第三話
遅くなってすいません!
~蹴真が学校に侵入した直後の学校内~
「ううぅ、不甲斐なくてすまない春風」
「そんなことないよせっちゃん。 こっちも迷惑をかけちゃってゴメンね」
ある二人の少女がそう会話をしていた。
薄い銀髪の少女の名は雪菜、蹴真の《理解者》の少女だ。
その雪菜を手錠がはめられた手で撫でている少女が春風。
このワンシーンだけ見れば麗しき少女達の友情が周りに感動を与えることだろう。
「おいそこの女共! 何やってやがる」
・・・少女達のいる教室がテロリスト何てものに占拠されていなかったら
二人が会話しているのに気づいた一人のテロリストの男が荒々しく二人のもとまでやって来る。
「怪しいな離れろ」
「きゃっ!!」
男により強引に引き離され、春風が悲鳴をあげて倒れる。
「春風!? 貴様、か弱い乙女に何をする!!」
その悲鳴を聞いた雪菜が男がいるであろう方向に怒鳴るが、
「く、くははっ! どこに向かってキレてんだよ、俺様はこっちだぜぇ?」
「は、放せ!」
目隠しをされているせいで雪菜は男とは真逆の方向を向いてしまっていた。
男はそんな雪菜の顎を笑いながら掴み、無理矢理自分の方へと向ける。
雪菜は嫌悪感からその手を振り払おうとするが、
「あうっ」
無理に体を動かそうとしたことでバランスを崩し、雪菜は床に倒れこんでしまう。
何とかして起き上がろうとするが、両手両足を縛られているせいで中々上手く行かない。
「ぎゃははは! 馬鹿だなお前、ほら、自分ひとりでたてまちゅかー?」
そんな雪菜を見て大笑いしながら馬鹿にしたような声を出す男に周囲から敵意に満ちた視線が集まる。
すると、その視線に気づいたのか男は立ち上がり、
「あ? なんだお前ら、文句あんのかよ」
と、手に持っていた槍で近くの男子生徒一人を攻撃し、他の生徒達を威圧する。
攻撃された男子生徒がその場でむせて倒れるが、視界を布で塞がれているため誰も彼を助けにいけない。
しばらく憂さ晴らしのように槍を振り回して他の生徒達を痛めつけたあと、舌打ちしながらもといた教卓へと戻る。
これと似た状況が何回かさっきから続いていた。
今、雪菜達の状況を説明するなら絶体絶命というやつだろう。
教室内の生徒達は全員両手両足を縛られ、目隠しまでされている状態。
しかも、教室内のテロリストの男は先ほどからイライラしているらしく、何をしでかすか分からないという状況だ。
そんな状況に生徒達が怯えて震えていると、
「・・・そうだ、面白えこと思いついた」
何を思ったのか再び春風の方を見た男が急に立ち上がり、槍をもって春風に近づいていく。
やがて、春風の前に立った男がニヤリと下卑た笑みを浮かべると、
春風に向かって槍を振り下ろした。
★
俺は取引によってテロリストから聞き出した情報を隠れて整理していた。
(テロリストの数は一年から二年までの教室にそれぞれ一人づつの二十人、職員室にさら七人、見回り、補助要員が十五人学校内を徘徊している。 しかもテロリストは全員武装状態、か)
そこまで考えて俺はため息をついた。
敵の戦力はそこまで多くないが、こちらは一人。
しかも、相手には人質が大人数いるという。
長引かせれば人質を取られているこちらが確実に不利なので敵は瞬殺、もしくは秒殺しないといけないわけだが、
(・・・あのテロリストのせいで不意打ち、奇襲の類はほとんど成功しないだろうなぁ)
どう考えても絶望的、そんなことを考えて、頭を横に振る。
どれだけ不利な状況でもこっちは春風と雪菜を人質として取られている。
例え何を犠牲にしても、俺が俺でいるためにあの二人だけは絶対に助けださなければならない。
わざわざキツイ霊力切れまで起こして、その上テロリストだらけの学校にまで侵入した目的を再確認し、状況を打破するための現在の自分の装備を確認する。
テロリストから奪った槍、剣、拳銃、鞭の四つの武器に拳銃の弾六発+十二発、それから通信機が二台。
鞭のは方徘徊していたテロリストを背後から強襲し、気絶させてから奪ったものだ。
手持ちの装備を見てから、機動力が優先される現状で槍は邪魔になると判断し、ここに置いていくことにする。
とりあえず最優先目標は雪菜達の位置の把握だ。
俺がいるのは校舎の一階の階段の下で、一年の教室がある階は一階と二階。
おそらく春風と雪菜は一緒にいるので一階か二階の一年の教室にいるんだろうが、いかんせん十クラスと数が多い。
そんな事を考えていると、
『・・・ザザッ。 おーい、聞こえるかお仲間さん方? 俺は今から雇い主の言い付けを破って女を一人好きな様にいたぶってやろうと思う。 見学に来たい奴は歓迎するし、言い付け守るために俺のこと黙らせようとする奴も歓迎するぜ? 場所は一階の・・・あー、おい、ここの教室はどこだ?』
どうやらテロリストの一人らしいまた別の男の声が突然通信機から聞こえてきた。
トイレで遭遇したテロリストによると、この通信機は一方的なものらしく、此方から干渉出来ないらしい。
しかし、これは俺にとっては有り難いことだ。
その捕まっている女子生徒には悪いが、この情報を聞いて少しでも他のテロリスト達がその場所に集中すれば俺の行動範囲を広げる事が出来る。
通信機に耳を傾け、その詳しい場所を聞こうとしょうとしたその時、
『「貴様何ぞに教えることなんて一つもない!!」 チッ、テメーは黙ってろよっ! 「ッツ!」』
通信機からのその声を聞いた瞬間、俺の思考はすべて真っ白になった。
今の声は間違いなく雪菜だ、ということは捕まっているのは・・・まさかまさかまさか!!
『「せっちゃんに乱暴するのはやめてください! 私が我慢しますーーー』
グシャ、ボンッ!!
最後まで聞き届けることなく通信機を握りつぶした俺は回路が壊れたことで爆発した通信機により右手に火傷をおったが構うことなく階段に向かって走り出した。
だが、一つ目の教室を通りすぎ、二つ目の教室を通りすぎたようとした瞬間に目の前の扉が開いた。
出てくるものの正体すら見ずに迷わず気絶させようと左腕を伸ばすと、教室内から飛んできたナイフに左手を貫かれた。
「痛っ!」
痛みを感じた瞬間に反射的に退いたことで本来扉から出てくる予定だった敵の追撃は避けられたが、これは誤算だった。
中から出てきたテロリストの数は二人。
どうも徘徊していたテロリストがたまたま一緒にいたらしい。
片方はそうでもないが、どう見てももう片方は手練れ。
しかも、
「何だ?」 「何の声だ!」
今の俺の声を聞いて、他の教室からもテロリスト達が出てきてしまった。
確認出来るのは六人、急がないとまだ増えるかもしれない。
俺は無言で腰に下げていた鞭を構え、
「どけっ!」
一言、そう叫んで駆け出した。
次回は来週出します