19話 暗黒side
またまた残酷描写ありです。
またまたホラー展開。
それはマリアが、電波ヒロインを闇に葬った次の日のこと――
「昨日からミーナの姿が見えません……」
「俺もだ……教室にもいないようだし……まさか、何かあったのか?」
「何かって……公爵令嬢がミーナに危害を!? すぐに助けなければ!」
電波ヒロインことミーナの姿が見えないことに、取り巻き達は焦っていた。
ミーナを苛めていた公爵令嬢が、何かしたのかもしれない、と。
その予想は見事に当たってはいたが、既に手遅れでもあった。
彼らが恋したミーナは、既にこの世から跡形もなく消え去っているのだから。
「早く助けにいかないと、ミーナは俺達の事をきっと待ってるはずだ!」
「そうですね!」
「うん、僕達がミーナを助けよう!」
だが、彼等はその可能性を考えない。
相手はこの国有数の公爵家の令嬢、ミーナの身分を考えれば命を奪われていても何ら不思議ではないのに。
人は自分に都合の良いことだけを、信じようとするものだ。
「本当に……マリアはこういうところが甘いよね……」
「――え?」
「誰だ!?」
「何者!?」
自分達の他にいないと思っていた場所で、突然聞こえてきた声に3人は驚き、声のする方へと振り向いた。
「全く、このような奴の為にマリアの気分が害されるなど……不愉快だ」
「「「ルヴィーア王子殿下!?」」」
ミーナの取り巻き達は、驚いて開いた口が塞がらなかった。
何故このような場所に、王子がいるのかと。
「貴様達如きが、俺の名前を気安く呼ぶな!」
「あはは、相変わらず殿下は沸点が低いですね!」
「何だと貴様っ!?」
王子の後ろからひょこりと姿を見せたのは、公爵家に養子入りしているアシュリタ。
「殿下で遊ぶな、アリシュタ。殿下も、少しは大人になってください」
「はい、お兄様」
「チッ……」
そして2人を嗜めたのは、アリシュタの義兄でもある公爵家のミカエラだった。
3人とも立場は違えど、取り巻き達より遥かに身分は上だ。
取り巻き達は、緊張で体を強張らせた。
――最も、昨日多勢に無勢で詰め寄ったマリアもまた、取り巻き達より遥か上の身分であったのだが。
「殿下達は、本日どのような用件で……?」
取り巻き達の内1人が、おずおずと王子達に尋ねた。
「どのような用件? そんなの1つしかないだろう?」
尋ねられた王子は、心底嫌そうな顔で眉をしかめた。
「そ、それはどのような……?」
心当たりは昨日のマリアの件しかないが、ミーナの話では王子達はマリアの束縛に辟易としていたと言う。
そんな王子達が誉められはすれ、こんな蛆虫を見るような目で見られる筈がない。
「え? それ、本気で言ってるんですか? 昨日蛆虫風情が、マリアお姉様に集った話ですよ。当たり前でしょ?」
アリシュタがニコニコと笑いながら、取り巻き達ににじり寄っていった。
アリシュタ発言の内容と全く一致しない天使のような笑顔に、取り巻き達は背筋に怖気が走り後退る。
「で、殿下達はマリア嬢には、め、迷惑していると!」
取り巻き達は、本能のまま必死に言い繕った。
「それ? 誰が言った訳? ……僕達がそんなことを思う訳がないだろう?」
「あぁ、俺はマリアを誰よりも愛している」
「そんな!? だってミーナが!!」
王子達の言葉で、やっと自分達の立場を理解した取り巻き達。
理由はどうあれ、王子達の最愛を害した事実は消えない。
「そ、それにマリア孃は、ミーナに嫌がらせを! だから私達はその注意を――」
「――だから?」
「――――え?」
自分達に義はあったのだと、そう言い募ろうとした取り巻きの言葉を遮り、ミカエラは聞いた。
取り巻き達はその言葉が理解出来ずに、ぽかんと間抜け面を曝してしまう。
「だから何なのかな? そもそもそんな事実は一切ないけれど……事実だったとして、何が問題なのかな?」
心底意味が分からないと言った風に、ミカエラは首を傾げた。
「しかし、ミーナは虐められて、泣いて! それに、学園は誰もが平等であるはずっ」
学園は平等を唱っていた筈だと、取り巻き達の1人は訴える。
だから、自分達の行動に間違いは無かったのだと。
「ふんっ! 勘違いも甚だしいな、ならば俺と貴様達は同等か? 違うだろう? そんな事は断じて許されない!」
「言葉の意味を、理解出来ない蛆虫っているんですね。蛆虫だから、仕方ないのかな? 学園はあくまで学ぶ機会は、平等だと言ってるだけですよ。現に優秀な生徒は、身分が低くても特別クラスで授業を受けられますからね。でも、下の身分の者が上の身分の者を害する事は、許されていません。僕の言ってる意味分かります? だから、僕も王子にも手が出せないんですよね!」
「……貴様は少しは俺を敬え」
「……まぁ、たとえ身分が上でもマリアを害するなら、消すけどね?」
王子達から次々と告げられていく事実に、段々と顔色を無くしていく取り巻き達。
中には、ミーナに騙されていたのか? と彼女に対する熱情まで冷めてしまっていた者までいた。
「……そろそろ無駄話は止めて、とっとと目的を済まそうか。早くマリアの側に戻りたいし」
「そうだな」
「ですね、蛆虫を見るより、マリアお姉様を眺めてる方が比べるまでもなく有意義です」
王子達3人は、そう頷き合うと取り巻き達に一斉に視線を向けた。
「な、何を……?」
「お前達の家に、今回の事を連絡した。どの家もお前達を勘当し、下の弟達を次期当主に据えるそうだ」
「なっ!?」
「そんな……」
「私達が……?」
3人は言葉を無くした。
3人はミーナに出会う前は、優秀で輝かしい未来が約束されていた。
それが一瞬で全てを失うなんて――
3人は、考えもしなかった。
「うん、君達はあの蛆虫イカれ女と、同じ所に行くんだよ? 学園にも明日には広まるんじゃないかな? ――身分違いの恋の末、駆け落ちって! 相手の男が3人っていうのは珍しいかな?」
「……駆け落ち……そんな」
もうミーナを信じることは出来ない。
一緒にはいられない。
それなのに全てを失う原因である女を、抱えて生きていかねばならないのか……
「仕方ないですよ、私達はそれだけの相手に無礼を働いてしまった。ミーナの言葉に踊らされたとはいえ、暴走したのは私達。やり直しましょう、3人ならきっと――」
力を合わせれば上手くいく、そう続けられる筈の言葉が発せられる事はなかった。
宙を舞う胴体と離れた首。
彼はきっと自分の死に、気付くことはなかっただろう。
それほど鮮やかな手際であった。
「え?」
残された2人は、2つに分かれた彼の亡骸を呆然と見詰める。
「そんな驚く事は無いでしょう? あなた達はあのイカれ蛆虫女と同じ場所に、これから行くと言いましたよね?」
そう笑って告げられたのは、取り巻き達の死刑宣告。
「お、お許しを……」
「命だけは……」
自分のいく末を悟った残りの2人は、地面に額を擦り付け情けをこう。
それが無駄な行為だと分かっていても、止めることは出来なかった。
「死ね――」
そして、裁きは下された。
無慈悲に、一欠片の容赦もなく。
取り巻き達は最期に後悔した。
何故、あんな女の甘言に乗ってしまったのか、と。
1度は愛を囁いた筈のミーナを、死の間際憎悪した。
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「やれやれ、マリアもうっかりさんだなぁ。コイツらの存在を忘れるなんて。蛆虫を1匹消しても、全部始末しないと後から後からわいてくるんだから」
ミカエラは、相変わらずのマリアの怠惰さに嘆息した。
「仕方ありませんよ。マリアお姉様は、面倒臭がりですから」
アリシュタは魔法で取り巻き達の死体を塵も残さず燃やし尽くすと、何事もなかったように天使の笑顔を浮かべた。
「この程度の奴等、マリアの手を煩わせる程ではないだろ」
どうでもよさそうに、そう言った王子。
取り巻き達は、王子の側近候補であった。
「そろそろ戻ろう。マリアがお腹を空かせて、起きる頃だろうし」
「そうですね」
そう言って彼等は、この場を去った。
凄惨な行為を行ったというのに、彼等の表情は逆に清々しい。
――その翌日、ミーナと取り巻き達が駆け落ちした事が学園内に広まった。
半日が経つ頃には、学園内では誰もが知ってる情報となった。
ミーナはともかく取り巻き達には友人達もいたが、ミーナに入れ込むようになってからは、誰もが離れ絶縁状態になっていた。
そんな彼等を探すものなどいなかった。
その後、彼等の姿を見たものは存在しない。
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皆、イカれてますから。




