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第二話

 「ど、どうなってんだよこれ!?」


 俺は目の前で起こっている出来事を見て真っ先にその言葉を口にしていた。

 あの後、すぐに家を出て雪菜を追いかけたはいいが、()()()()()である俺と《理解者》である雪菜では根本的に身体能力のスペックが違うので全く追いつけなかった。

 結局、雪菜の最終目的地である学校に着いてしまったが、今その学校ではありえない事態が起きていた。


 「《青》に属する警備隊に告ぐ、人質の命が惜しくば“あの御方”を解放しろ! さもなくば人質の命はないと思え。 繰り返すーーー」


 なんと、俺が通う予定だった学校は絶賛テロリストに乗っ取られている状態だったのだ。


 (・・・いやいやいや、いくらなんでもこんなご時世にしかも()()()()にテロ仕掛けるバカなんて・・・いたわ)


 思わず本日2度目の現実逃避をしようと上を向いたところでそれを見てしまった。

 屋上に大柄な全身武装した男と恐らく学校の生徒であろう制服を着た男子生徒が首を掴まれ、その頭に拳銃が押し当てられているのを。

 その光景に呆気に取られながらも辺りを見渡すと学校の周りを警備隊が取り囲んでおり、いつでも強硬突入できる状態で待機していた。

 だが、やはり少しの犠牲を出してでも制圧しようとする気はないらしい。


 (まあここの生徒が一人でも失われるようなことがあればそれこそ大問題・・・ん?)


 そう考えながら学校を見ていると、俺はある違和感に気づいた。

 なにやら学校の敷地内を薄っすらとした壁のようなものが覆っているのだ。


 (なんだこれ?)


 少しの時間観察して、よくわからなかったので近づいて軽く触れて見ようとすると、


 「ああ、そこの君。 その結界には触れない方がいいよ」


 触れる一歩手前で警備隊の一人に注意された。


 「結界? これが?」


 結界、その単語を聞いた俺は声をかけてきた人の方へ振り向く。

 若い人だった、年は二十歳くらいで新入りなのか“ナンバー”もまだ“6”だ。

 声をかけてきた人をそう冷静に観察していると、その人はこの結界について解説してくれた。


 「ああ、なんでも“霊断結界”という厄介なものらしくてね。 中にいる《決意者》は《霊力》を根こそぎ奪われてしまうらしく、外から無理矢理入ろうとすれば《決意者》はああなってしまうみたいだ」


 そう言って警備隊の人がクイっと指を向けた方向を見てみると、そこには気怠そうに倒れてあちこち焦げている人がいた。

 服装からしてこの人と同じ警備隊の人のうち一人だろう。

 遠くて分かりにくいが、防護機能も優れているはずの特殊服があちこち破れているのが見える。


 (おいおい、銃で撃たれても傷ひとつつかないあの特殊服がああなるなんて・・・一体どれだけエグいんだよこれ)


 おそらくあの人はこの結界に突進してああなっているのだろう。

 見たところ中度の霊力欠乏状態に火傷などの状態になっているのから判断して、あのまま迂闊にこの結界に触れていれば俺もあの人の二の舞になっていたはずだ。

 俺は改めて声をかけてくれた警備隊の人にお礼を言い、そのままいくつか質問をしたーーー



                *



 スタッ、という着地音とともに結界内に侵入する影があった。


 「さて、潜入成功と」


 もちろん正体は俺だ。

 外から侵入したにもかかわらず俺の体には傷ひとつない。

 どうやって結界内に侵入したかと聞かれれば、その方法は簡単だ。

 まず、ある程度の情報をてにいれた俺はすぐに警備隊の人と別れて行動を開始した。

 次に、人目のつかない場所に行き、そこで全霊力を放出した。

 霊力欠乏状態の症状を和らげるために一気にではなく少しずつだ。

 霊断結界とやら霊力を持った者に対して牙を向けるらしい。

 ならば、最初から霊力が空の状態ならば何の問題もないというのが俺の読みだった。

 案の定俺の読みは当たっており、楽々と侵入できた。


 (上手くいく保証なかったけど、まあ結果オーライ)


 俺は若干ダルい体に鞭を打ち、行動を開始する。

 あの警備隊の人が言うにはどうやら学校全体をテロリストが支配しているらしい。

 校舎の外とはいえモタモタしていればここも危ないので俺は急いで校舎内に入る。

 幾らなんでも玄関から正面突破するのは無謀すぎるので近くの窓から侵入する、と、


 「はあー、何でこんな面倒なことやりゃにゃならんのかねえ・・・え?」


 なんか人がいた。


 どうやらそこはトイレだったらしくそこで用を足していたテロリストの一人と運悪く遭遇してしまったらしい。

 思わぬ事態にお互い数秒硬直しかけたが、俺はすぐさま立ち直り未だに固まっているテロリストを床に押さえつける。


 「ちょっ、ちょっとお!?  ここトイレだよ君ィ!?」


 「・・・その抗議はテロリストっていうあんたの悪職で流すとして」


 「わぁお、ぐうの音もでないくらい正論だねぇ!?」


 テロリストのわりにはやたらとテンションの高い輩だ。

 だが何故だろう、テロリストを捕まえるというのはお手柄のはずなのに面倒事を抱えてしてしまった気がする。

 今すぐここでこいつをリリースしたい衝動に駆られれるが、何とか平静を保ち今も下でギャーギャー喚き続けているテロリストに向き直る。


 「今からあんたにいくつか質問する、抵抗は無意味だからおとなしくーーー「侵入者だぁ、誰か助けてぇ!!!」ーーーて、てめえ!」


 やらかした! そう思ったがもう遅かった。

 テロリストが身につけていたであろう通信機器から無線で返事が返ってきてしまったからだ。

 とんでもない失態だ、モタモタしていたせいで増援を呼ばれた上に隠密に行動する予定だった俺の存在が今テロリスト達に情報として渡ってしまった。

 だが、そんな自分を叱責する暇すらなく扉の向こうから足音が聞こえてくる。

 俺は即座に切り替え、集中し、息をゆっくりと吐く。

 下のテロリストは拘束したまま目をつむり、耳を澄ます。


 (足音からして三人、全員が武器持ちか)


 もうすぐそこまでテロリストの仲間が迫ってきているのも構わずに俺は音からの情報把握を続ける。

 そして、扉の前でテロリスト達が止まったそのタイミングで行動に移った。


 「カウント3でいくぞ」


 扉の外では他の二人が頷いたのを確認してから扉に手を掛けていたテロリストの一人がカウントダウンを開始しようとしていた。

 だが、カウントなどさせはしない。



       ドガンッ! 



 「ぐはっ!?」


 「「!?」」


 扉を蹴破り、扉に手を掛けていたテロリストを後方へと吹き飛ばす。

 突然のことに動揺し、その場で棒立ちになっている残り二人のテロリストの内、槍を持っている方に俺は

すぐさま接近し鳩尾へと拳を叩きつける。


 「カハッ……!!」


 「C2!? くそっ!」


 一撃で槍持ちをノックダウンさせると、やっと襲撃を理解した最後の一人がこちらに向かって銃を乱射してくる。

 しかし、そんな雑に飛んでくる銃弾など当たる訳もなく、俺は難なくしゃがんで全てを回避する。

 弾が一発も当たらなかったことを察した銃持ちが慌ててその場から退こうとするが、もう遅い。

 銃持ちの背後に回り込んだ俺はそのまま銃持ちの首を絞め上げ、抵抗する暇すら与えずに二人目のテロリストの意識も墜とす。

 しっかりと気絶したことを確認してから手を離し、その場に落ちていた槍を拾い上げ、そのままある方向に投擲する。


 勿論、穂先はこちらに向けてだ。


 すると、槍が飛んでいった方から鈍い悲鳴が挙がった。


 「へぇ、君凄く強いね」


 俺が結果を確認しに行こうとすると、後ろからそんな声が掛けられた。 

 チラリ、と俺は肩越しに首だけ後ろを向く。

 そこにはさっきまで俺が押さえつけていたテロリストが呑気に座っていた。


 「おっと、身構えなくていいよ。 俺っちに手を出す気はないから」


 「お仲間さんがやられたのに助けたりしないのか?」


 「仲間と言っても俺っちはただ雇われただけだからねぇ、無駄な怪我はしたくないんだよ」


 「そいつは好都合だ。 あんたを黙らせるのは骨が折れそうだからな」


 「まあ、今戦えば俺っちが負けるだろうねぇ


 「・・・どうだか」


 俺はそう言いつつ振り返る。

 今でこそ飄々としているが、目の前のテロリストはさっきの三人に比べて遥かに格上だ。

 おそらく戦えば勝敗は五分五分くらいだろう。

 そんな奴をさっき拘束していた段階で気絶させておかなかったのは奴から敵意といえるものが全く感じられなかったから。

 いきなり仲間を呼んだのには驚いたが、助けに来た仲間が倒されている最中にも援護の一つもしようとしなかった。

 あまりにも目的が不明すぎるので警戒はしていたが、どうやらこいつは嘘を言っている様子はない。

 今の段階では敵ではないと判断し、時間もないので無視して他の場所へ行こうとすると、


 「おっと! 待ちなよ君ィ、俺っちと取引しないかい?」


 と、後ろから慌てたようにそんなことを言ってきた。


 「・・・取引の内容は?」


 「なぁに、君には得しかない条件さ。 俺っちは君にここを占拠している連中の情報を全て教えよう。そのかわりに君の名前を俺っちに教えてほしい」


 聞くだけ聞いておこうと思った取引の内容はあまりにも俺に有利すぎた。

 何か裏があるのではないかと俺が警戒していると、手をひらひらと振りながらテロリストは催促を促してきた。


 「ほら、君には時間がないんじゃないのかい? 言っておくけど裏なんてないよぉ、なんなら先に教えてあげようかぁ?」


 まるでこっちの事情を知っているかのような口振りでそんなことを言ってくるテロリストに若干苛立ちながらも俺は条件を呑むことにした。


 「嘘をつけばどうなるかは分かるな?」


 「そんな無粋なことしないよぉ」


 最後に釘を刺しておき、俺は名乗った。


 「俺の名前は王理蹴真、今日入学の高校生だ」

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