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ここからが本番。

 着替えるのが面倒だと思ったので、朝は身体と服にクリーンの魔法をかける。


 ええ、普段着のワンピースのまま寝ましたよ。だって寝間着なんて用意してないし。流石にペチコートだけは脱ぎましたけどね。

 魔法って本当にいい。

 服の皺もとれるし、寝癖も直るし、顔も洗わなくていいしね。

 うん、スボラって治りませんのよ、皆様。


 誰にしてるかわからないが、なんとなく言い訳して、ベッドを降りた夜明け前、既に皆さん、動き始めていました。

 リリィさんに聞けば乗合馬車は基本朝の鐘と共に出発するので乗客は夜明け前から動くらしい。

 朝ご飯は宿でいただき、お昼と夜用にサンドイッチと飲み物を買う。

 王都に繋がる街道なので行き交う人も馬車も多い。

 馬車の振動は脚に乗ってる時より緩やかで、私はいつの間にか眠りに落ちていた。


 特に何事もなく昼休憩をとり、野営地へと着く。

 野営地へとは言え仮小屋はあり、雑魚寝だがそこで眠ることができる。

 他に炊事をする小屋とトイレがあり、真ん中にある井戸を囲むようにして建っている。

 仮小屋は柵に囲まれていて、数台の馬車は収納できるようになっている。

 寝場所と決まった場所に掃除する代わりにクリーンをかけておく。

 編み上げサンダルの紐を緩めて、リュックを枕にマントに包まると昨日と同じ様にやはりあっという間に眠っていた。


▽▲▽▲


 乗客達と仲良くしながら野営といえない野営を込みで、サーナの街に着いた。

 本当ならすぐに次の乗合馬車に乗りたいところだけどグッと我慢して、まずは薬師ギルドを訪ねる。

 聞きたいことは水の中に生える薬草のこと。

 聞けばそれは子供でも採取可能らしいが、そこまで行くのがちょっと大変らしい。

 サーナの街から出て河を半日ほど遡った辺りに生えているそうだ。

 ただ、中々見つからないらしく薬師ギルドでは常時冒険者ギルドに採取依頼を出しているとのこと。

 なるほど、とりあえずは薬草採取には行こう。

 あとは宿ね。


「すいません。調合室がある宿ってありますか?」


 調合室は薬師ギルドでも借りることは出来るがギルド員の紹介がいる。メダルを持っているのだから貸してもらえるとは思うが、手続きその他が面倒なので聞いて見た。


「あんた薬師をめざしてるのかい?」

「えーと…まぁ、そんな感じです」

「調合室がある宿なら、水の欠片って宿があるよ。この街に長く滞在しないならギルドで借りるより安上がりだと思う」


 ありがとうございます。と頭を下げて、いくつか薬の原料を買って私はギルドを後にした。


 ギルドで聞いた道順を歩いて水の欠片亭を見つけた。

 扉の前の階段を上がって中に入って声をかける。


「すいません。泊まりたいんですが…」

「はいはい。お嬢さん1人かい」


 中は食堂になっていて、近くのテーブルを拭いていた宿の人が振り向いて相手をしてくれる。


「はい。それであの調合室があるとお聞きしたんですが…」

「薬師なのかい?」

「一応」

「調合室はあるよ。午前、午後、1日って括りで貸し出してる。竃は薪でも魔石でも大丈夫だよ。部屋代以外に魔石代とマキ代はもらうけど、魔石使うなら持込料払ってくれれば構わない。灯りに関しては持込かうちで借りるかだ。借りる場合は勿論使用料は頂くよ」


 公民館みたいなシステムと思えばいいらしい。

 

「1日っていうのは朝までってことですか?」

「借りた時間から次の日の借りた時間迄だね」


 これは薬によっては調合してから反応を見る時間が必要なものがあるからだろう。


「夜の貸出がないのは何故なんですか?」

「夜貸すと宿に泊まらずに調合室に泊まって宿代浮かそうとする奴がいるんでね。うちは宿泊客以外にも貸すからさ。あ、でも1日貸しは宿泊客のみだよ」


 なるほど。うん、私も同じことしそうだもんな。実際、付きっ切りじゃないとダメな薬もあるし、そうなると部屋を取らない人も多いだろうしね。


「実は水薬草を採取に行く予定なんですが戻ってきて宿泊続けるなら荷物って預けていけますか?群生地に行くまでに半日かかると聞いたので1泊2日か2泊3日の予定で採取にいくつもりなんですが…」

「荷物ね。預かるのはいいけどその後、泊まっておくれよ。というお嬢さん、そんなにうちを信用してもいいのかい?」

「この様な大きな街で商売をしていてギルドから紹介されるレベルのお宿が預かった荷物に何かするなんてことしないですよね。そんなことで信用失う方が損ですもの」


 ニッコリと笑ってみせると宿の人は笑った。


「こりゃ一本取られたね。ところで部屋はどうする?うちは大部屋か個室になるけど」


 ずっと人と一緒だったので今日は1人がいい。


「1人部屋は空いてますか?」

「空いてるよ。安い方がいいかい?」


 はてなマークを顔に浮かべた私に宿の人は説明してくれた。


「1番高い1人部屋は風呂トイレあり寝室以外の部屋もある。次が風呂トイレあり。風呂あり。あとは洗面台あり。それと部屋の広さだな」

「トイレって…」

「魔石を使ったクリーンなヤツさ」

「お風呂とトイレって別の…。えっとそれぞれ個室ですよね?」


 日本の様にユニットバスではないだろうとは思いつつ聞いてみた。

 宿の人は一瞬不思議な顔をしたけど、別だよ。と言う。


「なら今日はお風呂トイレありの狭い部屋でお願いします」

「狭くていいのかい?」

「はい。部屋で調合する訳でもないですから」

「お風呂用の魔石はどうする?」

「魔法を使ってはいけませんか?」

「それは構わないよ。持ち込みは遠慮してもらうがね。風呂付きの部屋の場合は、大きなタオルと小さなタオル。それと湯浴み着が1枚ずつ部屋に置いてあるから使ってくれ。あとその部屋なら朝食は無料サービスだが夕飯は別料金だ。どうする?」

「今決めないとダメですか?」

「いや、夕飯はここに降りてきて注文してくれれば出せるが、時間によってはメニューが選べなくなるけどいいかい?」

「はい。構いません」


 今まで泊まった宿とは違いかなり高かったが王都にいた頃に聞いて回った宿の値段で考えると真ん中ほどの値段だ。といっても普通の部屋なら3泊くらいは出来る値段だけど…。

 とりあえずその部屋で2泊お願いした。

 明日の朝は朝寝坊するつもりだから。

 じゃ、これが鍵だ、と渡された部屋の鍵番号は205号室。

 2階の部屋らしい。


「部屋は2階だ。奥の階段のぼってくれ。食堂は誰でも入れるけど、階段から奥は宿泊客限定だから。調合室は1階だから使う時には声かけてくれよ。ただし、早い者勝ちだから空いてないこともあるからな」

「はい。ありがとうこざいます」


 階段を上がると大通りと中庭に面してる部屋に沿って、中廊下がある。

 205号室は中庭に面してる部屋らしい。

 部屋に入ると1番手前がトイレ。その隣がお風呂。

 奥にベッド。窓の前に椅子と机。

 それだけでいっぱいな部屋だ。

 部屋としては5畳ないだろう。


 なんか、懐かしい、ビジネスホテルみたい。


 ベットの上にタオルと湯浴み着が置いてあった。

 この世界のタオルは手拭いかガーゼ。

 高級なものになるとガーゼを2枚合わせて縫ったものが多い。部屋にお風呂があるこの宿ではガーゼを2枚合わせたもので、しかも柔らかかった。

 壁には物がかけられるようにタオルハンガーなようなものがついている。

 リュックを机の上に置いてお風呂を覗く。

 洗い場とバスタブがあり、桶がおかれている。

 石鹸などは勿論ない。

 トイレは洋式。腰かけ式だがこちらもトイレだけだ。

 実はこちらのトイレ。魔石で動くものは便器だけでなく人間の身体の方も綺麗にしてくれる。なので拭くものがいらないのだ。

 汲み取り式トイレもある。

 こちらにも備え付けでは紙はない。

 入口で買うか、持ち込むか、自前の魔法でなんとかするのが一般的である。


 トイレもお風呂も部屋にも明かりはない。

 今は窓からの明かりでそれなりに明るいが、トイレとお風呂は扉を閉めたら真っ暗だ。

 一応、机の上に燭台があって、ちびた蝋燭がさしてある。


 これはライトかけておくしかないかしら?

 先に街の探索…。

 でも、お風呂に入りたいし…。


 悩んだ末にお風呂を優先した。

 ライトをコップにかけて、お風呂の中に置いて、生活魔法で浴槽にお湯を満たす。

 バスボムをひとつ入れて炭酸の泡が湧き出たお湯にまずは足をつける。

 コップに魔法で水を出し、それを中級生活魔法アイスで冷やす。こうした方が冷やした水を出すより少しだけ魔力の消費が少ない。水を飲みつつ、浴槽に腰かけて足が温まるのを待った。


 ああ、やっぱり気持ちいいなぁ…。

 広いお風呂もいいけど、こうやって本当に自分が好きなように入るのって幸せ。


 足が温まったら今度は全身をつける。


「ふぅぅ…」


 思わず声が出る。


 やっぱり緊張してたんだな、と思う。

 この2年、色々あったけど、守られていた。

 監視付きとはいえ、これからは本当にひとりだ。

 どこかで殺されるかもしれない。死ぬかもしれない。

 誰も助けてくれないかもしれない。

 心配してくれる人もいない。


 どうしても、どうしたって、頭の中はいつもネガティヴだった。

 聖女の中では特段強くも特別でもない能力。

 治癒魔法が使えなければ成人を待たずに城を放り出されてもおかしくはなかった。


 まぁ、それならそれで生きてく術は考えたけどね。


 見かけはともかく同じ世界から来た子達とも馴染めない。1番年上の子で23才。

 自分の子供でもおかしくない上に、やはり向こうの世界での年の近い子達でグループになる。

 そのうち順位が付いた。

 扱いに差がつけば、皆も必死になる。

 そんな中で冷めていれば浮くしかないのだ。

 それでも皆のおかんとして、アドバイザーとしてそれなりの位置は得ていたが、それだけだ。

 仲間になることは出来ずにいた。

 本当は泣いたり怒ったりしたかった。


 でも、出来なかった。


 弱みを見せるのが怖かったから。


 結局、孤児院の子供達にも街の人にも本当のこと言えなかったなぁ…。

 拉致されたから逃げたいなんて口にするだけで殺されるかもしれない。

 しかも、殺されるのが自分だけならいい。

 多分殺されるのは打ち明けられた側だ。


 そんなこと考えつかなきゃよかったなぁ…。

 でも、気付いてしまった。


 なんとかしようと思えば思う程、誰も巻き込めないことに気付いた。

 だからひとりで頑張った。


 もう、泣いてもいいかなぁ?


 まだ国からも出ていない。

 城から出て王都から出ただけ。

 それでも目的は少しだけ叶った。


「ひっく、寂しいよぉ…。岬に会いたいよぉ」


 久しぶりに大泣きして、泣き疲れて夕食も食べずに深く眠った。

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