ここはどこ?
疲れていた。
何のために生きてるのかなと思うことが最近増えた。
死ぬまで等しく人は生きるものだから仕方がない、とは思うのだが、恋人も、ましてや旦那も子供もいない40女。
仕事も最近は楽しくない。
虚しいなぁと思いつつ、一生独身のつもりでいた従姉妹が結婚していらなくなって格安で売ってくれた1LDKに今日も帰る。
私の方が彼女より結婚願望があったんだけどな…。
皮肉だなぁ、と思いつつも、2階の角部屋にたどり着く。
「ただいま」
応えてくれる人は勿論いないのになんとなく言ってしまう。
灯りをつけた部屋はいつも通り物が少ない。
従姉妹の趣味でLDが畳。その奥にある
寝室がフローリング。
LDとは言ってはいるが台所は独立しているのでそんなに広くないが、1人暮らしならば十分にそこで食事も出来る。
LDにはローテーブルにテレビ台。
ローテーブルの前には引きっぱなしの布団に干しっぱなしの洗濯物。
ベッド壊れてからずっとこのままって流石にそろそろよくないよねぇ。
てか、部屋ほぼ使ってないしなぁ…。
6畳一間どころか一間の押入れがあれば4畳半でも生活できるくらいの荷物しかない私にはこの部屋は広すぎるのだ。
しかも従姉妹の趣味で収納が多いこの部屋ではLDの収納だけで私の荷物は全部収まっている。
なので寝室にしまってるのは客用布団くらいなのだ。
ああ、やめやめ。今そんなこと考えても仕方がない。
買ってきたものをなんとかしまってシャワー浴びて、洗濯は明日の朝でいいや、と干しっぱなしの洗濯から部屋着に着替えて、冷蔵庫から水を取り出して布団に座って水を飲んだところで記憶が途切れている。
え?ここどこ?
ファンタジー世界の魔法使いのような格好をした人達が光に向かって必死に何かを唱えている。
その光の中に自分がいる。
周りを見れば他にも女性が何人もいた。
皆、若い。
なんか場違いなところに来ちゃったなぁ…。
そんな感想を抱きつつ、動こうとしてみても動けないので、大人しくしつつも少しでも情報が欲しくて周りを見る。
いちにーさんしー、随分と多いなぁ。
しかも、皆、幼い。
40才独身の私だと子供くらいの年齢の子しかいないのに何故、私はここに?
悩む時の癖で髪を触ろうとしてビックリした。
ショートだった髪が伸びていたから。
ビックリして自分の身体を見る。
白い貫頭衣のような膝丈のワンピースだけ着ているが、明らかに若い。
多分、中学生くらいの時の自分。
いやー!人生で1番太ってたあの頃の身体だ!
高校の3年になって背が伸びるという男か!おいっ!と突っ込みたくなるような背の伸び方をしたのでこの時の身長は低い。
哀しくなるほど低い。
あの、私、40才独身だったんですが…。
なんでこんな姿に?
てか13才の頃って人生で1番太ってたんで戻りたくないんですけど…。
150より小さいのに体重は60キロを超えていた。
いや、正直に白状しよう。70キロ近かったのだ。
小さくてまん丸なのだ。しかも胸がないのでキューピーな体型。勿論、顔もまん丸。
それを少しでも隠そうと伸ばしていた髪。
今思うと逆効果でしかない。
なんで?なんで?なんで?と静かにパニックしている間に光が収まり、沢山の人間に囲まれていることがわかる。
成功だ!と喜ぶ人達の声とは反対に光の中にいた少女達はポカンとしていた。
そんな中で銀髪の多分男性が進み出て、優雅に膝を折った。
「聖女様方、いきなりのことに驚かれているとは思います。私はエリーゼ王国の神官です。貴女様方は聖なる力を持つ聖女様です。その力を持つものを召喚する魔法を使い、この場に現れたのが貴女様方です。どうか、我が国のため、この世界のためにその聖なる力をお貸し下さい」
ああ、これ、夢だ。
たまに読むネット小説の異世界召喚って奴だ。
てかさ、ならせめて背が伸びて痩せてからにしてくれ。なんで、1番思い出したくない黒歴史の姿なのさ。
夢だ、夢。と思いつつ、目の前で進んでいくことに流されていく。
とりあえずと案内されたのは、どうやら食堂で、話を聞く。
今回は100人の召喚を目指したが50人召喚になったということ。
召喚者は個別に魔に対抗するなんらかの能力を持っていること。
自分の能力に関しては「ステータス」と呟けば他人には不可視で目の前に見えること。
この世界には魔法があること。
魔獣や魔物がいて、それは瘴気と呼ばれるものが生み出していること。
瘴気を浄化することが出来れば魔物の出現は減ること。
その瘴気の浄化と魔物の退治を目的で私達が召喚されたこと。
召喚された人は皆13才になっていること。
年齢が13才なのは力が1番発現しやすいのが13才だからなこと。
召喚は一方通行で、もう向こうの世界には戻れないこと。
成人として認められる15才になるまでは城で生活しながら色々と学ぶこと。
この国はエリーゼという国で瘴気が強くなる度に異世界から聖女を召喚し、浄化を行っていること。
その他にもこの世界のことなどをダーっと説明された。
なんとも自分勝手な異世界召喚である。まぁ、魔王と戦えと言われないだけいいのかもしれないけど…。
「聖女様方にはいきなりのことですが、この離宮で生活しながら色々学んで、是非ともお力をお貸しいただければと思います」
力を貸すも何も成人前の女の子が「出来ません!」「やりたくない」と言ってもどうにもならない環境に押し込めておいてよく言うわ。