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働けど働けど


実家暮らしの竜王種(バハムート)、略して家竜の3話目です。



いまいち筆が進まない時は違う作品を書くに限る。




我が娘ミウはすくすくと成長を始めた。それはもう尋常じゃない早さで。まるで東洋にある植物、竹のようだ。私は仕事の関係で東洋の国、戟に何度か行ったことがあるが、あそこの料理は本当に絶品だった。それに加えて景色も美しい。雄大な自然に美味い料理、是非ともまた行きたいものだ。いつかミウを連れて行くとしよう。今の内に色々経験させねばなるまい。




その為にもしっかりと稼いでおかないといけないな。さてギルドに行くとしよう。




「ミウ、私は仕事に行ってくる。良い子にお留守番をしていてくれ、すぐに帰ってくるからな。暇なら絵本を読んでいても良いしオモチャで遊んでもいい。おやつは戸棚にしまってあるからな」




「は〜い!お仕事頑張ってね、パパ!」




フ、娘が応援してくれているのだ、全力で臨むとしよう。稼げるクエストがあるといいが…







ーーーーー

ーーー






首都アルクレトリアのギルド本部。世界最大の都市であるここのギルドには常に最高レベルの冒険者たちがいる。そしてこの物語の主人公(パパ)であるゼニスの活動の拠点だ。世界最大と言うだけあっていつも活気に溢れている。しかしそれは表の都市であって裏の都市は恐怖に満ちている。




違法薬物の取扱店から始まり奴隷者、浮浪者にならず者や死体。この都市の暗部は端的にこの世界そのものを表していた。力無きものは淘汰される、虐げられる、決して光を浴びることはない。




だがギルドの存在により仕事が手配され職には困らなくなった時代。当然それで成功した者もいる為、一昔前よりは犯罪率はマシだ。主人公ゼニスもギルドに救われた人間である。その話はその内するとしよう。








転移魔法により家からすぐに首都のギルドに来た。さて、いい仕事はないものか…




「お、ゼニス… 来てたんか」




「マスターお久しぶりです」




私の名を呼んだ男はこのギルドのマスター、ハガンだ。180以上の身長を持つ私を優に超える2m越えの大男。ちなみに私の前の代のドラゴンスレイヤーでもある。




「その様子だとオメェ… 金が必要なんだな」




「えぇ… しかし何故それを?」




「バカにすんな。オレァ昔から、お前がガキの頃からのマスターやってんだ。表情見りゃ一発でわかる」




私がギルドに入った頃から確かにギルドマスターだった。それより前からやっていただろうしその分人を見てきたのだろう。確かに、私はそう納得する。





「では…何か稼ぎのいい仕事はありますか?」




「こいつだ、持ってけ」




懐から出された1枚の羊皮紙。少し酒の臭いがする。さて仕事の内容は…




「グラットンスライムですか…」




「なんだァ?今更テメェがビビる様な相手じゃねぇだろ」




グラットンスライム、スライム種の中でも頂点に立つスライムだ。恐ろしいほどの吸収力が特徴である。何もせずただ剣で斬れば刃が一瞬で捕食され無くなるだろう。そもそもスライム種自体が上級以上の冒険者でなければ接触を禁じられているのだ、その頂点が弱い訳がない。




主な討伐方法は魔法である。重要なのは魔法の密度と衝撃。まあこれは実際に見るのが1番早いだろう。魔法しか扱えない冒険者や物理しか扱えない冒険者はまず討伐が出来ない。私の様な魔法戦士がこのスライムの討伐に向いている。しかし私は知り合い曰く魔法戦士ではないらしい。




『お前が戦士だったら俺らみたいな戦士は布の服着た一般市民だろうよ。お前みたいなのはバーサーカーって言うんだ。スペルバーサーカーとでも名乗っとけ!』と怒鳴られた。




魔法を扱うもの、スペルキャスターと狂戦士、バーサーカーを合わせたものらしい。少し名乗るには長いと思うのだが… まあそのことはいい。報酬も悪くない120万アルクか。




「いえ、問題はないです。この仕事受けさせてもらいます」




「おーう、さっさと行って帰ってきな」




依頼書を持ち貸し出された魔道具を掴みギルドを後にする。場所は首都からそれなりに離れた位置にある深淵の森だ。ここは昔から定期的に接触禁忌種の魔物が出る。空気中の魔力が濃いことで魔物が強く成長しやすいこと、それに加えて近場には村すらないため人が魔物を討伐することがほとんどない。




木を1本切り倒せば翌日には10本生えているほど木の成長が早い。これもまた森の中の魔力が高いことが関係している。焼き払うなりすればいいかもしれないが、この森は秘薬などの素材が手に入る、それにここの魔樹は魔法使い愛用の杖の基になる。それ故に無くすわけにはいかないのだ。




離れてはいるが転移魔法がある。さっさと終えてミウとの時間を作らねばな。










グラットンスライムに限らずスライム種は基本的に見つけやすい。地面以外が抉れたようになるからだ。スライム種は移動する度に触れたものを捕食して進む習性がある。私が今いる場所のように木が中途半端に抉れて倒れている場所があればそれは近くにスライムがいる証拠だ。




討伐の際に重要なことは多々あるが、1番重要なのは罠を仕掛けないこと。罠の種類にもよるが毒などを設置するとそれを捕食し進化を始める。戦う際は罠を仕掛けず、周りに進化を促すようなものがないか気をつけること。





頭の中で復習を済ませ、戦術を組み立てていく。まあ戦術なんて大層なものではないがな。成功したら御の字、失敗したら流れで身体を動かせばいい、それだけだ。




ミウ関連で少しドタバタがあったからな、久しぶりの仕事だ。気をつけてやるとしよう。




グラットンスライムを捕捉。対象は未だ気付かず移動を続けている。グラットンスライムに目など無い。なら気付くことはないのでは?そんなに甘い相手ならこれだけの報酬が払われるわけがない。木陰へ移り身を隠し続ける。




木などの遮蔽物を考えれば射程は… 50mだけか… 背中に掛けた220cmを越える大弓、私の扱いに耐えられる武装の1つだ。推定樹齢1000年の霊木を削り作られたフレーム、討伐してきた竜の血管を束ね編み上げた弦。魔力との親和性が高く、少し強化の魔術を加えれば性能は瞬く間に倍になる。生半可な矢では簡単に折れる為、鋼鉄製の矢か魔力の矢しか放つことが出来ない。




その弓の銘は穿(うがち)。名の通り当たればどんな物でも穿つ。いや、それどころか爆発四散させるだろう。あの大戦でその猛威を奮った。




魔力で矢を創り出し番える。弦は弦はまるで竜の唸りのように、ギチギチと相手を恐怖に陥れる音を鳴らす。射程圏内まで…3 …2 …1!




「フッ!」




音を立てず矢は飛来する。まるでアサシンのように息を殺し、気付かれぬよう始末する。寸分の狂いもなく放たれた矢は真っ直ぐとスライムに向かい爆散させた。しかしゼニスは攻撃の手を緩めない。




「シッ!」




息を1つ吐き出せば、50mの距離を瞬きするよりも速く詰める。鞘と呼ぶにはお粗末過ぎる革製のベルトから大剣を抜く。全長2m50の大剣、ドラゴンの骨を芯としそこに伝説の鉱石であるオリハルコンを溶かし1週間かけて撃ち続けた唯一無二の剣。銘は(かい)。斬ることにも叩くことにも特化している。こちらも魔力との親和性が高いため、スペルバーサーカーであるゼニスとの相性は最高だ。




「付術の理・焔」




抜き去ると同時に刃に魔法をかける。先ほどまで白銀であった刃は朱に染まり、陽炎が空間を歪める。そしてそのままスライムへと振り下ろす。




「紅の園」




ぶちゅりとスライムが音を立てた瞬間、刃の高濃度の魔力を解放し辺りに炎を広げる。その大きさは生物に恐怖心を与える程。中心に行けば皮膚が溶けるのではないかという高熱。圧倒的な死を感じさせられる濃密な炎だ。しかしその炎は赤より紅く、まるで大輪のバラが咲いたかのような美しさがあった。




その一撃により飛び散ったスライムは一矢報いようとゼニス目掛けて飛ぶ。眼前まで迫るものの花を守るため動き出した炎の荊により不発に終わる。こうして呆気なく、1つの生命が男の手によって終わりを告げた。




死をも恐れぬ胆力、数多の英雄ですら扱えない大剣に大弓、宮廷魔術師ですら出来るか怪しい卓越した魔力操作。数え切れない程魔物を穿ち、千を越える竜を屠った。ギルド歴代最強でドラゴンスレイヤーの名を与えられた男、ゼニス。その名が与えられたのも納得しざるを得ないだけの証明がここにはあった。









スライムが蒸発する音を立て消滅していく。先程ギルドから持ってきた魔道具、魂の記憶(ソウルストレージ)を取り出す。この道具は主に実体を持たない魔物や死亡後消滅する魔物、ギルド職員たちが死体を回収出来ない場所にある場合討伐の証明をする為に使う道具だ。詳しい原理は分からないが死亡した魔物の魂を吸引しているとかなんとか。




私は戦闘用魔法しか知らないのだ、魔道具について聞くのはお門違いである。知人なら魔道具マニアがいるから気になるようならそいつに聞けばいい。もっともあいつなら私ならもっと凄いものを作ると言ってこれを叩き壊すだろうがな。




魔物の討伐は終えた。あとするべきことは…埋葬だな。刃の半分が消滅しているレイピア。一見ボロボロだがしっかりと手入れされている。近くに落ちていたギルドタグを拾う。Bクラス冒険者か… これからというところでこいつと遭遇してしまったらしい。タチの悪いことにグラットンスライムはただのスライムに似ている。恐らくこの冒険者はただのスライムだと思い戦ったのだろう。Bクラスならスライムの討伐もある。




運が悪かったとしか言いようがないな。今の私に出来ることは弔うことだけだ。近くの岩を剣で斬り簡素な墓石を作る。死体など髪のけ1つも残ってはいない。ギルドタグも半分以上呑まれている。名もわからぬ冒険者よ、仇はとったぞ。




……帰るとするか、ミウが待っている。転移魔法でその場を離れる。






先ほどまでの音は全て消え、いつもの静謐な森が戻った。






ーーーーー

ーーー





「マスター、帰りました」




「おう、少し遅かったじゃねえか」




「こちらを…」




拾ったギルドタグを差し出す。




「なるほど… お前はいつまでも不器用な奴だな」




「それは、何故でしょうか…?」




「いいや、何でもねぇよ。気にすんな、老いぼれの独り言だ。おい、誰でもいい。こいつに報酬を支払ってやってくれ」




そう言いギルドの奥へと消えるマスター。どういうことなのだろうか。




「は、はい!ゼニス様ですね!」




受付嬢は1つのケースを持ってこちらに来る。




「こちらが120万アルクです!」




「ああ、確かに受け取った」




「それで…その、」




「どうした?」




「握手してもらえませんか!」




「よくわからないが… いいぞ」




「ありがとうございます!」




ニギニギと私の手を握り続ける受付嬢。私のような奴と握手して何が楽しいのだろうか。




「ふぅ… ありがとうございました!」




「あ、ああ…」




そう言い満足げにカウンターに戻る。何が良かったのだろうか…?まあいい、帰るとする。







「ミウよ、帰ってきたぞ」




「おかえりー!」




リビングからドタドタと足音を鳴らし私に体当たりする勢いで抱きつく。それにしても…




「ミウよ、大きくなったか…?」




「むぅ〜… わたしがふとったっていうの?」




「いや、そういうつもりではないのだが… 私の気のせいだ」




しかし、こう、明らかに勢いが強くなっている。背が、伸びてるのか…?心なしか今朝より大きくなっている。




「ねっねっ、きょーのおはなしきかせて!」




「それは、いつかミウが大きくなったらな」




「え〜… じゃああそぼ!!」




「ああ、わかった」




ミウは戦いからなるべく遠ざけたい。私自身のエゴだが彼女には女の子らしい生活を送って欲しいのだ。こんなに血生臭い世界に来てはいけない。




何があっても私が必ずこの子を守る。








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