6話 錬金術師の押し売り訪問
「……光が消えた? いや、隠したのか……面倒な」
強大な力に反応する魔幢具。
僕は中々居場所が特定出来ない残りの3人を探すべく、再び起動させていた。
すると以前は7つあった光が2つ消え、今ではマリアを含む5つになっていた。
出来れば、死んでいてくれると助かるが、只力を抑えているか、此方に感知させないようにしているだけだろう。
通常、強力を使えばどんなに抑えようとしても隠しきれるものではないが、1人だけ力を行使しても隠しきれるやつが存在する。
「位置的に女王がこれで、暴れ回ってるのが聖女……周囲に微かな光を散り散りに纏ってるのが悪霊……残る魔物の棲息地を動き回ってるのが、恐らく吸血鬼かな?」
消去法やその特性から、個人を推測する。
奴等は個性が強い。
そして己が冠する大罪の特性が、そのまま出ている。
故に、判別はつきやすい。
「抑えてるのが審問官、隠してるのが……錬金術師だな」
強欲の錬金術師。
奴の能力は等価交換だ。
金さえあれば、何でも手にはいる。
力を察知されない道具を、金と交換したのだろう。
「そして、察知されない道具を態々使うということは……向こうも此方を探す機能を持った道具を手にしたって事か……」
思わず舌打ちが出た。
マリアと会わせたくなかったのに……本当に、あいつ等みんな死ねばいいのに。
しかも、錬金術師は超かつく程の守銭奴だ。
マリアの居場所を、残りの5人にも売り飛ばすかもしれない。
そうなれば、しつこくマリア付きまとってくるだろう。
僕とマリアの安寧があんな奴等に壊されてしまう。
「──舌打ちって、ヒドイなぁ。ウチはあんまり嫌いやないのに」
いきなり扉が開かれたと思ったら、現れたのは年下の少女。
そしてほんの少し前の世界の面影残した顔は、危惧していた強欲の錬金術師そのものであった。
「っ!? お前、どうやって……」
どうやって此処に来たのか? と続けようとして止めた。
そんなの能力を使ったからに決まっている。
「どうやって? それはこれのお陰やね、虚の鍵、これは空間を自由に繋げてくれる便利な道具なんよ」
見せられたのは、小さな鍵。
細かい細工がされており、中央には星空のような石が収められている。
「……その姿を見る限り、お前は転生なんだな」
錬金術師の姿は以前のものとは違った。
調べた結果、傲慢の女王や色欲の聖女、嫉妬の悪霊は転移者だ。
僕達とは違い、新たな肉体を持ってこの世界に生まれ直した訳ではない。
「そうっ! そうなんよっ!! あん時、ウチが死んだら自動的に発動する異世界転生に金を注ぎ込んだせいで、貯めに貯めた全財産がパァになったんよっ!? それやのに、あの魔王と来たら……謝りもせんとか、鬼やと思わへんっ!?」
僕の話を聞いた途端、強欲の錬金術師たる少女は興奮気味に話し出した。
どうやら、地雷を踏んだらしい。
張り付けた笑顔が消え、眉間にシワが寄った。
「……お前、マリアに会ったのか」
錬金術師の言葉に、今度は僕が眉をしかめた。
こいつの能力を考えると可能ではあるが、それでも不愉快だった。
屋敷内には結界が張ってある、侵入者がいれば流石に気付く筈だ。
マリアの部屋には、いつでも様子を確認出来るようビデオカメラと似た機能を持つ魔導具だって設置してある。
とすれば、接触したのは屋敷、いやこの世界ですらない。
マリアの夢の中。
マリアが造り出した空間にこいつは侵入したと言うことだ。
僕が触れる事の出来ない世界にこいつは……っ!
「んん? あぁ、この鍵を使ってな。それより、ウチの全財産や。お兄さん、身内っつう事で賠償してくれます? ウチも鬼やない。50でどう?」
因みに単位は兆な、と錬金術師は続けた。
国家予算並みの金額だ。
それでもまけていると言うのだから、前の世界で何れだけ溜め込んでいたんだか。
「はっ、何で僕達がそんな事をしなくてはならない。死んだのは、お前の責任だろ? 現に、他の3人は生きたままこの世界にいるようだし」
僕は思わず感情のまま返した。
元々そんな馬鹿げた額を支払う気はなかったが、マリア欲しいものの事もある。
本来は譲歩を引き出した方が利口な場面だ。
「……アンタ……勘違してへん?」
空気が変わった。
「ウチが恐れてるのは、アンタやなくて魔王。そして、魔王は他人に関心がないんよ……アンタを殺したらどうなるか……試してみてもウチは別にええよ?」
カチリと、気が付けば拳銃のような物を、頭に突きつけられていた。
冷や汗が背筋を流れる。
やはり、転生した事で力が弱体化したとしても、僕ではこいつに敵わない。
魔法で対抗する前に、僕の頭は撃ち抜かれるだろう。
「……なぁんて、ウチは金にならへん事はしません……万が一と言うこともあるからな。ウチは今日、商売に来ましたん。魔王はこう言うの好きやろ?」
張り詰めた空気を和らげ、再び笑顔を浮かべた錬金術師は懐から箱を取り出した。
見たことのない機種だったが、どうやらゲームのようだった。
マリアの趣味趣向は熟知しているようだ。
「……幾らだ?」
僕は動揺を悟らせないようにしながら、錬金術師に問い掛けた。
「100億! 因みに値引きは一切行わんよ? 口止め料も含めてやから♪」
「……分かった。すぐに用意させよう」
僕は法外な値段ながらも、今度は素直に頷いた。
用意出来ない金額ではない。
それで口止めと慰謝料やらが済むのであれば、安いものだろう。
「やっば、魔王ん所は太っ腹やね! 来た甲斐、有りましたわ」
俺の答えがお気に召したのか、錬金術師はくるくる回って喜びを表した。
「用が済んだなら帰れ。金は後日渡す」
「はいな!」
錬金術師は俺にくるりと背を向けて、来た場所から帰ろうとドアノブに手をかけた。
「あ、いい忘れてた。ウチの名前はエレン・ゴールディ、ゴールディ商会を率いとるんよ。また欲しいものがあるんやったら。是非次回もゴールディ商会を使ってな。ウチの店で手に入らへんもんはないよ?」
そう言うと錬金術師、エレン・ゴールディは、指で黄金の色をした名刺を僕に向かって投げた。
「……機会があったらね」
何でも手には入るだろうが、法外な価格で売り付けられるのは目に見えている。
緊急時以外は、殆ど使わないだろう。
「それと、後1つ言いたい事が有りましたわ」
「何だ?」
「──お兄さんかどう想おうとどう尽くそうとどんなに努力を重ねようと、アンタとウチらでは住む世界が違いますよ?」
だから永遠に交わることはないのだと言い残して、エレン・ゴールディは元居た場所へと帰って行った。
僕を嘲笑いながら。
「クソッ!!」
誰も居なくなり静かになった部屋で、僕は沸き上がる感情のまま壁を殴った。
魔法で防御をしなかったので、手の甲の皮が少し剥けて地が流れる。
「分かってるっ……お前何かに言われなくても、僕は分かってるんだよっ!!」
マリアの手を離したあの時から、僕はその資格を失っている。
事後報告ですが短編上げました。
この話とは全く関係はありませんが。




