18話 悪役令嬢は天秤にかける
更新が大分ずれました……(ToT)
今回、残酷描写ありです。
……最早、ちょっとしたホラー
「ま、マリアさん、謝ってください」
その日見ず知らずの女に、私は突然泣きながら詰られた。
……何だ、コイツ。
病気か……?
私は最初は異様に思ったが、すぐに興味も失せ、家に帰ろうとした。
テストを受けに来たと思ったらこれか……
やはり、部屋で引きこもっているのが1番だな。
私の気分を読んだ優秀な侍女が、車イスを押してその場から離れようとした。
「逃げるんですか!?」
イカれ女が叫んだ。
うるさ……
何なんだこの女、王子以上に意味が分からんぞ。
「公爵令嬢たる者であってもこのような卑劣な行い、許されるものではありませんよ!?」
イカれ女を取り巻いていた男の1人が、声をあげる。
ふあぁっ、今日は12時間しか寝てないから寝不足だなぁ。
ねむねむ……
「お疲れですか、マリア様? こんな頭のイカれた連中は放っておいて、早くベットでお休みしましょう」
《うむ》
私が侍女の提案に同意すると、侍女はイカれ女達に背を向けて車イスを押した。
「待って! もう貴方の身勝手な思いで、ルヴィーア様やミカエラ様達を縛り付けるのは止めて! アシュリタ様達を、解放してあげて!!」
「待て、ミーナに謝罪しろ!」
後ろで何やら騒いでいたが、私達が振り返ることはなかった。
……王子や兄達?
解放?
何が言いたいんだ?
「まさか……」
私が頭を傾げる中、侍女はある可能性に気が付いていた。
◆◆◆◆◆◆◆
《――この世界が乙女ゲーム?》
「えぇ、あのイカれ女の言動から、可能性は高いかも知れません」
侍女は温室に戻ると、真剣味を帯びた声音でそう私に聞かせた。
曰く、あのイカれ女はネット小説によく出てくる電波ヒロインというもので、現実と妄想が区別出来ずにゲームに生まれ変わった事に気付いたヒロインが、シナリオ通りに逆ハーを築き上げる。
そして、その電波ヒロインは自分の地位を更に確固たるものにするために、悪役令嬢(私らしい)を嵌めて断罪イベントなるものを発生させるらしい……
随分とヤバイ女だな……というか、侍女よ。
お前も転生者だったのだな…。
しかも、同じ世界からのようだし……世間は狭いな。
《だが、私は王子は勿論婚約者などいないし、問題ないのではないか? それにあのイカれ女の魔力は、無いに等しかったぞ? 私をどうこう出来るとは思えん》
それにあのイカれ女は、平民だ。
影響力もたかが知れている。
面倒だし、放っておいてもよいのではないか?
「ですが、万が一……ゲーム補正が、存在するかもしれませんし……」
私が放置で良いのではないかと言うと、侍女は首を横に振り納得しなかった。
《ゲーム補正?》
また、突飛な内容だな。
「今の様子を見ると無いとは思いますが……絶対とは言い切れません。念の為に始末した方が、よろしいかと。補正が効いた場合は、あの方達が敵に回るのでしょうし」
《……ふむ》
確かに王子達は権力を持っているし、敵に回ると面倒だ。
だが、私が殺せない相手ではない。
きっと私がその気になれば簡単な事だ。
しかし、その場合私の失うものも大きい。
兄達には、私を養ってもらわねばならないのだから。
だとすれば、1番楽な選択は――――
《侍女よ、私は少し出掛けてくる。侍女は、おやつの準備をしといてくれ》
私は侍女にそう言い残すと、返事も聞かずに温室を後にした。
◆◆◆◆◆◆◆◆
「何なのよ!? 私を無視して! 悪役令嬢の癖に!!」
一方、ミーナはお粗末な断罪イベントが、不発に終わって荒れていた。
「私のルヴィーア様達を横取りして、あのクソ女絶対許さないんだから! それに何よ、あの無表情! 気持ち悪いったらありゃしない! 髪の色も変な色だし、全然ゲームと違うじゃない!!」
ミーナは誰も見ていないことをいい事に、周囲に当たり散らした。
《やはり、五月蝿いな》
ソレは、突如現れた。
「マリア……」
《お前のような奴を、電波と言うらしいな》
突如現れたマリアは宙に浮き、無表情でミーナを見下ろしていた。
「私は電波じゃない!! 今に見てなさい! あんたなんて家族にも見放され、何もかもなくして処刑されるのがお似合いよ!!」
《……つまり、お前は私を殺そうと言うのだな?》
ミーナは頭は悪いが、勘が悪いわけではない。
「そうよ、悪役令嬢のあんたは惨たらしく死ぬのがお似合い――――ぇ?」
ミーナは、突如悪寒を感じて右に一歩移動した。
瞬間、熱い液体がミーナの頬を汚した。
《……愚かな。動かなければ、安らかに逝けたものを》
「え? ……ぇ?」
ミーナは信じられないものを見るかのように、自身の左腕を見ようとした。
だが、それはもう叶わない。
何故なら、ミーナの肩口から先は、何者かに食い千切られたかのように失われていたのだから。
「ぃっい゛やあ゛゛あー!!!? 私の手が、私の手……ぐぅ」
《私は眠いのだ。手間取らせるな》
「ま、まって、待ってよ!? おかしいじゃないこんなの、私はヒロインなのよ!? 何でこんな、腕、私の腕を返しなさいよっ!」
ミーナは痛みで錯乱し、血走った目でマリアに迫る。
《クロ……》
マリアがその名を呼ぶと、先程ミーナの腕を奪った化け物が姿を現した。
壊れていて、悍ましい。
痛ましくて、恐ろしい。
マリアの悪夢にして、マリアの魔王たる所以。
――悪夢のクローディア。
「ひっ! いや、助けて、何でこんなことをするの!?」
ミーナはその姿を視界に納めた瞬間、恐怖に身がすくんだ。
《……何故? 先程お前が言ったのではないか、私を殺すと。だから、これは当然の帰結だろう?》
――私は殺られる前に、やるだけだ。
そう、マリアは続けた。
マリアはミーナの言っていることが、真底理解できないようだ。
自らに危害を及ぼす前に、潰すのが当然だと思っている。
《やれ、クロ。血飛沫1つ残すな》
「ぃいやああぁあ゛あ゛――」
そうしてミーナは消えた。
血飛沫1つ残さず、生きた証は消え去った。
欲を張らずに、攻略に成功していた男達だけで満足していれば、ミーナは全く違った人生を送れただろう。
《うむ、帰って寝るとするか――》
少女の無機質な声だけが、その場に響いた。
後2話で終了です




