1.腐女子は困惑する
「どうする?」
今度はキヒロに聞かれている。選択権は私にあるらしい。しかし、何故キチンと調べないのだろうか?
私の過去を調べれば、ハッキリと違うとわかるだろうに……。私とツカサさんを取り違えるなんて、どこのド素人に調べさせたんだか。
ニューハーフのショーパブが頭から離れ無かったのね。本妻さん。意外と頭が腐っているのかも。
イカンイカン、ついついどんな女性にも腐女子属性を探してしまうのは悪い癖だわ。
「もちろん、名誉毀損で訴えるわよ。全国に鬼束梓は性転換者と広まってしまったもの。訂正しなきゃね。公共の電波を使った謝罪と慰謝料請求かな。キヒロは訴えないの?」
「どうもしないな。梓に対するもので十分だろう。梓が本物の女性と認知されれば俺をゲイと疑うヤツもいなくなるだろ。それにあんなことを発表してくれたお陰でゲイと腐女子の団結力は強化されただろうからな。」
「でも、公共の電波を使って差別をする人間って居るんだね今時。」
「ああ、SNSなどで批判されるだろう。それにテレビ業界にゲイは多いんだ。オネエで売っているタレントのみならず、有名なプロデューサーやディレクター、それに広告業界までありとあらゆる分野の有名人を2丁目界隈で見かけたからな。ま、自業自得だな。」
目の前で具体的に名前をあげてくれる。どれもこれ知っている名前ばかり。おもわず乗り出して聞いてしまったので笑われてしまった。
そこでツカサさんが加わる。ニューハーフのショーパブには本当に多種多様な人間がくるらしい。今はいなくなったが官僚に接待にも使われたらしい。ほとんどノーパンしゃぶしゃぶのノリである。
案の定、ワイドショーに出演した本妻さんがオネエタレントにやり込められる姿を良く見かけることになった。本妻さんもテレビに出演するのがクセになったのか、一向に止まる気配が無い。とうとう、LGBT差別の急先鋒としての地位を確立したみたい。
「しかし、痛いな。これは記者会見を開くべきなのだろうか。」
キヒロが週刊誌を見て頭を抱えている。
「どうしたの?」
「何処で調べてきたのか。俺の過去まで調べてきやがって。BL漫画家ということがバレてしまった。」
キヒロがBL漫画家だということは従業員の腐女子も知らない情報……ということは、出版社関連しか考えられない。きっと週刊誌の記者にネタを売りつけたのね。
「ああ、そのこと。いっそのこと、『腐男子』として名前を売ってしまえばいいんじゃない?」
「えらくあっさりしているな。BL漫画家キヒロが男だったというのが分かって、読者が離れていくのがツライんだが……。」
「それは無いと思うよ。キヒロのファンの最年少でも18歳は越えているよ。18歳未満というのは殆ど聞いたことがないよ。逆に再版させて欲しいという出版社が現われるんじゃない?」
「もう現われたよ。契約金まで積んできやがった。新会社の資金は幾らあっても良いから受けた。そういえば、兄貴はなんと言ってきたんだ?」
記者会見があった翌週。私は、本店への派遣契約を終了させられた。その件でお義兄さんとお会いしたのだ。
「本妻さんに内緒で謝ってらした。できれば娘さんのことは公表しないでほしいそうよ。来週送別会を開いてくれるらしいの。大丈夫かな、お義兄さん。物凄く無理してらっしゃるような感じだった。」
「兄は経営者に向いてないんだよ。社長だったときもストレスで胃に穴を開けそうになったとか言っていた。」
「大丈夫じゃないじゃん。なんとかならないの?」
「一応、電話でこちらに付くなら店長待遇で雇用することは伝えてあるが、向こうは実の親子だからな。裏切れないのだろう。」
結局、鬼束玲子さんを名誉毀損で訴えることになった。DNA鑑定書も用意したのだが、本物の女性であることはワザと曖昧にしたままにして、反差別の方向性で戦うことにした。それのほうが面白そうだし、腐女子としての方向性で言えば差別主義者をぶっ潰すほうに決まっている。
結局、私の送別会というよりは店長の愚痴大会の様相を呈してきた。社長に就任したときも散々抵抗したけど本妻さんのゴリ押しで決まったそうだ。
小さい頃から本妻さんの引いたレールしか無い状態で何一つ自由に決められなかった。
唯一、できたのは子供を作らないことだけ。本妻さんが死ぬ直前に全てバラすとか言って息巻いていたが、先に店長のほうがおかしくなりそうだった。
案の定、酒のピッチが早く簡単に潰れてしまった。
「ほら、総一郎さん。送っていってあげてよ。吉報をファミレスで待っているから。」
暗にけしかけてみたが反応が悪い。店長の人生はこれ以上悪くなりようが無いってのに。
腐女子をニューハーフと間違えたら、きっと面白がるに違いない(笑)
ギリギリまで間違いを正さずに相手を影で笑うんだろうな。
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