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腐男子御曹司の彼  作者: 一条由吏
第1章 最終面接
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7.腐女子が一番聞きたくない言葉




「聞かなくても分かりますよ。ゲイバーに行っても何も無かったんでしょ。」


「何故、それを……。」


 それくらい分かる。その先の話に萌えがあるなら、5分5分なんて言うはずがない。


「それでも世の中から、はみ出したゲイに仕事を斡旋し、今日のクレーマーのように差別主義者から彼らを守る。腐女子にとって、こんな遣り甲斐のある仕事なんか他に無いじゃないですかっ。」


「そんな大層な話じゃないんだ。ゲイバーに出入りするようになっても、運命の相手を待つ腐男子だったんだ。そこがゲイ受けしなかっただけなんだろうけどな。なあ中村君。」


 運命の相手か。確かに私が男だったら待ってたかも。強引に迫られてキスをされその先も……。いやいや妄想してる場合じゃないっ。


 聡子さんの兄だったら、相当なイケメンに違いない。あのクレーマー。めっちゃ良い目にあってるじゃないかっ。


「そこで僕に振りますか。キヒロがゲイに夢を見過ぎなだけなんです。凄い有名でしたよ『後ろだけでイケるようになるまで付き合ってくれ!』というセリフ。」


 先生が初めてゲイバーでスカウトしたという中村さんが核心を突く。


 夢の見過ぎか。確かにそうなんだろうな。


 腐女子にとってゲイから一番聞きたくない言葉。


「わあ……バカ。そんなことを喋るなよ。仕方が無いじゃないか。男に狂った状態で放り出されたら恐いだろ。」


 先生が真っ赤になっている。


 可愛い。意外な一面を見せられて、胸がキュンキュンする。


「でも僕は感謝してますよ。職場でカミングアウトしたわけでもないのに調べ上げられてクビになった。キヒロに拾って貰えなかったら、人間が信じられなくなっていたでしょうね。」


 酷い。リストラするためにそこまでする企業があるんだ。


「当時はアメリカの大手証券会社の破綻で脛にキズを持つ人間にとってはツライ時代だった。1年経って不況を脱しても戻れない人間が沢山居たんだ。俺はそこに付け込んだだけさ。」


 先生が露悪的な発言をする。


 そんなことを言っても誰も信じないって。分からないのだろうか。


「口コミを広めた僕が言うのも何ですけど。当時、救世主か神のようでしたよ。そんな人間を自分だけのモノにしようというゲイが居なかっただけなんじゃ無いですか。」


「えっ。そうなのか?」


「そうですよ。」


「興味本位で覗きにいった俺が受け入れられただけでも嬉しかったんだ。もっと積極的に行くべきだったのか? そうすれば運命の相手が見つかっていたのだろうか。」


 ダメっ!!


 先生。行っちゃーヤダ!!



「栗本さん。この手はどういう意味だい?」


 私は無意識のうち、先生の手首を掴んでいたみたい。


 イケメンだけど、腐男子で運命の相手を待っている先生に恋しても不毛なのに。




 なんでっ! この胸のドキドキが止まらないのっ!!




「おおっ! キヒロが珍しく女の子を口説いている。腐男子御曹司にしてはやるじゃないか。」


 知らない間に会議室の入口付近に長身のイケメンが扉に寄りかかるようにして立っていた。


 イケメンの言葉に冷水を浴びせられた私は先生の手首をパッと離す。


 そうだった。先生は鬼束家具の御曹司。ただの新入社員に過ぎない私とは掛け離れた存在。


「総一郎! お前ってヤツは何度トラブルを起こしたら気が済むんだ。」


 えっ。うっそー。


 このイケメンが聡子さんの双子の兄?


 背の高さが全く違うっ!


 でも少し女性っぽい顔立ちはソックリかもしれない。


「2卵生なのよ。全然、似てないでしょ。」


 いつの間にか私の左右には聡子さんと裕子さんが来ていた。


「それで入社してくれるんだよな。」


 先生が振り向き、改めて質問してくる。


「はい!」


 私は努めて明るく返事する。声が震えなかっただろうか。私が恋をしているって伝わらないだろうか。


「栗本。ありがとうな。」


 そう言って先生が満面の笑顔で私の頭を撫でてくれる。


 その笑顔に蕩けそうになるが先生の手が私の頭に触れるたび、胸の高鳴りが加速する。


 ひやっ……。やめて。ドキドキするよう。


「キヒロ! それ以上はセクハラ。入社の説明はこちらでやっておくから、総一郎と今後の対応を話し合ってきて頂戴。」


 隣で裕子さんが止めてくれる。


 助かった!












「「ごめんなさい。」」


 目の前で裕子さんと聡子さんが謝っている。


 これはいったいどういうこと?

ゲイに夢を見過ぎって、言っちゃーおしまいよ。ですよね。

ゲイも人間だということを忘れてついつい夢を見てしまう(笑)


運命の相手というのは恋愛物にとって永遠のテーマですが

腐男子にとっては人生を覆せるジョーカーのような存在なのです。


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