4.腐女子はその光景に目を瞠った
「ちょっと待った! 冗談だ。冗談だったんだ。」
「「ええっ!」」
私とキヒロの口から揃って不満げな声がでてしまうが仕方が無いところだろう。
「勘弁してくれ。融資だろうが、支援だろうが幾らでもしてやるからっ。」
「「えーーっ!」」
またしても、2人で声が揃ってしまった。なんだ面白くない。
「あのそのだな。僕にもスタディな男ができたんだ。それに片思いだけど、本気で好きな男も居るんだ。だから、これ以上は無理。無理なんだ。なんで僕がこんなことまで言わされているんだ。」
まあそういうことなら、仕方が無い。
できることならば、キヒロを抱く男性とはスタディな関係を築いてほしいからね。一夜の燃え上がる情事も萌えるけど。
「そうですか。そういうことならば、仕方が無いですね。そのスタディな彼を大切にしてあげてください。」
「それでユキヒロは鬼束家具を奪い返すつもりなのか?」
「そんな無駄なことしないですよ。元々、鬼束家具と鬼束スタッフは別会社ですから、分離独立も簡単なんですよ。この2年間で展開してきた店舗の所有権は鬼束スタッフのものです。ネット販売のドメインアカウントも所有していますし、売上高の4割を占めるアメリカ・イタリア・ロシアの家具デザイナーブランドの独占輸入権も持っています。」
「なんだなんだ。何処に支援が必要なんだ?」
「まだまだ、全国展開を加速していくつもりなんです。あと5店舗は必要ですね。そのあと、株式公開です。我が社の大株主に恩返しを少しでもしたいんですよ。」
「待った。鬼束スタッフはユキヒロの会社じゃなかったのか?」
「この書類の優先株のところをご覧ください。COOの良く知っている人物のはずですよ。」
机の上の書類には渚佑子さんのところの社長の名前が記されていた。
「……おま……お前はあの会社の人間だったのか? 僕の伝手なんか必要無いじゃないか!」
「もうこれ以上、あの忙しい人の手を煩わせたくないんです。世界の家具デザイナーとの顔あわせから、経費削減の手法や上場廃止から救う方法まで沢山、あの人の知恵や時間を頂戴しました。俺の力なんて僅かですよ。ほとんど、あの人の会社と言っても過言じゃない。」
「それは僕へのあてつけ……じゃないよな。すまん。あの会社の元従業員がそんな風に考えるはずが無かった。」
「そうですね。あの人と肩を並べて歩いている貴方に嫉妬しているのかもしれませんね。」
「それを言い出したら、大切にされている従業員や元従業員に嫉妬しているぞ。……ああっ。僕としたことが……、この高層マンションの低層分譲部分に出入りできるというだけで、元従業員だと分かるじゃないか。見落としも甚だしい、酷い見落としだ。」
「ちなみに妻は渚佑子様の中学の同級生で親しい友人みたいです。いいですよねぇ。女性たちは……。」
「ああ、いいよな。ちなみに僕に融資を断られたら、どうするつもりだったんだ?」
「まだまだ、切り札を切ってないですよ。こんなワザもあります。『コイツは俺の大切な従業員なんだ。助けてやってくれないか?』」
キヒロの声色が途中で変わる。誰かの声真似らしい。
「なにっ! 似てるっ。何でそんなに似てるんだ?」
大川さんがまるで腐女子が萌えに食いついたような反応を示す。
「元々、顔の骨格が似てるみたいで、あの会社の女性従業員には特に受けが良くて鍛えられました。『賢次さん。好きだよ。』やはり、女性からのリクエストで多かったのはコレですね。」
「目を閉じて聞くから、もう一度言ってくれ。言ってくれたら、1億円でも10億円でも好きなだけ援助しよう。」
融資じゃないんだ。
キヒロは目を閉じた大川さんの耳元で何かを囁いた途端、大川さんが悶えている。本当に腐女子の反応ソックリ。そして、その大川さんにキヒロがキスをする。どうやら『キスをしよう。』と言ったらしい。
思いがけず目にした萌えにすぐ近くまで寄っていって見学する。唇を離したキヒロに追いすがるように大川さんが抱きつく。私が傍にいることさえ忘れてしまったらしい。ここにベッドがあればそのまま押し倒しただろうに……。
貴女なら男同士のキスが展開されていたら、すぐ近くまで行きます?
それとも、顔を背けます?
無いな。それだけは絶対に無い(笑)
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