平和に動き出している
「や!!セイ!!」
「ふっ!? うおおおおお!」
――ガキンガキン!
アタゴ村を前にした最後の大きな草原、リーシアとミレニオは剣術の稽古をしていた。
ミレニオは盾を使わず、剣と魔法による複合剣術が得意らしい。
一方リーシアの方は一見防戦一方に見えて相手の隙を狙うタイプだった。
その二人が今は剣術の稽古をしているわけで…俺はそこら辺の木々に取り付けたハンモックに寝そべって、ハルカが作った昼食で私腹を満たしていた。
「コレでどうでしょう!!《フレイムⅠ》からの《瞬迅》!!」
「甘いぞそんな程度の弾幕で目眩ましできると思ったら大間違いだ!」
「――うわぁ!!」
ハルカに教えてもらったであろう名前を叫びながらミレニオは炎弾を放ち、それと同時に突きでリーシアに勝負を掛けるが、それはリーシアの盾の一振りによって全部蹴散らされた。
リーシアに逆にふっとばされてミレニオは俺のハンモックを張っている丁度下まで転がって来て、俺を見上げる。その様はまるでお昼寝をしているカンガルーのようなもんだった。
「…どうだ修行になりそうか?ミレニオ」
「相手が強すぎて僕が話にならないぐらいは…」
「弱音を吐いてどうするんだ。見たところお前は筋がいい。もっとぶつかってけ」
「はい!」
俺に言われた通りミレニオはリーシアに突っ込んで、また吹き飛ばされる。
さっきからこれの繰り返しだ。
ミレニオ自体の実力はかなりのものだ。素質だけならリーシアと引けをとらない。
腐っても剣客だった親父の才能は受け継いだのだろう。実際かなりの食わせ物だ。
「お兄ちゃん。ミレーヌがハンモックかじってるよ?」
「は? ――うおわっ!?」
昼食の草原野菜ソテーを持ってきたハルカに言われてハンモックの下を覗くと、そこで軍用アサルトドッグのミレーヌがハンモックのヒモを思いっきり引っ張っていて、俺は覗き込んだせいでバランスを崩してハンモックから転げ落ちた。
構って欲しいなら鳴けと何度も言い聞かせているはずだが…何故そうしない。
挙句の果てにミレーヌは俺の顔を舐めてくんずほぐれつと戯れようとしてくる。
「このやろう……」
「ワンワン!(構って構って!」
「心の声が聴こえる気がする!ハルカ!助けて!」
「ミレーヌぅ。こっちでご飯たべましょーねー」
「ワン!」
ハルカの作った肉料理の臭いにつられてミレーヌはソッチの方へ行く。
まったく馬鹿なやつだ。
俺はハンモックから転げ落ちたままの体制でリーシアとミレニオを見る。
そして目線を逸らして魔法の研究を微々たるものだがするハルカの様子を眺める。
よくよく考えて見れば努力の何一つしてないのが俺なんだが……。
「どうでもいいk――」
「おいランディ!こっち来い!お前も一緒にミレニオを鍛えるのに手伝え!」
こうゆうことになるのはわかってたが…すごく今更に努力せねばと思った。
俺は起き上がってリーシアとミレニオのところに歩み寄ると、二人は突然俺に剣を向けた。
「おいなんのつもりだ」
「抜き打ちテストだ」
「マジか」
俺はリーシアの一閃を一度避けて腰にくくりつけていた小手を取り出して装着する。
そして続いて飛んできたミレニオの突きを間一髪で避けつつ手首を掴んだ。
「よっと…《水車返し》!」
ミレニオの体は非常に軽く、そのまま掴みあげて背負投げで地面に叩きつける。
そしてもう一度腕の力だけでミレニオを持ち上げ、再度、背負投げを見舞った。
「敵に背を向けるなランディ!せああああああ!」
「おわっ!?」
ミレニオを二度地面に投げ伏せた直後、リーシアが声を上げて斬りかかる。
俺はミレニオを一度投げ出して草むらの上を前転して射程範囲から逃げ切った。
「わわっ!? 拳相手に真剣を振るうな!あぶ!? あぶねえだろ!?」
「今更だろう!が!」
リーシアは俺を退けた後、ミレニオを強制的に叩き起こし、体制を整える。
俺も着衣を正しながら、肩を鳴らした。
「リーシア。俺がお前に勝てるのは屁理屈ぐらいだ。実力が明々白々なのはわかっただろ」
「いつまで猫かぶっているつもりだランディ。こうゆう時ぐらい先輩風を吹かせたらどうだ」
「無茶言うなアホ」
俺、リーシア、ミレニオは仲良くも激しくじゃれあい始めた。
大きな声を張り上げながら。
そんなどんちゃん騒ぎをしている傍らで、ハルカはミレーヌをかわいがっていた。
「うふふ…ミレーヌぅ。あなたはかわいいねぇ~」
「くぅ~ん……」
どうやらハルカはミレーヌに気に入られているようで、よくなついている。
ハルカは俺やリーシアとは違い、よく甘やかすタイプらしく、そのせいかもしれない。
ミレニオを未だに毛嫌いしているのはなんでか分からないが。
そんなこんなで俺達の平和かつ急ぎ足な旅はまだまだ続いていたのだった。
その頃、ハーケンは三国会議の場として集まったヨーロリア共和国領事館でだらだらと気持ちの悪い冷や汗を流していた。
「……戦線布告を取り下げる気はない……とは?」
ハーケンは目の前に居て椅子に思いっきりふんぞり返るワイズマンに問いただす。
隣にはグレイマンがおり、そのグレイマンは驚愕に満ちた顔をしていた。
まるで目の前に居るワイズマンがありえないとばかりに。
「勇者殿も居て、その勇者殿から戦争の了承を得ています。それに今更戦争を取りやめることになったら私共の国民に申し訳ない。せっかくやる気になってるんですものでして…」
「せっかくで戦争をされては困ります。それと勇者殿がお目見えになっていないような気が致しますが私共の気のせいということでよろしいでしょうか?」
「気のせいではございません。我が国で厳重に管理されておりますゆえ」
ちっ、という舌打ちがハーケンの口から小さく漏れる。
やはり召喚士と勇者を差し押さえなければどうにも出来ない。
そして横で聞いていたヨーロリア共和国の大統領である《アスクード=レリーニ》は二人の論争を聞いてため息をしながらワイズマンに向けて口を開いた。
「失礼。勇者殿は私の送った間者の情報によると非戦闘員…つまり、戦闘能力は皆無ということらしいのですが…本当にこれで戦争をしようとおっしゃられるのでしょうか?」
「いいえ、それは私の密偵が送った偽の情報です」
ワイズマンが反論した途端、レリーニの目が光る。
「嘘をおっしゃられましたね…その間者とはそこにいるグレイマン外交官です」
思わず後ろを振り返り、グレイマンに非難の目を浴びせる。
グレイマンは何も悪いことはしてないと言わんばかりに鼻を鳴らした。
その態度にワイズマンは舌打ちをして、悔しげな声を上げた。
「カマかけよったか…小賢しいガキどもめ」
「貴方が愚かなだけでございますですよえぇ」
「貴様……」
「待ってください。ここは穏便に事を構えなければなりません、双方牙を収めて」
レリーニとワイズマンが睨みを効かせている横合いからグレイマンの待ったが入る。
それで両者はどっちも鼻を鳴らしてそっぽを向いた。
「とりあえず三国共に現状は維持しつつ、今回は一旦勇者さまと、その勇者様を召喚された召喚士様との面談の機会を設けるため、次回の会談に持ち越しとします。――それでよろしいですね?」
「あぁ、構わない。じっっっっくりと話しあわせてもらおう」
「ふん、いきがっておれ小僧」
ワイズマンは一番先に立ち上がり、その場を立ち去る。
そしてその場にはグレイマン、レリーニ、ハーケンの三人が残った。
「さて……時間は有限ですがまだまだこれからです」
「はい。我々が彼の権利を失墜させるには、勇者様との会合が必要になります」
「そして……召喚士、アリナリーゼとも」
「……そちらの国で探させているという、優秀なリーシア様に全てを任せる他ありません」
「一刻も早く……とは行きませんが、ここは気長に行きましょう。まだ策は出しきってません」
レリーニとハーケンはそれぞれの打診に基づき、一息ついた。
そしてグレイマンもまた、息を吐いた。
「あのワイズマン国王が素直に勇者を出すものか……そこも少し怪しいところですね」
「出すわけないでしょう。おそらく勇者を騙る何者かを表に出してくるのが見え見えです」
「私は勇者さまに会ったことはありませんが……もしかしたら口を割る人物がいればだな」
……。
領事館の会議室内に一瞬、重い沈黙が訪れる。
その沈黙をいち早く破ったのはグレイマンだった。
「やはり勇者の見分けを証言する召喚士を人質にしたほうがいいですね」
「結局はリーシア達頼み…ということですな」
ハーケンはグレイマンの提案を聞き、椅子にもたれかかり、脱力する。
そして今度は軍備に詳しいレリーニが人差し指中指薬指を上げて口を開く。
「……期間はもって3ヶ月…それ以上はありません」
「その期限を超えたら、突如として帝国が武力行使を行ってくる……最悪だ」
「こうなったら神頼みです」
重苦しい雰囲気の中、三人は両手を合わせて祈るしかなかったのだった。
なるべく早く召喚士が捕まるのを信じて…。
一方、召喚士は……。
「かぁ~~~~~~!! うんメェ~~~~~!! マスター!もう一杯!」
「またかぁ? よく飲むなぁアンタぁ…代金は持ってるのかぁ? 海を渡る金もねぇくせに」
「だ~いじょうぶだいじょうぶぅ!ひゃっひゃひゃひゃひゃ!!」
「マジで大丈夫かこのねぇちゃん……」
アタゴ村にある酒場でやけ酒に走っていた。
店主からしてみればこの飲みっぷりで金を払ってくれたら万々歳だが……先程、都市部の城下町で金を使い果たして船に乗れないなどの愚痴を言っていたため、代金は払えないだろう。
騎士兵でも来てくれないものか…と店主はほとほと頭を抱えた。
「そういやぁランディの兄ちゃん…今頃元気かねぇ」
「おっちゃぁああああん! さっさと酒ぇえ~~~~うぉええええええええええええ」
飲み過ぎて気分の高揚したようすのお客は床に◯◯をぶちまける。
……早く来てくれ騎士兵さん。と店主は本気で両手を合わせて祈るのだった。




