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難しい依頼

 夜が明ける少し前に目を覚まして、微睡んでいるとクゥも起きたようだ。

 自分とクゥにクリーンをかけて、桶を2つ出して水と果物を出す。

 美味しそうに食べ始めたクゥを見ながら櫛を出して、ブラッシングをはじめる。


「昨日はありがとね。疲れたでしょ?」


 そんなことないよ。といった様子でクゥは気持ち良さそうにしながら朝ごはんを食べる。


 さて、これから、どうしよう。

 昨日、話をした感じだと簡単にはここからは出してもらえない気がする。

 というよりも、伝令が帰ってくる前にこの村を出たら、なんとなくまずい気がする…。


 そんなことを考えているとセロンがやってきた。


「よう」

「おはようございます」

「飯、作ろうと思うがお前さんもどうだ?」

「その前にちょっと聞きたいんですが、皆さんの食事は村の人が出してるんですか?」

「いや、違う。行きは荷馬車に縮小化と軽量化をかけた食糧をたんまり積んできた。その一部を食べてる」

「…その食糧も村からの依頼ですか?」

「まぁ、そうだ。あの山には特殊な薬草が生えていて、自然のままだと中々増えんらしい。だが、栽培できる環境が特殊すぎて、普通に栽培も出来ん。そんなわけでこの村を放棄させるわけにもいかんらしくて、俺らが派遣されたというわけだ」

「でも、ゴブリンキングがいて冒険者では討伐が難しいんですよね?」

「だな。討伐そのものは騎士が主体になるだろうが冒険者にも依頼は出る。どちらにしろゴブリンキングを放置すれば領地どころか国も荒れる。ただな」


 セロンの顔色はよくない。


「…それまでここが持ちこたえられるか?ってことですか?」

「その通りだ。一応兵を集めているとは言っていたがこの領地の兵だけで対応できるかわからんのだ」


 苦い顔になるセロンがゴブリンキングの恐ろしさを説明してくれる。

 ゴブリン達を個々に強化できるだけでなく、ゴブリンキングが指揮をとればそれだけで倍近い強さになるそうだ。


「本来ならば駆け出しでもなんとかなるはずのゴブリンが中級クラスの冒険者の強さになるってことだ」

「すいません。昨日のゴブリン達どのくらいの強さなんでしょうか?」


 あれはかなり強化されてからなぁ。とセロンは一人言のように呟く。


「それに、普通のゴブリン達が余り行わない連携技を使ってきていた。最初にいた数も数だったし、かなり強かったな」

「…セロンさんもしかしてかなり強い?」


 今頃、冷や汗が出てきた。たまたま上手くいったけど下手したらセロン共々死んでたことに気付く。


「一応、それなりだな。今回のも指名依頼だ」


 冒険者ギルドのことはよく知らないが指名依頼はそれなりのランクにならないと発生しないことは知っていた。


「…強いんですね」

「そんなんでもない。現に昨日はお前さんに助けてもらっただろ」


 にか、と笑うセロンに邪気はないが、これからの展開がわかった気がした。


「本当は朝飯がすんでから頼もうと思ったてたんだが、今、依頼を受けたり、急ぐ旅でないのなら、ゴブリン殲滅戦…それが無理ならここに兵がやって来るまで、この村に留まってくれないか」


 はい、予想的中。嫌な予感も的中。

 昨日、あのまま去ればよかったか…と思っても後の祭りだ。


「えーと…私、冒険者じゃないし、戦えないですが?」


 無駄な足掻きだろうとは思うが言ってみた。


「軽量化に縮小化、それに治癒魔法が使えるなら十分戦力だ。あと土魔法が使えるなら穴を掘って欲しい」

「穴?」


 どうやら柵の周りに穴を掘ることで守りを強化したいらしい。あと落とし穴や罠を作るためにも便利なんだそうだ。


「金はあんたの腕ならそれなりの額が出ると思う。俺とあの2人を治してくれたし、治癒師がいるなら安心して戦える」

「村に治癒師か薬師は?」

「両方いない」

「薬草があるのにですか?」


 私の言葉にセロンは深く頷く。


「だからだよ」

「は?」


 我ながら間抜けだとは思ったが意味がわからなくてそんな返しになる。


「薬草があるから、行商人がそれなりに来る。ここだと金じゃなくて物々交換になることも多い。だから、普通じゃ手に入らないような薬と薬草を交換してたんだ」

「なるほど」


 だとするとかなりの腕の薬師じゃなければこの村で生計を成り立たせていくことは難しい。

 だから、薬師も治癒師もいないのか。


「あと俺らは伝令で出たやつが中級の初歩の治癒魔法が使える。初歩の初歩なら一応俺も使える」


 生活魔法よりは難しいし、習うのに結構なお金もかかるが初級の中でも簡単なものならどんな魔法も使うだけならそう難しくはない。

 なので中級以上の冒険者ならば大抵は初級治癒魔法の幾つかは覚えているのが常識なのだそうだ。

 昨日、私がセロンに使った骨折を即座に治す治癒魔法は中級の真ん中辺りの魔法なのでセロンからは治癒師扱いされている。


「なんとなく話はわかりましたが、それって何日くらいかかりますか?それによっては今すぐここを出ます」


 セロンは顔を歪めたが、報酬は未定。強い魔物が襲っていることが確定している今の状況では仕方がないかとも思う。


「…そうだな。単に伝令が返ってくるだけなら5~10日。これが兵を率いてとなると15~20日だな」


 こちらの世界の1月は40日なので約半月だ。


「こちらも旅をしていますので半月はお付きあい出来ません。見てわかると思いますがクゥは脚屋からの借り物ですし…」

「レンタル代はこちらで出すし、依頼を受けてるならこちらからも話をしてもらうが?」


 うーん、そうきたか。

 ちょっと予想外だ。というかそれだけ追い詰められている状況ってことだよね。


「依頼はありませんが、目的があって旅をしてるんです」


 断ろうとして話をはじめると私の袖をクゥが引っ張った。


「何?ごめん。後でいい?」


 ダメ!というように何回も引っ張る。

 その様子を見てセロンが言う。


「もしかして、そいつ、ここ出身なんじゃないか?」

「え?」


 聞けばこの村、薬草以外に地鳥育てているそうな。昨日、村に入った門の反対側には牧場があり、そこで地鳥達が育てられているらしい。


「クゥ、それでここに来たかったの?」


 あの道を進んで行けば山裾の森を回り込む形になるが、この村へ道は続いていた。

 ごめんなさい。というように頭を下げながらすり寄ってくるクゥの身体を仕方がないな、というように撫でる。


「クゥの故郷というなら協力しましょう。ただし、報酬に折り合いが付かなければ受けません」


 コロッと変わった私の態度にセロンは驚きつつも喜んで仲間の元へと引っ張っていった。

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