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お兄さんは妹(?)の騎士のようです


 とりあえずクレーターの中から這いずり上がって俺の住んでいる村を目指し、北に進む。

 意外にもハルカは足腰が強く、道中の川や足場の悪い岩場もなんのその、ずんずんと進んでいく。

 この辺り最近魔物が増えてきて、俺としては先にどんどん進むハルカが魔物に襲われないかビクビクしているが。


「お兄ちゃん!次はどっちに行くの?」

「そのまままっすぐだ!あとお兄ちゃんと呼ぶな!」


 このやりとりも何回目なのだろうか。そろそろ疲れてきた。

 ハルカは俺の4歩先をずんずんと歩いて行く、魔物が出たら守れる範囲じゃない。

 だからこそ《魔法》をまだ使うことの出来ない俺としては少し危なげに見えるわけだが…。

 あいつのあのフットワークなら出てきた獣の一撃をひらりと避けそうではある。

 ――っと思考を延々と続けている俺はハルカの少し先を睨んでいると…。

 ハルカの数歩先に一匹の小さい緑色の蛮族…ゴブリンが見えた。

 見たところ棍棒を携えたゴブリン戦士のようで、まだこちらには気づいていない。

 ついでにハルカもそいつの存在に気がついていない。


「ハルカ!そこで止まれ!」

「えっ?」


 今の一声でゴブリンが気づいた…だがハルカと俺との距離を考えれば全然守ることができる。

 緊急停止したハルカはやっとゴブリンに気づいたようで、「なにこれ!?」と驚きながら数歩ゴブリンと距離を取った。

 そして、後ろに下がってくれた事によって俺がハルカの前に早く出ることができ、飛び込んできたゴブリンを殴り飛ばす。

 俺に殴られて地面に叩きつけられたゴブリンは瞬時に俺と距離を取った。


「お兄ちゃん!これは!?」

「ゴブリンだ!危ないし邪魔だから下がってろ!」


 うん、と返事をしたハルカは俺と数歩距離を取る。後方にもゴブリンが居ないことを願うばかりだ。

 ゴブリンは棍棒を振りかざして俺に迫る。後ろにはハルカが居るため、避けることはできない。


「ゲゲゲゲッ!!!」

「ウゼェ!『砕破掌』!」


 ゴブリンの振り下ろした棍棒に俺の全体重を乗せた拳をぶつける。

 棍棒は俺の拳を受け、弾かれた…どころではなく、粉々に砕け散り、持ち主のゴブリンは再び距離を取る。

 すると、ゴブリンは流石に負けを悟ったのか、逃げだした。


 後に残された俺とハルカは二人して安堵の息を吐いた。


「ふぅ…」

「あ、危なかったね。アレは一体なんだったの?」

「魔物だよ。見たことないのか?」

「魔物?ファンタジーの世界とかでよく見る…あれ?」


 ハルカは首をかしげて熟考するが、どうやら検討もつかない様子。

 それどころか少し混乱気味なのか、頭を抱え始めた。俺も頭を抱える。


「まじかよ…魔物も知らないのか? どんだけ箱入り娘だったんだよお前は…ってそうか」

「どうしたの?お兄ちゃん」

「だからお兄ちゃんじゃないっての…お前はアレか、『渡り人』か」

「《渡り人》?」


 渡り人…という単語を聞いて、なにそれって顔をするハルカ。

 聞いてなくて当然だ。住んでいた世界が違うなら、魔物が居ない世界だってあるはずだ。


「あーと…お前の元々住んでいたところってどうゆうところ?」

「え? 日本の宮城の方に住んでたよ」

「あー…えっとな…酷なことを言うようで悪いんだけどさぁ…」


 バツが悪い。うん。こうゆうことを言うのは正直に言って忍びない。

 多分、ニホンっていうのが国の名前で、ミヤギっていうのが都市の名前なのかな…?


「ここは『アルトレリア』っていう世界で、日本っていう国も、宮城ってところも残念ながら存在しない」

「えっ……?」


 ビンゴか。どうやら本格的に住んでいる世界が違っていたようだ。

 ハルカは俺の言葉を聞いて愕然とした。そしてその場に立ち尽くす。なんとなく心が痛い。


「ただ…確認されてない可能性もあるけどな」

「……。」


 俺とハルカはその場に立ち尽くす。なぜ俺は今謝ったのだろうか…ハルカを痛々しく思ったからだろう。

 森がいっそうざわつくのが妙に耳に入る。どうも耳障りだ。

 ここで立ち往生すると、先ほどのゴブリンが仲間を連れて襲ってくるかもしれない…とりあえず行かなければ。


「行くぞ…」

「…うん」


 ハルカが先ほどとは打って変わって弱々しく頷く。また俺の胸がズキズキと痛む。

 俺とハルカはしばらく森の中を進んで行くと、やがて木々が晴れた道に出る。

 王国が開拓し、補正した道路だ。馬車の通った跡がいくつも残っている。

 この道路を道なりに行けば俺の住んでいる村、『アタゴ村』に到着できるだろう。


「ここまで来れば、ゴブリンも追っては来ないだろう。大丈夫か?ハルカ」

「う、うん…」


 俺の心配する声にやはり弱々しく頷くハルカ。だが、今度は少し違っていた。


「あの…」

「あん?」


 歩きながらハルカが俺に呼びかける。俺は横目でハルカを見ながら返事を返す。

 返事が若干粗暴なのは、俺の育ち方の問題なのかもしれないが。


「ランディさん…『渡り人』って何なのか教えてもらってもいいですか?」

「なんだぁ?いきなり敬語になりやがって気持ちワリィ」

「す、すいません…」

「…兄貴呼ばわりをやめられたらやめられたで調子狂うなぁ。まぁいいけど」


 ハルカの突然の変わり様に俺は正直戸惑いつつも、きちんと説明をしようと思う。

 っというか…俺自身『渡り人』に遭遇したことも無いため、うまく説明できるという保証は無いが…。


「最近、どこか遠い異世界から、誰かが大量にこっちに流れ込んでいるらしい…俺達はそれを『渡り人』って呼んでいる」

「つまり…ランディさん達にとって私達は異世界人…ということなんですね」

「そうだ」


 まぁお前から見ても俺のことは異世界人に見えるだろうがな。

 村に向けて歩いていると、馬車とすれ違い、ハルカが馬車の主人に会釈をする。

 俺も釣られて会釈をして、説明を続ける。


「んで、その《渡り人》は最近ウチの国じゃあ、結構な社会問題になっている」

「えっ!? ランディさん、それはなんでですか!?」


 うむぅ…やはりお兄ちゃん呼ばわりじゃなけりゃ落ち着かないなぁ…なぜだ?

 いや、いいんだけどさぁ…。はぁ…妹欲しかったなぁ。

 あ、いや、目の前に妹(仮)がいるけどさ。

 俺は知りたがるハルカにさらに説明を続けた。


「行く場の無い《渡り人》が出すぎて、大半が奴隷になったり、犯罪を犯したり、魔法の材料にされたり…ってな」

「……ひどい…ですね」

「あぁ、だがそれも一部だけだ。同じ《渡り人》でもうまくやっている奴は居るらしい。俺は会ったこと無いけど」

「…そうですか」

「……。」


 ハルカの顔色がみるみるうちに暗くなっていく…不安に思うのも仕方ないだろう。

 ――だからだろうか。見てられなくなった俺は、ハルカの頭に手を置いて、軽く撫でた。


「大丈夫だ。元の世界に戻れる目処が立つまでは俺が面倒見てやるよ」

「…はい!」


 ハルカの顔色が何やら急に明るくなった。うむ、効果はてきめんのようだ…。

 兄貴面もたまには悪くないものだな。

 …とそんな話をしていると、俺達の目的地、アタゴ村が見えてきた。


「お、アタゴ村が見えてきたな。まずはあそこで軽く聞き込みをするといいんじゃないか?」

「そうですね。何時帰れるかの目処が無いので、この世界のことも聞いておきたいですし」

「……。」

「どうかしたんですか?ランディさん」


 ちょっと違和感に耐えかね、軽く悩み出した俺に、ハルカは訝しむ。

 いや、うん…あのね、やっぱりさぁ…。


「…そのランディさんってやめねぇ? あと敬語もイラないし、やっぱお兄ちゃんでいい」


 俺に妹が出来た。(仮)

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