2.腐女子の心の叫び
まさか!
私は慌ててティッシュボックスからティッシュを取り出し、鼻にあてるが血はつかない。
プッ……
私のその行動が面白かったのか。
必死になって笑いを堪える副社長の姿があった。
「性同一性障害は、それほど君の萌えツボにハマらなかったか。」
何か聞き捨てならない言葉を聞いた。・・・どういう意味よ?
プルルプルル……プルルプルル……
私が聞き返そうとしたそのとき、内線電話らしき着信音が会議室に鳴り響く。
「失礼。」
副社長は急に真面目な顔に戻り、私に一声掛けてから内線電話を取り上げて部屋の隅に向かった。
「……このタイミングでか! いつも通りフォーメーションFJで……そうだよな。ではG&FJで……何、何故通した! 分かった総員こちらに来てくれ。」
笑いを堪えて若干上気していた副社長の顔色が顔面蒼白とまでは言わないが悪化している。
「何かトラブルでも?」
考えに没頭していて私の存在を忘れていたのだろう。
ビクッとしてこちらに振り返る。
「……ああ、クレーマーだ。時々居るんだ。」
クレーマーか。商売をしている限り避けられないことだからなあ。
「この会議室に来るんですか?」
「そうだ。受付が5階の会議室で面接中だと漏らしてしまったらしい。おそらく30分もすれば終わると思うから、その扉の向こうにある準備室で待っていて貰えないだろうか。すまない。」
副社長が頭を下げる。
鼻血を出して笑われたときには失礼な人だなと思ったけど、こんな私にも頭を下げてくれるんだ。
「あのぅ。見学していてもよろしいでしょうか?」
今後、クレーマーに対する教育も受けるだろうけど、実地で学んだほうがより分かりやすい。
「……ダメだ。決して気持ちのいいものじゃない。君は大切な人材なんだ。聞き分けてくれないだろうか。」
少し間があったのは私の意図を汲み取ったからだろう。だけど、その上で拒否された。ここは引くしかない。
私が準備室に向かおうとしたそのとき、会議室の扉が開いた。
入ってきたのは少し頭のテッペンが寂しいがガチムチ体形の中年男性だった。
「貴様が派遣会社の社長か! お前のところは何ていう酷い社員を送り込んでくるんだ。」
どうやら、鬼束家具のクレーマーじゃなくて派遣会社に対するクレーマーらしい。
これでは見学する意味は無さそう。大人しく準備室に入っていよう。そう思って準備室の扉に手をかける。
「君がこの会社の就職希望者かね。この会社は止めておいたほうがいいぞ。なんとホモを送り込んできやがったんだ。」
クレーマーが私に向かって話しかけてくる。馴れ馴れしい。だけどそのセリフに聞き捨てならない言葉を見つける。
ホモですって。
思わず振り返ってクレーマーの顔をマジマジと見てしまった。
「株式会社トランプの土成努様でしたよね。そちらの会社にお邪魔しております小島が何か間違いでも致しましたでしょうか?」
副社長が私とクレーマーの間に割り込み。私をそっと庇う。
そして低姿勢な言葉を繋げながら私の耳元に『早く入って』と囁く。
えーっ。
このまま聞きたいっ!