2話 お兄ちゃん、悩む。
大罪を冠する者達が、マリアのいるこの世界へと来ている────
僕はアリシュタとの会話を後回しにして、一先ずその所在を調べる事にした。
「悪いが、アリシュタ。説明より先にやる事がある。僕はここで失礼するよ」
僕はマリアを恐れないアリシュタに苦笑いを溢しながらも、やるべき事を成すために部屋を出た。
世界を滅ぼしたなんて……普通は恐れるところだろ。
それを嬉々として、褒め称えるなんて……。
こいつも本当に大概だよな……まぁ、僕も人の事は言えないけど。
当初、すぐに離れていくと思ったアリシュタとの付き合いも、予想外に長くなりつつある。
それに、王子や侍女もお父様も離れないしね……本当に、どうかしているよ。
僕はマリアを愛しているけれど、その異常性は理解している。
それを普通の人間が理解出来るとは、思ってもみなかった。
アリシュタ達に苛立ちを感じる事も多々あったが、今ではそれも落ち着いてきた。
彼等はマリアを傷付ける事はないし、僕の方がマリアに近しい。
そう思えば、ある程度許容出来るようになったのだ。
まぁ。マリアの邪魔になるなら、すぐに始末するけどね。
僕はマリアの部屋を出ると、長い廊下を抜け自身の部屋へと入った。
そして、部屋の隠し扉を開く。
中にあるのは、様々な魔術導具。
その中の1つを発動させた。
「……魔力や、霊力の異常に高い者は……いるな」
元々はマリアを探し出す為の、魔術導具だった。
けれど、用途はそれだけというわけではない。
この世界の地形図、そこに強い光を放つ点が7つ浮かんだ。
皆、人の器を超越した力を持つ存在だ。
「やはり、全員揃っているのか……」
僕はマリアの魔力なら同じ世界に居れば何処へ居ようと分かるが、他の6人が何れがどいつかなんて判別がつかない。
「……アリシュタや王子の手を借りるか」
あのイカれた6人の事だ。
前世同様、分かりやすく欲望のままに世界を荒らしている事だろう。
個人を特定出来れば、多少は対策もきくかもしれない。
「傲慢の女王は、何処かで建国でもしてるだろうから分かりやすいとして……嫉妬の悪霊は、厄介かもな」
あの6人がこの世界へと来ている。
方法が転生なのか転移なのかは不明だが、マリアと違ってあの6人は積極的に他者を害する。
「向こうも恐らく、マリアがこの世界に居ることに気付いているだろうから……色欲の聖女と嫉妬の悪霊は、早々にちょっかいをかけてくるだろうな」
本来、マリアを守る必要はない。
マリアがその気になれば、害する事が出来る者など存在しないのだ。
だから、放っておいても本来構わない事なのである。
けれど、僕はあの6人の事が嫌いだ。
あの6人は、僕よりマリアに近しい存在だ。
マリアと同じ過去を共有し、強大な力を持っている。
だから、マリアに近付けたくない。
触れるのも、言葉を交わすのも不愉快だ。
「邪魔なんだよね……さて、どうやってマリアから遠ざけるか」
殺すのは難しい。
マリアが直接出れば片は付くが、面倒臭がる事は目に見えているし、それでは本末転倒だ。
ならば、どうやって遠ざけるかを考えた方が簡単であろう。
「……いっそのこと、殺し合いでもしてくれないかな?」
そうすれば問題解決なのに、と僕はありもしない希望を独り溢した。




