25 気づき
冒険者ギルドでボーっと生産をしている。ザーコ対策が思いつかないので現実逃避というやつだ。ダメージが有る一定のところまで行くとヒールで回復してしまうので、対策を幾つか考えてみたけど、どれも実現可能とは思えない。
ちなみに考えている案としては以下の通りだ。
一:ザーコのMPが尽きるまで戦い続ける
二:一撃で殺す
三:ヒールが唱えられないようにする
一が一番何とかなりそうな気もするけど、MPが幾つあるか分からないし、仮に百回唱えてなくなるとして、その前に死ねる自信がある。それにMP回復ポーションとか飲まれたらどうにもならないよな。
二は絶対無理だろ、一撃で死ぬわけない。そりゃガチガチの装備でLV差が数十もあれば可能だと思うけど、そんなにここで頑張れない。
となると、三だけどどうすればヒールが唱えられなくなるのか、そこだよなあ。
レンタル時間が過ぎたので生産を止めて、デイリークエストを受ける。んー先に薬局かな、先生と師匠に相談してみたいし、でもあまりも頼り過ぎるのは良くないか。そうこうしているうちに薬局の前だ。
『いらっしゃい。おや納品かい?』
「はい。ポーション十個です」
白衣を着た薬局店主のエルファさんは、エルフだけあってイケメンだ。スラっと痩せていて知的で、でも髪は仕事の邪魔になるのか首に掛かるくらいの長さだ、そこだけがエルフっぽくない。まあ全身ヘチャムクレの私が言うのもおかしな話なんだけれども。
そういえば以前レシピは確認したけど、売っているものはあまり気に留めていなかった。改めて品揃えを確認する。やっぱりレシピは売ってない、その他のアイテム……、麻痺薬が売っていた。麻痺解除薬じゃなくて?
『麻痺薬かい? 麻痺させるためのアイテムだよ』
これ良いんじゃないか? ザーコを麻痺させてから戦えばヒール唱えられないだろうし、そしたら勝てるこれ良いな買ってみるか。
『経口薬だけどいいかい?』
「ケイコウヤク?」
『飲み薬、内服薬だよ』
「え? ダメじゃん!」
戦闘中、相手に麻痺薬渡して飲むか? 飲むわけがない。 戦闘が始まる前だって、知らない人に薬渡されて飲むか? 飲むわけがない。成り立たんな、てか、こんなの何に使うんだよ全く。
「相手に投げてあたって麻痺するってことは無いですか? あるいは注射のようなもので体内に直接薬を流し込むとか」
『投げて当たっても大した量が口に入るとは思えないから効果は出ないだろうね。それとチュウシャって何だい? へーそんなものがあるのかい、初めて聞いたな。相手の体内に直接薬を流し込むとか相手が魔物でも随分とエグイ話だね』
そうか、こっちの世界には注射が無いのか。というか魔法やアイテムで全て何とかなっちゃいそうだし医術は進歩しないか。ゲーム内のモンスターに血管を実装するなんて面倒だろうしな、じゃあ何で師匠には血管が浮いたんだろう?
『カトウさんはシビノコ持っているかい? それが麻痺薬の材料だけど、それを小さく千切って、米粒位の大きさにして食べてみれば分かるよ。
まあ騙されたと思ってちょっとかじってみなよ。そのまま丸ごとカジッたら駄目だよ食べ過ぎたら効果が出ちゃうから』
騙されたと思ってなんて言われて、そのままホイホイ乗りませんよ? それにおかしいんだよね。だって例えるなら米粒じゃなくて麦粒じゃないの?
まあ町の中のNPCに殺される訳も無いだろうし、デイリークエストしかしてないけど、結構顔合わせているし大丈夫でしょ。とりあえず、小さく千切って食べてみた。少し舌が痺れたような気がしたが特に変化は無かった。
『大丈夫だったろ、相手の大きさとか種族の種類によっても効果が違うから。今まで麻痺になったことは有るかい? 無いのか、じゃあ一度麻痺は体験しておいた方が良いね。初めて戦闘中に麻痺になったらパニックになって戦えなくなると思うよ。
残ったシビノコを食べてみなよ、多分麻痺状態になると思うからさ。何ごとも経験が大事だよ。ほら騙されたと思って』
この人の口癖なんだろうか? 逆に怪しいんですけど。まあ確かにごもっともな意見なので、丸ごとムシャムシャと食べてみる。ちょっと舌が痛かったけど、特に変化っぽい変化は……あった。体が動かなくなった、喋れないもしない目だけが少し動くくらいだ。あと音は聞こえる。
『動けなくなったろ? それが麻痺だよ。行動が阻害されて口も動かせないから麻痺解除薬も飲みにくいんだ。こうなると状態異常を治す魔法キュアとか、ちょっと手間が掛るけど無理やり麻痺解除薬を飲ませるかだね』
そう言いながらカウンターをまわって店内に歩いてくる、そう私に向かって。
『騙されと思って食べちゃったね? 嘘は言ってないよね。騙されたと思ってって言ったんだからさ。フフフフ』
え? 何怖い! 怖くても動くことも出来ない、声を上げることも出来ない、誰か助けてー。
そして私の前で一旦止まってから、私の横を通り、後ろに向かったのが分かったけど、目が動くのはそこまでで後は見えない。
『フフフ。すぐ終わるからさ、力を抜いてよ、じゃないと苦しむよ?』
後ろから声が聞こえる、何に苦しむの? 何で笑っているの? 怖い、怖いよー。後ろで物音や衣擦れの音などがしている、何しているの?! 止めてくれ!! 誰か助けて、助けてー!! 頭頂部を掴まれて、後ろに引っ張られる! 何? 何されるのワタシ!
『何度言われてもダメじゃそれ以上の武器は渡せん。ここで売れるのは青銅装備までじゃ。それに今以上のランクの武器を渡しても上手く扱えないから逆に行動を阻害されるぞい』
『そうよカトウ。ちゃんと経験を積んで一歩ずつ成長しなさい。千里の道も一歩からって言うでしょ』
飲み屋で師匠と先生に相談してみたが色よい返事はもらえなかった、まあ仕方がない。仕方がないけど、でも何か気になる。なんだったっけ、何か違和感があるんだよね、あっ思い出した。
「このツルハシ鉄製ですよね? だったら鉄製の武器を売っているのと変わらないのでは?」
しかし二人とも何いっているのって顔で、きょとんとしている。
『それは道具じゃから戦っても殆どダメージを与えんぞ? 採集に特化しているからの』
意味が分からない、どうしてダメージが少なくなるのか。しかも壁を壊すのに特化したタイプもあるようで、同じツルハシじゃないの? ゲームには不思議な仕様が多すぎてちょっと理解し辛い。
しばらく師匠と先生と会話を続けている。とても楽しくて、このままここでずっと遊ぶのも悪くないなと思う。ん? 再び何か心に引っかかる気がする、でもそれが何かが出てこない、何かおかしな事があったような、何だっけ? あっ!
「フフフ、フフフ、気が付きましたよ。異議あり!」
『いきなりどうしたんじゃ?』『そうよカトウ、どうしたの?』
二人とも戸惑っている。私は二人に対して斜に構えて、左手で指さした姿勢のまま、言葉を続ける。
「ここでの距離の単位はmですよね?」
『そうじゃよ』『その通りよ』
二人とも互いの顔見てから私に答える。
「そこですよ。さっき千里の道もと仰ってましたよね? 距離の単位はmのはずなのにね」
『!?』
先生が驚いている、師匠と顔を合わせてヒソヒソと小声で話している。フフフ決まったな。
『カトウの世界では距離とか他の単位とかも、全世界で共通で一つしかないの?』
「え? 複数ありますよ」
『こちらの世界もそうよ。単位は一つじゃないわ』
「え?」
『え?』
何それ! 滅茶苦茶恥ずかしいんですけれども! 何でオレあんなポーズまで決めてセリフを発ししてしまったんだろう。思わず顔を両手で覆い隠す。
『異議ありじゃ!』『異議あり!』『異議ありじゃ!』『異議ありよ!』
師匠と先生が私のポーズ込みで物真似をして煽ってくる、止めてー助けてー。
はあ~しばらくは、からかって来そうだよなあ。冒険者ギルドでデイリークエストの報告をする。
『異議ありよ!』
ガーマレットさんまでからかって来た。もう恥ずかしさで顔から湯気がでそうだ、今日は恥ずかしい事が一杯だったな。
薬局で麻痺した後、背後から涎掛けのようなものを装着させられて、顔を上にあげた状態で無理やり麻痺解除薬を飲まされた。咽るかと思ったが、力を抜いたら結構すんなり飲めたのは良かった。けど、その恰好をシャルに見られててスゲー恥ずかしかった。
でも戦闘中に麻痺ったら、ちょっと厳しいだろうな、いい経験だった。
リアルが滅茶苦茶忙しいので更新むりっぽいです。ちょっとお時間が掛かると思います。
ブックマークがまだの方、もし宜しければ、よろしくお願いスラッシュ!
エターナルにはしないつもりですが、気長に、お待ちください。




