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パッと思いついた内容をとりあえず投稿。



ただひたすらに、ギルドの仕事をこなしてきた。さほど強くない私だが、ギルドからは最強の証であるドラゴンスレイヤーの称号を与えられた。私はそのような名を貰えるほど大層な人間ではない。ただ奪うだけの、中身のない空虚な人間だ。




いつも通り、依頼を受注して魔物を殺すルーティンワーク。そして町から離れた人のいない一軒家でひっそりと暮らす。父も母も妹も、全てを失った私の虚ろな生活。変わらないはずの作業だった。




だがその日はいつもと違う。家の前に卵が置いてあった。大きさは70cmほどだろうか、それなりの大きさだ。見た目は白に近いクリーム色の、大きささえ気にしなければ普通と変わらない卵だ。




私は疑問に思った。この卵は一体誰が置いていったのだろうか。そもそも何の卵なのだろうか。妙な既視感があるがあと一歩というところで思い出せない。何十年と冒険者をやってきた私は番いの魔物を数え切れないほど屠ってきた。もちろん番いである以上子を成していたし巣には卵があった。恐らく既視感の正体はそれだろう。思い出せないのは遥か遠くの記憶か、或いは印象に残らないほどのクエストだったのかもしれない。




何の卵が分からない以上放置するわけにもいかない。何が産まれるかわからない以上殺すしかない。肩に背負った大剣に手を掛けるが思い留まる。




あの時の私は何を思っていたのだろう。家族がいないという事に対する同情か、それとも自身が奪ってきた命に対して償いたかったのか、或いはただの好奇心からか。今となってはどうでもいい事だ。この子が無事に産まれて私に幸せを与えてくれた、その結果だけで充分だ。




自惚れかもしれないが、些か…いやかなり私のことを好いてくれているらしい。……些かと真っ先に出てる時点で私もこの子の事を愛していることがバレてしまうな。





脱線してしまったな、話を続けるとしよう。





先ず私は知り合いのサマナーやテイマーに卵について聞いてみた。この卵についてとどう育てるべきか。結論から知り合い達に聞いたが全く情報は得られなかった。一流のテイマーや本を何冊も書ける知識を持った人間に聞いてもだ。




2つの感情が浮かび上がる。この未知に対する興味、どう飼育すべきかの困惑。そういえば過去にこんな話を聞いた記憶がある。ハーピーなど鳥人または鳥の生物は定期的に卵を転がすそうだ。




……実践すべきなのだろうか?とりあえず毛布で温めるとして何となくの感覚で転がし続ける。仕事に行く前に1ころり、すぐに終えて1ころり。食事の前後に、寝る前後に、身を清める前後に、装備の点検をする前後に、ころりころりと転がし続けた。




そんな生活を続けること1週間、あまり気の長い性格ではない私には卵がもう死んでいたのではないかと不安になり始めてきた。そんな私の不安を察知したのか卵に罅が入り始めた。




ーー誕生の瞬間だ




そう思い私は魔道具マニアから押し付けられた記録装置を設置し撮影を始める。




このような生活から産まれたのだ、鳥人種だろうか。いや、もしかしたらスライム種かもしれない。大穴でドラゴンかもしれない。まだ産まれてもいない生命を想像し続ける。最終的に色々混ざってキメラになってしまったがな。





私が出した予想はキメラ。では産まれてきたの生命の正体は?





罅がより深く入る。黒い角のようなものが飛び出してきた。これはもしや私の予想が当たったかもしれない。次に卵から飛び出したのは黒い翼だ。角だけならば羊などの可能性もあった。だがしかし翼だ。これはキメラに違いない!まだ見ぬ未知に対する興味はより深くより強く。




さあ早く出てきてくれ、そう祈ればとうとう全身が出てきた。全長は1mと少し。爬虫類特有の見透かすような瞳。全身を覆う黒い鱗は光を浴び輝き、とても頑強そうだ。その生物の身体と同じくらいの大きさの尾は刺々しく、触れればこちらが傷つくだろう。




なるほど、これは…大穴のドラゴンのようだ。何という皮肉。私が1番屠っており、私の人生の崩壊を招いた生物を育てていたらしい。ドラゴンスレイヤーが竜を育てるというのは何とも滑稽である。




しかし多少苦労して世話をしたから目の前のこいつがとても愛らしく見える。これを期にペットを飼うのもいいかもしれない。それにしても竜種というのは子どもでも大きいものなのだろうか。産まれたての竜種を知らない以上何とも言えない。




ん、どうやらこの子竜は私の存在に気づいたようだ。鋭くも弱々しい目つきでこちらを見つめ続ける。すると突然羽ばたき私の周りをパタパタと飛び始め、そしてすりすりと体を擦りつける。




無事私は親認定されたようだ。ゆっくりと手を出し子竜の頭を撫でる。目を細めて若干嬉しそうに撫でられている。遍く全ての生物を恐怖に陥れる竜種と言えど、子どもは可愛いものである。




しばらく撫でていると子竜が吃逆を始めた。どこか調子が悪いのだろうか。今度は背中を撫で続ける。竜に効果があるかわからないが何もしないよりはマシだろう。




繰り返すこと1分ほど、唐突に炎を吐き出した。竜種特有のブレスだ。どうやらこの子竜は炎のブレスを吐くらしい。射程は2m程だろうか。幸い部屋は広く物は燃えるような物は無かったので火事にはならなかった。先ほどの不調はこれのせいだったのだろう、どこか満足気な表情で子竜は飛び続けている。




竜種は産まれたばかりでありながら空を飛びブレスを吐くのか、非力な赤ん坊ではないのだと感心してしまった。




さて、いつまでも子竜と呼ぶのは不便だろう。ペットだと言うのならば名前をつけなければならない。名前をつけたことなど殆ど無い。精々武器に銘をつけたくらいだ。さてどうしたものかと頭を捻り続ける。




真っ黒だからクロ、ドラゴンだからドラ助、何となくドラエモン。最後のは色々とまずい気がする……






あーでもないこーでもない、何をトチ狂ったのか本人に、本竜に名前を決めて貰おうと子竜に問いかける。





「お前は、どんな名前がいいんだ?」



「ミ〜?ミゥ〜」




当然しっかりとした返事が返ってくるわけがない。だが今の問いかけで名前が決まった。安直かもしれないしとても竜につけるような名前ではない。だがこの名前が1番いいと私の勘が囁く。




「そうか、ならばお前の名前はミウだ」



「ミゥ〜!」




フッ、喜んでくれたらしい。先ほどよりもパタパタと羽を動かし続けている。あと解決すべき問題は食糧だろう。やはり肉だろうか…?そう思い立った瞬間私は野山を駆け回っていた。何を食べるかわからないからあらゆる野生生物の肉を、山菜から果物魚まで。ありとあらゆるものを採ってきた。




1つずつ与えていく。結果わかったことは好き嫌いはしないがやはり肉が好みのようだ。明らかに喰いつきが違う。野菜や魚は何となく上品に食べるが肉はガツガツと貪る。取り敢えずこれからは肉中心に持ってくるとしよう。好き嫌いをしない良い子なのだな、ミウは。取り敢えず撫でれば再び気持ち良さそうに目を細めた。













誕生から1週間ほど、ミウはすくすくと成長をし、産まれた時の倍近いほど大きくなっていた。当然食べる量もそれに伴い増えた。当然大変だが嫌な苦労ではない。寧ろ成長を感じられて嬉しいのだ。これからもっと頑張らねば。












さて、あれは誕生から一月ほど経った時だろう。ある朝目覚めれば金縛りにあったように身体が重かった。魔術師に呪いでもかけられたのだろうか、怨まれるような事をした記憶は一切ない。寝ぼけ眼を何とか開き、自身の身体を見れば胸元辺りの布団が膨らんでいる。




布団を開ければスヤスヤと眠る少女がいた。





……こういう時は素数を数えろと神父から教わった。ゆっくりと少女を下ろし布団から抜け出す。あまり感情が表に出ない私だがとても動揺している。駆け出しの頃、薬草採取の時に1つだけ毒草を混ぜたまま渡してしまった時以来だろう。




先ずは状況整理だろう。家があるのは森の奥だ。それほど強い魔物はいないとはいえ少女が1人でこれるような場所ではない。では何故いるのか。皆目見当もつかない。この状況に頭を捻り続けていたらどうやら少女は起きたらしい。




「おはよーパパ」




……パ………パ?




「私に娘はいないのだが…」




「むぅ〜 ……わかんないの?」




「す、すまない」




「ミウだよ、ミーウ!」




この目の前の3歳ほどの少女は何故か私のペットのミウと同じ名を名乗る。竜が人間の、しかも少女の姿になるだと……




「う〜うたがってるね。ほら!これでどう!」




少女の頭からは黒い角が、背中からは黒い羽、お尻からは刺々しい尾が。確かにこれはミウの…




「本当に…ミウ…なのか?」




「ほんとだよ!」




悪戯大成功といった笑みを浮かべながら私にそう言う。私はとんでもない卵を育ててしまったらしい。












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