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プロローグ4

ご覧頂ありがとうございます。

 エマさんと別れた後色々と今僕が居るこの村、ハロイの状況を整理してみる。

 隣の領主に攻められ建物とかが壊滅した土地で、元の領主の支配権は消滅し村人を守り抜いた神様が、領主の代わりに治める地となり、只今変革中って所だろうか? だからどうしたと言われてしまえばそれまでの事だけど、例え夢とは言え僕って絶賛そこに居るから他人事じゃ済まないんだよね。

 まあ目が覚めれば新しく入って来る情報で夢の内容なんて、直ぐに忘れちゃうんだろうけど……。


「つまり、お腹が空いたからって、財布を持っていても日本円が通用する筈も無いって事であり、更に言えば建物なんてほぼ残ってないから、店だって無い……夢の中なのにお腹が減るのは、昨日夕飯も食べずに寝ちゃったからだな」


 一人になって状況を整理していたけど、それで物事が解決する訳でも無く、一応下手にうろうろと動くよりは、スマホのアンテナの届く範囲を正確に測ろうと思い、一度出た中庭から来た道を戻って神殿内の本殿に在る神像近くへ移動する。

 確かこの女性の像の上辺りが、一番電波届いていた筈だよね。

 旅行用トランクじゃ足場するには不安定だし、他に丁度いい台でも在れば脚が攣りそうになることも無いのに……。

 しかし、夢の中でもスマホを弄ろうとするって、僕も大分依存度が高いよな。


「よっ! こいっ! せっ! あ、何か届いた!」


 ピロン♪ とメール受信の音が鳴って内容を確認してみると、午前中に頼んでいたソーラー充電器がもうじき届く筈……ってちょっと待って? これって夢じゃなかったの!? いつから夢と現実がフュージョンしていたの!? そんな境目触った覚えなんて全然ないよ!

 絶賛混乱中で暫く固まっているとリーンと、つい最近聞いた覚えのある音色が耳に届いた途端像の上の空間がニュッと穴が開き、『A』でお馴染の通販サイトのロゴの入った箱が落ちて来る。

 そのまま反射的にポスッと慌ててキャッチ! そのまま箱を受け取った後何かに急かされる様に、無心での縁をペリペリ開けてもどかしくダンボールを破れば、注文していた筈の『太陽光充電八十ワットソーラーパネル』が入っていたのだった。


「……タイミング的には、旅行に持って行こうと思っていたから最適な筈だけど、何処だか知らない場所で受け取る破目は、少し納得いかないよ!」


 此処で受け取ると言う事は、旅行前に頼んだ物は全部今日届く予定になっていたから、ここに降って来るの!? これじゃあ気になって全然外に出られやしないよ!!

 結局椅子さえないこの礼拝堂で、商品の届く時間を確認し、昼間までは動きたくとも動けない事を悟って諦めの境地に至り全てが届くまで、さっき届いた品の説明書を読み耽る。

 本当なら家で一日ゴロゴロしながら、届いた商品のチェックをして、持ち物を完璧にする予定だったのに……ツアーのキャンセルは……あはは。

 折角楽しみにしていたのに! 今からじゃ半額きった料金しか戻ってこないよ!!


 前回の旅行先の食事の味付けに不満を感じ、今回は『旅行用調味料セット』を頼んでいた。取りあえず醤油とマヨネーズさえ在れば大抵の物は食べられる。それがこうして手元に届いた事で、今最も重要な案件に気が付いて思わず口にする。


「あれ? これが仮に夢でないとすれば……僕って、どうやって日本に戻るの?」


 今居る場所と時間、それに起きている現象が夢なのか現実なのか分からなくなり、届いた荷物を整理する事で深く考えない様に自分を誤魔化す。

 出来ればこんな、訳の分からない内容の夢から覚めて欲しいと願いながら……。

 気付けば随分と時間が経っていて、時計の針は十二時を少し回っていた。


「あら、使徒さ……ユエさん。まだ外を見に行ってなかっ……あの、そこに在る物は何ですか? さっき掃除を終えた時には無かった筈ですよね?」


「ええっと、これは~そう! ちょっと必要な物が在ったんで、呼び出したと言うか……何て言ったらいいのか、送って貰った?」


 あははと誤魔化し笑いをしながら頬を掻くと、エマさんは感心したように床に置いてあるダンボールや品物を見て、驚きながらも目を輝かせていた。


「ユエさんは、エキドナ様に会う前から、既に奇跡を行えるのですね! やっぱりユエさんは使徒様だったんだ。私も捧げられた時に、位階は低かったけれど何とか願いを一つだけ奇跡にできたんですよ」


 願いを一つ奇跡にできた? 別に僕はそんな事出来やしない。単に注文した品が、何故か像の上から落ちて……もしかして、それが僕の願いで奇跡だって言うの? そんな事、僕は願った覚えなんて無い筈なのに。


「私は捧げられた年齢も資質、それに位階も低かった為に、大した奇跡は起こせませんが、エキドナ様はとても尊い奇跡だって、凄く褒めて下さいました」


 エマさんはそう言って、胸の前で両手を組みとても誇らしそうに微笑んでいて、その姿からは子供では無く、大人の女性のような雰囲気を感じられる。

 ……はっきり言って、年を取っただけの僕なんかよりも余程大人びて見えた。


「そうなんだ、エマさんは凄いんだね」


「それは違います! 凄いのはエキドナ様であって、私では無いんですよ? この奇跡の行使を『認めて』下さったのもエキドナ様で、偶々奇跡の発現内容が『争わない事』だっただけです」


 『争わない事』言葉にするととても簡単だが、それが奇跡と呼ばれる意味から考えてどのようなものなのかイマイチ想像できなくて、エマさんへ尋ねる。


「えっと、『争わない事』って? 例えば喧嘩を止めちゃうとか?」


「奇跡では、個人の感情までは操る事が出来ませんので、本当にただ人を肉体的に傷つける事が出来なくなるだけで、……根本の解決には繋がらないんです」


 そう言ってエマさんは微笑みから一転し、少しだけ悲しそうな表情へと変わってしまう。……いやいやいや、何それ!? 十分凄い奇跡だよ!! 単純だけど人を傷つけられない奇跡って、使い方次第で色々出来ちゃうからね。

 驚くと同時に、僕はこの小さな少女であるエマさんを、尊敬の眼差しで見る。


「エキドナさんが、エマさんを褒めるのも分かる気がするな。僕と比べるのも烏滸がましいけど、まさに蟻と象くらい差があるよ!」


「蟻と、ゾウ? ですか? 蟻は分かりますけど、ゾウと言うのは何でしょう? この辺りに居る蟻はかなり大きいですし、ユエさんの仰るゾウは、もしかするととても小さな生き物なのですか? ユエさんは博識な方なんですね……。あ、それよりも、ユエさんお腹空いていませんか? もう直ぐ力仕事をしていた人達に食事を配るので、良ければと思って探していたんですよ」


 お腹が空いていたから、凄く嬉しい申し出だけど、蟻が大きくて象を知らない?? と言うか蟻が大きいって認識は、いったい何処から来たの!? ちょっと処じゃ無く怖いよ! 大き過ぎる虫なんて気持ち悪いし……。


「う、うん。博識かどうかは置いといて、ご飯は素直に嬉しいかな。僕にも分けて貰えるなら、とてもありがたいよ」


「ユエさんにはお掃除も手伝って貰いましたし、遠慮なさらずですよ」


 届いた荷物を纏める間少し待って貰うと、エマさんの後に続いて神殿から出た所で、行き成り石礫が飛んできて吃驚し顔の前に両手を翳す。

 咄嗟に避けようとしたけど、狙われたのは僕では無くてエマさんだった。

 最初の何個かがカツっと音を立てて当たった後、次に命中する筈の石は見えない何かに弾かれ、エマさんにぶつかる前に地面へ転がる。

 今のが先程聞いた、『争わない事』と言った奇跡の発現だろうか? そんな事を瞬時に考えたが、石礫の飛んで来た方向から罵声が続く。


「何でお前が生きていて、母ちゃんと父ちゃんは死んだんだよ! この化物!」


「そうだそうだ! 何時まで経っても年も取らないし、剣で切られても槍で突かれても治っちまう化物め! お前が皆の代わりに死ねばよかったんだ!」


「このっ! お前らエマさんになんて事を! 悪ガキ共逃げんな! その顔覚えたからな!」


 一拍遅れたけど、エマさんの前に出て石を投げて来たガキ共を睨みつけると、更に石を投げながら走って逃げて行く。しゃがみ込んだエマさんに近寄り、石の当たったせいか、額が切れて血が流れていたので、慌ててポケットからハンカチを取り出して手当てをする。

 流石に応急手当の道具は手元やポケットに無く、今あるのは簡易的な絆創膏だけだが、無いよりはマシだろうと額の傷を押さえた後、間を置いて張り付ける。

 そう言った薬品は、神像の傍の旅行用トランクに仕舞ったままだからだ。


「ユエさん、別に大丈夫です。このくらいその内直ぐ治りますから、あまりあの子達を叱らないであげて下さい。あの子達は先日の攻め込みのせいで、両親を亡くした子達なんです」


 エマさんは、俺のハンカチを持った手を掴み懇願してくる。

 その遣る瀬無い眼差しを向けられ、胸に湧いた怒りを奥歯を噛んで押し留めた。

 僕は深呼吸をした後喉から絞り出すように、掠れた声で言う。


「……だからって、やって良い事と悪い事が在るだろう?」


「いいんです……。あの子達の両親の内、私の目の前で切り殺された方も居ます。残念ですけど、助けられなかったのも事実ですから」


 視線を地面に落とし、力なくそうエマさんは呟く。

 でもあの子達も誰かが教えてやらないと、何時までもあのままだ。エマさんだけが困るんじゃないよ? あの子達自身が困る事になるんだ。本当なら、それを教える筈の両親が居なけりゃ猶更だよ……だけど、思った事の何一つ言えなかった。

 当事者でも無い僕が言っても説得力は無いし、結局ただの自己満足に過ぎないと思ってしまったから。


「それに、ユエさん。私が幾つに見えます?」


「……急にどうしたの? えっと、間違ったら悪いけど、十二、三歳くらい? かな?」


「ユエさん、私ね。年を取らなくなって、もう二十年は過ぎてるの。私の両親も既にお墓の中に入っているし、今の村長を務めているのも私の弟だから、子供たちに化物なんて言われても……仕方が無いんですよ」


 けど、やっぱり面と向かって言われるのは辛いですって、目を瞑って笑うエマさんを僕は直視できなかった。せめて人並みに年を取る事が出来れば、この子はこんな辛い思いをしなくて良かったんじゃないだろうか? 何もこの子にしてあげる事が出来ない自分の不甲斐無さに、とても苛立ちを覚えてしまう。


「ユエさん、この綺麗な布汚れちゃったから、洗って後でお返しします。お腹が空いていたのに、変な事に巻き込んでごめんなさい。直ぐ案内しますね」


「別にハンカチは気にしなくていいよ。エマさん、ありがとう。はは、僕、本当は凄くお腹が空いていたからとっても嬉しいよ!」


 ギュッと拳を握りしめた後、努めて明るくおちゃらけた風に話す。

 この雰囲気を今直ぐ払拭したくて、何よりこの子に笑って欲しいと思ってバカを演じようとした。そんな想いに気付いたのか、エマさんも沢山食べて下さいねと、話に乗って言ってくれたけど、これじゃあどっちが大人だか……本当に僕は情けないな。

 せめて夢から覚めるか、ここに居る間は何かエマさんに手伝える事が無いか、探してみようと思った。



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