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「なぁ、何でここから出ぇへんの? あんたなら全部壊して出ていけるのに……」
揺蕩う意識の中、少女の話しかける声によって再び意識が浮上する。
薄く眼を開けると、この前……いや、ずっと昔の事かもしれないが、前とは別の少女がフラスコの前に立っていた。
そして、この少女もまたあの傲慢な少女と同様に傷だらけで、同じ質問を私にした。
別にここに居たい訳ではない。
けれと、逆に出ていきたいかと言われればそれも違うと答えるだろう。
私はもう全てがどうでもいい。
ただ、面倒な事はしたくないだけだ。
「答へん、か……ウチはな、此処には親に売られて来たんよ。まぁ、此処に居る殆どの子供が売られたか、拐われたかやけど」
此方は返事をするつもりはないのに、少女は1人身の上話を始めた。
”親に売られる“
それは何も特別な事ではない。
世間一般では、親は自らの子にそれなりの愛着を持っているらしい。
だから、無償で子を悪魔に引き渡す者など殆ど居ない。
皆、金や権力など自らの欲望と引き換えで子を売るのだ。
ほんの一握り、子を唯一無二の宝とした者だけは例外として殺され、子は拐われて連れてこられる。
此処に居る者は、1人を除いて皆売られたか拐われた者だ。
私の生まれた家は、とても裕福で強い権力を持った家であった。
魔術界の王家とも呼べる家からの呼び掛けだったとはいえ、家ほどの名家ならば拒む事も出来た筈だった。
だが、私はあっさりと何の躊躇いもなく引き渡された。
つまり、こういう事だ。
両親は、私に欠片も愛情も愛着も罪悪感も抱いていなかった。
私は家に不必要であった為に、厄介払いされたのだ。
……まぁ、今となっては全てどうでも良いことだが。
初めに懐いた憎悪も、助けを期待する心も、今では粉々になり消え去っている。
「ウチはな。いつか……近い未来にウチ自身を買い戻すんよ。ウチの能力は等価交換……何でも手にはいる能力なんよ。そんなウチがこない奴隷にも劣る扱い……我慢出来る筈せぇへんやろ? そしてぜぇんぶウチは手に入れるんよ。この世にある価値のあるモノは全て、ウチのものなんよ」
少女は言ってる事と噛み合わない、幼い純粋な笑みを浮かべた。
等価交換とは……前にやって来た少女と同様、この少女も稀有な能力を持っているようだ。
上は一体何を望んでいるのか……2人の少女は共に反逆の意志があるというのに………。
遠くない未来、ここもおしまいかも知れないな。
《何故、私にそんな事を話す?》
しかし、解せないのは何故その話を私に態々するのなだ。
私は何一つするつもりはない。
「お、喋りはった!賭けはウチの勝ちなんよ!」
《……賭け?》
私が反応したのが余程嬉しかったらしい。
少女はニコニコと笑みを浮かべて喜んだ。
「そう、ウチら6人で誰がアンタの反応を得られるか……アンタを動かせたなら、なおよしってやつなん。勝ったら、一月に一度出される甘味を総取り出来るんよ! 今のところウチが一歩リードと言ったところやけど……まぁ、このままウチの1人勝ちやろ」
少女の話によると、まだまだ此処には人が来る予定らしい。
騒がしいし、実に迷惑だ。
「まぁ、ウチとしては動いて欲しくはあるけど、そこまで期待はしてないんよ。ウチがアンタに話しかけたのは、アンタは将来ウチの上客になると思ったからなんよ」
私は何もするつもりはない。
欲しいものもない。
だから、少女の言う未来は訪れないだろう。
私は眼前の少女への興味を失って、意識を再び沈めようとした。
「……それに、復讐は自分の手でせぇへんと意味はないからね」
最後に聞こえたその声には、強い意志が込められていた。




