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モブだって人生は激流 (中編)

報告すべき内容に気を重くしていたら、直後にはトンデモナイ事実を聞かされて?!

 さて、私の思考が再起動をほぼ果たしたとき、王や王妃、レーヴも復活したようです。

けど、唖然が同情に、呆然が憐れみに変わってるようで……馴染みの有る嫌な予感が押し寄せてきます。


「フィーリアは、また何かやらかしたか」

「また、フィーの尻拭しりぬぐい?」


 王とレーヴの言葉から、フィーについて私が報告に来たことを察しているのがわかります。

しかも、王と王妃は予感でも有ったかのようです。

そして、彼らの表情には『いつもながら』という労わり以外のものも含んでいるのは確かで、嫌な予感が急速にふくらんでいきます。

 けれど、『まずは報告を』との言葉に事情を説明します。

フィーは『異世界人と称する男性と駆け落ちしたらしい』と……。


「決まりだな。」

「逆に何とかなりそうね。」

「(王たちよ、)他人事だと思って……。 フィーなら(そんなことも)有りか。」


 なんか、3人とも微妙に安堵したような様子で頷いてますが、私には訳がわかりませんし、嫌な予感はふくらむ一方です。

そこに更に爆弾が落とされるとは、さすがに思わなかったんですけどね。



「レーギユネスと結婚して王太子妃となれ。」


 命令された内容をすぐには理解できず、再び思考停止。

でも、衝撃が強すぎたせいか今回は先程より早く再起動したものの、思わず場所も立場も忘れて叫びました。


「レーヴと? 結婚? 誰が? 王太子妃? ……そして、レーヴ、なに黙ってるのよ?!」

「レーギユネスとアーシアが、結婚して王太子と王太子妃になれ。」

「やっぱりティーヴもフィーと同類ってことだよ。」

「え・・・?!」


 再度命令する王は冷静で、私の叫びへの答えを兼ねて落ち着いた声。 王妃は静かに微笑むのみ。

 レーヴは割り切った様子で大きな溜息ためいきとともに話す。

けど、命令の理由がわからないんですけど?

というか、レーヴの言葉は同意せざるをえないものだけど、何の説明にもなってないし!




   ********************


 そして、当事者だからと明かされた事情は、やはりトンデモナイ代物しろものでした。



 この国では近々立太子(王太子就任)の儀式が予定されていた。

それは立太子予定の王子の結婚が条件なので、同時に結婚式・立太子妃式も行われる。

さらには、王宮神殿の巫女も代替わりすることになるため、占いによる次期巫女の選出が事前に行われる。


 まず、この巫女の選出で問題発生。

通常は、たとえ遠くとも王家の血をひく者が選ばれるのだけど、どういうわけか今回は異世界から召喚されて来たらしい。

召喚術どころか魔法さえ無いこの世界では起こりえないはずの事態。

この世界の中での召喚さえ行う方法は無く、今回のも占術による『選出』(該当者の名前が分かる)でしかなかったわけで、何がどうしてこうなったのか誰にも分からなかった。

さらには、その召喚に巻き込まれて被召喚者ユリアナの兄カイルまで来ていたから、さらに混乱は大きくなる。

 とりあえず、異世界からの客人として別室でもてなしつつ説明。

選出の手順も呪文も間違ってなかったからと改めて選出したら今度は普通に子爵令嬢が選ばれた。

それを聞いて、早くも立ち直っていたユリアナとカイルは『じゃぁ、自由に生きる』と後見人の貴族の紹介だけ依頼して退城していった。


 次に起きたのは、ユリアナたちの退城にくっ付いての王子の出奔しゅっぽん

周りが呆れるほど王子とユリアナは意気投合していたようで『駆け落ちだ』とささやかれたけど、即座に王が箝口令かんこうれいで押さえた。

立太子予定で、しかも唯一の王の子供、当然だろう。


 で、追い打ちを掛けたのがフィーの駆け落ち。

フィーは呼び出しに渋々応じて王宮に着いたところで王子たちに遭遇、自分が乗って来た馬車の御者に伝言を託して王子たちに同行して行ったらしい。

王子とフィーは幼馴染以上ではなかったからお互いに結婚を嫌がってたし、伝言には『異世界人』とある。

つまり、フィーの駆け落ち相手はほぼ確実にカイル。

 連絡は即座に王と公爵(フィーの父親)に届き……。



 ということで、王たちは状況を察し、今後の計画を立て直した。

 王子は性格的に絶対戻って来ないし1人でも生きていける。

王子が戻らないとなると、次期王太子は最も血の近いレーヴになる。

もともと、王に向かない性格の王子のお目付け役を兼ねて、本来なら側近になるはずのところを王子補佐になって張り付いていたので、レーヴの知識も経験も王子と同等。

いや、真面目な分だけレーヴの方が上かもしれない。

性格にいたっては、レーヴの方が完全に適任だし……。

 同様にフィーも戻ってくる可能性は限りなくゼロに近く、のたれ死ぬ心配も無い。

そこで、次期王太子に必要不可欠な妃として私が選ばれた。

実は私も、王太子妃の最有力候補の上に公爵令嬢という身分ゆえに遠慮なくいさめることのできる人がほとんど居ないフィーに対して唯一真っ向から意見できる同年代の貴族令嬢として、フィーと同等の勉強や経験をさせられていた。

そして、フィーは王子と同じくらい王太子妃に向かない性格で……。

 で、先程の命令になり、当然、関係者(ソレス公爵家・ディアナ公爵家など)には打診・了承済み、よって通告のため本人たちのみ呼び出して現在に至る。



 ちなみに、ここで誰も王子や公爵令嬢フィーの心配をしないのは当然。

二人ともすごく優秀で、特に剣術は護身の域を超え、体力は熟練冒険者並み、何よりも退屈を嫌う、似た者同士の『同類』だと社交界では衆知の事実ですから。

そんな、身分を捨てても生きていける規格外な王族・令嬢だから、現在の追跡は無事に落ち着くのを確認するのが目的……って、周囲の諦めがひしひしと伝わりますね。


 ついでに言うなら、レーヴも優秀。

王立学園での学年トップは、1歳上のレーヴの年代は彼が、王子と私の年代は王子が1位で私が2位、1つ下のフィーの年代では彼女が、それぞれ1位を独占したまま卒業しています。

そして、レーヴは次期王の側近と目され将来の宰相候補でもあった……けど、実際は王子より頭脳派で落ち着いてるから王子補佐。

本人は『子守か目付け役』と苦笑していましたけどね。



 とにかく、事情と経緯と命令の理由は分かりました。

『私が』『1人で』呼び出され、王子もフィーも居なくて、レーヴが居る理由も……。




  ********************


 ハッキリ言って、混乱しました。


 だって、誰にも話してませんでしたけど、ここはファンタジー風小説そっくりの世界なんです。

主要人物も彼らの立場も小説そっくりです。

 小説では、王子と巫女が恋に落ち、王子の婚約者候補という立場から解放されてハメを外す公爵令嬢フィーを幼馴染の公爵子息レーヴが押さえてるうちに婚約、ハッピーエンド……なんです。

ご都合主義? ライトノベルと言われるお気楽系の小説ですから。

 王子には『王家の血を薄めるつもりか』と、レーヴ達には『王家の血が濃くなり過ぎる』と反対があったり、代わりの巫女がなかなか選ばれず(見つからず)神殿が混乱してる中に『私でも良いよね』と子爵令嬢が押し掛けたり……。

フィーやレーヴを狙う人々の起こすトラブルも有って、と定番の騒動がてんこ盛りのはずだったんです。

 異世界からの客人2人も私も、影も形も出てきません。


 だから、モブの私は傍観者として見て楽しむだけと、むしろ楽しみにしてたのに……。

予想どころか想像さえしなかった事態と、その斜め上を行く展開ばかりです。

侯爵令嬢として政略結婚することになろうとも、人生は穏やかに過ぎていくと信じてました。

多少の問題はなんとか出来ると思ってました。

トンデモナイ王子と従妹が居ようと、ここまで引っ掻かきまわされるとは考えもしませんでした。

まだまだ甘かったようです。

そして、甘かったといえば、『ここは現実』という認識もまだまだ甘かったのでしょう。


 近い関係者にヒーローもヒロインも居なかったんじゃないのかって?

私にとって、ヒーローの王子は同級生で従妹の婚約者候補、ヒロインの巫女(伯爵令嬢)は社交界で挨拶する程度の知り合い、つまり『近い』わけではないし?

フィーは年下の手のかかる従妹で後輩、レーヴは先輩で王子の関係者、それだけなんだから話に自分が関わることはない……と思ってたんですけど、ね。



 もう、割り切って開き直って居直って……するしかない気がします。 

 無理にでも前向きに考えないと、キャパオーバーで現実逃避して引き籠こもり、家族等を巻き込んで(変な)悪役令嬢になりそうです。

 レーヴ相手なら、色々と交渉の余地は有るでしょう。

彼を言いくるめたりは無理とわかってますけど……。

不幸をかこって泣き暮らすことにはならないと信じられます。

そうと決まれば、交渉内容を考えておかなくては……。

いざとなったら伯母(母の姉=レーヴの母)に泣きついて協力してもらいましょう。

とはいえ、彼には言いたいことが山ほど有るので、それらを全てぶつけてから、ですね。

もとの短編の『承』『転』の部分という感じ。 設定とか少し加筆。

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