のはずだ。

 それを見たギドは満足そうな笑みを浮かべた。


「ありがとうございます……やはり世の中コレですからねえ……イッヒッヒ……」


 人差し指と親指で丸を作って卑しく笑うギド。

 こいつは金の事になると途端に大人の汚い一面を見せる。


「それじゃまたな」

「今後ともごひいきに……」

「お疲れ様で~す!」


 そして俺たちは服飾店を後にした。




 そして迎えた翌日の朝。


「すいませんどちら様ですか?」

「リカよ!」


 最近姿を見せなかったリカがいきなり現れた。

 案の定リカもついてくることになったので、今はダークエルフの村に向かって歩きながら雑談をしているところだ。


「リカちゃん、あんまり会ってないから心配してたんだよ……何してたの?」

「エレナちゃんは本当にいい子ね!大好きよ!そして最近のリカちゃんはね、アムスブルクにある貸家の家賃を支払うのを忘れてたから、ダンジョンに潜る系のパーティークエストで稼ぎまくって来たのよ!」

「お前友達いないって言ってたじゃねえか」

「友達はいないわ!でもダンジョンに潜る時は引く手数多なのよ!」

「ああ、なるほどな」


 MMORPGなんかではよくあることだ。

 早い話がタンカー系の職業というのは火力が低くフィールドで狩りをする分には効率が悪い。でも、ダンジョンはタンクがいないと効率が悪かったり、そもそもクリア出来なかったりする。


 それでタンカーは、火力職やヒーラー職からダンジョンに行く時にだけ声をかけられる、といういわゆる上辺だけの関係を多く持つことになるわけだ。


 もちろんタンカー全員がそうというわけじゃなく、大体はギルドのメンバーやリアルの知り合い等、ちゃんとした友達がいるものだけど、リカはどうやらそうじゃないみたいなのでちょっとだけ涙が出てしまう。


「それで、もう稼ぎは充分なのか?」

「ええ!しばらくは遊んで暮らせるだけの額を稼いできたわ!」

「遊んで暮らす必要はないだろ……ていうか遊ぶ相手はいるのか?」

「ヒデオよ!」

「俺かよ」


 この際モンスターでもいいから他に友達を作って欲しい。


「ヒデオ様……今度リカちゃんも混ぜて、あの、とらんぷ?しましょう」

「ああ、そういえば最近はやってなかったな」


 エレナに言われて思い出したけど、俺は以前トランプを作って幹部たちと遊んだことがあった。


 とは言ってもキングとサフランを皮切りにして早々にみんなが飽きてしまい、最近はほとんどやっていない。


「何?あなたトランプなんて持ってるの?それを早く言いなさいよ!」

「何でお前に言わなきゃいけないんだ……ていうか普通に忘れてたんだよ。前にライルにプレゼントしようと思って生産スキルを使って作ったんだ」

「本当に便利な男ね!その調子で他の遊び道具も作りなさいよ!」

「私ジェンガとかやってみたいです!」


 そういえばそんなものもあったな……案外ソフィアの提案は悪くない。


「じぇんが……って、何ですか?」


 一人話題についてこれていないエレナ。


「エレナは知らないか……そういうおもちゃみたいなのがあるんだよ」

「そうなんですか……あの、よかったらまた、遊び方を教えてください……」

「おう」

「あらあら!」


 頬に両手を当てて何やら笑顔になっているソフィア。

 視線で「茶化すなよ」と注意をしておいた。


 とは言ったものの、ジェンガってどんなのだったかな……。

 一つ一つのブロック的なものをどう作ればいいかとかはわからない。


「なあリカ、お前はジェンガってどんなのか細かく覚えてるか?」

「さすがに全部じゃないけど、大雑把には覚えてるわ!ヒデオにいくらか作ってもらって試行錯誤すればそれなりのものは作れるんじゃないかしら!」

「お、じゃあジェンガ作る時は手伝ってくれよな」


 その時、俺たちの会話を聞いていたエレナが恐る恐る聞いて来た。


「あの……お二人は、昔からのお知り合い……じゃないですよね?でも今のお二人のやり取りを聞いてると、そんな風に見えたんですけど……」


 思わずリカと顔を見合わせる。

 しまった……これは困ったぞ。


 もちろんここで「俺たちは異世界の同じ国から来たんだ」と言ってしまえば説明は一瞬で終わる。でも、少なくとも今はそうもいかない。


 別に隠しているわけじゃないけど、わかってもらえるように、信じてもらえるようにそれを説明するのは結構大変だと思う。色々証拠になるものなんかを揃えた上で、ソフィアとも相談してから打ち明けた方がいいだろう。


 だから、少なくとも今は転生者という事実を話すべきじゃない。

 リカの方を見ても、俺と同じ事を考えているみたいだ。


 いや……本当に考えてんのか?考えてると信じよう。


「エレナちゃん……実はね」


 うまい言い訳でも思いついたのだろうか。

 嫌な予感しかしないから止めたいんだけど、もうこのタイミングじゃ無理だ。




「私たちは……前世で生き別れの兄弟だったのよ」


 アホかこいつ……何余計な事してくれてんだ。

 

 せめて前世で知り合いとか同じ国の出身とかそこまでにしとけよ。

 どう考えても生き別れの兄弟とかいう設定までは必要ないだろうが。


「えっ……そうだったの?」


 ちょっと信じてるじゃねえか……まあエレナはいい子だからな。

 もうここまで来たら俺も便乗するしかない!


「そうなんだよ……初めて会った時はまさかとは思ったんだけど」

「ええ……それで二人きりで確認を取ってみたら……前世で弟だったシュブライヒェンだったのよね……」


 俺が弟なのかよ……シュブライヒェン?

 

 ソフィアの方を見ると、必死に笑いを堪えていた。

 笑ってないで何とかしてくれませんかね。


「それで私たちの前世の故郷ではね……毎年ジェンガの腕を競う国際トーナメントが開催されていたわ……そこで私たちは……」

「リカ、もういいから……そんな辛い事思い出さなくていいから……」


 これ以上設定を盛り込むな……収集つかねえだろうが。


「そうだったんですね……ごめんなさい、変なこと聞いちゃって……あの、もう聞かないので、大丈夫です……」


 こうしてその場は何とか凌げたものの、俺はしばらくリカへの怒りとエレナへの申し訳なさでどうにかなってしまいそうだった。

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