07 ランクアップ
素材が少なすぎて鍛冶スキルは上がらなかった。薬学も在庫を大分使ったけどスキルLVが上がらない、また採集作業の繰り返しかー。
この前みたいに美味しいクエが無いかとNPCとの会話を繰り返していると、うなだれた恰幅の良い中年おばさんを発見した。
長椅子に二人分のスペースを利用して座っている恰幅の良いおばさんを見て疑問が浮かぶ、多分昔は肩幅一人分だと思うんだけど、どうやったら肩幅が二人分まで増えるんだろう。いや私はお腹は出ているけど、肩幅までは増えていないと思うんですよね。
『実はモンスターに倒されて納品する筈のHP回復ポーションを二百個落としてしまって……』
やっぱり、この前と同じだけど規模がデカすぎ。レシピを確認するが最低でも薬草四百個は必要だけど手持ちは二百七十個しかないし、ガラス瓶を二百個用意するにしても二万Gだ。報酬は錫石千個と銅鉱石千個でかなり魅力的だけど、ちょっとお力にはなれそうも無いです。
『気にしなくて良いよ、ありがとうね心配してくれて』
かわいそうだけど今回は諦めて久しぶりに採集を繰り返していると、直ぐに採集のスキルLV四に上がった。巡回しつつ、数回目のイノシシを倒したところで火魔法のスキルLVが二に上がった。直ぐに妖精が目の前に出て来て解説を始める。
『おめでとう火の魔法スキルLVが二になったね。魔法スキルLVが上がると威力や効力が増すよ。新しい魔法を覚えることが出来るよ。魔法は冒険者ギルドや魔法ギルドで購入したり、モンスターからのドロップ、宝箱、などからでも手に入るよ』
へーへー。多分もう少ししたら風魔法も上がるだろうから、久しぶりに戦闘チュートリアルでスキル上げして冒険者ギルドに行って二つの魔法を覚えようっと。
ゴブリンが穴から出て来たので近づいたら逃げ出していった何で?
『レベル差が大きいと、近づいただけで逃げ出すものもいるよ』
ゴブリンが穴から出て来たが同様に逃げ出す、風魔法を当ててもそのまま逃げていった。うーん、理屈は分かったけどゴブリン狩りは無理って事か。全然殴れないからチュートリアルは途中キャンセルかなあ?
お、穴から別の黄土色の豚人間のようなモンスターが出て来た。おお、初めて見るモンスターだぞ。
『穴からオーカー達が出て来たよ。モンスターの中には、味方の数が多いと逃げないタイプもいるよ。近づいて倒してみよう』
オーカー達に近づくが逃げないので、杖で殴ると殴り返して来た。一体しか殴っていないのに、もう一体も攻撃してくる、リンクといわれる現象だ。でもレベル差があるからだろうか、そんなに痛くも無いので簡単に倒せて、経験値五と十Gが手に入った。
風魔法のスキルLVが二になったので冒険者ギルドへ。冒険用品ショップを覗くと品ぞろえが増えてスキルLV二の魔法書が販売されている。ファイヤーアロー、ファイヤーエンチャント、ウインドシールド、軽足、がそれぞれ一万Gで販売されている。
ファイヤーアローが攻撃魔法、ファイヤーエンチャントが火属性の武器攻撃力アップ、ウインドシールドが防御力強化兼遠距離の被弾確率低下、軽足は機敏になり足も速くなるらしい。
しかし手持ちは五百四十Gしかないので、全然所持金が足りません。みんなどうやってこれ買っているんだろう? 素材を売れば金になるけど勿体ないな。毒消しが六百個以上あるので、毒消し五個納品クエストを達成させる事にした。
百回繰り返して六万Gと経験値八千を入手し、冒険者ギルドのランクがNからMに上がった。
『おめでとう。冒険者のランクがMに上がったので保管庫のスペースが五個増えて、新しいクエストも受注出来るようになったわ、これからも頑張って。個人的にも応援してるからね』
ガーマレットさんがウインクしてくれた、女性とのお付き合いが殆どない私には大変ありがたいのですが、なんで受付嬢が美人NPCじゃないんだろう。お約束をあえて外す理由を聞いてみたい。それだけで閲覧数とブックマークが上がると思うのにな、あっSNSの話ですよ。
でもガーマレットさんには感謝だよな、百回も同じクエストを受けて報告するなんて、私が受付ならまとめて納品してもらって、百回分クエを達成した事にするわ。
ちなみにチュートリアル中は保管庫にアイテムが保管出来ない不思議仕様なので、増えても全然嬉しくない。
新しく表示されたクエストを確認しにクエストボードを見に行く。先日のおばさんは相変わらずうなだれたままだ。どんだけ落ち込んでだよ、と思ったけど声には出さない。
えーと何々お手伝いのクエが多数出ている、多分このゲーム内の生産スキル分あるんだろうな。鍛冶手伝い、薬局手伝い、食堂手伝い、服屋手伝い、家具屋手伝い、本屋手伝い、雑貨屋手伝い、他にも違う町に届けるお使いクエも出ているけど、全て受けることが出来ない。
『鍛冶手伝い:チュートリアにある鍛冶屋“ドワージンの店”でお手伝いをしよう。時給千G』
チュートリアが町の名前のようだ、凄く安易だけど分かりやすい。他のお手伝いクエも軒並み同じ内容で、受けれない理由は明確だ、多分、きっと、推測だけど冒険者ギルドから外に出れないからだと思う。
出口には例の黄色い線が引いてあり外に出れない。つまり外に出れないから外に出るクエは受けれないという事だろう。
ため息をつき、再度冒険者ギルドの中を何気なく見回すと挙動不審の女性が目に入った。真っ白い長袖シャツに真っ赤なスカート、いやワンピース? スカートは肩の上まで伸びてて、首や胸の周りには布が無く、胸の下からスカート状になっているから、胸が凄く強調されている。ちなみに同じような服を着ている女性は複数人居る。
どうして挙動不審かというと、白い紙を見て上を向いてはブツブツ呟いたり、再度紙を見たりしている。何か暗記でもしているのだろうか。茶色の髪は後ろで束ねていて腰のあたりまである、顔だちは整っているから、ちょと残念美人だな。
でも先日も同じ人と会話した気がしたけど、あんな感じじゃ無かったな。
「こんにちは。何かお困りですか?」
残念美人さんに話しかけみた。
『あっあっえ、えっ、えっ、あ、え』
物凄く慌ててワタワタしながら、用紙を再度見ながら、話しかけてくる。
『ガッグア、ガラスは珪石か石英、砂から作れるよ』
出だしかなり変な声になったが、とりあえず言いたいセリフが言えて、ふうーと息をついている。
「そうなんですね、ありがとうございます。でも何かお困りなのではないですか?」
『えええー、また話しかけられちゃった! えーとえーと、あっあっ、お手伝いクエストをするとスキルレベルの熟練度も上がるよ。よし』
顔上げたまま目だけが紙を読むために下に向いて、鼻の下もなぜか伸びてて変顔になっている。話し終わった後、紙を持っていない側の手で軽くガッツポーズをしていた、無意識なんだろうな。
「大変ためになりました。ところで大丈夫ですか? お困りのことは無いですか?」
慌てているにはきっと何かあるんだろうと、もう一度聞いてみる。セリフが変わるかも知れないからね。
『えええー、他のセリフ、他のセリフ。んんっん。レベル差がある敵と戦うと熟練度が上がりやすいよ』
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三十回位話しかけてみるが、毎回違った情報を紙を見ながら教えてくれたがついに変化があった。
『もう終わり! 話すことは全部話したから!! 何で私にだけ何度も聞くのよ、うっうえーん』
ついに泣き出してしまった、NPCと会話して話が変わったら同じ話になるまで聞くもんじゃないの? 泣き出すなんて思わなかったから、どうしていいか分からない。
「す、すみません。申し訳ありません。ただ、お困りのようだったので何かお手伝い出来たらと思って、それに、え、え、そう、凄くためになる話が多かったので、ついつい色々と教えて貰えるかなと思った次第でして」
ペコペコ頭を下げて謝ってたら、少し落ち着いたようです。
『こちらこそすみません。今日はここで普段働いている女性が急遽お休みになったので、似ている私が代わりにここで働けって言われて。全然セリフとか覚えてないから話かけられませんようにと思ってたんですけど、何度も何度も話しかけられてしまって、話すべきセリフが全部尽きちゃったからもうパニックになってしまって』
ええーNPCが急に休むとかあるの? バグか何か? 似てるって、いやそりゃNPCの外装なんて使いまわしもあるだろうけど、それに用意されたセリフとか、そんなにぶっちゃけていいのか。
『どうもシャルロッテです、よろしくお願いします。普段は雑貨屋で働いています』
決まったセリフを話すのでなければ普通に会話が出来るようです。この世界に来たばかりの慣れていない旅人に色々な事を伝えるガイドのようなお仕事もボランティアでしているそうです。あーそういう設定だったのね。