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はじめてのぶき


 リーシアの合流があってから一日…俺達はとうとうディスタム王国の見えるところまで辿り着いた。


「お、もうディスタム王国が見えてきたな」

「ほんと!?」


 ハルカが馬車から身を乗り出して外を眺める。

 俺も窓の隙間から王国の特徴である街で一番高い塔にある《霊長の鐘》を見つめる。

 リーシアは俺が鐘を見ていたことに気付き、バグラー馬車の主人もそれに気づく。


「お嬢ちゃん。霊長の鐘はわかるかい?」

「あの、すっごく目立つ塔にある大きな鐘のことですよね?」

「そうだ。あの鐘はこの国の象徴でな…この都は元々は小さな村だったんだ。ある災害によって半壊したが、英雄って奴の活躍によって大成した王族国家なんだ」

「へぇ~…その英雄って?」

「古伝に名前は無いんだが、それを題材にした小説によれば、どうも魔剣を携えた俺ぐらいの青年らしい」

「そういえば、お兄ちゃん達はいくつなの?」

「俺は21歳だな…んでこっちのリーシアは19歳だ」


 リーシアが何やら年齢をばらされて少しムッとしているが、いいじゃないか。まだ俺よりは若い。

 ハルカはまた何か思い当たったようにびっくりした。


「お兄ちゃんと同い年なんだ…」

「あぁ、お前の実際の兄貴のほうね」


 どんどんとハルカの兄貴との共通点が増えていく。なんだ…俺は実は《渡り人》だったのか?

 こっちの世界に渡った時にひょんなことで記憶を失ってとか…。

 いやいや、両親は純正ディスタム人だし、現在他の国で元気に行商しているらしいし…違う、よな?


「何を悩んでいるんだランディ。歴史の授業はそこまでにしたらどうだ?」

「そうだな。そら、ハルカ。そろそろ門をくぐるぞ」

「う、うん…なんだか緊張するね。お兄ちゃん」

「そうだな」


 バグラー馬車は門を潜りこむ。潜った際にリーシアに二人の警備兵が敬礼をする。

 リーシアも馬に乗ったまま、敬礼を返した。


「おかえりなさいませ!部隊長殿!」

「お勤めご苦労。後ろに控えている馬車は私の友人たちが乗っている。通してやってくれ」

「「はっ!」」


 リーシアに指示され、二人の警備兵達は馬車に向けて敬礼。途中警備兵の一人がハルカを見て顔を赤く染めた。

 うむ、俺は警備兵の一目惚れの恋を応援するが…期待しないほうがいいような気がする。

 警備兵はハルカに声を掛けてきたが、ハルカはやんわりと「疲れているので…」と断ったのだった。

 哀れ、警備兵。君の前途は多難なようだ。


 そんなわけで俺達はディスタム王国の城下町に着いたわけだが…。

 まずリーシアが盗賊の親分を引き連れて、騎士団の交番に届けて、牢屋へと連行していった。


「それでは私はこれで、何か困ったことがあったら何でも言ってくれ」

「あぁ、お前も根を詰め過ぎないように頑張ってくれや」

「お世話になりました!」

「うむ、ではまたな」


 リーシアは風が如く颯爽と白馬を操って去って行った。

 俺とハルカはお互い顔を見合わせて、これからすることを相談しあう。


「とりあえずどこに行くの?」

「そうだな…とりあえず活動資金と拠点を得るためにギルドにでも入るか?」

「ギルド…?」

「騎士兵団とは違って特に決まり事が必要のない自警団みたいなもんだな」

「入ると、なにをすることができるの?」

「戦闘の知識や実技を教えてもらったり、魔物退治やらの依頼が入ってくるからそれの討伐とかに行ける」


 ギルドの内容をざっくりと説明すると、ハルカは少し戸惑った表情を見せた。


「戦闘…」

「闘うのが怖いのなら、それで構わない。だがこの世界は実際に殺し合いが当たり前のように起きてる。身を守るための術も実力も必要だ」

「…うん。すこし怖いけど、お兄ちゃん達に迷惑も掛けていられないからね。私も武器を取るよ」

「じゃあ、ギルドに行く前に武器屋に行くとするか。ここの武器屋には何があるかも気になる」

「うん!」


 ハルカは決意を固めたようで、力強く俺の後に付いて来る。

 武器屋までの道のりはそう遠くなく、城下町の中を数分探索していると、それらしき建物を見つけた。

 そして、武器屋の前まで行くと、何やら小さい帽子を被った魔人がひとしきり騒ぎ始めた。

 ハルカはその魔人の小人達を見て、「わぁ!可愛い!」っと反応を見せる。


「おう、お客さんだ」

「お客さんだお客さんだ!」

「親分!お客さんだよー!」


 小さい帽子を被った赤い鼻の魔人…こいつらは《ドワーフ》と呼ばれ、人間との生活に密接に関係していた魔人だ。

 どうやら俺達の目の前で騒ぎはしゃいでいるのはドワーフの子供達のようだ。

 っというと、この店の主人もドワーフなのだろうか?


「お客さんお客さん!とりあえず入ってこんね!」

「お、おう…」


 とりあえずドワーフ達を散らしながら俺達は店の中に入る。中は結構鉄の臭いが充満していた。

 俺達の目の前に現れたのは、意外にも人間の鍛冶師だった。


「あれ?人間…?」

「おうよ、ドワーフじゃあ魔術的な武器が作れねえけん!人間の人手が必要なんじゃち!」

「な、なんだその口調は…」

「うーん…日本語の九州訛りっぽいけど…」

「じゃあこの人も渡り人なのか…?」

「うんにゃ。おいげは普通にここの生まれじゃ」


 渡り人の両親が居たのか…それとも普通に口調がおかしいだけなのか判断がつかないな。

 あわよくばこの人から何か渡り人関連について知っていることがあれば聞き出すつもりだったんだが…。

 とりあえず武器の購入だ。ある程度は融通ができるので、この際値段は気にしない方向で行く。


「とりあえず武器を買いに来たんだ。ハルカ。お前はどんなふうに戦いたい?」

「そうだなぁ…お兄ちゃんのように近接して果敢に戦いたいし、邪魔をしないように遠くから援護もしたいし…」

「…そんな武器あるか? おっさん。この子の要望に答えられそうな武器はあるか?」

「そんなんわっせあるど?」

「どんなんだ?見せてくれ」

「あいよー」


 といって鍛冶師は奥の方に引っ込むと、数本の槍やら剣やらを持ってきてくれた。


「最近流行ってるのは魔法の杖と融合させた近接武器っていうのじゃっど」

「へぇ…確かにコレなら近接攻撃も、遠距離攻撃もそつなくこなせるな」

「じゃっど、けどやっぱり魔法の素質がいくらか必要になるし、魔法の使い方を知らんと発動は出来んど」

「ふーん…だってよ、どうするハルカ? 魔法は習得すれば援護もイケそうだってよ」

「ちょっと待ってお兄ちゃん。…魔法って?」

「「え?」」


 俺と鍛冶師の目が点になる。

 そうか、異世界には魔法の概念が無い世界だってありえるのか、これはうっかりしていた…。

 魔法は俺達アルトレリア人にとっては既に身近にあるもので、素質のあるやつなら幼児期から発火魔法が使えたり人だっている。

 魔法を使えば火だって水だって大気中の概念から作り出すことだって可能だ。

 俺は未だに魔法はあまり使わないのだが…。


「まず魔法の概念から説明しないとイケないか…?」

「その必要は無か。おいげが発火魔法使えるち、見せればわかるやもしれんど?」

「そうか。んじゃちょっと実践的に見せてやってくれ」

「え?ちょっと待ってよお兄ちゃん…魔法って…?」


 ――ボッ!


 ハルカが問いかけた時、鍛冶師掲げた手のひらから小さな火の玉が浮かび上がる。

 びっくりしながらハルカは一歩後ろに下がって、じっと火の玉を凝視していた。


「…と、こげな感じに身ん回りにある自然現象をば、体感的に想像、発現させるのが魔法ってやつだっど」

「他にも、水や木や土だって魔法でなんだかんだ操ることができる。そのためには素養が必要だけどな」

「えっと…お兄ちゃん」


 不安そうにハルカが俺を見つめる。

 ハルカの視線から察した俺は鍛冶師に発火魔法を止めるように言うと、鍛冶師は発火を止める。

 ちなみにこの発火魔法は、乾いた木の枝などに燃え移らせることだって当然できる。

 野宿にだって魔法師がいれば心強いものだ。


「どうだ?魔法についてはわかったか?」

「うん、なんとなくわかったよ…でも私に使えるかなぁ?」

「渡り人の記したという伝記には、魔法を使えるようになった人も居たようだぞ」


 リーシアが自分の知識自慢に、それを語ってドヤ顔かましてたのを思い出す。


「そうなんだ…それじゃあ頑張ってみる」


 ハルカが少しだけ気合を入れなおして、また武器を眺め始める。

 目の前にあるのは俺が使ったことがないような武器ばかり…剣は流石に使ったことはあるが。

 俺もまじまじと武器を眺める。…双剣、短剣、杖、槍、盾、鎌、大剣、

 数分くらいだろうか…ハルカが「うん!」と力強く頷いて、その武器を手にとった。


「それは…《スタッフスピア》か。それがいいのか?ハルカ」


 ハルカが手にとったのは、杖と槍が一体化した武器の《スタッフスピア》だった。

 ハルカの身長ほどありそうな長い柄に、スタッフの宝石が煌き、その先の先端に三叉の刃が付いていた。


「うん。槍だったらなんとなく力を使って振るう必要がなさそうだし、魔法を使うときにも楽そうだし」

「確かに、振り回すだけなら体全体を使って振り回す武器だし、女性には丁度いいかもな。んじゃコレくれ」

「まいどあり。あんたげなにすっとね?」

「俺?いや…特に無いぞ? この小手だって安物じゃないしな」

「こりゃ失敬。んじゃ、魔法については、ギルドの魔法師に教えてもらうのが手っ取り早いど。がんばるんじゃで」

「はい!どうもありがとうございます!」


 俺はが銀貨を数枚、鍛冶師に手渡し、ハルカが意気揚々とスタッフスピアを持って店を出て行く。

 ハルカが買ったスタッフスピアは案外重そうだったが、足腰が強いハルカには何のそのだった。

 ちなみに、このハルカのスペックが俺の想像を遥かに超えるものだと知ったのは、このすぐ後のことだった。

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