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肌寒い

 「は?」


 俺は婆さんが言った言葉の意味を一瞬理解出来なかった。

 なぜならこんな一度あったら絶対忘れなさそうな見た目している婆さんと会った記憶が少なくとも俺にはなかったからだ。

 ずっと一緒だった雪菜にも確認してみるが、雪菜は首を横にふるふると振るだけだった。

 どうやら雪菜にもそんな記憶はないらしい。

 それを確認した俺が警戒してその場で身構えると、


 「ヒッヒ、そんなに警戒しなくても大丈夫さ。 あんたらのことをアタシが一方的に見たことがあるってだけだからね」


 不気味な笑みを浮かべながら婆さんはそんなことを言う。


 「・・・どういうこと?」


 「お前さんとこの間の馬鹿共と戦いは中々いい暇潰しにはなったよ」


 婆さんがそう言って指を鳴らすと、空中に何かの映像が浮かび上がった。

 なんだと思いながらそれを見てみると、


 「なあっ!?」


 そこに写っていたのは三日前のテロリストと交戦中の俺だった。

 しかも、あの放送を聞いた直後で冷静さを欠いている状態のときのやつだ。

 慌てて婆さんの方を向くと、件の婆さんは俺の方を見てニヤリと笑っていた。

 雪菜のいる方からクスクスという笑い声が聞こえ、思わず赤面してしまう。


 「ヒッヒッヒ、どうじゃ? この学校の中でのことは全部アタシにはお見通しだよ」


 「っ!! 早く消せババア!」


 そこに更に婆さんから煽るような挑発が入り、完全にイラッときた俺は口調を乱しながら婆さんに摑みかかるが、


 「ほれほれ、どうしたそれがお前さんの本気かい?」


 「くっ、なっ!? このババア意外にすばしっこい!」


 予想外の身体能力を見せた婆さんに俺は翻弄され、中々捕まえることができない。

 しかも、確実に婆さんが操作しているのだろう本があちこちにある本棚から飛んできて、的確に俺の行動を妨害して来る。

 本が俺に命中する度にこちらをババアが煽って来るせいで俺の怒りゲージはもうMAXだ。


 (あんっのクソババア!! 目にもの見せてやる!)


 俺は一旦ババアから注意を晒し、飛んでくる本の軌道をある程度見続けて、


 (今!)


 右足を狙って飛んできた本を足場に前へと加速し、更に正面から飛んできた本を跳び箱の要領で避けて、一気にババアに接近する。

 もう目の前とも言える距離にはババアが驚いたという表情で固まっており、完全に勝ちを確信して俺が手を伸ばした瞬間、



     ゴスッ



 鈍い音ともに俺の後頭部に辞書くらいの分厚さのデカイ本が直撃した。


 「っうぅ~~~!!!」


 角だ、この衝撃は間違いなく角が当たった。

 あまりの痛みに悶絶し、俺は事しばらく務室の床を転げ回った。



         ★



 五分くらい転げ回って痛みが大分マシになりようやく俺は起き上がった。

 ババアはまだ若干笑ってはいたが、「悪かったね」と謝ってきたので一旦この件は忘れることにする。

 俺が頭のこぶになってしまっている部分を擦っていると、パチン、という音ともに目の前に机と椅子が現れた。

 ちらりとババアの方を見ると、目線で座れと促してきたので大人しく座ることにする。

 俺と雪菜が座った後に対面にババアが座り、再びババアが指を鳴らすと今度は目の前にティーカップが出てきた。

 俺の方の液体は水色で、雪菜の方の液体は赤色だった。

 流石に見飽きたのでリアクションはないが、一応中身の確認はする。


 「これは?」


 「最高級の紅茶さ」


 最高級の紅茶か、なるほどそれはさぞかしいい香りが・・・全くしねえ。

 どういことだと思いながら色んな方法で香りを嗅ごうとしていると、


 「ヒヒ、まあ正確に言うとパートナーの嬢ちゃんの方は最高級の紅茶でお前さんの方は色つけたただの水道水さ」


 ババアからそんな補足情報を貰った。


 「まあそれはご丁寧にどうも・・・って何の嫌がらせだぁ!!」


 思わずツッコむといいリアクションをするとばかりの顔をババアは浮かべ、雪菜の方も口を抑えているが完全に肩が震えていた。

 しまった嵌められた、そう後悔するがもう遅かった。

 キッ、とババアを睨み付けると、再び指をババアが鳴らし、また液体の色が変わった。

 今度のは綺麗な緑で、お茶のいい香りがする。

 これは緑茶だろう、しかも中々いい茶葉の。

 紅茶は苦手なので、そのチョイスに素直に感謝し俺はこれを飲んだ。


 「ん? もしかしてお前さんどこか怪我してるのかい?」


 「っ!? ゴホッゴホ!?」


 「大丈夫か主!?」


 飲んだ瞬間、唐突に婆さんがそんなことを聞いてきた。

 あまりにも予想外なタイミングできたその問いに俺は思わず噎せ、死にかける。

 そんな俺を心配した雪菜が慌てて近くにかけより、背中を擦ってくれる。

 この反応は予想外だったのかあの婆さんですら申し訳なさそうな顔をしている。

 なんとか呼吸を整え、もう一杯お茶を飲んでから落ち着き、真剣な表情で俺は口を開いた。


 「何を根拠に?」


 出てきた言葉は誤魔化しでもなく否定でもなくただ純粋な問い。

 何故か婆さんの言葉は確信を持っているような気がするのだ。


 「勘じゃーーー「はぐらかすな、こっちは真剣だ」ーーーふむ」


 俺がそういうと婆さんは自分ティーカップを手にとり、一口飲んでから再び指を鳴らした。

 すると、俺たちの目の前に一匹のチェシャ猫が現れた。


 「こいつの名前はアナ、あたしの《理解者(パートナー)》さ」


 「にゃあ」


 婆さんがアナの頭を撫でると、嬉しそうに鳴いた。


 「そう言えば自己紹介がまだだったね。 あたしの名前はマスカ。 《青》の王にアナの能力を買われて今はここの職員をやっている者だよ」


 「《青》の、王・・・」


 これはまたずいぶんと大物が出てきたものだ。

 確か実力的には《ナンバー》13でキングの称号持ち・・・。


 おっと、大事なこと忘れてた。

 ちょうどいい機会だしここでこの世界のある程度の事情を説明しとこう。

 まず、この世界には四つの《色域》がある。

 《色域》はそれぞれ《青》《赤》《緑》《黄》の四つの勢力が管理しており、所謂領土みたいなものだ。

 四つの勢力の実力は大体拮抗している。

 人口とかは結構差があるし、軍事力とかはまあ《赤》がダントツなのだが、実力は拮抗している。

 その理由は《ナンバー》1、A(エース)の称号持ちの連中にある。

 《ナンバー》とは簡単に言えばその人の強さや功績を表すことができる絶対の指標。

 1~13までの段階があり、2が一番下で1がトップ。

 《ナンバー》1の実力を持った奴らは全部で十人。

 消息不明の第五位を除いた九人がちょうどいい具合に分かれているので各勢力の今の拮抗は保たれている。

 それと、最後に補足で各色の特徴とそのトップを言っておこう。

 《赤》は完全実力至上主義でトップは第二位、《緑》は我関せずの姿勢を貫く自然博愛主義でトップは第四位、《黄》と《青》は昔の西洋みたいに王様トップをやっているの点が一緒だが、色々と違う部分がある。

 とまあ、こんな具合に説明を終えたところでお話に戻りまーす。


 *(注)作者の視点です。


 

 (そんな大物と交流があるなんてこの婆さん何者だよ)


 俺が心の中でそんなことを思っていると、婆さんの話はまだ続きがあったので黙って聞くことにした。


 「アナの能力は便利でね、見た相手のことを解析できるんだよ」


 「解析?」


 「そうさ、相手にもよるが時間をかけて見続ければ相手以上に相手のことを知ることができるんだよ」


 「へえ、例えば?」


 「そうだねぇ、まあ無難なところでいえば相手の出身とかかね」


 「ほぅ?」

 

 婆さんがそう言った瞬間、部屋の温度がかなり下がった。

 心地いいくらいの温度だった事務室は肌寒いと感じる温度にまでなった。

 目の前ではアナが毛を逆立ててこちらを威嚇している。

 婆さんも杖らしきものを手に取り、警戒している様子だ。

 この状況を作ったその元凶は誰であろう俺の隣におとなしく座っていた雪菜だ。

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