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初めての宿。

「宿はあちらに一軒です。多分全員泊まれると思いますが部屋は早いもの順なのでお早めに。ここには脚番はおりますが、大切なものは宿にお持ちになって下さい」


 御者の挨拶と共に皆が宿に向かう。

 1人部屋は既に空いていなかったので相部屋か大部屋になるという。


「大部屋でお願い致します」


 ここでいう大部屋は2段ベッドが沢山入った部屋だ。

 個人の空間はベッドの上だけだが一応ベッド回りにカーテンがあるのでプライバシーは保護されている。

 この世界に来てから旅は初めてだから、やっぱりちょっと緊張する。


 日本にいた時も他人と同じ部屋に泊まるって修学旅行くらいだったもんなぁ…。


 大部屋には鍵はなく空いてるベッドを使えばいいらしい。

 荷物に関しては大切なものは宿で預かってもくれる。


「風呂もあるよ。風呂は銀貨2枚、浴槽にたっぷりのお湯付きだ。水浴びなら裏庭の井戸から自分で汲むならタダ。お湯なら桶1杯が10銅貨だ。夕飯はついてない。朝飯はスープとパンで銅貨20枚から。サンドイッチは銅貨15枚から60枚。昼飯や夕飯にも出来るよ。明日は野営だろ?」


 宿の人の流れるような口上にビックリしていると、用があるなら呼んでくれ。と言われた。

 結構値段は高めだ。でも、誰も何も言わないということはこれが普通なのかもしれない。

 とりあえずベッド決めてから考えよう、と同じく大部屋に決めた薬を買ってくれた女性と大部屋に入る。

 上下とも空いてるベッドがあったのでそこを女性と使うことにした。


「そういえば名前名乗ってなかったわね。私はリリィ。貴方は?」

「マゥです。よろしくお願いします」

「マゥちゃんね。国を回るって言ってたけど、どこまで行くの?」

「とりあえずはガナルに向かうつもりですけど、興味がある方向に行くつもりです」

「いいわねー。手に職があるから自由気ままってわけね」

「そうでもないですけどね」

「そう?でも、そのマント、毛布にもなるやつでしょ?」

「ええ、師匠が大陸を回るならこのくらいのものは持って行けと」

「貴方、師匠に可愛がられてるのね。他の装備も一級品だもの」

「…こんな装備だとお金持ってると思われそうで嫌なんですけどね」


 本当は狙われても大丈夫だけど、厄介ごとは避けるに越したことはない。


「確かにそうかも」

「実際お金はそんなに持ってないんです。持ってるのは薬ばかりなので」

「それでもひと財産よね」

「んーでも薬は買ってくれる人がいなかったらお金になりませんから。だから今日は助かりました。リリィさんが買ってくれたおかげで沢山売れましたから」


 そうなのだ。あの後、年配の男性だけじゃなく、護衛の2人や乗り合わせた夫婦にも薬が売れた。


 自分で売ったことがなかったけど、薬って売れるんだなぁ…。


 ギルドに行ったとしても必ず薬があるとは限らないし、薬師ギルド以外で薬を売ることを許されているのは治癒院などの病院。

 他には冒険者ギルドだけだ。

 薬師ギルド以外で売る時は基本割高になる。

 病院では薬師を専属に雇ってたりするので薬師ギルドと同じ価格で売っていたりもするがそれには許可がいる。

 それも専用のメダルがある。

 薬自体は誰でも作れるし、個人でならば売ることそのものは罪にはならない。

 メダルはあくまで薬の効果をギルドが保証しますよ、ということ。

 メダルをもらうには薬師ギルドに登録して試験を受ける必要があり、その試験にパスすればギルドレシピの薬保証のメダルがもらえる。

 更にオリジナルレシピの薬を審査してもらえば別のメダルがもらえる。

 持っているのはこちらの方。

 ちなみに、このメダル。薬師ギルドを脱退しても保持出来る。

 私は薬師ギルドには属さずメダルを持っている状態。

 何故なら薬師ギルドに属していると薬師ギルドの招集に応じる義務がある。

 薬師ギルドではそれなりの実績を積むか、ある一定の年数ギルドに所属するか、決められた額を納めれば、ギルドからメダルを保持して脱退出来る。

 メダル無しでいいならいつでも辞めることが出来るが、薬師としての資格は勿論失うことになる。

 私はギルドからは習うばかりでお金を納めたりはしてないが、メダルをもらうことが出来た。

 この辺りもきっと国の力なのだろう。


「マゥちゃん、上にする?下にする?」

「リリィさんはどちらがいいですか?」

「下もらってもいい?」

「いいですよ」


 リュックの中からサンダルを出して靴を脱ぐ。

 リュックをベッドの上に上げて靴を寄せるとリリィさんが話しかけてきた。


「マゥちゃん、靴、履かないならベッド上げとくか、預けた方がいいわよ」

「え?」

「この靴も結構いいものだから…」


 続きはコソッと耳元で囁かれた。


「盗られることもあるから。薬もだけど調合道具とか、あとそのマントとかも気をつけた方がいいわよ」

「はぁ、そういうものなんですね」


 私の返事にリリィさんは苦笑する。


「乗合馬車に乗ってそんなに歩かないつもりなら編み上げサンダルくらいにしとくといいわよ。リュックまだ余裕がありそうだし、その靴なら入るでしょ?」

「ありがとうございます。そうします」


 そういえば、乗合馬車に乗ってた人の半分くらいは靴じゃなくてサンダルだった。

 歩かず旅をするなら、足元は軽くということなのだろう。

 今履いているサンダルは紐を付ければ編み上げサンダルになるというものなのでこれを使うことにしよう。


 ベッドに上がって、カーテンを引く。

 ブーツに初級生活魔法のクリーンをかけてきれいにして、ドライもかけてから縮小化の魔法をかけてリュックの1番下へと仕舞う。その上に調合道具を入れて寝間着にするつもりの普段着のワンピースとペチコートを取り出す。

 そのまま、旅装を脱いで、まずは身体にクリーンをかけて、普段着に着替える。

 続けて脱いだシャツとベストとズボン、靴下、マントもクリーンの魔法をかけてから畳んでリュックの中に入れた。

 うーん、反則。

 生活魔法があるとスペアの着替えがほぼいらない。

 雨に濡れてもクリーンとドライを併用すれば着替える必要がないからだ。


 城でもほぼ毎日同じ物を着ていた。

 寝間着と農作業をする時は別の物を着たが、あとは偉い人に謁見する時の正装やパーティ用のドレス。

 変装用の侍女の服。


 そうやって考えると城にいる時から服少ないなぁ…。

 そういえば迷宮にも普段着で放り込まれました。

 今思えば、せめて旅装にしてくれ!と思うけど…。


 ちなみに旅装は男女共にズボンである。

 普段着は足首丈のワンピースで、下着は19世紀のイギリス風に上はキャミソール、下はドロワーズだ。

 チューブトップのようなものを下着としてコルセットで固定することもある。

 ゴムがないので全て紐で縛る。

 ちなみにドロワーズ以外にも下着はある。

 なんと、それは褌だ。

 これにはビックリした。

 最初、下着…パンツが褌かステテコしかないのことに召喚された皆が引いた。

 でも、ないものはないのだから慣れなくてはならなかった。

 もう、慣れたけどね。

 靴下もゴムがないから長いものはガーターベルトだしね。

 でも、今日はもういいや、と靴下はつけてない。

 大人の女性のスカート丈は踝の少し上のマキシ丈。子供は膝丈だ。

 靴下は任意。ドレスの時は必須だがそれ以外の時には必要はない。

 踝丈な服を着ていれば素足でも失礼には当たらないと聞いた時にはホッとした。

 ドロワーズの下にガーターベルトって思ったよりも違和感があるのだ。なので、寒くない時はほぼつけない。

 お陰で毛糸で編んだ靴下が手離せない。

 聖女仲間に編み物が得意な人がいてよかったよ。

 編んでるところを上級生活魔法トレースさせてもらったから自分でも作れる。

 それ、作ってない。というツッコミは受け付けません。


 着物好きで、手芸好きな聖女は足袋を作ってた。

 こちらも勿論トレースだ。

 足袋は2種類、ボタンで留めるタイプと紐で縛るタイプを作ってくれた。


 ほんっとトレース魔法は便利だ。

 上級生活魔法なだけある。

 トレース魔法は行動をトレースする魔法で、例えば大掃除などをトレースしておけば、その魔法を同じ部屋で使えば大掃除と同じ様に掃除される。

 服を作れば服を、料理を作れば料理を、お茶を淹れればお茶を。と万能なのだ。

 ただし、トレース魔法として保存しておける分は魔力量によって数が決まっているし、薬の調合のように毎回少しずつ変わるものには使えない。

 プロの料理人が調理中の様子をトレースしても、それなりに味にしかならないなど限界はある。

 あくまで生活に密着したものであり、専門的なことは出来ないから。

 でも、生活魔法を極めればそれだけでも生きていくのに支障はない程度のお金が稼げるそうだ。


 薬師も治癒魔法師もまずそうなら家政婦にでもなるかなー?


 そんなことを考えながら、ベッドから降りるとリリィさんも着替えていた。


「ご飯一緒にしない?」

「是非!」


 宿の酒場のメニューはいくつかあった。


「んー私はパスタにしようかな?トマトのやつ」

「私は肉の煮込みにしてみます」


 運ばれてきたのはどちらも美味しそうだった。

 一口交換しない?と提案されたので交換する。

 パスタはトマトの酸味をハーブが効いていて美味しい。


 あれ、これってベーコン?あ、玉ねぎもはいってるし、生のトマトも入ってる。

 ソースにする以外にもトマトが追加されてるってことかな?


 煮込みはデミグラスソースだ。

 フォークを刺せば崩れる程に煮込まれたお肉。

 これもコクがあるなぁ。タマネギ美味しい。

 でもビーフシチューとは違う味だ。


 なんだろう?この甘味…。美味しいのにわからなくてちょっと悔しい。


 美味しくてソースまでパンで拭うように食べきって水で薄めたワインを飲む。

 1日馬車に乗っていただけなのに結構疲れているのかもしれない。もう、眠気が来た。


「眠い?旅、初めてだっけ?」

「はい」

「なら早く寝た方がいいわ。明日起きて来なかったら起こすから」

「じゃ、お願いしてもいいですか?」

「ええ、おやすみなさい」


 ベッドに登って薬と財布だけはアイテムボックスに入れてリュックはワザと足側に置いた。


 結界って荷物を見ようとした人も悪意って判定するのかな?


 そんな埒もないことを考えつつ、眠りに落ちた。

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