やさしい死神 セカンド
影山美月は少しおかしなしゃべり方をするお役所勤めの女の子である、
だがその裏の顔は「死神」と畏れられる凄腕のスパイ兼暗殺者であった。
今日も彼女は任務に向かう。
魔法で式神召還したら魔法少女がやってきたのスピンオフ作品
思いついたので、又書いてしまいました。
残酷な描写があります。
「任務完了、撤収しますぅ。」
そうつぶやいてその場を離れる、今日は荒事(暗殺)も無くいい日だったと安堵する美月であった。
幾ら一族が先祖代々やっている家業だとはいえ、
殺しを行った日はやはり心がささくれるのを感じるのだ。
報告を行って帰途に着く彼女の足取りは軽かった。
そう、その場所に来るまでは。
「きゃあああああ」
絹を裂くような悲鳴が聞こえたと思ったら血を流した若い女性が大通りに繋がる比較的細い道から転がるようにして出てきた。
道行く人たちがぎょっとしたように見て動きが止まる。
そしてその後を追って来た者を見てざわめいたり悲鳴を上げたりした。
それは血塗られた刃物を持った若い男。
その男は逃げる女性にその刃物を振り下ろそうとして、急に動きを止めた。
狂気に満ちた瞳から力が失われその場に崩れるようにして倒れる。
それを見下ろすのは氷点下のような冷たい瞳で見る美月であった。
そう、誰にも見えない死角より、影を使って男の意識を奪ったのである。
「なんなのかねぇ?」
そう言って首を振ると、怪我をした女性を助けに向うのであった。
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翌日、出勤した美月に室長が封筒を渡す。
「赤ですかぁ?」
「昨日からみの奴だ・・・」
「はぁ。」
封筒の内容を見てまたため息をつく。
赤封筒の意味は調査の上で黒とされた場合処分する事になる。
さらに憂鬱にさせるのは別の組織との共同調査ということであった。
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「そんなに邪険にしないでくれよぉー」
「邪険にしてないしぃー」
「その態度が邪険っていうんですよー、仮にも婚約者に対して。」
「だれが婚約者なんだってぇ?」
さすがに美月もこの発言には切れかけである。
「いやあ、両親公認じゃあないですかやだー」
「親が勝手に盛り上がってるだけだしぃ。」
「じゃあ僕のこと嫌いなんですか?」
「うん。」
そう返されがっくりとうなだれるのは卜部正美、神祇院の局員である。
神祇院も美月たちの居る調査室と同じ古来からの朝廷の機関であるが、
現在は国土交通省の一部局扱いである。
もっとも、公安調査庁も一枚かんでいる組織で、
その存在自体は多くの国民からは秘匿されているのは調査室と同じである。
「あんたが出てきたと言う事は、これは陰陽道や呪術の類って事なのねぇ?」
めんどくさいのでいきなり話題を変える美月であった。
「え?ここでいきなりの方向転換?・・・ はぁ、そうだよ、あの暴れていた男は何かに操られていたのさ。」
「催眠暗示とか薬物とかでなくぅ?」
「そう、どれでもないので僕たちが駆りだされ今度は君のところに話が行ったのさ。」
「うーーーーー」
「そんな顔するなよ、ほら、ここが目的地だよ。」
二人の前には厳重な警備が施してあるようなビルが建っていた。
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「第一段階は成功だな。」
和服姿の男が狩衣を着た男に話しかける。
「そうですな、問題はもう少しいい素材が必要だと言う事です、{本番}には是非。」
「うむ、やはり素人ではあれが精一杯か、少なくとも訓練を受けた人物が必要だな。」
「園遊会に呼ばれる人物の中でならスポーツ選手とかでしょうな。」
「そうだな、人選は進めておく。」
そう言って和服姿の男は出て行った。
残った狩衣姿の男はしばらく考え事をしていたかのようだったが、
不意に声を何も無い空間に向けて放った。
「隠れてないで出てきたらどうですか?」
すると、何も無いはずの空間、正確には窓から入る光に窓際から伸びる影が見えてたのだが、
そこから人影が現れた。
「あるぇー?何でわかったのかなぁ?」
「まあ・・・一応陰陽の徒ですからな。」
男は微笑みながらしゃべったが、美月には剣呑な雰囲気しか感じなかった。
「では、御同業のよしみで洗いざらい話して貰いましょうかね。」
正美が懐から呪符を出して構える。
「ふふ、美しいお嬢さん方が相手ならしゃべっちゃおうかなと思いますね。」
軽口を叩きながら、決してそのつもりは無いようである。
「お嬢様方っていうなぁ~」
美月が珍しく声を荒げる。
「僕はかまわないけどねぇ。」
そう言って頬を赤らめる彼に頭痛を覚えた美月であったが、
任務が優先と思い直し、影を飛ばして拘束しようとする。
だが。
「その程度ですかあ?」
相手も相当の術者らしく、影をかわしてしまう。
「じゃあ、これならどうかなー」
正美が呪符を飛ばすと、呪符は鳥の形をした炎に変わり男を襲う、
だが男が懐から出したものを投げると、炎はその物体に当たり、
消えてしまった。
「な!」
「ははは、貴方達では私を捉えるのは無理なようですね。」
楽しそうに話す男。
「そうかねぇ?」
そう美月がつぶやくと、今度は美月の影から鋭い影の槍が複数飛び出し、
男を壁に磔にした。
「やった。」
正美が言うがそれは言ってはいけない言葉だったようだ。
美月はそのフラグが立っているのを感じたが、
それを指摘する前に向こうの方から言葉が掛かった。
「なかなかやりますね、前言撤回です、忙しいので今回はここまでです、
とりあえず名乗りを上げておきましょう、
私の名前は芦屋道満と呼んでください、
では又会えるかどうかは判りませんが失礼しますね。」
そういうと男の顔から人の表情が消え能面のように変化した。
さらに磔にした体がぺらぺらになり縮んで最後にははらりと床に落ちた。
「形代かぁ・・・」
それを拾い上げた美月がつぶやく、どうやら本人は出てきていなかったようだ。
「依頼人に会うのに身代わりを使うなんて用心深い奴だね。」
そういいながら頬を赤らめによによと笑いが張り付いている顔を見ると、
しきりに殴りつけたい衝動に駆られる美月であった。
「だけど、芦屋道満なんて有名人の騙りかと思うけど術は直系の流れを汲むものだし、
同じ流派なんだろうね。」
「ああ、うんそうだねぇ。」
表情に反してまともな事を言うのであいまいな返事をしながらも、
少しはましになったのかと思っていると。
「でも美しいお嬢さん方って、判る人には判るんだねえ。」
台無しであった。
「この、女装趣味者がぁ!」
切れた美月が叫ぶと。
「ひどい!男の娘って呼んでよ。」
フリルのついたメイド服っぽい衣装を身に纏った正美が身悶えする。
(こんな奴が婚約者なんていやだよぉ、誰かまともな人はいないのかねぇ。)
と、内心思っていたら。
「ひどい!僕は至ってノーマルだよお!」
どうやら、言葉に出していたらしい。
美月は心の底から、まともな彼氏が欲しいと思った。
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「ふむ、依頼人は元華族出身者で、園遊会に刺客を送り込んで、
尊き御方を害そうとしたのだな。」
室長が報告書に目を通しながら質問する。
「そうでぇす。」
「混乱を起こして、皇統問題に誘導して、皇族や華族の復活を狙っていたと。」
「そうでぇす。」
「実行者は芦屋道満と名乗っている名で間違いあるまい、
あの名は代々の後継者が名乗る名前のようだ。」
「・・・」
「実行者はすでに逃亡、依頼人は目に付かないように処分。」
「その上で婚約者とデートも兼ねてとは、いささか贅沢だな。」
ほとんど事務的なことしか言わない室長にしてはえらく踏み込んだ発言だが、
それは悪戯に美月の精神を削るだけで終ったようだ。
「はぅぅぅぅ。」
あんな男の娘と幼馴染なんて黒歴史といってもいいだろうと彼女は机に突っ伏した。
できればもう係わり合いになりたくない・・・
そう願っても結果又合うことになるんだろうなと一人毒づく彼女であった。
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