極悪人の末路
3000文字くらいの短編を書いてみたかった。
夜光バスの中が暇すぎた結果生まれたよね。
あるところに温和で人当たりのよいと評判の、勘吉という男がおりました。
勘吉は朝起きるとすぐに畑へと向かい、1日の大半を過ごしていたのですがそんなある日…勘吉がいつも通りに畑に向かうと畑が荒らされていました。
「だれがこんなことを…。」
勘吉は荒らされた野菜を手にし、怒りに身を震わせましたが犯人がなにかわかるような証拠を見つけることができませんでした。
そこで勘吉は、夜中毎日のようにに家のなかから畑を睨み付ける日々を送り始めました。
そんな日々が一週間も続いたときついに畑荒らしが現れました。
これに気づいた勘吉は、直ぐ様鉈を手に取り畑へと駆けていきました。
走ってくる勘吉を見つけた畑荒らしは手にもった野菜を放り投げ、一目散に逃げ始めます。
しかし、勘吉はここ最近の寝不足などにより怒りは畑を荒らされたときよりも大きく育っており、畑荒らしを殺さんばかりに目が血走っていました。
冷静さを失った勘吉は畑荒らしが逃げた方向がどこなのか気づいておらず、隣の畑に入ったことに気がついてはいませんでした。
畑荒らしはある開けた所で立ち止まると、勘吉のほうへとゆっくりと振り向いてきたのです。
「太助…。」
畑荒らしの正体は、村一番の悪餓鬼で有名だった幼馴染みの太助だったのです。
冷静さを取り戻した勘吉は太助の周りに広がる景色を見てしまいました。
荒らされた野菜と一人の老齢の男の死体…。
それは勘吉の隣に住む老夫婦のしげじぃでした。
しげじぃの死体を見た勘吉は再び頭に血がのぼりはじめ、太助に向かって鉈をふりおろしにかかりました。
「太助ぇぇぇぇぇぇ!!!」
ふり下ろした鉈は太助の投げたものに当たり太助に届くことはありませんでした。
太助はニヤリと笑うと草を掻き分けて逃げ始めました。
勘吉は太助を追うべく鉈にくっついたままのなにかを外そうとしたとき、なにを斬りつけたのか理解してしまいました。
それはしげじぃの腕だったのです。
勘吉は声にならない声をあげてその場にへたりこんでしまいました。
「畑荒らしめっ!今日という今日こそはその首とってやるわぁっ!!」
後ろから急に現れたのは老夫婦の片割れのうめばぁでした。
「か…勘吉…おぬし…。」
うめばぁは勘吉としげじぃの死体を見て何が起きたのかを理解し、手にもった鋤を勘吉に向けました。
「勘吉ぃぃぃぃぃ!!!」
荒らされた野菜にしげじぃの死体、しげじぃの腕は勘吉のそばに落ちており、返り血と血のついた鉈をもつ勘吉。
それらをみたうめばぁは、勘吉の仕業と勘違いしてしまいました。
動揺した勘吉はうめばぁの鋤のふり下ろしを左肩に受けて、自分がどういう状況なのかを理解しました。
頭のなかには太助の去り際の笑い…。
すぐに嵌められたことに気がつきました。
鋤の当たった左肩を押さえながらうめばぁに勘違いだと伝えるが、うめばぁは聞く耳すら持たずに鋤をふり下ろしてきます。
勘吉は堪らずその場から逃げてしまいました。
痛む左肩を押さえ走りに走り、気づいたときには山の深くまで走っていました。
息も荒く、左肩から流れる血が身体の左側を赤く染めていました。
近くの川で身体を洗い、腰に巻いた布を傷口に当ててしっかりと縛りました。
勘吉の頭のなかには太助を捕まえることしかありませんでした。
太助をうめばぁの前に引きずり出して、自分の無実を証明するために…。
「おいおい…勘吉がしげじぃを殺したらしいぞ…。」
「いやねぇ…大人しそうに見えて実は…。」
勘吉は外套を羽織り、こっそりと町へと来てみると、すでに人相書きが立てられており、捕まえた者には褒賞金が出るとまで書かれていた。
勘吉は腰につけた鉈を握り締め町から走り去りました。
勘吉が走っていると、一人の女の子から声をかけられました。
「勘吉っ!待って!ねぇ!勘吉なんでしょ?!」
勘吉を呼び止めたのは、幼馴染みの女の子の幸でした。
「勘吉がしげじぃを殺してないって信じてるからっ!」
その言葉によって、勘吉の足はピタリと止まってしまいました。
「家に来なよ…匿ってあげる…。」
勘吉は幸の優しさに涙を流しました。
幸の家に行くと、野菜ごろごろの汁を貰い左肩の傷を見て貰いました。
「ひどいね…この傷…待ってていま治してあげるから。」
幸は傷口を見るとそう言いました。
勘吉は安心しきって束の間の安息に嬉し涙を流してしまいました。
温かい汁をずるずると呑んでいると、後ろから強い衝撃を受けて吹き飛んでしまいました。
痛む頭を押さえながら頭をあげると幸が棒を持って立っていました。
「あんたを捕まえればうちは楽になるっ!」
幸が吐いた言葉が信じられなかったが、再びふり下ろされる棒が悲しむことすら考えさせてはくれませんでした。
棒を横へと避け幸を突き飛ばす。
流石に男と女…力の差は歴然で、幸はごろり後ろへと倒れた。
倒れた拍子にぐらぐらと煮たつ鍋を引き倒し、煮汁が幸の顔や身体へとかかってしまった。
幸の絶叫が家のなかで響き渡り勘吉は逃げた。
幸から裏切られたこと…幸に大怪我を負わせたこと…頭のなかはすでにぐちゃぐちゃだった。
走った。
ただ一心不乱に走った。
転ぼうとも、傷が痛もうとも…。
「うえぇぇぇぇん…。」
ふと聞こえた女の子の泣き声が、勘吉を一気に現実へと引き戻した。
下手人として手配されているのに女の子をたすける?幸をあのまま放置したのに?
頭のなかでぐるぐると回っている罪の意識とは裏腹に勘吉は女の子に声をかけた。
「どうしたの大丈夫?」
少女の肩に手を伸ばすと少女は顔をあげた。
少女はしばらく勘吉の顔を眺めるとニッコリと笑ってこう言った。
「見つけたっ!」
四つ葉のクローバーを見つけた少女のような、先程まで泣いていたとは思えないほどにいい笑顔を浮かべている、
しかし、少女の見つけたという言葉が頭に引っ掛かり、少し考えようとしたときだった…腹部から鋭い痛みを感じ見てみると、少女が腹に小ぶりの包丁を突き立てていた。
「うぅぐあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
のたうち回るように後ろへと転がりながら少女と距離をとる。
砂が口のなかへと入ってくるが、そんなことは些細なことだ…今は目の前の少女のほうが先だ。
少女は笑顔を絶やさぬままこちらへと突っ込んでくるが、右手で少女の包丁を持ち肘を顎へと入れる。
少女が包丁を落としたのを見計らい少女を殴り飛ばし、この場から離れていく。
左肩に腹…身体中から激痛が襲ってくるが、目的を達するまで死ぬことなどできない…。
痛む身体を引き摺りながら森を出ると、そこには川が広がっていた。
水を飲み傷口を洗い、服を破いて傷口をきつく縛る。
少女の力じゃ深くまで刺さらなかったのがよかった…不幸中の幸いだ。
それよりもひどいのは左肩のほうで、左腕はピクリとも動かず出血もひどかった。
そして応急措置をしているときだった。
川の向こうに太助が立っていた。
その姿を見間違うこともなく、冷たくなっていた体は一気に熱を帯びていった。
勘吉は太助めがけて一心不乱に走り始めた。
痛みなど一切忘れ、餓えた獣の前に肉を放り投げたかの如く一直線に走った。
太助は直ぐ様川から離れていく。
木々が鞭のように体に当たろうとも、石が足を切ろうとも、目の前に見える太助を追った。
どこまで走ったのか、どれだけ走ったのかわからなかったが、太助が急に立ち止まりこちらへ振り返った。
好機と考えた勘吉は鉈を振り上げて太助へと迫った。
太助は勘吉に押し倒されはしたものの、勘吉の右手を抑えてなんとか抵抗はしているものの、勘吉はそんな太助の腕に噛みつき自身の右腕を自由にする。
「太助ぇ…これでおしまいだぁ!」
鉈を勢いよく振り上げたとき、勘吉は首に鋭い衝撃を感じた。
一気に力が抜けていく感覚を覚え鉈がするりと右手から離れ落ちていった。
首を触ると細く長いものが突き刺さっておりゆっくりと周囲を見渡した。
口から溢れる血が言葉を発することを許さなかったが、勘吉の目には侍たちが弓を構えている姿が見えた。
涙が止まらなかった。
勘吉が最後に見たものは醜悪な笑みを浮かべる太助の顔だった。
「かぁ〜…こいつがしげじぃをやった勘吉ってやつか…。」
「やぁねぇ…こんな風にはなりたくないわねぇ。」
射殺された勘吉の首は町の橋の横に晒され、立て札には極悪人の文字と罪がつらつらと書かれていた。
かわいい嘘☆