6.腐女子の性はいい迷惑
瓶は渚佑子さんが受け取り、何処かに仕舞う。大きなポケットでもあるのだろう。
「少し失礼します。」
そう言って彼女は両方の掌で頭をマッサージをしだした。彼女の掌は凄く温かい。頭の奥のほうにあった疲れが取れていく。
「渚佑子さんのマッサージは効くでしょう? 私とあきえちゃんも後でお願い。」
「10分コースでよろしいでしょうか?」
お金を取るらしい。10万円のドリンク剤を売っている彼女のマッサージ代が安いわけはない。
「栗本さんの分は、ユキヒロさんにツケておきますから気にしなくてもいいですよ。」
キヒロ先生からお金を取るらしい。御曹司なら払える金額だろう。気にしないことにする。
あまりの気持ちよさに寝てしまったらしい。
「あっ栗本先輩。隣、気をつけてくださいね。」
目が覚めると隣で『西九条』さんも気持ちよさそうに寝ていた。後輩は寝なかったらしい。渚佑子さんは管理人室に戻ったみたい。
「あれから何時間経ったの?」
「まだ40分くらいです。もうすぐ渚佑子さんがクリーニングを持ってきてくれるはずなのでもうちょっと待っていましょう。」
40分か。まるで一晩寝たような感じなんだけど。凄くスッキリした。
「えっ。そんなに早くできるの? 洗濯機を回すだけでも30分以上は掛かるのに。」
「ですよね。遅くても30分以内に出来上がってきますね。超・超特急コースだと。その分、高いんですけどね。」
「幾らくらいするの。あのマッサージも高いんだよね?」
「朝出して夜仕上がる特急コースでここのスーパーに入っているクリーニング店の倍くらい。こちらは業者がやっているらしくって、落ちない汚れもあります。30分で仕上がる超・超特急コースなら1着1万円です。落ちなかった汚れはありません。」
何故、間のコースが無いんだろ。
「超特急コースは無いの?」
「別の管理人の場合8千円1時間で仕上がる超特急コースがありますが、渚佑子さんが管理人のときは嫌がりますので誰も頼みません。マッサージは女性専用なんですが、大抵『れいな』お姉さまが払ってしまわれるので良くわかりません。」
どれもこれも私が払える値段じゃないのは確かだわ。
「ああ。起きていたのね。」
渚佑子さんが入ってくる。マスターキーを持っているらしい。まあ管理人なんだから当然よね。
「うん。ありがとうとてもスッキリしたわ。」
「それなら、良かったわ。」
「あれから、どうしていたか聞いていい?」
渚佑子さんが居なくなったとき、同級生の男の子も同じように居なくなっていたから、駆け落ちという噂もあった。でも彼女だけ戻ってきたらしい。
「あのときのことは記憶に無いんだ。気が付いたら、家の前に立っていたの。両親のお通夜だったわ。」
「ゴッメーン。ごめんなさい。」
私は慌てて謝る。興味本位で聞いた私のバカ。
「いいのよ。そのころのことはあまり聞かないでくれると嬉しいな。それよりも貴女は志望校に合格した? 今、大学生? 違うよね。鬼束スタッフに入ったのなら、希望通りデザイン系の専門学校に行ったのね。」
渚佑子さんには将来の夢とか語ったような。
中学のときは商業誌の漫画家になりたかった。でも両親とも有名大に進学することが幸せに繋がるというタイプだったから、夢を追うには有名私立高校に合格することが絶対条件だった。
有名私立高校に合格すれば、必ず大学に進学してくれると信じていたのだろう。だけど私は中学のときの約束を盾に押し切った。
「そう。漫画家デビューは出来なかったけどね。それよりも良い事があったの。なんと店長が尊敬する漫画家のキヒロ先生だったの。」
渚佑子さんになら言ってもいいよね。
「あの中学2年生のときに断筆したという漫画家の? あのとき酷く落ち込んでいたよね。」
「そう渚佑子さんと出会わせてくれた事件。」
「そっか。それはお礼しなくちゃね。私の大切な友達に会わせてくれた礼はキッチリとね。」
なんか一瞬冷たい空気が流れた気がした。
私はクリーニング済みの制服を受け取る。本当に真っ白になっている。プロだ。
「『西九条』さん起きないね。」
これだけ近くでお喋りしていたら起きそうなもんだけど。
「ああ、マッサージのときに眠くなるツボを押したから、4時間くらいは寝ていると思う。この人、医大生の癖に健康に気を使わなくて困るのよね。うちの社長が心配性なもんだから、ときどきこうやって無理矢理寝かせるのよ。言わないでね。」
そういいながら、『西九条』さんに布団を被せる。
「・・・っん。渚佑子様! あっ。栗本。もう起きても大丈夫か?」
奥の扉から出ると男たちがソファで寝ていた。でも、こちらの気配に気付いたのか先生が飛び起きた。
「ご心配をおかけしました。」
「さて、もうお昼だし。何か食べにいこう。『西九条』さんは寝てるわ。『中田』さんも『西九条』さんはお母さんじゃないんだから、寄り掛かり過ぎるのは止めておきなさい。いい加減にしないとうちの社長にチクるわよ。」
「それだけはどうかご勘弁を。」
「といって、うちの社長に寄り掛からないでよ。そんなことをすればオシオキだからね。」
「『千吾』ほどじゃ無いつもりですが。」
『千吾』とは『中田』さんの所属するグループMotyの『加藤千吾』さんのことだろう。
彼は拙い喋り方をすることが多く、その喋り方と甘えん坊さが徹底的に女性の庇護欲を掻きたてるらしい。渚佑子さんところの社長は女性なのだろか?
「あれは問題外よ。規格外よ。手に負えないわ。」
「渚佑子さんのところの社長って男性?」
咄嗟に男性と聞くのは『腐女子の性』である。これだけはいかんともしがたい。
「もちろんよ。」
ラッキー。今度調べてみよう。受け属性かな攻め属性かな。
そのまま、何故かルーフバルコニーのほうに向かうとより一層大きな部屋があった。その向こうはルーフバルコニーだ。
「このぶち抜きがイケナイと思うけど。まあ、今はあきえちゃんが妊娠しているし仕方ないか。」
後ろを振り向くと3つの扉があった。3つの家が繋がっているらしい。
リアルの男と男をくっつけたがるのは『腐女子の性』です(笑)
腐った目を持っていない女性は腐女子とは言いません。
腐った目を持っていないBL読み専の男性は本当に腐男子なのでしょうか?
これでこの章は終わりです。
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