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15話 異世界生活は、今日も充実している

王子がゲスいです。


「マリア様、飲み物とお食事を準備いたしました」


目を覚ますと、タイミングを図っていたかのように出来立ての料理が並べられた。


《ぅむ……食べる》


「はい、では私が一口サイズにお切り致しますね」


私が何も命じる事がなくても、パンケーキは一口サイズに切り分けられて口元に運ばれてくる。


「お口に合いましたか?」


《ん……》


中々の腕だぞ。


「それは、よかったです!」


私がそう答えると、その少女は満面の笑みで喜んだ。

この少女は父が先日雇いいれたばかりの侍女だったが、気が利いて仕事が出来るやつだ。

今日もまた私の専属の侍女として、朝から晩まで面倒を見てくれるのだろう。


「……くっ!」


「……これは、とんだ伏兵いましたね」


すっかり私の生活に馴染んだ侍女を見て、悔しそうな表情を浮かべる兄と弟を見るのはこれが初めではない。

ここ数日で、見慣れた光景だった。


「何故、父上はこんな奴なんかを……」


兄達は付き合いも何もなかった子爵家からの申し出に反対していたが、当初難色を示していた父が突然侍女として認めたのだ。

それは、頭を傾げたくもなる。


“こんな情熱を持った子は家にはいないし、マリアの事が大好きだからきっとお友達にもなれるよ!”


とか言い出して、父が私達の意見も聞かずに家に迎え入れる事になったのは記憶に新しい。


「アリシュタ狙いかと思っていたら、マリア本人が目的だったなんて……!」


まぁ、兄達は不満なようだが、私は中々気に入っている。

私は快適な生活が出来れば、誰が世話を焼いてくれても何ら問題ない。


「いや……でも、好都合か? 僕が学園に通っている間も、アリシュタとは2人きりにはならないし……崇拝はしてるようだけれど、恋愛感情は混じってないから安全か?」


兄が顎に手をあてて、ぶつぶつと考え事をしていた。


ぶつぶつと五月蝿いぞ、兄。

考え事は口に出すな。


「マリア様、どうぞ苺です」


《ん》


私は侍女の口元に、小さく切られた苺を運んだ。




うむ、今日も私の異世界生活は充実している――











◆◆◆◆◆◆◆◆











「マリア、珍しい食べ物が手にはいったから持ってきたぞ」


「……いい加減、家に来るのは止めて貰えませんか殿下?」


土産を持って訪れた王子に対し、兄は諦めの目をしながら溜め息を溢した。

あのパティー以降、謹慎が解けたとかで2日に1回は家を訪れるようになった。

勿論、土産持参で。


「マリア様、お茶も用意しますね」


侍女は土産の中身を確認すると、私が食べられるようにテーブルを準備した。


《ん、旨いな》


「気に入ったなら取り寄せた甲斐があったな」


私が土産の菓子に舌鼓をうっていると、王子はうっとりとした表情で私の髪を手櫛でといた。


《うざいぞ、王子。私は食事中だ》


王子がベタベタとしてくるのが煩わしいので、私は苦情を言った。


「……いいじゃないか少しくらい。俺は未来の夫だぞ?」


そう言いながら、更に距離を縮めてくる王子。


ちょっと、キモィぞ王子。

身分と顔面偏差値がなかったら、きっと誰からもセクハラで訴えられるレベルだ。


「「「冗談はそれくらいにしてください、殿下」」」


王子の妄言に対して、兄、弟、侍女が一斉に突っ込んだ。


息ピッタリだな、お前達。

いつの間に、意気投合したのか。


私は口をモゴモゴさせながら、4人を見ていた。


《そもそも、私は結婚なんぞしないぞ王子。一生この家で暮らすのだ》


何故か王子の中で、私が嫁ぐ事になっているのでこの際キッパリ言っておく。

これで、妄想と現実の区別がつくようになるだろう。


「そうなると俺が婿入り? でも俺は将来この国を継がないといけないから、それは無理だぞ」


話が通じないな、この王子。

……だんだん、面倒になってきたな。

もう言わせるだけ、言わせとくか?

別に言うだけなら、自由なのだし。


《私は働くつもりはない……将来は引き込もってぐーたら生活を送るのだ。まぁ、自宅警備くらいはしてもいいがな》


これは決定事項だ。

王子とて、実際に私の前に立ちはだかるようなら容赦はしない。


「……働きたくない、か。確かに王妃の仕事は、中々の激務だな……この国の顔になるわけだし」


「おっ! やっと殿下が諦めたのか!」


王子が遂に理解を示したと、兄は大層な喜びの声を上げた。


ふむ、これで少しは静かになるかな。

土産は歓迎だが、王子は少しうざいからな。


「それなら、本当は気が進まないが、側妃を用意するか。ソイツに外交やら仕事は任せれば、マリアはいままで通りの生活を送れるぞ? あぁ、心配は無用だ。勿論、ソイツはお飾りの妃だし、俺が真に愛するのはマリアだけだ。側妃もこの前のようなトチ狂った女ではなく、賢く謙虚な奴を選ぼう」


王子はいい考えだとばかりに、微笑みながら言ってのけた。


《……》


ダメだな、これは。

もうこれ以上は兄達に任せるとして、私は眠りにつくとしよう。

……まぁ、色々あるが……それなりに私の異世界生活は充実している。










◆◆◆◆◆◆◆◆











「……ねぇ、僕はこの国の将来が心配なんだけど」


「僕もです、お兄様」


「全く気持ちが分からない訳ではありませんが……ゲスいですね」


3人はそれぞれ死んだ目になりながら、これは矯正不可能だと感じ始めていた。

この王子は、本当に実行すると。

3人もきっと立場が同じであれば、似たような事をする自覚はあるので、王子がマリアを諦めない事は理解していた。


「「「はー、せめて王子じゃなければな……」」」


王子じゃなければ暗殺してやったのに、と3人は同じ事を考えていた。


全く羨ましくない逆ハー……。

この話もあと少しで完結です。

3万字以内の予定でしたが、少し越えるかもしれませんm(__)m

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