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到着、温泉極楽のアタゴ村。

 草原も終わりを迎え、そろそろ開拓された街道が目立ってきた。

 軍馬の上からアタゴ村が近いことを察する俺とリーシアは、馬に揺られるのに慣れてなく、乗ること事態にウキウキ気分のハルカと、全体的に乗り物酔いが酷いミレニオの方を見る。


「ミレニオ、頑張れー! アタゴ村はもうすぐだぞー!」

「はい……旅は……過酷だなぁ……」


 俺は自分の軍馬の上に一緒に乗せた軍用犬のミレーヌを撫でながら、別の馬の上でぐったりとしているミレニオを励ましたが、ミレニオの反応は微妙だった。

 着実にアタゴ村には近づいていて、そこで一晩した後は、港の方へ向けてさらに北方へと足を運ぶという日程になっており、俺達はそのアタゴ村までの道のりを軍馬の上に乗って移動中なのである。


「ランディ、アタゴ村はすぐそこだが、どんなところなんだ? 前に住んでたんだろう?」


 横で白い軍馬にまたがった姿が美しすぎる騎士兵団長、リーシアは俺に聞いてくる。

 リーシアがまたがっている馬の名前は《スティーブ》と言い、アルトレリアという世界全体からじゃあ珍しい白い毛並みを持つ軍馬で、リーシアが騎士兵になる前からのパートナーらしい。

 ちなみにオスでコレまたリーシアに近づく男には容赦がない。もちろん俺も例外ではないらしく、騎士兵だった頃、たまにスティーブが俺を蹴ろうとして、ミレーヌと喧嘩をしたことがあった。

 今でもそのリーシアへの過保護っぷりは半端無く、油断をすれば蹴ってくる。

 最近はハルカへも過保護な面を見せて、どんどんと女好きの種馬ぶりを発揮している。


「あ~…そうだなぁ。一言で言えば、何もない村だな」

「洗濯屋の仕事もそこで始めたのだろう?」

「あぁそうだよ。そしてそこの村の近くにある森でハルカと出会ったんだ。今でもその森のど真ん中にでも行けば、ハルカと出会った時に出来たクレーターが見れるだろうよ」

「……お前たちの出会いには一体どんなドラマがあったのだ」

「さぁな」


 実は未だに俺も理解できていない。

 大体、いくらハルカの体が丈夫だと言っても、クレーターができるレベルの衝撃と共に落下してきたなら、綺麗な顔も何もかもがぐっちゃぐちゃのグロテスクなタダの物体になっているはずだ。

 それになんで別世界から渡ってきてそんな事になるのかも全然理解できていない。

 理解できないのを妥協し考えることを諦め、元の世界に戻すだけに集中している。

 今はそれだけで十分というものだろう。

 結論、結果が全てだ。どうでもいい。


「とりあえず入った後はすぐに調査だ。元々俺が洗濯屋をやらせてもらっていた宿屋の人には俺から宿を貸してもらえるように言っておく。お前はハルカとミレニオ連れてアリナリーゼを使ったと思われる馬が無いか調べろ」

「ミレーヌはどうするのだ?」


 リーシアは俺の背中に寄りかかって寝ている、体長2メートルを越す大きな犬を見る。

 いい加減にして欲しいぐらいミレーヌはかなり重い。

 そんなわけだが、俺の乗っている馬が豪傑なおかげだろう、全く負担ではなさそうだ。

 俺の方は肩越しに感じる負担で酷い肩こりを起こしそうだが。


「ミレーヌは自然と俺に付いて来るだろうが」

「それもそうか。ミレーヌの今の飼い主は一応私にはなっているが、実際のところミレーヌはお前が飼い主だと認識しているから、そうゆうところを理解した上で世話をしろ」

「了解、隊長ちゃん」


 俺は人差し指を振ってそう答えた。

 元々の飼い主は俺で、このミレーヌを拾ったのも俺だ。世話する義務は俺にある。

 確かに正解だ確かに正論だ。だがここまでのバカ犬になるとは俺も思わなんだ。

 あの時の激アマスティックファイナリアリティ正義感ドリームに満ちた俺を是非殴りたい。

 いや殴らせろ。


「今のお前とミレーヌを見て、さぞあの時お前が殺してしまったミレーヌの母も喜ぶだろう」

「罪滅ぼしに娘育ててる殺人犯に今更そんなこと言うな胸糞悪い」

「そうだな。さてそろそろアタゴ村に入るぞ、二人共、馬から降りろ」


 リーシアの指示で、全員馬から降りて、手綱を引いて村の門をくぐっていく。


 アタゴ村は温泉がいろんなところで湧き出ている不思議な村だ。

 ところどころで湯気が漂っており、至る所にいる人が涼し気な格好をしている。

 このアタゴ村は勇者伝説誕生時代以降に出来た村で、人口は少なく、温泉という名の観光資源が豊富ではあるが、観光地としてはまったく売り出してはいない。

 村の温泉に入れば極楽そのもの、つまりはこの村はゆっくりと骨を休めたい人には天国も同然のユートピアなのであり、俺が島流されとして選んだ場所がここである。

 実際3年ほど俺はここで骨を休めてきたが、最高の休暇だった。

 そんな俺とは別の場所ではリーシアが血反吐を吐いて戦っていたというのに。


 村に入ると、村人の何人かが俺達を見て、会釈をする。

 …と村人の一人が俺に気づいて声をかけてくれた。

 その人は、ちょうど道具の搬入を終わらせて、馬車から降りてきたところだったバァーン。


「おろぉ? ランディのあんちゃんに…そっちは妹のハルカちゃんじゃねえか」

「おぉ、そうゆうアンタは道具屋のおっちゃん。ぽっくり逝っていないか心配だったよ」

「減らず口は治ってねえのなぁアンタ……とりあえず歓迎するでい」

「感謝するが、俺達はそんなにゆっくりしてる暇はない。…おっちゃん、仕入れの作業していたところ悪いがバグラー達を預けられる小屋に後ろのこいつらを連れていってやってくれ」

「おぉ、わかった。さぁこっちだこっちだ」


 俺の乗っていた馬を含めて全員が乗っていた馬をおっちゃんに預け、リーシア、ハルカ、ミレニオはおっちゃんに連れられて小屋の方へ行く。

 そして予想していたとおり、ミレーヌだけは俺と一緒に残り、足元に擦り寄ってきた。

 本当にミレーヌは俺のこと大好きなんだなぁ…犬としてどうなんだとは思うが。


「さて、ミレーヌ行くぞ」

「ワゥン」


 ミレーヌは一鳴きして俺に付いて来る。

 そして、俺は宿屋の方へと足を運んで行くのだった。

 にしても今日はなにやら人通りが少ないな……皆、風呂に入るような時間だっけ?





 一方その頃、南方の大国であるディスタム王国の国王ハーケンは宿屋の一室で、西方の大国ヨーロリア共和国の大統領アスクード=レリーニと秘密の会談を行っていた。

 議題は北方のインテスカ帝国の国王ワイズマンの目的である。


「……奴の目的が一体なんなのかはっきり見方をつけないと、戦争を止めるための先回し的な対策はなにも出来ない。これをクリアさえすれば、勇者の証言をゲットした後に追撃で先の戦争を全て抑えられる」


 レリーニは指と指の間に羽ペンをはさみながら説明し、ハーケンは頷く。

 そしてハーケンは手元に置いていた紙に書かれていることを読み上げる。


「まず有力なのは、奴自身が戦争をしたがっているかもしれないということです。これは彼自身の本性がコロシアムで罪人同士を戦わせるのを趣味にしているような下衆だという可能性を考慮してのことです」

「でもそうなると戦争止める理由が明白ではあるが、彼が独断で武力を行使する可能性があって、戦争の根本的抑止は出来ない……奴を止めるには暗殺をするしかない」

「だがそうなれば第二第三のワイズマンが現れる。…まったくそうゆう理由だったのであればワイズマンなんていう名前を持って生まれておきながらやってることは馬鹿そのものだ」

「全く同意ですね。――では次だ」


 レリーニに言われ、ハーケンはさらに一枚紙を取り出してそれを読み上げる。

 そこにはインテスカ帝国の経済状況に関するレポートが書いてあった。


「この資料は我が国、および貴国、そしてインテスカ帝国と契約をして取引および貿易をしていた会社、業者、ともに泳がせていた裏稼業共の金の流れのデータです。是非お読みになってください」

「……裏稼業共というのは?」

「なんでもよろしい。いいですか大統領閣下。我々は正義を振りかざすボランティア団体とは違います。裏稼業を行っていた者共を脅迫してより多くのデータを収集することは責められはすれど、悪いことではありません」

「ただの正義感では戦争を止められないと……」

「それぐらいの覚悟を持って政治に望まないといけないというだけです。正しい政治のために犯罪を犯したならば刑務所に入りながらでも遂行しなければなりません。それが公務です」

「勉強しているな」

「綺麗なばかりでは回せないんですよ。やり過ぎなことは償わねばですが」


 「さて」と前提を置いてハーケンは一度話を切り、元々手癖で一言の強調する文節の時に指パッチンをしながら説明を続ける。


「この資料から導き出される答えとはズバリ、インテスカ帝国は多額の財政難に侵されているのではないでしょうかということです。祭りでは大金が動く。つまりは戦争をすればさらに金が動くということです」

「その資料の結果はどうだったのかね?」

「見事な財政難です。インテスカ帝国を拠点としてた大手企業はどこも次々と廃退を起こしています。理由も何故だと問い合わせたところ、あのワイズマンが商品が私より人気なのは気に入らないと大手企業に次々商品差し止めを行ったからです」


 これを聞いてレリーニは頭を抱えた。

 だがコレを聞いて一番頭をいためたのは実はハーケンである。


「それによってこちらのディスタム王国では共倒れする企業が後を耐えません。今現在生き残って元気に商売しているのは元々ヨーロリア共和国の方に取引先を持っていた企業のみです」

「ヨーロリア共和国の企業はほぼディスタム王国の方に取引先を持つ企業ばかりだったから被害は軽かったわけだ…なるほどそちらの頭が痛くなるのも当然ということですな。同情します」

「えぇ。ありがとうございます。 ――でもそれによって今回、あの愚王を黙らせて椅子から引きずり下ろし、市中引き回しの刑に処して王権を剥奪することができるチャンスを得ることが出来ました。このチャンスを逃す手は無い」


 遠回しに結託するしかないと言ってハーケンはぱちんと指を鳴らした。


「というか最初からこの会談をする必要などなく、この証拠があればあの愚王が行った行為の後詰めで金集めとして戦争しようとしていることなど明々白々です。最初からする必要などなかった」

「なるほど、だから最初からこれを共有するためだけの会談だったわけだ」

「これを聞いて別の理由があるという余地があるか聞いてみたかっただけです」


 それを聞き、レリーニの表情は緩まった。


「それ以外の余地などない。ほぼ確実だろう…だが、一個前の戦争快楽主義という可能性も否定出来ない以上、そちらも考慮してあの愚王を論破する必要がある」

「……反論の余地なく叩き潰せと?」

「そうゆうことだ。 では失礼するよ。今日は良い情報をもらった……次が楽しみだ」

「まったくです」


 そう話し合う二人の顔は……悪代官のような顔をしていたという。






「すみませーん。誰か居ますかー?」


 宿屋に足を運んだ俺はしんと鎮まりかえった宿屋の中で声を上げた。

 隣には相変わらずミレーヌが擦り寄ってきており、若干歩きづらい。


「いつもはあのおばちゃんが出てきてくれるんだけどなぁ……」


 この宿屋はおよそ80を回った老婆が受付をしており、そのおばあちゃんは人がよく、村の中で老若男女問わず人気があった名女将だ。

 俺もかなりお世話になったことがあり、洗濯屋もそのおばあちゃんのお陰で開業できた。

 いつもは「はーい」と呑気な言葉で出迎えてくれるのだが……


『えぐっ………えぐっ………あぁ……』


 何やら宿の奥から誰かがむせび泣く声が聴こえる……おばあちゃんの声だろうか?

 そう思って俺は遠くの方から聞こえる声を頼りにその声がする部屋を目指す。


「……ここか?」


 俺がノックをすると、鳴き声に混じった声の中に「どうぞ」という声が聞こえてきた。

 そして俺は恐る恐るドアを開くと、誰かが目の前に立っていた。

 その人の顔は泣きはらしており、顔を見た瞬間悲しいという感情が伝わってくる。


「いらっしゃいませ……」

「あの……貴方は?」

「この宿屋の従業員です……お祖母様であれば、こちらに」


 俺は従業員だという人の手を目で追っていくと……そこはベッドだった。

 そしてそこには、謎の黒い塊が、静かに横たわっていた……。


「……………えっ?」


 俺は目を疑った。そして従業員の顔を見ると、その人は静かに目を伏せた。

 ……まさか。


「この人が、この宿で長年経営をしてきた……私のおばあさまご本人です」

「な、なんで!? どうして!? なにがあったんだこれは!?」


 頭が混乱して正しい知恵が働かない。

 それながらも従業員になにがあったのか掴みかかりながら問いただす。

 気づけばミレーヌは何かを察したのか、ドアの向こうで利口におすわりをしていた。


「昨日から……ご宿泊してきたお客様が………明らかに酒に酔っておりまして……なにやら酒場の亭主が気に入らなかったから消したと言っていて……それでお祖母様が問いただしたところ……すごい大きな……炎で……う……うぅぅううううう……!!!」


 俺は混乱する頭を一生懸命掘り起こし、質問を投げかける。


「そいつの……名前は……?」


 そうだ、俺だって犯人が誰だかわかってしまっている…だからこそだ。

 こんなことをしたのは……

 従業員は長い沈黙を経て、その犯人の名前を証言した。


「……………………ありな、りーぜ……」






 一方、リーシアとハルカとミレニオ一行は道具屋の主人に連れられ、小屋についた。

 道具屋の主人は手を掲げながら小屋が何なのか紹介するのだった。


「こちらが、バグラーを休ませるバグラー小屋でっす。ではこちらにバグラーを……」

「あぁ、すまない。恩に着るよ……ほら、スティーブ達。こっちだ」


 リーシアたちは馬たちを案内し、ゆっくりと戸を閉めて、それぞれをゆっくりと撫でる。

 そしてリーシアは馬を撫でる傍ら道具屋の主人は周りを見回しているのに気づく。


「どうしたんだ? 何か気になることでもあるのか?」

「……俺は今日帰ってきたばっかりなんですが……なにやら人が少ない気がするんです」

「あぁ……そういえば、村人に会わなかったような……ん?あれは?」


 リーシアは外をふと見ると、そこに何やら酒瓶を持った何者かがフラッとどこかに向かって歩いていた。ふらふらとその歩みは千鳥足で、ほとんど目に力が入っていない。

 その人物をじっとリーシアが確認すると、それが誰かわかった。


「――アリナリーゼ!?」

「えっ!?どこですか!?」


 気づいた途端、リーシアは剣に手をかけて走りだした。

 リーシアの声にびっくりして、ハルカとミレニオがそちらに視線を向ける。

 そのときには既にリーシアはアリナリーゼの元へと駆け寄っていた。


「アリナリーゼ!貴様!こんなところに居たのだな!」

「…………あへ……?」


 リーシアが剣を抜き、切っ先をアリナリーゼに向けながら言い放ち、アリナリーゼはその声に反応はしたものの、気が抜けたような、気だるそうな反応を見せながら声を上げた。

 一瞬遅れてハルカとミレニオもリーシアの後ろに立った。

 それを見たアリナリーゼは……急に眼差しが変わった。


「あんたら……うざいのよ……」

「それがどうしたというのだ。貴様を逮捕し、戦争を断絶する。それが私たちの目的だ」


 アリナリーゼは何があったのだろうか目を伏せ…やがて唸るように言った。


「それがうざいってのよ。馬鹿のひとつ覚えみたいに戦争戦争戦争戦争。嫌になって酒を飲んでみれば金を払えと店主がうざいうざいうざいうざい……」


 突如豹変したアリナリーゼ。その変化をいち早く察したのはハルカだった。


「リーシアさん。あれは……はっきり言ってやばいと思います」

「ふむ……一応君たちは下がっておきたまえ」

「いえ、私達も戦います」

「僕も……女性二人だけには任せてオケませんからね」


 ハルカはスタッフスピアを取り出し、ミレニオは剣を抜いて、そしてリーシアは盾を腕に装着し、剣を自分の振りやすい位置に構えた。

 その時、アリナリーゼは何かが爆発したような炎弾を手のひらの上に作ってみせた。


「亭主を消し炭にしてやれば村の連中がうざいし……あんたらは何が正義かを振りかざしたような顔であたしを追ってくる……それもこれもみーんなうざいうざい」


 ゆらり、という一つの動作にもリーシアは気を配り、厳しい目線を送る。

 そしてアリナリーゼは、酒に酔った以上に狂気に満ちた顔をして……咆哮を上げた。


「だからぁ……何もかんも、もううざいんだよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

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