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後始末とミレニオとアリナリーゼ。


「……なるほどな。村の者のほとんどがアリナリーゼに……」


 宿屋に入り、気絶したアリナリーゼをベッドの上に転がせた俺達と商人のおっちゃんは、村の宿で働いていた若手の女の子…フェニモアから事情を聞きて、それぞれ胸を痛めた。

 ハルカはそれを聞いて別のベッドに寝かせていた人型の黒い塊…宿屋で女将をしていた初老のお婆さんの手を握って涙を流し続けておりフェニモアと共に突然の別れを悼んでいた。

 ミレニオは自分には縁が遠い話ではあったが、人の死を初めて実感し、うつむく。

 俺はリーシアと共に壁に背を預けて無言で暗くなった窓の外を眺めている。

 そして商人のおっちゃんは…ベッドに倒れるアリナリーゼを目の前に拳を固めていた。


「本当にこの姉ちゃんが…村の奴らを……!」


 おっちゃんは今にも殴りかかりそうなほど殺気を放ち、アリナリーゼを睨む。

 その問いに対して答えられたのはこの場ではフェニモアしかいなかった。


「はい……始めは酒屋のオルヴァンさんが焼き殺されて…村の者がそれを糾弾したり、復讐しようとしたんです……ですが結果は……」

「……なるほどねぇ……それでこいつはのうのうと……」

「殴るなよ? 俺が散々殴ったんだし、そいつは死なれると困る」


 握りこぶしの指の間から血が流れるほど固く固く拳を握っていたおっちゃんを、俺は一応待ったをかけておいた。その制止の声におっちゃんは俺の方を振り返って叫ぶ。


「なんでだよ兄ちゃん!アンタだってこの宿屋のお婆には世話になっていただろう!?」

「俺だってなぁ……今すぐにでもコイツをぶち殺してこの村の人達の仇を討ちたいさ!」

「やめろランディ」


 リーシアの一言で俺は一度落ち着きを取り戻し、おっちゃんから目線を外した。

 おっちゃんも頭を冷やしたようで、舌打ちを一つすると、ドアを乱暴に開けて出て行く。

 俺はリーシアに目線を向けると、リーシアはそれを察したようでおっちゃんが乱暴に開けたために開けっ放しにしてあったドアを丁寧に閉めながら、リーシアも疲れた顔をして部屋から出て行った。

 そして俺はそれを見送ると、未だに死を実感しているミレニオに近寄る。

 ミレニオは横に立った俺が言いたいことをなんとなく察したようで、呟くように言った。


「ランディさん……この人は」

「お前には馴染みが無いかも知れねえけど、俺とハルカが前から世話になっていた宿屋の女将さんだ。すっごい人懐っこい笑顔と明るい性格で、この村で一番好かれていた人でな。俺もハルカも懐いてた」

「なるほど…そんな人が、アリナリーゼさんに……殺された」


 ミレニオは俺の言葉を聞き、女将の遺体から視線を外して別のベッドで寝ているアリナリーゼを見る。俺もその視線を追ってアリナリーゼを見て、また奥歯を噛み締めて拳を握った。


「アリナリーゼは酒を煽った状態で、完全にへべれけ。酒乱を謳うにしてもやり過ぎだ」

「……彼女を、殺したいですか?」

「村の奴らのためを想ったら、ぶち殺すのが一番良い…だけど、あれは俺の今の目的に絶対必要なファクターだ。殺すわけにもいかないし、それにリーシアに止められた時点で既にやる気なんてない」

「その目的と言うのは……戦争を止めるため、騎士としての正義のためとかですか?」


 俺は首を横に振った。

 それだけでミレニオは次を聞き出そうとするが、俺の視線はまた別の方向を向いており、ミレニオもそれを追って俺から視線を外して、ハルカを見た。

 ハルカは未だに女将の手を掴んで、宿屋の若手であるフェニモアと話している。


「ハルカさんが関係してるんですか?」

「アイツは《渡り人》だ。お前はぼっちゃんだが渡り人ぐらい知っているよな?」

「えぇ、はい。勇者の伝記を読んでいると必ず出てくる単語なので…意味もわかります」

「あいつはその渡り人だ。ちょうどこの村の近くの村に落ちてきた……な」


 ミレニオはハルカを二度見して驚く。俺はその反応に驚くが。


「えっ…えっ?ということはハルカさんは勇者……?」

「んなわけねえだろ。ハルカは戦争も魔物も魔法もない世界からやってきたやつだ」

「そ、そんな夢の様な世界が…?」

「あるんだよ。俺達の想像もつかないような世界がどこかにな」


 それだけ言うと俺はまたミレニオの方を向く。

 ミレニオは少し考え込んでいるようだったが、俺は言葉を投げかけた。


「まっ、そう考えこむな……とりあえず明日、この村を一度出てディスタムに戻る」

「……はい、その間に……彼女は起きるでしょうか?」

「多分起き上がるが、アレだけきつく縛ってあるし、俺がつきっきりの看病をしてやる」

「それって起き上がったらどうするんですか?」

「殴って気絶させて起きたら殴る」

「シンプル故にたちが悪い」

「違いない」


 俺はふっと笑ってミレニオの肩を叩いた。


「そう思うんだったらお前が面倒見るんだな」


 ミレニオは首を横に振ったが、俺はミレニオの肩を強く握る。


「お前がアイツを縛り付けろ。俺よりもずっといい方法でな」

「僕が……ですか」

「交渉でも何でもして奴を逃げられないようにしろ。それか仲間に引き入れろ」


 お前にしか出来ない。俺はそう言ってミレニオから離れてハルカの元へと歩み寄った。

 一人、ミレニオはアリナリーゼの方を再度見て、不安の色を見せた。


「……どうしろっていうんですか」





 その後俺とハルカは、一度宿屋のロビーに集まって、フェニモアと一緒に食事を取った。

 リーシアの方は他の村人を探しつつ、商人を説得しており帰ってきそうにない。

 ミレニオはアリナリーゼの様子を見ていて、食事は先程取ったばかりだ。

 村の食材を使った料理を無言で食べていた俺達だったが、フェニモアが唐突に言う。


「この村は……一体どうなるのでしょうか」

「……とりあえず、村に居る若い働き手だけは確認できた。当分そいつらで何とかするしか道はない。とりあえずフェニモアはこの宿屋をちゃんと切り盛りしないといけないし。課題は山積みだ」

「ランディさん達はこれからどうするんですか? あのベッドに寝かせてる人もだけど…」

「アイツは騎士兵団に引き渡して、それ相応の裁きを受けてもらうつもりだ」

「それが…いいですよね。うん」


 フェニモアは俺の答えにあまり納得してない様子で首を頷かせている。

 やはりこの村の人間としてはアイツは許せないのだろう。

 見ればフェニモアの分の食事はまったく手がつけられていない。


「憎いか?」

「はい……でも、ここであの人を殺してもどうしようもない。逆に後悔しか生まれないのはわかっています……人を裁くのは人じゃない……人の作った法によって裁かれるべきというのもわかってます…」

「……だけど納得できない……だろ?」


 フェニモアは俺の言葉に静かに頷く。

 俺だってこの村の人間のためを思えば殺すのが一番だとは自分でも思う。

 だが、心では分かってるがそれは感情論であると頭がわかっている。

 だからこそ、俺はあえてフェニモアにこう言うのだ。


「それは結局感情論だ。俺達は右から左に流されるわけにはいかないんだよ」

「……それが、自分がお世話になっていた人であっても…ですか?」

「そうだ」


 俺は力強く頷いた。内心は腹が煮えくり返りそうな思いで一杯だが一生懸命抑えた。

 言葉は届いたのだろうか…フェニモアは頬に涙して語りだした。


「私は……悔しいですよ。なんでうちの村だけがこんな目に遭わなければいけないのか……なんでうちのお婆ちゃんが死ななければいけなかったのか……悔しい!殺したい!でも怖い!わかってるのに!」

「フェニモアちゃん……もういいよ」

「ハルカさん……うぅ」


 ハルカが気持ちの暴発したフェニモアを抱きしめてなだめる。

 フェニモアはハルカの胸でえづき始めて、それからしばらく泣き続けた。

 俺はそんな二人をしばらく眺めていたのだが、そこに突然の報告が入る。


「ランディ!いるか!?」


 リーシアが宿屋の玄関ドアを乱暴に開けて入ってきた。

 俺とハルカ、フェニモアは同時に驚き、玄関に立つリーシアとおっちゃんを見る。


「どうした?」

「アリナリーゼがこの宿にいることを聞きつけた村の者が押しかけてきているんだ!」

「予想はしてたが……マジでかよ」


 俺は重い腰を上げると、けだるいながらも外へ出るのだった。

 なんでアイツの為にここまでしなきゃいけないのか……いや、ハルカの為になるからか。




「……うぅっ……ここは……?」

「あ、お目覚めになりましたか?アリナリーゼさん?」


 アリナリーゼが目を覚ますと、そこはベッドの上で、横にはミレニオが椅子に座っていた。

 自分の体を確認すると、体はアバラが何本か折れており、顔は包帯とガーゼでボロボロ、元々はかなり美人の方に偏っていた顔立ちは今やかなり不格好になっていた。

 状況を適当に察すると、体をゆっくりと起こし、ミレニオから水を受け取って飲み込む。


「あたしを殺さなかったの?」

「貴方に死なれると困るという人が居てよかったですね」

「そっか……戦争を止めるためにあたしを追ってたんだっけ?」


 いろんなところを切った口の中をモゴモゴさせて血を吐き出し、ミレニオに聞く。

 ミレニオもそれを見て少し不快そうな顔をして、質問に答えた。


「えぇ、貴方が召喚した勇者の影響でね」

「あれはグレイマンが勝手にやっていることよ。あたしには関係ない」

「それは貴方の理屈です。現実ではそうはいっていないようですから言い逃れは無駄です」

「……。」


 ミレニオに現実という言葉を突きつけられて黙る。

 そんなアリナリーゼを見てミレニオは外から怒号が聞こえてくるのに気づいた。

 アリナリーゼもそれに気が付き、外のほうを見る。


「なにこの声……?」

「どうやらランディさん達が、貴方が殺した村人の人の仇を取りに来た人を説得しているようですね……アリナリーゼさん。普通、犯罪者にはここまでしてくれませんよ?」


 窓の方覗きこんだミレニオはゆっくりと窓から離れてアリナリーゼに言う。

 それまで少しだけ怒りに染めていたアリナリーゼの顔が諦めに変わる。


「……そうね。だから私に協力しろって?」

「いえ、それは貴方の自由にすることにします」

「ならどうするのよ?」

「僕の質問に答えてくださいよ……ねぇ?」


 ミレニオはベッドの上に腰掛けると、顔を近づけつつ、アリナリーゼの顎に軽く触れる。

 まるで誘惑するかの様にあくまで男の色香で近づきつつ…言う。


「貴方は、何故勇者召喚に協力したのですか?」

「………っ!?」


 ミレニオは顔の形が全体的に整っており、アリナリーゼの肥えた目から見ても十分絶世の美男子であることは認識せざるを得ない。そしてアリナリーゼは元々男性経験が無く、この手に弱かった。

 アリナリーゼの顔が動揺に慌てふためき、目が泳ぎ始めた。

 そんなアリナリーゼの様子を気にかける様子もなく、ミレニオは手に力を込めた。

 やがて観念したようにミレニオから離れたアリナリーゼは呟くように語った。


「私は元々、グレイマンの養子……親に捨てられて孤児だった私を魔法の素質があるからという理由で男手一つで育ててくれて、一番有名な魔法学院に通わせてもらった……」

「それが理由なんですか?」

「それだけじゃないわ。……元々グレイマンは私が召喚魔法さえ会得して、勇者さえ召喚できれば、私のことは用済みだった……私は自由になれればそれでよかったのよ」

「……なるほど、貴方も貴方で色々と抱えていたんですね…」


 ミレニオはそれだけ言って窓の外を見る。

 アリナリーゼはミレニオから顔を背けて寝っ転がった。


「だから、貴方は勇者を召喚するとどうなるかも知らなかった?とか?」

「……そうよ。流石にこの年になるまで会得できないとは思わなかったし、正直魔法の勉強をするために勇者の伝記は読んだけど、流石に政治面のことは書いてなかったし」

「もしかして、魔法の研究室にでも監禁されていたとかも……」

「そうね。それもあるわ」


 コレまで何も聞かなかったアリナリーゼの事情を聞き、ミレニオは少し考える。

 やがてその考え事が終わったように頷くと、アリナリーゼの手をとる。


「何のつもりよ?」

「……いえ、このまま寝ていれば、逃げられないかと思って」

「そんなわけないじゃない。絶対振りほどくから」

「逃げれば今度は確実にランディさんに殴り殺されますよ?」

「………脅迫とは卑怯ね」


 アリナリーゼがミレニオを寝転がりながら睨み、凄む。

 だがミレニオはアリナリーゼの言葉に首を振った。


「そうでなくとも、貴方がアタゴ村の人たちを殺したのは間違いありません。今を逃げれば、貴方は今よりももっと沢山の人たちに追われます。その人生は当然ながら、自由とは言い難い」


 ミレニオの言葉を聞いて、アリナリーゼは言葉を失う。

 その数秒、二人の間に沈黙が訪れ……アリナリーゼがため息を吐いた。


「……そうね」


 それからアリナリーゼがこの時発した言葉はコレが最後になり。

 二人は沈黙の末に眠気に負けて、深い眠りに落ちるのであった。

ちなみにこの世界回復魔法なんていう便利なもんはありません。

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