激突!悪の召喚士!
「これは……まずいな」
リーシアは、地面に剣を刺して目の前で酒を煽りながら火炎や電雷を操り回し、こちらに明らかな敵意と悪意を向けてくる召喚士アリナリーゼを睨みつける。
アリナリーゼとの実力は均衡してはいたが、後ろの二人をアリナリーゼが放つ弾幕から守るのは中々に骨だったためだ。
ちなみにそれの甲斐あってかハルカとミレニオはほとんど傷を負っておらず、二人でアリナリーゼの弾幕と張り合って、火炎弾や氷柱を束で飛ばして応戦していた。
「……さすが召喚魔法を編み出しただけはある……魔法の練度や速度が段違いです」
「リーシアさん……この人……強いよ……!」
「だからって尻込みするとすぐに食われるぞ。気を引き締めて撃ち続けろ」
リーシアの指示に二人はさらに炎弾と氷柱を手の中に生み出す。
アリナリーゼもまた、手の中にとてつもなくでかい炎弾を作り、振りかぶった。
「炭になりなさいなぁああああ!」
「……将来、旦那に欲しい人がいるのでね。この顔は炭にして欲しくないが…」
「……………………あてつけかごらあああああああああああああああ!」
怒りに任せて放った炎弾はアリナリーゼの手元を離れて一直線にリーシアの方へと飛んでくる。そのスピードは素人野球のド素人ピッチャーがボールを投げる時のそれとよく似ていた。
投げ方が基本的におかしいアリナリーゼの炎弾はリーシアの気合が入った一閃でいとも簡単に霧散する。そして炎弾を切り裂いたリーシアは刃を優しく撫で、余裕があるような笑顔を見せる。
「威力だけあっても炎弾は弾速が緩すぎてだな……」
「うるさいうるさいうるさいうるさい!!今度こそ炭になっちまいな!」
地団駄を踏むアリナリーゼは苦しさ紛れに青い雷電をその手から飛び出させた。
そして青い雷電は不規則な軌道を描いてリーシアたちの足元に着弾し、砂埃を上げる。
威力は高く、斬ることは出来ないが、命中精度の低い魔法のようだった。
リーシアは一息吐くと、後ろにいるハルカとミレニオを見ずに言う。
「撃て!」
「「はい!」」
リーシアの号令でハルカとミレニオは同時に魔法を放ち、一度戦線を離脱する。
ハルカの氷柱は当たらずとも遠からずアリナリーゼの足元に着弾し、ミレニオの火炎弾はその氷柱に当たって霧散する。それと同時にアリナリーゼの周辺は蒸発した水のモヤで包まれた。
そしてそのモヤが出来たと同時にアリナリーゼの元へとリーシアが駆け、モヤを切り裂く。
――ガキィン!!
繰り出された袈裟斬りは何か金属のような何かにぶつかって防がれた。
その金属のような何かは、見事に少し小太りなアリナリーゼの腕だった。
「なにっ!?」
「……こうゆう魔法を見るのは初めて? 硬質化して……えっと、なんだったかわすれちゃったー!」
切り返しで腕の力を抜いてリーシアの剣のプレッシャーを受け流し、リーシアの横に回りこむが、脊髄反射で反応したリーシアが体制を整えながらも素早く横一線になぎ払う。
アリナリーゼは身を屈ませて剣閃を避けると炎弾を手の中に作り出し、リーシアに押し付けようとするが、とっさに出された盾に阻まれて爆発を防がれる。
爆発に乗じて一旦体制を整えるために距離を取ろうとするアリナリーゼ。
だがその動きを読んで居たように盾を構えながらリーシアがそのまま突進してくる。
「しつこいってのよ!!」
突進してくるリーシアに向けてアリナリーゼは地面から氷柱を生み出して動きをけん制する。
リーシアは氷柱を砕こうと盾を振りかぶり、力と体重を込めて一気に叩き壊した。
――そしてアリナリーゼの雷撃が即座に続いて射出されていた。
反応できず、電撃を浴びせられたリーシアは苦痛に膝をつく。
「うっ……うぅ……!」
「クックック……アハハハハ!!!! 無様すぎるわよアンタ!ねぇ!ねぇ!アハハハ!!」
「リーシアさん! 大丈夫ですか!? 《フレイムⅠ》!!」
そこで一度後ろに下がっていたハルカがすかさず炎弾を放つ。
「甘いってのよ!」
反応したアリナリーゼも同様の炎弾をとっさに放ち、相殺した。
「なに?そんな名前がこの魔法に付いてるわけ?イタすぎったらありゃしないわ」
「そんな夢のないことばっかり言ってるから貰い手がないのよ!オバサン!」
「おばっ!? このガキャアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
「隙ありだ!!! 《神将剣》!!」
一瞬注意がハルカに逸れたのを見て、リーシアが盾で殴りかかる。
完全にハルカの方にお熱だったアリナリーゼは盾で殴られて怯み、その一瞬をリーシアは逃さず、盾の遠心力を借りて鋭く、素早い突きを繰り出し、アリナリーゼの肩を貫いた。
「ぐあっ!? ……舐めた真似をぉおおおおおおおお!」
「きゃぁ!?」
肩を疲れたアリナリーゼはとっさにリーシアの腹部に向かって雷撃を飛ばした。
その雷撃は直撃はしていないが、リーシアを引き離すには十分だった。
リーシアは一度アリナリーゼと距離を取り、盾を構え、アリナリーゼは背後に居る二人の魔法を使う術師に気を配りながら、リーシアに向かって臨戦態勢を取る。
「……。」
「……なによ?来ないわけ?」
リーシアとアリナリーゼ、そしてハルカとミレニオの間に沈黙と膠着が生まれる。
そしてそのまま機を待ち続けていると……
「――おい」
一人の声が唐突に膠着状態を切り裂いた。
その声はアリナリーゼでも、リーシアでもハルカでもミレニオでもない人物。
赤と黒のジャケットを羽織ったいつも以上に目つきの悪い男性…ランディだった。
「ランディ!ちょうどよかった!」
「あぁ、大体事情は察した……さっさとぶち殺すぞ」
「………ランディ?」
リーシアはランディの様子に気付き、問いかけようとしたが、言うより早く、ランディはアリナリーゼへ真正面から突っ込んで拳を振りかぶり、アリナリーゼはその動きを見て、魔法を発動させる。
「アンタ……いまさら来たの? 残念だけどそんな一直線だとただの的よ!!」
アリナリーゼは手元から青白い雷撃を飛ばし、ランディの動きを牽制しようとする。
だが、ランディはそれに怯まず、かつ怖気づくことなどなく、雷撃に向かって突進する。
「――っ!」
「…な!? スライディング!?」
突進し、直撃を受けると思われていたランディは雷を間一髪、地面に滑りこんで避けた。
雷をまさかの方法で避けられて一瞬動揺したアリナリーゼは続けざまに足元から氷柱を発生させたが、ランディはそれを身を翻して避け、そのままの勢いと一緒にアリナリーゼに殴りかかる。
「うあっ!?」
ふらついたアリナリーゼはよろけ、民家の壁に背を預ける形になる。
ランディはその壁ごと蹴りぬく勢いでアリナリーゼにドロップキックをぶちかました。
「かはっ……!?」
ドロップキックを受け、壁を背にした状態で倒れることもままならず壁に叩きつけられたアリナリーゼは、痛みに悶えているところをさらにランディに頭を掴まれて、壁にもう一度叩きつけられる。
そして後頭部を思いっきり強打したアリナリーゼをランディは休まず腕の力だけで地面に向かって投げ、叩きつけて、頭を蹴り上げる。
「うらうらぁ!!」
ランディはそのまま倒れこんだアリナリーゼのマウントを取って、足でアリナリーゼの手を押さえつけて一方的に殴りかかった。
一発ごとにアリナリーゼの口から、頬から血が噴き出るが、ランディは無視して殴る。
殴る。殴る。殴る。殴る。殴る殴る殴る殴る。
大体3発を超えたあたりからアリナリーゼは抵抗すらできなくなり、ただ殴られ続け、ランディは無抵抗のアリナリーゼを別段気に留める様子などなくひたすら殴り続けた。
「ランディ!やめろ!このままではアリナリーゼが死んでしまう!」
「うあああああああああああああああああ!!」
リーシアの声がランディを咎めるが、構わず、ランディはアリナリーゼを殴った。
とうとうアリナリーゼは気絶か、それとも死亡したか、体が痙攣し始める。
それでもランディは殴り続けていたが…。
「お兄ちゃん!!!」
「……っ」
ハルカの一声に、ランディの振りかぶった拳が寸前で止まる。
ランディはもはや抵抗の意思さえないアリナリーゼからゆっくりと体を離す。
振り返ると、そこにはひどく困惑した顔のハルカと、剣を鞘に入れながらランディに厳しい目線を送るリーシア、それと冷や汗をかきながらそれでも笑むミレニオの姿があった。
戦闘を終えたという認識をしたランディは握りこぶしを解く、見れば装備していた小手に返り血がべったりとついており、それまで乱舞した残酷さが其処に現れていた。
アリナリーゼに背を向け、すっかり放心した状態のランディにリーシアが近寄る。
「ランディ、まずはごくろう。アリナリーゼは見たところまだ息がある。今度は逃げないさ」
「あぁ……」
「だが、だ。ランディ、危うくお前はコイツを殺すところだったんだ。この意味、わかるな?」
「あぁ……わかってる」
「……。」
ランディの何処か腑に落ちないといった感じの答えにリーシアは若干何かを勘ぐる。
だがそれよりも早くハルカがランディの様子の変化に何かを察して問いかけた。
「なにか…あったの? お兄ちゃん」
「……なんでもない……ってわけでもない。宿屋に行けばとりあえず事情はわかる」
この曖昧な答えにリーシア、ハルカ、ミレニオは頭をかしげた。
そしてこの戦闘を遠くから見ていた商人が一行の中に割って入ってきた。
「兄ちゃんたち…これは一体どうゆうことだったんだ?」
「……事情は宿屋で話す。おっちゃんはとりあえずついてきてくれ」
「あ、あぁ……? にしても、この姉ちゃんどうする?ここに置き去りか?」
「流石に人殺しができるレベルの魔法が使えるへべれけをこんなところに置いておくわけにもいかない。とりあえず縄かなんかで縛って起き上がった一発二発だ」
「そ、そうか…ほら、縄はこれだ。安物だが」
商人がそう言って取り出したのは少し乾いたロープで、素肌で触れば痛そうだ。
ランディはそれを受け取って昏倒して未だに痙攣するアリナリーゼを適当に縛る。
「……なんで適当に縛って亀甲縛りにできるんだお前は」
「本当に適当だが?」
「……流石にそれはドン引きだよお兄ちゃん」
「……僕の騎士兵像が崩れ去っていく」
「なぜだ」
一行は縛ったアリナリーゼを連れ、商人と共に宿屋に向かうのだった。
こうして、アリナリーゼの短い逃走劇は幕を閉じ、それと同時に婚期が遠のいていった。




