悪の召喚士を捕まえろ! ~延長戦~
その後俺達は一生懸命城下町の中を走り回りアリナリーゼを捜索した。
数十分ぐらいしか立たなかった頃、ある飲食店の前でハルカを見つけることになる。
「いた!ハルカ!」
「っ!? しーーーーー!」
ハルカは指を立てて俺に静かにするように言う。
そしてハルカはその指をゆっくりと飲食店の方へと向けるのだった。
その指の先には…
「アリナリーゼ…こんなところでのんびりと飯食べやがってこのやろう…」
「さっき私を見失った後にここに入っていって…パフェ、プリン、かき氷、ホールケーキ、ショートケーキ、チーズケーキ、ミルフィーユ含めて計26品を食べつくし、今は止めのお肉を平らげてる」
「なんで甘々としすぎたスイーツをがぶ喰いして最後に肉なんだ。アイツはバカじゃねえのかとほとほと思ってしまうな。もしかしたら召喚もその真の意味がわからずにやっちまったのか」
見れば本当にリブ肉にかぶりついていやがるなんて業突張りだ。
いっそマーサの森の瘴気の影響で現れたサイズワームと一騎打ちで相撲をして、その強烈に痛そうな前足で強烈な張り手をくらってしまえば少しはマシになるだろうか。
いやならないだろうな。横のコイツが何やらそれでは許さなそうだ。
「……僕が逃してあげて、挙句の果てにこんな人たちに論破されていたというのに本人は呑気にスイーツを食べているですって……? 僕を馬鹿にするのもいい加減にして欲しいですね……」
「…あの、お兄ちゃん。この人ってあの家に居た…」
「紹介しようミレニオ君だ。一応は俺達の仲間としてアリナリーゼを捕まえるのに協力してくれるらしいから安心して任せておけ。俺が手綱を握っている限りはコイツは便利な駒だ」
「あ、そうなんだ…ミレニオ君。よろしくね」
「あ、はい…ハルカさん…でよろしいんですよね?」
ミレニオとハルカがお互いに握手を交わし、初対面同士仲良くする。
俺とリーシアはそんな二人を尻目にどうにかアリナリーゼを捕まえる算段を考える。
「どうするリーシア? あの呑気な売れ残り不良債権どうやって捕まえるか……」
「うーむ残念ながら私は不良債権なんて言葉の意味を知らないんだがランディが言っているような不良債権の意味だと私達は別にアリナリーゼを捕まえなくていいことになる」
「でもそれだと結局は国のトップに迷惑を掛けるだろ?やっぱり不良債権であってる」
「なるほど。確かに」
俺とリーシアで二人で談笑でもしながら考える。
っとしてもタイムリミットは結構短い。どうしたことやら…。
「ハルカさん、あの二人って仲が良いですよね…? 恋人同士なんですか…?」
「いえ、普通に騎士兵団の中で仲良く苦労を分けあった戦友だそうですよ」
「へ、へぇ……騎士兵団長と深い交友関係を持っているランディさんって一体…」
「ただの口達者な私のお兄ちゃんです」
「そこ!! お前ら二人共もなに呑気に縁側で茶をすすり、息子か娘の縁談を微笑ましく見つめるおばあちゃんか何かの様に突っ立っているんだ!小説家を舐めきったようなラブコメでとろとろにとろけてしまった頭を使ってお前らも少しは考えろアホどもが!」
「「は、ハイぃ!」」
二人への説教が終わり、俺は再びレストランの方へ振り向く。
まったく油断も隙もない連中だ。
人をたやすく結びつけようとするなこのカップリング厨め。
「やっぱりミレニオを囮にやつを油断させる他ないだろう」
「やっぱりそうなっちまうか…すまんミレニオ、良心が痛むだろうが頼まれてくれ」
「ははは、何を言ってるんですが。お二人が我が家を強襲してコレが正義だと思い知らされた時から良心なんて粉々に砕け散って欠片ほども残ってませんよ。まったくもー」
「はっはっはー」 ←ランディ
「はっはっは」 ←リーシア
「はっはっは…」 ←ミレニオ
「んだとてめぇ!!!!!」
「では行ってまいります!!」
ミレニオは逃げ足だけは早かった。いち早く俺達から離れてレストランの中に入って行くと、アリナリーゼと表向きはフレンドリーに合流する。
そしてミレニオはそのまま外に連れ出すように説得してみるが、外に俺達が居ないか心配なアリナリーゼはどうやら判断を渋っているようだったわけで、正直苦戦中だ。
「……なんでお兄ちゃん状況がわかるの?」
「騎士兵団流の雰囲気を読む技術だ」
「すっごい便利だね」
俺は着衣をただしつつ咳払いをしてごまかす。
別に何かで盗聴しているわけではない。
「盗聴してるんですね」
「心を呼ぶな!ツッコミ入れるな!そもそもそんな技術がこちら側にあるわけないだろ!」
最近どうもハルカの俺に対する理解力が上がってきている冗談じゃない。
なんて息巻いていると、何やらレストランの中で動き出したようだ。
ミレニオが無理やりアリナリーゼの手を掴んで…そのまま裏口から走り去った…。
「走り去った!?」
「おうぞランディ!面食らっている場合ではない!」
「チクショウ!! なんだこのドタバタ人情コメディにあるような見事な裏切りは!これでミレニオが行き止まりにでもわざと行かない限り俺は絶対にやつを許さないぞぉぉぉぉお!訴訟して人生無敗の弁護士に大金払って勝利してやる!」
「グダグダ五月蝿いよお兄ちゃん!さっさと走って!」
「アイワカッター」
俺達はアリナリーゼとそいつを連れて行ったミレニオを追いかける。
地理に詳しいリーシアが目の良いハルカを連れてミレニオたちを追っていく。
…走って行くとどうもグネグネしすぎているような気が……ん?
「なんかグルグル回ってないか?」
「いや、回ってはいない。 よかったなランディ。ミレニオを許すことになりそうだぞ」
「ほう…どこの行き止まりにいくのかな?ん?」
「この先だと…城下町最西端のあるギルドのところに…」
「ウチのとこじゃねえか」
やがて予定通り行き止まりに行き着く。
ミレニオは立ち止まり、アリナリーゼと共に俺達の方に振り返る。
「ここまでだ!お前たちは逃さねぇ…さっさととっ捕まってもらうぜ」
「いやよ!私はこの人と一緒になるの!アンタたちが何者かは知らないけど邪魔するなら……アンタ達、覚悟はできてるのかしら……?」
「おやおやこれはこれは有名な魔法学校を主席で卒業されてかねてよりの魔法の開発に従事し、とうとう召喚魔法を開発された高名な魔術師のアリナリーゼ様ではあーりませんかー」
「あたしのこと知ってるのね…あなた達マジで何者よ。言わないと――」
手の中で大きな大きな火種を作り出し、それを丸めて炎弾を作り不敵に笑う。
アリナリーゼが炎を手の中に現せながら話しているところ申し訳ないが、俺はミレニオが一生懸命目配せを送ってきていることに気付く。
その手にハルカの作るものよりも数倍でかい火炎弾を作り出すアリナリーゼの手腕は流石とは言えるが、彼女は魔法に関しては無敵だが、男に関しては百戦全敗の素っ裸の虎だ。
「ミレニオ!捉えろ!」
「はい!」
「えっ?」
アリナリーゼが炎弾を発生させている手を引っ張り、ミレニオは見事な体重移動によってアリナリーゼの動きを制圧し、瞬く間に地面にひれ伏させた。
突然のことにアリナリーゼは面を食らったような顔をして、一瞬置いて悔しそうな顔をし始める。だがその時には何もかもが遅かった。
俺とリーシアはミレニオに駆け寄り、アリナリーゼを見下ろし、ハルカだけは炎弾を構えて待機させる。
「ミレニオ様!? なぜ!?私を裏切ったのですか!?」
「貴方は僕を馬鹿にしているのですか?アリナリーゼさん。僕は貴方が召喚士だったなんて一言も聞いておらず、さらには逃がしたというのにこんなところで飽食を行うような不誠実な女性だとは知りませんでした」
「――ということだ。アリナリーゼ。結婚相手の最優良候補に裏切られた気分はどうだ?」
俺が煽りを含めて言い放つと、アリナリーゼは一瞬笑みを作った。
「アンタたちが裏を引いていたのね…!? ミレニオ様使って私を捕まえるために!」
「勘違いしてもらっては困る。このミレニオ君はお前を取り逃がした後に協力要請をしながら説得したら快く了承してくれたよ?お前が戦争を起こす火種であると吹き込んでね」
俺がミレニオの方に視線を向けると、ミレニオは目を伏せた。
ちょっとは良心があるんじゃないかミレニオ君?
アリナリーゼはその様子を察したようで、すぐに説得にかかる。
「そんな…ミレニオ様!貴方はこの男と後ろの二人に騙されているのです!この三人は私を陥れるために組まれた違法的な組織なんです」
「ほう?お前は騎士兵団を違法的な組織だと言いたいのか?」
「……なんですって!?」
アリナリーゼの驚愕に染まる顔が今度は俺に向けられる。
騎士兵団。言う慣れば法治国家におけるところの秩序機関だ。アホだ。
「例えばこちらにおわすのは華の騎士兵団のトップであるリーシア様。そしてこの俺は昔そのリーシア様の左腕を務めていた男だが、なにかご不満でも?」
「くっ……! その騎士兵様は北方のインテスカ帝国所属の私に何しようってのよ!インテスカ帝国が黙っちゃ居ないわよ!わかってんの!?公務の仕事をしている人がこんなこと!」
「失礼だが俺は元騎士兵で、こっちのリーシアは現在休暇中で公務の仕事中ではない。そっちのハルカとミレニオはそもそも騎士兵ではないわけで。 ――以上。反論は?」
「アレを言えばコレを言う!これだからアンタ達騎士兵は駄目なのよ!」
「戦争の種となる勇者を召喚することがどんなに周りに迷惑をかけるかわからない魔法学校主席のおバカちゃんを捕まえないほうが騎士兵としてはかなり駄目だと思うんだが?」
「――以上、この論争はランディの勝ちということでここは投降してもらえるかな?」
人の揚げ足を取りまくって相手を論破しまくった俺は軽く伸びをする。
「良い戦いだったよ。アリナリーゼ君? 君はいっそ法曹界に足を踏み入れて検事にでもなったほうがいいだろう俺が弁護士となってカモにしてやる。はっきり言って――よ、わ、す、ぎ」
そして思いっきり相手の死体を蹴り飛ばした。
「ぐぐぐ……ぐぬぬぬううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううう!!」
俺が挑発した途端、奇声を上げたアリナリーゼの右手が突如、金色に光りだす。
そしてミレニオとリーシアが危険を察知し、アリナリーゼから離れた。
俺も逃げよう…と思い、ハルカがいるのを忘れていた。
「ま、マジか……さて全身全霊で向かって来いよ婚活敗北者の論理貧弱で駆け引きも得意ではない魔法学校主席卒業のおバカちゃんなアリナリーゼさん?」
「ぐぬああああああああああああああああああああああああ!!!」
アリナリーゼが金色に光右手を振りかぶり、俺に何かを放とうとする。
俺の後ろにはハルカが居るので、彼女を守るために俺は即座に小手を装備し、両手をクロスして身を固めて衝撃に備えた。
そして次の瞬間には、光はまたたき、俺は何かの衝撃に吹き飛ばされて後方に何十メートルと飛んで壁にぶつかる。
「お兄ちゃん!!」
「……は、ハルカ……大丈夫だ…」
「ま、待て!!追うぞミレニア!!」
「は、はい!」
アリナリーゼが俺を見事に吹き飛ばした後、どうやらすぐに俺の横を通り抜けて袋小路から脱出したようで、リーシアとミレニアがアリナリーゼの後を追っていったのが見えた。
俺はリーシアやミレニアが走っていった方向に視線を向けながら、ハルカの悲痛な叫びにしばらく耳を傾けて、口の中の血の味に舌鼓をうったのだった。
「そうか、アリナリーゼは結局まんまと逃げおおせてしまったか…」
その後、俺達はいろんなところへ走り回り、アリナリーゼを探した。
だが結局、俺達は奴を取り逃して城下町の門の前で立ち尽くしてしまっていた。
「はい、どうやらディスタム王国都市を出て行ったようで、警備の兵から聞くによると、いかにもモテなさそうで貧乏臭くて独身っぽい女性がこの門を足早に通り過ぎていったと…」
「……ふむ」
ミレニオの心配そうな目線に晒され、俺は黙る。
そうか、国外へ逃げた可能性が高いか……。
「どうするランディ?これではまた一から探さなければならない。しかも北方のインテスカ帝国の方に行ったとなればかなりの大問題にまで発展することになり、西方のヨーロリア共和国に行く可能性もある。どちらにしてもそうなれば私達の立場は最悪だぞ」
「……そうだな」
リーシアの指摘が心に突き刺さる。
確かにアリナリーゼが北方の国に帰国してしまえば俺達は終わりだ。
戦争が起こり、俺とハルカが露頭に迷い、リーシアやミレニオが死ぬかもしれない。
それだけは避けたい。
「お兄ちゃん……頷いてないで何かしないと……」
ハルカの心配そうな、いや、俺を叩き起こそうとする意思の目が俺を突き刺す。
あの時、リーシアにも同じような目で見られたっけな。
俺は深く深く熟考して、考えて考えて考える…。
――やっぱりこれしかやることがない。
「じゃあ今から休暇中の騎士兵の家を一軒一軒回って西方のヨーロリア共和国にいる警察機関の俺らみたいな立場のやつに協力を求めるように掛け合わせる。そして俺達は軍馬でもなんでも使って奴が北方の国に着く前にとっ捕まえるぞ」
「そうだよね……え?」
「そうだよな…今からじゃあ……っえ?」
「そうですよね……諦めるしか……はい?」
「行くぞ」
俺は三人から背を向けて素早く騎士兵団基地の方へ足を向け、後ろからリーシア、ハルカ、ミレニオが慌てて付いて来る。
さぁ、逃げ切れるとは思うなよアリナリーゼ。
必ずとっ捕まえて市中引き回しの刑にでも処してハルカを異世界に返してもらう…。
やられたらあの手この手で500倍返しにしてボッコボッコにしてやろうじゃないか。
さて、気分が高揚してきました。




