12話 完璧な世界
アリシュタ視点です。
他視点ばっかですみません……主人公視点だとすぐ寝るから、どうしても話が進まない( ´△`)
僕達の間に入ってきたのは、王子と同じくらい令嬢だった。
システィア侯爵令嬢……確か、マリアお姉様を除けば、王子の婚約者の有力候補だった筈……
きつく巻かれた縦巻きロールに、ドギツい化粧。
まるで娼婦のように露出の多い、毒々しい程に真っ赤なドレス。
うっわ……10歳でこれって……家にいる長女と仲良くできるんじゃないかな?
ケバい者同士で。
王子にはお似合いだよ、きっと。
……アレと結婚して、マリアお姉様の事は諦めればいいのに。
「気安く触れるな、システィア侯爵令嬢」
王子は腕にまとわりついた侯爵令嬢を引き剥がすと、触られた腕をもう片方の手で払った。
あぁ、臭かったんだね。
家にもいるから、気持ちは分かるよ。
「……アリシュタ、行こう。ここは五月蝿い」
「ですね……折角、マリアお姉様も気持ち良さそうに眠っていますし」
マリアお姉様は、王宮に来る前から眠り続けている。
寝具に釣られて参加はしたが、交友を築く気は更々無いようだ。
他人に、全く興味がない。
けれど、どうしようもなく人を惹き付ける――
「待て、俺はまだマリアと――」
王子もきっとそんなお姉様に、魅入られて囚われた1人だ。
気に入らないけど、僕やお兄様と同じ匂いがする。
「ルヴィーア様! そんな礼儀知らずの娘何て放っておいて、婚約者である私をエスコートしてください!」
ケバい女の声が、ホールに響いた。
この女は、頭が悪いのかな?
侯爵令嬢如きが、公爵令嬢のマリアお姉様を面と向かって侮辱するなんて……余っ程、死にたいようだね?
僕が内から沸々と怒りを滾らせていると、お兄様も同様にケバい女に殺意を滲ませていた。
「は? 何を言っているんだ? 僕には既にマリアという婚約者がいるんだ。お前などを娶る訳がないだろう? 冗談も大概にしろ」
「そんなっ! 私の方が将来王妃に相応しいですわ! お父様だって、私が次の王妃だって!」
王子のゴミを見るような目にもめげずに、なおもケバい女は追い縋った。
……確かに、マリアお姉様の性格を考えたらそうかもね。
とてもじゃないが、マリアお姉様は激務である王妃には向かない。
でもさ?
「それは、お前の父の早とちりというものだろう。はっきり言っておくが、俺がお前を選ぶ未来はない。今回の無礼は見逃してやるから、さっさと俺達の前から失せるといい」
王子は情け容赦なくそう言い残すと、再びマリアお姉様に視線を固定した。
「……何で、何で何でっ!!? そんなっ、そんなっ薄気味悪い子なんかにこの私がっ! 消え失せなさいよ! そこは私の場所よっ!」
ケバい女は叫んだ。
怒りに歪んだその顔は、最高に醜い。
感情的で、知性も品位の欠片もない。
お前の何処が王妃に相応しいっていうんだろうね?
精々娼婦がお似合いだろう?
お前なんかと、マリアお姉様を比べるまでもない。
マリアお姉様の方が、ずっとずっと尊い存在だ。
《む……五月蝿いぞ》
ケバい女の耳障りな声が眠りを妨げたのか、マリアお姉様が薄っすらと瞼を開けた。
白い睫毛で縁取られたアメジストのような深い紫が、周囲を魅了する。
「この泥棒猫っ! 何を寝ているのかしら!!? 公爵家のとんだ恥さらしね!」
《……》
女は怒りが収まらないのか、怒鳴る怒鳴る。
周囲は侯爵令嬢の大声や罵詈雑言の方に、すっかり眉を顰めている。
そんなことにも気付かない馬鹿な女が、マリアお姉様の眠りを邪魔するなんて……
何て身の程知らずなんだろうか?
《うざぃ、寝る》
しかしそんな五月蝿い中でもマリアお姉様は、侯爵令嬢に一瞬視線を向けるだけですぐに興味をなくし、防音、防臭の結界を魔法で張っていた。
「私を愚弄してますの!? っ!! このっ!!!」
自分が相手にされていない事に気づいたケバい女が、近くにあった食器をマリアお姉様に投げつけた。
ヤンデレを常識で考えてはいけません……頭のネジが二、三本抜けてますから。




