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KY騎士、見参


 そして早朝。

 朝日が丁度出始めた頃、俺達はそれぞれ、マントを羽織って馬車に揺らされていた。

 俺達は今現在ディスタム王国への道のりを昨日雇った馬車で移動している。

 ハルカは馬車の布の隙間から自慢の腰まで伸ばした黒髪をなびかせながら外を眺めてはしゃいでいる。

 そんなに馬車が珍しいのか?


「見てみてお兄ちゃん。もうアタゴ村が見えなくなっちゃったよ」

「あぁ、そうだな。流石に馬車は移動が楽で助かる」

「はっはっは!恐縮です!ほら、この子達も喜んでますよ!」


 ぶるるるっ!と馬車を引っ張る4足のスタイリッシュな魔物二匹が鼻を鳴らして笑う(?)

 この四足の魔物の名前は《バグラー》と呼び、ハルカがいうところによるところの馬だという。

 というかハルカが言うにはこの魔物は、ハルカの世界の馬とそう外見が変わらないらしい。

 変わっているところというと、たてがみが若干長く、電気を帯びているというところ…らしい。


「バグラーちゃん達って力持ちなんですね」

「あ、おい。それ以上褒めると…」


 俺が注意しようと声を上げようとしたその時、馬車が突如猛スピードで加速し始めた。

 このバグラーという魔物。人の言葉がわかる上に、力が強いため、基本的に重宝されてはいる。

 だが反面、褒められると調子に乗るというちょっと困った魔物だったりするため…取り扱いには注意が必要だ。

 もう手遅れなのだがね。


「おごごごごごごごごごごご!!!!!?」

「ヒャーーーーーーー―!!」

「うわうわうわうわうわーーーー!!」


 俺は馬車から振り落とされないように必死に何かに捕まり、ハルカは逆に窓に捕まってはしゃぐ。

 そしてバグラーたちの主人であるはずの運び屋は、バグラーの突如としての暴走に戸惑い気味に舵を取るのだった。

 慣れているんだな。主人。


 しばらくすると、バグラーたちの暴走は止まった。

 人間全力疾走が長く続かないのと同じで、このバグラーたちも全力で走って疲れたのだ。

 といっても馬車は引き続けてくれるあたり、調子に乗ってもペースは調節したほうなのだろうが。


「すごかったねお兄ちゃん」

「あぁ…そうだな。うん。うっぷ…」


 あ、うん…。ハルカが喜ぶ姿があるのは良いが、肝心の俺は乗り物酔いでグロッキー状態だ。

 正直に言ってここで盗賊にでも出くわせばやばいことは請け合いだ。

 でもこうゆうときに限って俺なんかは出くわすんだよなぁ…。






 ――それから王国へ移動して、旅が2日目に突入した早朝にその異常は起きた。


「う!うわ!何だオマエラ!」


 悪い予感は的中するのな…。馬車の主人の怒号が俺の耳に届き、ハルカと俺はびっくりして外を見る。

 外には数人の黒い服を来た盗賊がこの馬車を囲っており、今にも襲ってきそうだ。


「へっへっへ…金目の物を出しな。なぁに、言うとおりにしてくれればお前らの命は保証するぜ?」

「ふへへ…」

「ぐふふ…」


 …気持ち悪いなこいつら。

 下卑た笑いを浮かべる盗賊に俺は激しく嫌悪し、ハルカは絶句した。

 盗賊の数は見たところ4人…全くもって物の数ではない。酔ってても楽勝だ。

 心配そうに外を見つめるハルカに、俺は声を掛ける。


「大丈夫だ。ちょっと行って追い払ってくる」

「う、うん…怪我しないでね?」


 盗賊の一人が馬車の中身を確認しようと近寄ってくる。

 盗賊は不用意にもバッと簡単に布を押しのけてきた…その瞬間の出会い頭、俺は盗賊の頭を掴み…。


「いらっしゃい。このクズが。――《破顔》!!」


 盗賊の顔を横薙ぎに殴り飛ばした。

 拳を入れた瞬間、ゴキッという鈍い音とグシャッという気持ちの良い音が聞こえたので多分気絶しただろう。


「はっはー!お前の仲間の顔はアカの実みたいに簡単に潰れるなぁ!」

「ファッ!?」

「なんだ!?」


 テンションの上がった俺の声に、何事かと他の盗賊がこちらに注意を逸らす。…あと三人。

 俺は瞬時に馬車から飛び降り、未だに驚愕に身動きが取れない近くに居た盗賊に襲いかかる。

 棒立ちの盗賊に対して拳を入れるのはさほど難しくはなかった。


「おら突っ立てんじゃねえぜぇ!!オラオラオラ!!」

「ぐっ…がぼっ…ガハッ…ぎゃあああああ!!」


 顔、腹、脇、後頭部。と順番に拳を叩き込んで、倒れかかったところをまるでボールかのように蹴っ飛ばす。

 蹴っ飛ばされた盗賊は錐揉み回転をしながら、汚れた地面に叩きつけられて昏倒(?)した。

 俺から見ればただ必死に交戦しているだけなのだが、これ客観的に見たら俺悪役じゃねえの?

 いや…そんなことも言っていられないな。


「舐めた真似しやがって!死ねやぁ!」

「おっと!?」


 次の獲物…盗賊を探していると、後ろからお目当ての盗賊が剣で切りかかってきた。

 瞬時に剣の腹を叩き、軌道を逸らす。俺の小手と盗賊の剣とがぶつかり合い、激しい金属が響く。

 そして剣を退けた俺はとっさに盗賊の腹に一発拳を打ち込み、首に掴みかかって…


 ――ゴキッ!


 盗賊の首から鈍い音が唸る。

 神経の通った首の骨を無理やり回転させ、気絶させたのだ。


「野郎!!死にさらせボケェ!!」


 盗賊の首根っこを持った俺にさらにリーダーらしき体格の良い盗賊が前方から俺に襲いかかり、剣を振り下ろす。

 俺はその剣の切っ先をに向けて、先程から掴んでいた盗賊をぶつけ、剣を止める。


「なっ!てめぇ!人の仲間を盾にするなんぞ卑怯だぞ!!」

「ハッ!卑怯も何もあるかよ!てめぇ等が喧嘩売ってくるのが悪いんだろうが!」


 盗賊の親玉が子分が刺さっている剣を捨てて俺に向かって殴りかかる。卑怯とか言いながら仲間はいいのかよ?

 親分の拳が俺の肩にヒットする。おい、中々に痛ぇじゃねえの…。


「オラッ!《砕破掌》!」

「ごほっ!?」


 お返しに土手っ腹に一撃、全体重を乗せた重い拳を叩き込む…が体格の問題か一撃では倒せない。

 だが、少しの隙さえあれば連撃を叩き込むには足りる。


「オラオラ!《砕破掌》!《砕破掌》!!」

「ぐあっ!?がっ!?」


 立て続けに顔に二発、先ほどと同じ重い拳で殴り抜ける。

 流石に技を使って殴っているため、かわいそうなぐらい盗賊の親分の顔はボコボコになってきた。

 だがやめない。反撃が怖いからね。


「コイツでとどめだ!《飛鷹煉葬……》」



「――そこまでだ」


 ――ガキンッ!!

 乾いた金属音が鳴り響き、俺が盗賊の親玉に放った早い蹴りが、騎士兵の装備を着た剣士により止められる。

 盗賊の親玉は腰を抜かしたようで其処から動けなくなった。

 そして、騎士兵の格好をした剣士がこちらに兜に包まれた顔をこっちに向けて、低く唸る。


「コイツはここら一帯を荒らしていた盗賊のリーダーだ。コイツは捕まえて王国で処罰する必要がある」

「あぁん?んなの面倒くさいだろうが。ここでやったほうが効率的で後々のためになるだろ」

「はぁ…君はまだそんなに野蛮なのか?」

「は?」


 ――ヒュッ!


 剣士が突如俺に向かって剣を振り回す。

 俺はその剣を小手で綺麗に受け止める…すると剣士は反転し、逆の側から剣を横薙ぎに振るう。

 今度は小手でガードしながら、剣を上に弾き飛ばす。そして返す刀で兜に向けて拳を放つ。

 だがこの攻撃は剣士が切り下ろし気味に剣を当てられて防がれる。

 そして俺の攻撃の衝撃により、剣士が数歩後ろに滑り、お互い距離が空く。


「何しやがんだ?」

「やっぱり腕は鈍っていないようだな。安心した」


 剣士は腰の鞘に剣を直すと、兜を脱ぐ。

 脱ぐと同時に流れるような長い金髪がバサッと滑り落ち、金髪とミスマッチなぐらいにきらめく赤い瞳が俺を見る。

 それは俺が知っている中で一番腕の立つ女剣士だった。


「お久しぶりだな。ランディ?」

「リーシア!? 騎士兵団部隊長のお前がなんでこんなところに!?」


 《リーシア=エルミリアン》

 スレンダーな体型に似合わぬほど屈強な白銀の騎士兵武装を着た、誰もが見とれるような美人だ。

 騎士兵団の中で部隊長の地位に実力でのし上がった凄まじく忙しいはずの奴がなぜここに。


「依頼だよ。最近の盗賊騒ぎが何やら目立ってきていてね」

「それでお前直々に動いたってのか?」

「まぁ、上のお偉い様達が動くよりは幾分かマシだろう?」

「ふーん…」

「どうしたのお兄ちゃん? もう、終ったの?」


 俺が騎士兵団の女騎士、リーシアと再会し、話をしていると、心配そうにハルカが馬車から顔を出した。

 リーシアはハルカを見ると、一転して俺に厳しい視線を向けてきた。なぜだ。


「彼女は?」

「俺のところに最近やってきた妹(仮)だよ。どうも《渡り人》らしくて、今はコイツが元の世界に帰れる方法を探している」

「…悪人の貴様が人助けとは殊勝だな」

「言っとけ。――ハルカ、もう大丈夫だ。出てきてもいいぞ」


 ハルカは未だに少しビクビクしながらも馬車から下りる。

 ちなみに馬車の主人も一応無事だったようだ。馬車を引いていたバグラーが一生懸命に抵抗してくれたおかげでだったが…お前、そのバグラー達に感謝しろよ?

 ハルカは黒髪をなびかせながらこちらに歩いて、リーシアにお辞儀をする。


「どうも…」

「あぁ、私はリーシア。見ての通りディスタム王国の騎士兵だ」

「えっと…丹波遥と申します」

「ふむ、ハルカ殿、よろしく頼む。ランディ、この方は《渡り人》なんだな?」

「そうだ。どうやら魔物も居ない平和な世界からやってきたようだから、あんまり威圧するなよ」


 俺の注意にリーシアは当然と言いたいが風に鼻で笑う。

 そしてひと通り俺をバカにしたリーシアはハルカの元へ歩み寄り、握手を交わすのだった。

 その間、俺は笑いものにされた腹いせに盗賊の親玉に軽く蹴りを入れる。スッキリした。

 リーシアは自分が元々乗っていたであろう白馬に駆け寄り、馬車の方に引っ張ってくる。


「それで? ランディ達は一体どこに向かっているのだ?」

「あん?ディスタム王国の方にちょっとな」

「そうなのか。それならば丁度良い。私も盗賊の連行がてら、この馬車に動向させてくれ」


 リーシアの提案に俺は別に断ることはなく、素直に頷く。断れば勝手に付いてくるような奴だからだ。

 俺の同意にリーシアは力強く頷く、ハルカも最初は戸惑い気味だったが頷いた。

 そして全員の同意が確認された後、俺とハルカは盗賊を引っ張りこんで馬車に乗り込む。

 この盗賊には乗り込む際にさんざん拳を叩き込んで逆らえないようにしておいたので多分大丈夫だろう。

 そして、リーシアが白馬に乗っかり、馬車と白馬の一団は街道を闊歩する。


「お兄ちゃん。リーシアさんってどう云う人なの? あとどんな関係?」

「んーそうだな…俺がディスタム王国の都に住んでて、兵役の訓練をしていた時に知り合った奴だ」

「そうなんだ。お兄ちゃんは昔騎士の人だったんだね」

「まぁな。それで色々あって騎士をやめるってなった時に一番反対していたのがあのリーシアだ」

「なんで兵士を辞めることになったの…?」

「あー…えっとな…」


 流石に言い難い理由だったので俺はそこで黙った…ハルカも察してくれたようでそれ以上は聞かなかった。

 ただこの話を聞いていたリーシアは、空気を読まずに口を滑らせやがったようだが。


「この男が、色々なところで問題を起こして、挙句当時の教官を殴り倒すという事件を起こしたのだ」

「…そうなの?」

「まぁな。あの頃は色々やんちゃしてたんだよ…」


 バツが悪くなり、俺は窓の外を見て、押し黙る。

 ハルカはそんな俺をどう思っているのか、少し間が悪そうに黙った。


 このバカ騎士め…相変わらずお前は自分の正義感ばかりで空気が読めないのか。


 悩みの種が増えた。

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