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腐男子御曹司の彼  作者: 一条由吏
第5章 決別
34/40

6.腐女子は子供を産んでも腐女子なんです

 妊娠4ヶ月に入り、ようやくつわりも治まってきたので仕事を始めることにした。


 毎日吐く程度でつわりもたいしたことはなかったのだけど、キヒロに止められていた。過保護すぎるパパになりそうね。


 社内に部署を新設してもらい。そこで家具のデザインをする予定だったのだけど、何故か苦情受付係りみたいなことをやらされている。














「なによ! なんであんなところに店舗を構えるのよ!」


 クレーマーは本妻さんこと鬼束玲子さん。


 実は新しい店舗を設置するのにいいところを探しているとキヒロに聞かされて、真っ先に答えたのが鬼束家具本店の近く。偶々、家電量販店が閉店して貸し店舗になっていたのでそこに入ることになった。


 鬼束家具は大川さんが売却した株式と独自に入手した株式でNIKEA家具の連結決算対象になったみたい。


 かろうじて本妻さんの持ち株と本妻さんの実家の銀行が保有する株式の合計のほうが上回っていたので、取締役の要求を突っぱねることができた。


 次回の株主総会までには鬼束家具としての独自色を強めて、NIKEA家具の傘下入りをしてもNIKEA家具の看板を背負わなくていいようにしたいらしい。だがこれまでとは違い1歩も間違えられない難しい経営を迫られていると聞く。


 この2ヶ月で過去に取引のあった仕入先や新しく開拓した仕入先から商品を仕入れ、店舗面積の半分にまで配置できるようになっており、店舗に訪れる客も次第に増えているようだった。


「そろそろ、反撃を開始しようかな。と思いまして。」


 鬼束家具本店よりも家電量販店跡地のほうがあきらかに立地がいい。角地にあるし、店舗の1階には駐車場まである。しかも、駅のほうから歩いてきて先に見つけることができる位置。


 そして『ファニチャープラザ。ONITUKA本店』という店舗名。


 店長は由広さんにお願いして、出来る限り鬼束家具本店の元販売員を配置する徹底ぶりはキヒロも腹が煮えくり返っていたからだろう。


 事前に偵察に行ったのだろう。しかし由広店長相手にクレームをつけづらいのかもしれない。だからといって、わざわざ鬼束スタッフの本社にまでクレームを言いにこなくてもいいのに。


 きっと受付で裕子さんが苦情を聞くのを嫌になって、こちらに回してきたのだろうけど凄く面倒。


「なっ……。これ以上何をするって言うの!」


 何を言っているのだろう。この人。


 キヒロがしたことは大川さんに株式を売ったくらい。それも解任すると言われれば、売るのは普通のことだと思うんだけどな。


 アメリカ・イタリア・ロシアの家具デザイナーブランドを開拓したのはキヒロだし、鬼束家具本店には無かったネット販売を独自ドメインで始め、有名ショッピングモールに支店を開設して売上に貢献したのもキヒロだよね。


 それをまるで奪ったかのように言われているが、解任されたから鬼束家具と取引を停止しただけなのよね。


「そうですね。先日、こういうダイレクトメールをお送りさせて頂きました。」


 『ファニチャープラザ。ONITUKA』は鬼束家具から分離独立しました。次回、ご来店の際には新店舗にお越しくださいという真っ当な案内。新店舗で使える500円の金券付きだけど。


 送った先は、過去2年間に鬼束家具本店で家具を販売したお客様である。尚、顧客情報の管理も鬼束スタッフが行なっており、個人情報保護法に対する利用許諾も鬼束スタッフ宛で行なっているので問題無いはず。


「これを何処に送ったのよ。」


 実はこの作戦、諸刃の剣なのよね。万が一、金券を鬼束家具へ持ち込んで使おうとした場合に拒絶せず単なる割引券代わりとして利用されたら、向こうのお客様になってしまう。


 そんなことが出来るなんて助言するつもりはないけどね。他社の割引券を自社の割引券代わりに使う手法は大手スーパーなどでも一般的に行なわれているので、法律的にも問題無いらしい。


「そちらの店舗で個人情報を登録頂いたお客様です。」


「何よ。無い無いと思っていたら、顧客情報まで握られていたなんて。それは、うちのお客様です。返して!」


「それは無理です。個人情報保護法というものがあってですね。無関係な会社間で個人情報のやりとりを行なってはいけないことになっています。そちらの販売員さんが残した顧客情報も勝手に使うと法律違反になるので廃棄してくださいね。」


「そんなことまで決めないで! どう使おうと勝手じゃない。」


 キヒロのクビを切ったときも思ったけど、この人経営者に向いてない。法律を知らないし、自分の会社の仕組みさえ知らないんだもの。仕入れもネットも商号もロゴも顧客情報も何故自分の会社のものだと思ったのかしらね。


 鬼束家具の社員を使えば多額な経費が掛かるところを安くあげるためにキヒロが苦労して作り上げた仕組みなのに。


 社員さえ奪えばことが済むと思っていたみたい。


「こちらとしても、法律に沿った手続きを行なっているだけなのです。もしそちらで顧客情報を勝手にお使いになった場合、『勝手に使われてしまいました』というダイレクトメールに謝罪文と金券を送付させて頂くことになります。そちらに取っても凄くイメージダウンになると思いますので、止めておいたほうがよろしいかと思います。」


 まあ客も元が親子喧嘩だと知れ渡っているから、クレームをつけるとは思えないけど、法律違反は法律違反だから、キッチリと言っておかなきゃね。


「今に見ていなさいよ。こちらには『鬼束家具』というブランドがあるんですからね。この戦い。何が何でも勝ち取ってやるわ。」


 そのブランドに縋ったこそ、2期連続で赤字を出したことを忘れているらしい。


 実は、本店である程度売上が見込めるようならば、鬼束家具のあと2店舗の近くにも出店しようと思っており、いい貸し店舗が無いか調査をしているところである。













「そんなことを言ってきたのか。あちらさんは価格競争をするつもりらしいぞ。これから、どうするつもりなんだ?」


 何故か鬼束家具に対しての戦略は私が決めれる立場に居る。私が世間的に一番の被害者だったからなのかもしれない。


 でも本当は家具デザイナーブランドを立ち上げて、女性らしい家具や子育てしやすい家具を作って売りたいんだけどなぁ。


 まずはベビーベッドからと沢山のアイデアを詰め込んだデザインを起こしているのだけど、なかなかOKが出ない。出産するまでに間に合うといいけど。


「価格競争はしないわ。高級家具専門店なんだから、ブランドイメージのほうが大事よね。」


「そうだな。わざわざ、同じ土俵に立つ必要も無いだろ。」


 鬼束家具は、これまでの高級家具路線を捨て仕入れ易く高く価格設定した品物を値引き販売することにしたようである。


「それよりも、売り場デザインを変えてみようと思うの。期間限定でテーマに合うものを1ヶ所に纏めてみるつもり。この時期は机が売れるとか販売データで分かるよね。その時期に合ったものを1ヶ所で比較検討できたほうがいいと思うの。」













「貴女! 今度は由広をホモにする気?」


 今日は何のクレームかと思ったら、そんなことか。貴女の息子さんは、とっくの昔に女装者でバイセクシャルですよ。とは言えないよね。本当のことでも勝手にカミングアウトするなんてありえない。


「何のことでしょう?」


「しらばっくれないで、小島総一郎とかいう男が由広のマンションに出入りしているじゃないの。」


「良く知ってらっしゃるんですね。」


 そこまで進展してるとは知らなかった。結構、秘密主義なのよね店長って。


「うちの社員は優秀なの。」


「……社員にそんなことをやらせているんですか? もしかして、うちのマンションもそちらの社員が調べたんですか?」


「そうよ。何故か興信所が嫌がるんですもの。うちの社員も2人は余程嫌だったらしくて、そのまま居なくなったのよ。でも加藤部長はそういうのが得意みたいね。」


 そういえば、あのマンション。セキュリティーが厳しいんだよね。外国人VIPも沢山居ると確か聞いた覚えがある。警察に引き渡されるならまだしも、何処かの諜報機関に引き渡されている可能性も……知らない。知らない。私は聞いてない。


 管理部の加藤部長か。ツカサさんと私を間違えて報告した人よね。そんな人が調べてきた情報を信用するのかこの人は。


「またガセネタを掴まされたんじゃないですか?」


「何を言っているの。今度は本当よ。ここに写真があるわ。ほら、この人女装しているじゃないの。気持ち悪いっ。」


 総一郎さんがマンションに入っていくシーンと聡子さんがマンションから出てくるシーンの2枚の写真がでてくる。


 すぐ近くにある自動ドアが写り込んでいて背の高さが違うって分かりそうなものなのに。


「この2人は別人なんです。2卵生双生児なんです。ほら自動ドアで背の高さが違うって分かるでしょ。」


 女装しているというところは合っているけど、勝手にカミングアウトするわけにはいかない。


「あら。本当だわ。この女の人はお姉さんなのね。」


 聡子さんはシッカリメイクだから、総一郎さんのほうが若く見えるのは分かるけど、弟だと訂正するわけにもいかないよね。


「それでも、この人が由広のマンションに上がり込んでいるのは確かなのよ。梓さん。貴女がけしかけているんでしょ。直ぐに止めさせて。」


 けしかけたのは確かだけどね。


「そんなに心配なら、由広さんに聞いてみればいいじゃないですか。」


「それが……スマートフォンも出てくれないし、SNSは拒絶されているし、どうしようもないのよ。」


「分かりました。私がかけてみますので待っていてください。」


 私はその場で由広さんのスマートフォンを鳴らしてみると直ぐに繋がった。大抵、バックヤードに居るから、電話には出られる環境なんだよね。


 この場に本妻さんがいらっしゃることをお伝えし、電話に出て頂くようにお願いするが断られてしまった。


「出たくないそうです。」


「そうでしょう。」


「でも許可は頂きました。」


「何の許可?」


「カミングアウトの許可です。」


「ええっ。あの子、あの男に襲われたのね。それがショックで電話に出られないんだわ。」


 いえいえ。同意の元、女装バーからゲイホテルに直行しました。なんていえないよね。


 知らない間に2人に居なくなられて、女装バーで1人っきりなんてこともあったのよね。あのときは、心底恐いと思ったもの。慌てて会計を済ませてタクシーで速攻帰ったけど。


 私に任されたのは、そのカミングアウトじゃない。私が喋ってもきっと信用しないだろう。


 私はスマートフォンの中から1枚の画像を取り出して、本妻さんに見せた。


「このオカマは誰?」


「20歳のときの由広さんです。」


 女装バーで写真を撮らせて欲しいとお願いすると拒否して、自分が若いときに撮った写真を押し付けてきた。人生で一番可愛いかったときなのだという。


 その画像の由広さんは女装は下手だし、化粧も下手だったが若いだけあって、肌はピチピチ……いや、ビチビチ。二の腕やスカートから出ている脚もビチビチだった。















「それで黙って帰っていったのか。お人好しだな梓は。他人のカミングアウトの手伝いをするなんて。」


 確かに本妻さんは黙って帰っていったのだが、私のスマートフォンは床に叩きつけられ、ガラスが粉々になってしまった。スマートフォンの修理代は誰に請求すればいいの?






     ★






 ようやく出産予定日を迎えた。


 無事にこの日を迎えたとは言い難い。いや言いたくない。


 毎週のようにクレームをつけにやってくる本妻さんとの決着は意外な形で終わった。


 最後の手段とばかりに彼女の実家である鬼束家具のメインバンクの伝手を借りて、イギリス人家具デザイナーブランドと契約を結ぼうとイギリスに渡ったところで当局に拘束された。


 容疑は英国王室の秘密を探ろうとした罪。どうやら居なくなった鬼束家具の2人の社員がMI6に引き渡され、本妻さんの指示であることを喋ったらしい。


 そこへタイミング良く、彼女がイギリスに渡ってきたので拘束したらしい。


 結局、病床のお義父さんは経営陣の総入替を行い、NIKEA家具に経営権を渡すことでなんとかその難局を凌いだのだった。



「本物の女性だったのね。」



 病室にはいつ出産が始まってもいいように友人の女性たちが集まっている。男性陣は病室の外で待機しているらしい。


 大きなお腹を抱え、おそらく子宮口が開いている状態になって初めて、本妻さんは私を女性だと信じてくれたらしい。いやいや、この人がなんでここに居るの?


 しかも、周囲を見回すと裕子さんはいいけど、ツカサさんも聡子さんも居る。イヤ、男の人に見せる格好じゃないんですけど……。


 もう既に陣痛が始まっている私には表情を変えることしかできない。いや表情も苦痛に歪んでいるはず。


「ほら、ヒッヒッフーでしょ。ゆっくりと力んで……。」


 そういえば、この中で経産婦は本妻さんしか居なかったんだった。半分は男性だけど。


 私は仕方なく本妻さんの手を握り、何も知らない助産師さんや看護師さんがそれを見て微笑んでくれる。いやいや、本当は微笑ましいシーンじゃないんですよ。












 赤ん坊の大きな泣き声が病室に鳴り響く。


 お産は安産だった。比較的スルリと産まれてくれた。助かった。


 出産予定日を越えても陣痛が始まらずに病室の前の廊下を点滴しながら、歩き回る妊婦さんを沢山見ていたから、アレが無かっただけでも使う体力随分違うはず。


 へその緒が切られ、産後の処置が終わると産湯から上がったばかりの赤ちゃんを抱く。これから、初乳である。初めてあげる乳には母親から受け継ぐ免疫力の源があると言われている。


 初乳をあげていると男性陣が待ちかねたように入ってくる。別に恥ずかしくない。これがお母さんになったということなのだろう。オバサン属性ができたとは思いたくない。


「ほら次はツカサさん。抱いてみて。もしかするとお乳が出るかもよ。」


 男性にも乳腺があるから当然なんだけどニューハーフの女性にもお乳が出る人がいるらしい。


「おいおい。俺が先じゃないのか。」


「キヒロは後よ。母親が先に決まっているじゃない。」


 ツカサさんが愛おしそうに赤ちゃんを抱くとまるでマリアさまのようである。


 途端に赤ちゃんが泣き出す。目の前に大きいミルクタンクがあるんだもの。飲みたいに決まっている。いや見えていないはずなんだけどね。


 ツカサさんがオズオズをシャツを捲り上げて、胸を差し出すと吸い付く吸い付く。良くやった我が息子よ。流石に男の子だね。


 喉を鳴らして飲んでいるということは、本当に出ているらしい。大きな胸だから飲み甲斐がありそう。ほとんどシリコンなんだけどね。


「私の赤ちゃん。」


 思わず、素の男の声になっている。


「えーっ、この人が例のニューハーフなの? まるっきり女の人じゃないの。」


 本妻さんがうるさい。


「そうね。私とツカサさんの大好きなキヒロの子供よ。」


「私の愛する人の子供を抱いて、おっぱいをあげられるなんて……なんて幸せなの。ありがとう梓さん。」


 良し。これで赤ちゃんにお乳をあげる回数が随分違うはず、夜中に起こされる回数も半分になる。といいな。


 ツカサさんは涙をポロポロと零しながら何度も礼を言ってくれるが、大変なのはこれからなんだよね。子育ての労力の半分をツカサさんが持ってくれると思えば、礼を言いたいのは私のほうなんだから。


「これで2人目ね。鬼束家の後継者は。」


 ツカサさんのことは無かったことにされたらしい。


「母さん。違うよ。1人目だ。言ってなかったけど、僕の娘は血が繋がってないんだ。」


 こんなところでカミングアウトしないでよ。お義兄さん。


「じゃあ、この子が鬼束家の唯一の正当な後継者なの? そんなっ。」


「そうだよ。これから先、僕の子供が産まれる確率は無いからね。」


 お義兄さんは総一郎さんに寄り添い、熱い視線を交わしている。ご馳走様。ゲイカップルが傍で見られるゆりさんが羨ましい。


「そういえば、どうやって、ゆりを取り込んだんだ。」


「あれっ。ゆりさん言ってないの。この子が産まれるまでに告白するからと言ったから、放っておいたのに。」


「だって! 言えないじゃない。本当はキヒロのファンだったなんて。あれだけ口撃しておいて、絶対言えない。」


 今、言ってるんだから、言えばいいのに。まあそう簡単なことじゃ無かったんだろうけど。


「あのね。部誌に載っていた漫画にソックリなコピー本を私が持っていたの。もちろん、キヒロのBL漫画の2次モノのね。」


「梓さんって、凄いのよ。私が10年前に作って50部しか刷らなかったコピー本を大切に保管していてくれたの。」


「ゆりが俺のファンなのか。」


「そうゴメンなさい。ケンイチさんからユキヒロさんがBL漫画家キヒロだと紹介されたときに男の人だなんて、裏切りだと思ってしまったの。梓さんにも言われたけど中学生の思考よね。」


 ファンになってから8年も経過した私でも、頭を殴られた感覚だったのだ。それをリアルでやられていたら、同じ反応を示していたかもしれない。


「それに列島書房の話も聞いた。酷いことをされたのに読者を思って引いてくれたキヒロに改めてファンになったの。だから、傍に居させてほしいの。」


「ゆりさん。鬼束スタッフに入りたいんですって。入れてあげて。」


「もちろんだよ。言葉使いから直してくれるかな。それでは販売員としては雇えない。」


 流石は私の旦那さま。経営者として頼もしいね。

この話を書いて1年後の2018年4月トランスジェンダーの元男性が授乳したニュースにびっくりしました。

昔から居るよねお乳の出るニューハーフ(笑)


腐女子として最高にハッピーエンドかな。


腐女子は生涯腐女子であり続けます。

素敵な旦那と結婚し子供が産まれても妄想は止まりません。


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