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BBQとメス犬と決まり事

「あー!!そのお肉は私のだよお兄ちゃん!」

「はっはっはー!この世は弱肉強食なんじゃー!」

「こらランディ!いやしいことをするんじゃない!ハルカ殿、まだまだあるからどんどんと食べてくれ!」


 大きな森を抜けた平原のど真ん中、俺達は大きな火を焚き付けて、森で狩ってきたイノシシを焼いてみんなでそれを頂いていた。

 ミレニオもそれを食べて驚きの表情を浮かべる。


「あ、このイノシシの串焼き美味しいですリーシアさん」

「そうだろう?大自然の中で頂くものだ、いつも家で頂く高級料理とはまた一線を画した別の美味しさがあるだろう? これが、命を頂くということだ」

「なるほど…勉強になります!」


 料理を作っているのはリーシアで、腕はかなりの物だった。

 ハルカもそれなりに作れるが、何分料理の知識ではなく、野外で食べる粗食に関しては圧倒的にリーシアの方が実力過多だった。

 事実俺もハルカもミレニオも仲良くイノシシ肉を食べて満足している。


「リーシア、そっちの肉取ってくれねぇ?調味料は…」

「塩と◯村のタレだろう? ほら」

「さすがだな! これをちょ、ちょ、ちょ、ちょっと………ぱくっ。うまーい!」

「本当に好きだなその食べ方…そうだな私も……ちょちょちょっと…うーん美味!」


 俺とリーシアは手元に塩とタレ、イノシシ肉を手に取りながら大地に感謝する。

 昔からこの食べ方をリーシアと共にしていて、野外といえばこれと言う暗黙がある。


「リーシアさんとお兄さん…やっぱり仲が良いですね」

「そうだね…羨ましいよ」

「――ワン!!」

「あ、ミレーヌもそう思う?」

「ワン!」


 リーシアとイノシシ肉を食べる目線の片隅に何やら寂しそうに言い、ハルカの片隅に寄り添ってきたミレーヌと会話をするハルカ。

 俺はハルカに駆け寄り、イノシシ肉を渡してさらにそのイノシシ肉にタレをかけて食べさせようとする。横にいたミレーヌがちょっとムッという顔をした。


「ハルカ!お前も食えよ!これが本当に旨いんだわ!」

「ワン!ワンワン!」

「おうおうミレーヌもな。よーしよしほらほら」

「あ、本当だ美味しい!確かに二人がハマるわけだよ!ミレニオ君も!」

「美味しい……確かに美味しいです!」


 俺達は賑やかにお肉と炎を囲みながら談笑し、食べる。

 このまま世界が平和であれば俺も何もかもを忘れてしまえるような気が…




「――ってちがーーーーーーーーーーーーーう!!!!!」




 俺は立ち上がって叫んだ。

 自分の意思がネジ曲がっているのに今更気づいたからだ。


「俺達は今こんな感じに悠長かつ豪快に肉を食っている場合では無いはずだろうが!西方のヨーロリア共和国の方に向かった騎士兵からはすぐに連絡が来てアリナリーゼが来てないことは確認済みだが急がない理由にはならないだろう!?」

「まぁまぁ、でも良かったじゃないですか。アリナリーゼは海を渡ることが出来ないことを知れて。これでやつを一歩追い詰められたではありませんか」

「ミレニオ君、確かに君の言うとおりだ。だが何故俺達はこんなゆっくりしてるんだ?世界平和の為に一生懸命東奔西走しなければいけないはずだろう何故こんなにもゆったりなんだ?」


 俺は長く長く問いただし、肉を一口かぶりつく。


「まぁまぁいいじゃないかランディ。そんなことだろうと思って陸続きの関所は全部閉鎖。それにくわえて海路に加えて船はハーケン陛下が全部買収されて実質差し押さえ…さらにダメ押しにミレニオがドサクサに紛れてアリナリーゼに付けさせたマレーの香水」

「……たしかにここまで来れば逃げられないかも知れないだがこんなに悠長にしていたら捕まえられる奴も捕まえられなくなる!もしかしたら密航でもなんでもやって渡るかも知れないだろ!?」

「そのために陛下に頂いたこのミレーヌがいるんじゃないか。なぁ?ミレーヌ?」


 リーシアはイノシシ肉を一つつまみ上げると、俺の足に擦り寄る何故か俺に懐いた軍用アサルトドッグのミレーヌに食べさせる。ミレーヌはさぞ幸せそうな顔でイノシシ肉にかぶりついてやがった。

 この俺が大好きっぽい白い毛並みを持つ綺麗な犬は、俺が騎士兵団時代に飼育係になるよう言われて仕方なく世話をしていた小隊のアイドルだ。今ではリーシアが管理をしている。

 臭いに敏感で、特に香水を振った女の臭いを瞬時に嗅ぎ分けられる。性別はメスだ。

 何故俺にこんなに懐くのかは未だによくわかっては居ないが、リーシア曰く「お前が旦那になるのだと信じて疑わない。一途な子」だということだ。本格的にわけがわからない。

 やめろこっちにケツを向けるんじゃないこのビッチ犬。


「俺はこんなにトントン拍子に行くとかえって不安だと言っている。本当に大丈夫か?」

「大丈夫じゃないさ……だからこそ慎重かつ悠長に構えてるんだろう?」

「どうゆうことだよ」

「急ぎすぎると見落とすかも…ということだ」

「いみわかんね」

「私こそ意味がわからない。ランディお前こそ何を焦っているんだ…時間ならまだ少しはある。活動しにくい夜ぐらいゆっくりと腰を落ち着けて、休もうじゃないか」


 肩に力を入れ過ぎるとかえって空振るかも…というわけか正論だ。

 やはり俺はリーシアには口で勝てなかったようだ。

 こうゆうどうでもいい時に限って俺はリーシアと口論で争って負ける。

 お決まりのパターン過ぎて泣けてきたぜ。

 そして足に擦り寄ってきて俺の手にあるイノシシ肉を狙ってくるんじゃないこの馬鹿犬。


「どうせ後手の後手に回るのは俺らだ…それもそうだけど。最低限気を引き締めろ」

「わかっているぞ。だからこそこうゆうときに気を抜けランディ」

「おう」


 俺がイノシシ肉を全部串から抜き去ってやると、ミレーヌはしょんぼりと諦めた。






 俺が翌朝起きると、小ぶりで可愛いミレーヌのおしりとしっぽが思いっきり俺の顔に押し付けられており、俺は起き抜け一番から犬のケツを目の前にするという朝の始まりに気分を害した。


「ミレェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエヌ!!!」

「キャン!?」

「発情するな俺に絡むなってのこの馬鹿犬!」

「朝一番からどうしました…? あぁ、ミレーヌ……おはよう」

「ワン!」


 隣に寝ていたミレニオが俺が発した大きな声に起き上がる。

 そして隣でもふもふっとした白い毛玉が横にあるものだから撫で上げた。


「いたたたた!ごめんごめんごめん!」


 その瞬間、どうやら撫で方に問題があったようで、ミレーヌはミレニオの指を噛んだ。

 俺はミレーヌを落ち着けるために頭を撫でてやると、すぐにおとなしくなった。


「ったく、名前は似てるくせにそりがあわねーのなお前らさ」

「なんだか僕にはまったく懐いてくれなくて…」

「お前の性格が俺と正反対だからじゃないか?」

「犬に性格なんてわかるんですか?」

「知らん」


 それに俺はにゃんこ派だ。


「とりあえずこれからアタゴ村に着くまでは馬で歩きづめだ。荷物をまとめて支度しろ」

「はい……ミレーヌぅ。お前のご主人は人使い荒いんですが…」

「……フンッ」


 ミレーヌは犬のくせにミレニオを鼻で笑って俺に付いてきた。

 この犬かなり訓練されすぎてていささか俺の性格が生き写しになっているようだ。

 俺がテントから抜け出ると、朝一番の陽の光が目に飛び込んで来る。

 そのせいで目がくらみ、とっさに手で西日を遮った。


「すこし、眩しいな…ランディ」

「そうだな…おはようリーシア。ハルカはどうした?いつもどおり朝に弱かったか?」

「あぁ…今もちょっと寝かせてやっている。慣れない野宿で彼女も少し疲れているようだ」

「寝かせてやれ。ちょっとお前と話がしたいところだったんだ…」


 俺は西日に背を向けながらリーシアの方を見る。









「お前なんでミレーヌの教育ミスってやがんだ。お陰で俺は朝っぱらから犬のケツを拝んで起きるという傷心に満ちた早朝を送ることになっただろうがなんでもっと正しい道に戻してあげなかった。犬と犬との生殖の道に!」

「私だって戻してやりたかったでもそれ以上にミレーヌのランディへの想いは強すぎたんだ。気づいたら訓練をすっぽかして一日中お前の写真を眺めて放心していた日があった。むしろ何故今まで会ってあげなかった!」

「俺だって可愛そうだと思ったさ!でもな!人間の貞操欲しがる犬に万が一、俺の純潔が奪ってみろ俺の名声は地に落ちて俺は犬将軍ならぬ犬旦那になってしまって動物保護団体から目をつけられることになる!そうなるのが怖かっただけだ!」

「犬公方になるのがそんなに怖いのか!?それなら芥川賞を取った作家の目の前で才能を感じないと言うこととどっちが怖いのだ?私はちなみに後者の方がよっぽど怖いがね」

「それとコレとは関係無いだろうリーシア!俺は世間体が損なわれることが一番に嫌いだ。そんな芥川賞を取った作家を目の前に才能を感じないと言うぐらいなら俺は最初から小説なんて頭から読まない!」

「はぁ……はぁ……はぁ……」

「ふぅ……ふぅ……ふぅ……」


 俺とリーシアは西日を浴びながら息を上げてお互いを睨み合う。

 その顔はどこか爽やかで、晴れやかなものだった。


「今日の対決は……ランディの勝ち、かな」

「あぁ、今日も中々に楽しめた…そしてミレーヌの教育にミスったのは事実だ」

「そこは詫びよう。また二人で教育してあげようじゃないか」

「是非、そうしよう」


 俺はどこからか取り出した水筒をリーシアに手渡す。

 そして俺がもう一つ水筒を取り出し、二人して飲む。


「……久々にやったな。これ」

「朝一番の定例会議だろう?これはもはや口喧嘩じゃないのか?」

「それが大事なんだろ?これを発案したのはリーシアだ」

「そうだったな……」


 リーシアは草原を見渡し、遠い目をしながら水筒の水を一口含む。


「朝一番の冴えない気持ちを吹っ切るためにどちらかがまず問題提議を持ち上げてそれについてありったけの論争を繰り広げて気持ちを発散させて頭を起こす。結構なことじゃないか」

「お前に勝てないのは相変わらずだがな」

「俺の勝率は7割、ということはリーシアの勝率は3割…主観的に見れば結構いい勝負だ」

「覚えていたのか……」

「俺は一度も忘れたことはないぞ…ばーか」


 俺も草原を見渡して、かなーり遠い目をしながら水を口に含む。


「そろそろ行こう。支度を早くして、とっととアリナリーゼを捕まえよう」

「当たり前だバカヤロー。ゆっくりしてる暇なんてねーんだよ」


 二人で談笑しながら大草原を目の前に俺達は水を飲む。

 その時、テントから何やら不穏な声が聞こえたような気がして俺は後ろを振り向くと。


「お兄ちゃん……」

「ハルカ。おはよう」

「うん、おはよう……」


 この日のハルカは一段と落ち込んでいるように見えた。

 だが、俺はそれ以上の言葉を追求する気にはなれず、口を固く閉じたのだった。


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