ゴブリンキング
すいません。投稿順序を間違えました。
「助けて頂いて助かった。俺はセロンという」
セロンと名乗った男性はよく見るとあちこち傷だらけだ。
鎧は革鎧のようだが、それもかなり傷ついている。
しかも片足を引きずっている。
まずは、そちらをなんとかするしかない、とクゥの籠の中から取り出すふりで椅子やら毛布やらを取り出してセロンに座ってもらう。
その間に桶を出してクゥにも喉を潤してもらっていたらセロンがじっと眺めてく来るのでコップを渡せば自分で水を生み出して飲み始めた。
「かー!うまい!」
何時間逃げていたか知らないが、荷物がな
いのだから、かなりの時間であることは推察できる。
とりあえず治療よね。
ちょっと失礼します。とクリーンと診断をかけると擦り傷、切り傷、打撲の他に、足が折れているし肋骨にもひびが入っていた。でも、内臓には傷はない。
よかった。これなら治してもそこまで騒がれないだろ。
「…かなり無茶しましたね」
「仲間を逃がすためにな。それが壁役だろ」
「壁役にしては鎧が薄いようですが…」
「偵察任務に金属鎧は向いてないからな」
理由としては納得できなくもないが、無謀すぎる。というより、よくこれで私と笑いながら話ができるものだと内心呆れた。
「とりあえず治します」
「ん?お前さん治癒師なのか?」
「はい。一応」
まずは足の骨折。それから肋骨。そのあとに全体に治癒魔法をかけてから、体力回復魔法をかけた。
うお?うおお!とかセロンが言ってはいたが気にしない。
「どうです?痛みますか?」
「いや、全然」
立ち上がるとセロンはぴょんぴょん跳ねる。
そして不思議な顔をした。
「軽量化の魔法かけたままだから、身体が軽いとは思いますが、このあと移動するので安全なところまでは、すいませんが、そのままで」
「了解した。しかし、お前さん凄いな。どこも痛くないぞ」
「魔法ですから。ところで、なんでゴブリン達に襲われてたんですか?」
実は、とセロンは話はじめる。
この山にゴブリン達が集まって集落を作っていて、そのことで山の麓にある幾つかの村が困っている。
最初は冒険者を自分達で雇ったが、数が多くて殲滅は無理で、依頼不達成という形になったが、新しく依頼を出すにしても領主に訴えるにしても情報がいる。
なので、今度は偵察の依頼が出た。
それを受けたのがセロンがいるパーティーだった。
偵察そのものはなんとか終わったが、ゴブリンキングを見つけ、本職の斥候はそれを知らせに街に行き、残ったセロン達はさらに情報を集めていたが、今回は帰り道で見回りのゴブリンと遭遇して呼子を吹かれたので、全員がバラバラに逃げることにしたんだそうだ。
「…まさかゴブリンキングが生まれているとはなぁ」
「ゴブリンキング?」
ゴブリンキングは突然変異のゴブリンで知恵もあればカリスマもある。
ゴブリンキングが生まれればゴブリンが国を作り、人間に対抗することも出来るようになるそうだ。
しかも、魔法使いや騎士といったゴブリンが生まれるだけでなくキングの能力で普通のゴブリンを成長させることも可能なので厄介なのだという。
うん、超絶厄介なのは理解できた。
これってもしかして治癒魔法使えること隠してた方がよかったかも。
ちょっと後悔しつつも、仕方がないか、と諦める。
クゥにねだられもう一杯水を出した後に籠からサンドイッチを取り出してセロンに渡す。
「とりあえずお腹に入れてください。それから送って行きますから」
「ありがたい。頼む」
セロンは立ち上がり、頭を深く下げるとサンドイッチを受け取った。
セロンに話を聞きつつ、森の中を走っていく。
私とクゥが使っていた街道近くにある村ではなく別の村へと向かっているがそれは問題ない。
危ないところでは音消しの魔法を使い、気配をなるだけ殺す。
途中、何度か探知魔法をかけて魔物を避けつつ進んだので、村に向かう道を見つけたのは夜になってからだった。
「もうすぐだ」
村の灯りが見えるので、本当にすぐ側だ。
村は木の柵で囲まれていて、その外側にある畑も一応柵で囲まれていた。
柵にそって道があり、門がある。
門の前ではかがり火が焚かれていて鎧をつけた冒険者らしき人がいる。
「セロン!セロン、よく無事で!」
こちらが灯りの範囲に入ると、誰何もなく門の内側から見張りに立っていた二人が飛び出してきた。
セロンもクゥからおりて走っていく。
その様子を見ながら私もクゥからおりた。
「お疲れ様」
クゥに声をかけてクゥが首にかけている鞄から果物を取り出すふりをして、クゥに食べさせつつ、感動の再会が終わるのを待つ。
バシバシ、と遠慮なくお互いを叩きあって無事を喜ぶ姿に胸がツキンと痛む。
羨ましいのだ。無事を素直に喜んでくれる人がいるセロンが。
そんな私にクゥが寄り添ってくれる。
「大丈夫だよ。ありがとう」
そんなことをしているとセロンが飛び出してきた二人をつれて私の側にやってきた。
「助けてくれたマゥだ」
ぺこ、と頭を下げると、強い力で叩かれつつお礼を言われる。
「セロンを助けてくれてありがとう。私はサリだ」
「こいつ無茶するからなぁ。よく生きてたと思うよ。おいらはカボって言うんだ」
サリは人間の女性。カボは多分ハーフリングだろう。
「いえ、たまたまです」
「怪我も治してくれたっていうし…。お礼もしたい。ともかく中へ」
ここで辞退しても色々ややこしくなると思い、素直に従うことにした。
案内された家には怪我をして眠っている人がいる。
「ごめんね。この時間だと村長さんの家に行くわけにもいかないから」
道中セロンから聞いた村の状況は芳しくない。
森に入れないので狩りが出来ない。
ゴブリン達に追い立てられた獣や魔物達が畑を荒らす。
そのせいで食糧が減る。
まだ今は死人は出ていないが、皆、餓え始めていた。
だが、村を捨てて逃げ出すという選択肢は中々とれない。
逃げても、どこで生きていけばいいのかがわからないからだ。
そんなわけで村人達はすっかり疲れていた。
なので、魔物の襲来でもない限り起こすわけにはいかなのだ。
「えっと、この人達もセロンさんの仲間ですか?」
「ああ、今回は2パーティー7人なんでな」
門のところ3人。怪我をしていて寝ている人が2人。
それにセロンを足しても1人足りない。
「一番足が早くて伝令向いてるやつが街のギルドまで知らせにいってる。そいつの治療と道中用に薬を渡したから、こんな状態だ」
なるほど。話を聞けば納得だが、いつゴブリンに襲われるかわからないこの状況で怪我人がいるのはいただけない。
結界があるとはいえ、戦争するつもりの相手を防げるとは思わないからだ。
「この人達も治した方がいいですか?」
「出来れば。でも、いいのか?」
「乗り掛かった船ですし…」
「乗り掛かった船?」
ああ、こういう慣用句はこっちにはないのか。
「ううん、気にしないで。治せるかどうか、ちょっと診断かけてみたいから触ってもいいかしら?」
「いいぞ」
寝ているのは女性と獣人だ。
どちらも打ち身に切り傷、擦り傷に骨にひび。
獣人の方は内臓も少し痛めていた。
「治せるのか?」
「うん。これ以上だと難しいけど、これならなんとか。でも、終わったらすぐ寝るけどね」
本当はまだまだ魔法を使うことは出来るが、治癒魔法だけでなく、それがバレると面倒なのでそう言った。
「なので先に寝床作ってもいい?」
「いいが、ここで寝ないのか?」
「クゥと寝るから」
クゥはこの家の裏の草地で丸まっている。
「外で寝るのか?」
「いつもそうしてるし、その方が安心だから」
「もう1人くらい増えても寝れるぞ?」
「ううん、クゥの側がいいから」
暫く、その押し問答して、セロンが諦めた。
「わかった。だが、礼くらいさせてくれ」
勝手に出ていくことはしないでくれ、と暗に言われているのがわかる。
「わかりました。この状況で逃げたりはしませんよ」
「本当だな」
「約束します」
「信じるぞ」
そんな会話の後、女性と獣人を治すと私はクゥの元へ向かって装具を外して、滅多にかけない縮小化かけて鞄にしまう。
クゥと自分にクリーンの魔法をかけて羽の中に入ると、クゥが心配そうにこちらを見つめてくる。
「大丈夫だよ」
ほんとに?というように心配そうにしているクゥを安心させるように撫でる。ふわふわの羽毛が気持ちがいい。
「大丈夫。なんとかなるから」
今はそう信じるしかない。
「あなたのことは守るから安心して」
そう言えば、クゥはわかっているというように私に寄り添う。
明日はどんなことが起こるかわからない。ともかく寝なきゃと目を瞑ると疲れていたのか、たちまち眠りに落ちた。




