モブだって人生は激流 (前編)
恋愛小説の世界に転生したと気付いたけど、モブだからと気楽にいたら・・・。
突然ですけど、『モブ』って知ってます? 小説やゲームに出てくる『その他大勢』です。
『脇役』でさえなく、名前や設定が無いのも普通という、ストーリーへの影響力皆無の存在です。
そして、ココは、とあるファンタジー風恋愛小説にそっくりの世界です。
魔法もファンタジー生物も一切無いので『ファンタジー風』で、この世界もそうです。
そしてそして、私は原作(?)ではモブです。 名前や設定どころか存在さえ出てきません。
完全なモブなんです、モブとしては完璧な存在と言えるほどの……。
で、それをわかってる私はいわゆる『転生者』なんでしょうね、たぶん。
そんな私は、侯爵令嬢という立場ゆえの柵などは有るものの、私らしく暮らしてます。 だって、モブならば、主役たちと違って平穏な人生が期待できますから!
私は波乱万丈な人生なんて望んでないんです。
原作(?)で展開が予想できるからこそ、モブでよかったとさえ思ってます。
だから普通に暮らしてます。
私と親しい人たちの中にはヒロインもヒーローも居ないんですから、たとえ登場人物の1人の従妹がトラブルメーカーだろうとも、名前さえ出てこなかった私が今まで以上の苦難に悩まされることは無いと信じて……。
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普通に暮らしてた私『アーシア』ですけど、現在、思考も動作も止まってます。
いえ、今はとりあえず思考だけは再開してます。
再開とはいっても通常運転には程遠く、外部の動きに俊敏に反応できる余裕なんて今でも有りませんけれど……。
でも、つい先ほどまでは完全に心身ともに固まってましたから、一部運転再開ってところでしょうか。
まずは、現状把握のために状況を確認。
ここは王宮、それも謁見の間です。
そして私は侯爵令嬢です。 貴族の娘なので許可や必要が有れば王宮に出入り出来ます。
呼び出されれば謁見の間に出向くことも有り得ます。 ただし、ソレは呼び出された場合のみ。
今、そんな場所に居るわけで、つまり……呼び出された?!
あ、気を張ってないと再度思考停止しそうです。
で、目の前には王と王妃が居ます。 心の中なので敬称・敬語は省略します。
王と王妃と私と……あ、もう1人居るのに気付きました。 あれ? 従兄です。
レーヴ(レーギユネス=従兄)は、ソレス公爵(王弟)の次男、つまり貴族の令息ですから、王宮に居ても不思議は有りません。
けれど、公爵もその後継者(長男)も居ないのに、レーヴだけが居るのは何故でしょう?
たとえレーヴの身分でも、現当主でも後継者でもない者を1人で王宮に、それも謁見の間に呼び出すことは『普通は』有りません。
そこで、もう1つ、気付きました。 ここには、居るべき人が居ないんです。 それは王の唯一の子供であるティーバネス王子です。
レーヴは彼の学友でもあり将来の側近なので、レーヴだけが居るのは王子絡みだと思ったんです。
けど、その王子が居ません、何か別件の用でも有ったんでしょうか?
そういえば、王と王妃は唖然と苦笑の混ざった微妙な表情を、レーヴは呆然と疑惑の混ざった複雑な表情をしています。 どうしたんでしょう?
ここで、ふと、感じていた違和感を思い出しました。
……私は何故、1人でココに居るんでしょう?
実は、ホントは、呼び出されたのは私ではなく私の従妹なんです。
フィー(フィーリア=従妹)はディアナ公爵家の令嬢で、王子の婚約者の第1候補と言われてます。
だからティーバネス王子絡みの要件と予想しレーヴの存在で確信したはずが、フィーはともかくとして当のティーバネス王子まで不在なんて……。
それに、来ることのできないフィー本人に代わって『事情説明』しなくてはならないことが有ったとはいっても、それは『普通は』彼女の父親であるディアナ公爵の役割です。
仮に、彼女のお目付け役みたいな立場の私が説明するとしても、『普通は』侯爵である父も同行します。 それなのに、指示されて私は1人でココに居る……やはり『普通じゃない』と感じます。
王たちの表情から何かが起こったのはわかりますが、何事でしょう?
もとの短編のプロローグと『起』の部分という感じ。 加筆修正は少なめ。