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ハルカ、魔法少女になる。


 私とヒトミさんはギルドハウスを出ると、近くにある緑一杯の広場に来て、二人でベンチに座り込んだ。

 この世界に来てから私が始めて出会った同じ世界の人間だった。

 だけど、私と出会う以前に、この人は私が元いた世界で受けたことより酷い仕打ちを受けている。

 ついつい彼女を痛々しぃ目で見てしまうことに耐えられぬ罪悪感が湧き上がる。

 彼女は広場で数分空を見て、かなり落ち着いてきたようで、私に話しかけてくる。


「あの…えっと…お名前は何でしたでしょう…?」

「あ!そういえば名乗ってませんでしたよね。すいません。私は丹波遥です」

「遥さん…あなたはどうやってこの世界に…?」

「あー…えっと…」


 私はヒトミさんに自分がこの世界に来る前にしていたことを伝えた。

 いじめを受けていたこと、それが限界で自殺を測ったが、気づいたらこの世界に居たこと…。

 ヒトミさんは私の一言一言を噛み締めて、聞いてくれた。


「そうですか…それは…大変でしたね…」

「いえいえ、そんな…瞳さんの方がつらい目に遭ってこられたようですから…」

「……遥さんは、この世界でどう過ごすおつもりで?」


 言われて私は少し考える。

 と言っても、ランディさんについて行って元の世界に帰してもらう…という選択肢しか今はない。

 もしかしたら帰る方法が見つからず、この世界に永住することだってあるかもしれないけど。


 ――私は、元の世界に帰ってどうするつもりなんだろうか?


 そう思うと心に黒い感情が落ちてくる。

 この世界でお兄ちゃんによく似たランディさんと結ばれる道を選んだ方が私が満足するのではないか。

 性格も、声も、顔も、雰囲気もよく似ているランディさんと結ばれる道なら…。

 …いやいや、私はどうしたのだろうか。ネガティブになってはいけない。しっかりしないと。


「今はお兄ちゃ…ランディさんに付いて行って、元の世界に帰る方法を探すだけだよ」

「…帰る…方法、ですか…どこかにあるんですかね…その方法が」

「あると思いますよ? …根拠はないけど」

「希望…」


 私が笑ってみせると、瞳さんが何かをつぶやいた気がした。


「え?」

「希望が…あるのですね…」

「…うん!」


 私が力強く頷くと、瞳さんは押し黙ってしまった。

 彼女は絶望ばかりをこの世界で見せられ、希望なんて今まで見ることがなかったのだろう。

 できれば彼女にも希望を見せてあげたい。でもそれは彼女自身が決めることだ、無理強いはしない。

 そうだ。帰る方法がわかったのなら、彼女にも教えてあげよう。

 帰るかどうか別として…だけど。

 私と瞳さんがある程度打ち解けてきた時、瞳さんがベンチから腰を上げて私の前に出る。


「そろそろ魔法のことをお教えします…」

「あ、うん。よろしくお願いします」


 私もベンチから立ち上がり、立てかけていたスタッフスピアを手にとった。

 スタッフスピアはずっしりと重かったが、振り回せないほどの重さではない。逆の重いぐらいが調度良い。

 私をそれを持って、広場の少し安全な広いところに立った。

 瞳さんも私の正面ではなく、側面に回って、説明を始めた。


「まず、この世界の魔法はどうやら集中力を重視して発動できるようです…」

「集中…」

「はい。それで、自分の中で火をイメージして、それを手のひらの上に集中させてください…発火はそれだけです」

「…え?それだけ?」

「はい…でも、火の発現自体は概念でいけるので…こう、メラメラっとしたイメージを手のひらへ集中させてください」

「…メラメラを手のひらに…メラメラを手のひらに…!」


 瞳さんが自分の手のひらに発火魔法で火を作り出し、私に見せてくれる。

 頭の中で瞳さんの見せてくれた火をイメージし、それを掲げた手のひらに一生懸命集中させる。

 ぐぬぬぬぬぬ……!!!

 踏ん張って踏ん張って頭の血管が千切れそうになるほどそれを繰り返す。なるほど、難しい。

 イライラして、何かがふと爆発しそうになった時、手のひらからチリッと火の粉が出てきた。


「その調子です…!それをもっと強くお願いします…!」

「はい…!ぐぎぎぎぎぎ……!!!」


 およそ女性とは思えない声が私の口から漏れ出る。いや、今ちょっと出来たから本気になっただけよ?

 でも何十分と踏ん張ってみても、それ以上の火が起こらない。

 もしかして私は素質がないのかもしれない…。


 ふぅ、ちょっと疲れた…休憩休憩…                            ――ボッ!!


「……ボッ?」


 見ると、私の手のひらから瞳さんの出したのよりもかなり大きな火が起こっていた。

 火というか…この大きさではすでに炎なのだが。


「…何をしたのですか? 今、ちょっとため息を吐いた瞬間に火が起こったように見えたのですが…」

「いえ、ちょっと疲れたので気を抜いたら、こう…ライターみたいにシュボッと」

「…一応ですが、そんなに気張らずに火を…起こすイメージをしてみて…ください」

「わかりました」


 私は一度手のひらの上の炎をライターの容量で握りつぶすように消した。ココらへんは鍛冶屋の人の真似だ。

 そして私はもう一度、そこまで気を入れずにまるで息抜きかのように手のひらに火を作るイメージを起こす。

 ――シュボッ!

 …難なく成功した。しかもまた火ではなく炎というレベルの大きさの火炎だ。


「もしかしたら、踏ん張っていたお陰で…詰まっていたものが抜けたように出てこられた…のでしょうね」

「次はどうすればいいんですか?」


 発火をすることは出来たが、これでは遠くの敵を攻撃できない。


「その火を丸めて…ポイっ…でいいです。それで攻撃の手段として…十分らしい…です」

「はい、丸めて…あ、こんな感じかな? ぽいっと」


 炎を一点にまとめるイメージをすると炎は丸くなった。私はその火球をどこか適当に放おった。


「あ、芝生の上に投げたら…」


 ――案の定、芝の上に火球を投げたお陰で、芝の一部が少し焦げた。

 芝全体が燃えなかったのは、大惨事になる前に瞳さんが水の魔法で初期消火を行ってくれおかげだ。

 …気をつけねば、危うく放火犯としてリーシアさんに捕まるところだった。

 気を取り直して今度は水の魔法を教えてくれる。


 これもあまり気張らずにイメージしたらすぐできるようになった。

 逆に水を出した時に気張ったら何故か水が氷になって芝生が一部、凍った。

 この広場の一部が私の魔法によって景観がどんどん悪くなっていく…なんだかすごく申し訳ない。

 だが、逆に気張りながら水の魔法を出すことによって、氷結魔法の方が得意になった。

 私は氷結魔法が使えるようになったのだ!


「こうなったら何かかっこいい名前を付けたいなぁ」

「…魔法の名前…ですか?」


 調子に乗り始める私に、瞳さんは苦笑いしながらも返事を返してくれる。

 そうだなぁ、RPGにありがちの名前とか付けたい!とか思ってしまう。

 もちろん元の世界でお兄ちゃんにさせてもらったRPGゲームに出てきた名前の技名に…あ、そうだ。


「思いついたわ…《フロストⅠ》!」

「わぁ…かっこいいですねぇ…」


 そう言って私は私の一歩先の足元を氷結魔法を使って凍らせて、上に向けて突き刺す氷柱作り上げた。

 うーん…ビューティフォー。

 これは早くお兄ちゃ…ランディさんに見せてびっくりさせてやりたい。

 いつまでも背中に隠れる義妹だとは思わないで欲しいものだ。ふぉっふぉっふぉ。


「次はこれかな!《フレイムⅠ》!!」


 火球を手の中で作り出し、今度は芝生の無いところに投げつける。

 …あっ! しまった! 間違えて植木に投げつけちゃった!

 消さなきゃ消さなきゃ!水の魔法水の魔法!!


 ――そんなこんなで私は見事に魔法をマスターしたのだった。


 その後合流したランディさんが広場の様子を見て絶句したのは言うまでもないが。

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