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悪の召喚士を捕まえろ!

 アリナリーゼが訪れたという家は案外大きな屋敷だった。

 表札はなく、ただただ大きな庭園の中にぽつんと一つ、屋敷が立っている。

 俺達はそんな屋敷と庭園を守る門の前でただただ立ち尽くす…なにせ屋敷だ。


「大きいな」

「大きいね」

「大きいぞ」


 全員の意見が一致する。

 正直に言って俺が住んでいる宿よりも大きい。いっそこの家を改築して宿にでもすればすぐにでも利益があがり、この街で一番の宿屋になれるだろう。

 こんな家のご子息にアリナリーゼは嫁ぐことになるのだろうか。

 いや、そんなことをすればみすみす戦争の種を取り逃がすことになる。そうなるとハルカの元の世界への帰還がさらに遠い現実となるため、アリナリーゼがこの家に嫁ぐことはない。

 なにせ俺達が捕まえるからだ。


「資料には確か家の絵画とかは描かれてなかったな」

「まぁそんな時間もなかったからな。今更だ」

「だよな…んじゃ行くとするか」


 ――ガンガンガン!!

 俺はポケットに手を入れながら偉そうに鉄柵で出来た門を足で蹴り、音をあげる。まるでその光景は借金を作ってしまった家族の家が借金取りにまくしたてられたようだ。

 だが俺は構わず蹴り続ける、たとえ後方に二人の厳しい目があっても。


「すみませーん!いますかー!?」

「ランディ、そのように訪れるのはよくない。ここは手順を踏んで行くべきだろう」

「そうだよお兄ちゃん。そんな剣幕で門を蹴るのはマズいって…言うとおりに…」

「手順ねぇ…菓子折りを持ってこの門の前に小一時間ほど居続けるか?俺はやだ、ね!」


 ――ガツンッ!バキンッ!

 俺がリーシアにそう言って腰を入れて門に横蹴りを食らわせてやると、錠は砕けた。

 そして俺は重たい鉄柵の門をハルカと共に押し開けながらリーシアに言う。


「こうゆう時は強制捜査。騎士兵団の立場があるからリーシアは其処でじっとしてろ」

「ランディ!おい!ちょっと待て!」

「やだね。戦争の火種を前にじっとなんてしてられるか」

「確かにそうだが!  ……あぁもう!!こうゆう時だけ口がよく回る!」


 リーシアも観念して頭をかきむしりながら俺に付いて来る。

 ハルカも途中で覚悟を決めたらしく、リーシアのさらに後ろを付いてきた。

 そして俺達は広い庭園の小洒落た雑木林(綺麗)を思いっきり踏みつけていき、今度は屋敷のドアの前にまで足を進めた。


「すいません!誰かいますか!?」


 ――ガンガンガン!

 木製であろうまた大きな屋敷の大きな両開きのドアに蹴りを入れながら俺が問いかけると、中から人の声が返ってきた。俺とリーシアはお互いに目配せをすると両扉の丁度死角になる位置に構える。

 そしてハルカを正面に立たせてやり、中にいる誰かのお出ましに備える。

 やがて俺の居る右側の扉がゆっくりと開けられ、ハルカの目の前に現れる。


「……はい、どなたでしょうか?」

「――ドアを抑えろリーシア!」

「失礼!」

「え!? あの!? え!?」


 俺はリーシアがその類まれなる怪力によってドアが無理やりこじ開けられるのを確認すると、中に居たご婦人とドアとの間を縫って館の中に押し入る。

 そしてエントランスには誰もいないことを確認し、後ろで狼狽えるご婦人の口を塞いだ。


「ここにお見合いに来ているっていうアリナリーゼってのはどこに居る。居るのを教えないとお前を捕まえて奴隷商人に売りつける」

「――!? んー!ん―!!」


 口を抑えられているご婦人は俺の脅しを聞いて俺の手を振り払おうとするが、後ろからさらにリーシアが組付き、完全にご婦人の動きを制圧する。

 まるで強盗かのように慣れた手つきにハルカが思いっきりドン引きするが、要するに敵の城に潜入し、敵の首領を暗殺するために行う恒例行事と同じようなものだった。

 俺は少しだけ手の力をゆるめて、声を抑えて話せる程度に隙間を作る。


「ぷはっ! た、タスケ――むぐっ!? んー!」

「よし、リーシア。剣をよこせ、この女の首をかっ飛ばす」

「忍びないが…この際しかたない、戦争根絶のためだ。許せ」

「んーー!んーー!?」

「話すか!? 話すよな!? 騒いだら容赦はしないぞ」


 ご婦人は分かったといったふうに首を縦にふる。そして俺はもう一度手の力を緩める。

 今度はご婦人も騒ぐこともなく、神妙にアリナリーゼの居場所を吐いた。


「二階の右奥にある談話室で…お見合いが行われております……」

「よし!わかった!首をかっ飛ばすから待っておきな!? そーれ!」

「ひぃっ!?   ……あうん………」


 俺が聞きたいことを聞き、剣を振りかぶるとご婦人はショックで気絶する。

 ハルカとリーシアの目線は相変わらず冷たいが、これも何かと、正義のためだ。

 正義とか言うのは俺には全然似合わない言葉なんだが。

 剣をリーシアに返し、俺達は気絶したご婦人をその場に寝かせて、二階の方へと足を進める。

 入った時は打って変わったように今度は騒ぎを嗅ぎつけられないようにゆっくりと抜き足で。


「ここか…?」

「ここだな…」

「ここですね…」


 俺達が件の談話室の前に立つ。

 談話室の扉に大きく「談 話 室」と書かれており大変滑稽だった。

 俺は扉に耳を押し付けて中の談話が聞こえてこないか試す。

 案の定中からは楽しげ(?)な男と女の会話が聞こえてきた。


『えぇー!そうなんですかー!? 剣がご趣味で!?』

『えぇ、うちの親父が一流の騎士兵で、そのおかげさまで』

『ミレニオ様のお父様ですかぁ…どんな人なんだろうなぁ』

『父の名はアル=レニオスと申しまして、騎士兵団長の御旗の下、騎士兵をやってます』

『かっこいいですねぇ! あ、でもレニオス様もお父様に負けず、素敵ですよ!』

『ふふ、ありがとうございます』


 吐き気がするほどの棒読みの試合だ。

 なんだこれは?お見合いという名の媚売りか何かか?

 アリナリーゼという女の結婚したいという欲望がにじみ出ているようなそんな会話だ。

 横で同じく耳を傾けていたリーシアが小さく呟く。


「レニオス一曹兵……彼はこんな豪邸を所有していたのか……道理でな」

「どうしたんですか…? その、レニオスって人に何かあったんですか?」

「確かにレニオス一曹兵は騎士兵団の中でも指折りの剣士だ…だがその実際は自慢の剣を使って部下を脅し、他の兵から給料をぶんどり、私腹を肥やす……騎士兵団の害虫みたいな男だ」


 レニオスには俺も会ったことがあるが、昔はただただ剣を振って努力している努力の塊みたいな男だったことを今でも覚えている…そうか、あいつは変わってしまったのか。

 そしてこの屋敷を立てているのだから相当な金を横領したのだろう。

 コレは元騎士兵団として許されることではない。


「そいつは今どうしてる?」

「もちろん、家族にはこのことを一切黙秘して座敷牢で反省中だ」


 座敷牢…入ったら二度と戻って来れないような無法者を叩き入れる地上の楽園だ。

 入ったら最後。豚の飯を毎晩食べさせられて、害虫が沸くような小汚い石造りの部屋の中で一生を過ごすことになる…と言われているだけのただの湿気っている小汚い牢屋だ。

 ここまで言われているのは、騎士兵団の中で出来るだけ犯罪を減らすためであり、事実、本当に二度と出て来られないような悪事を行った者は二度とお天道さまの元を歩けなくなる。

 そして秘密裏に飼われ、最後には「訓練中の事故で他界した」という一報だけが家族に届く。

 華の騎士兵団の暗部の一つだ。


「それを聞いて安心したよ。黙認しているのかと思った」

「するわけないだろう。私は仮にも騎士兵の中でもトップだぞ」

「リーシアさん。素敵です!」

「よっ、名誉団長。一生ついていきますー」


 俺は言いながらドアのノブに手を掛けるが、それ以上は行わない。

 リーシアとハルカに合図を送ると、二人は首を縦に振って身構える。


『へぇ~!はっはっは!』

『ふふふのふ~!www』


 あ、うぜぇ。我慢できなさそう。もういくもんね。


 ――ガチャ!


「リーシア!とっ捕まえるぞ!」

「御用改めだ!!!」

「えっと…なにこれ新選組?」


 俺達はドタバタとしながらも一直線に動揺するアリナリーゼに飛びかかる。

 件のアリナリーゼは何が起こったと言わんばかりの鳩が口の中に豆鉄砲を食らってさらに豆が喉に詰まって息ができなくなって苦しいと言った表情を見せ、床に組み伏せられる。

 突然のことにミレニオという相手の美男子が一瞬遅れて声をあげる。


「な、何ですかあなた達は!?」

「アンタ達私のお見合い中になんだってのよ!?」

「さてな? お前がなんだか戦争の火種の中心で愛を叫ぼうとしているもんだからそれの邪魔をしにでも来ちゃったってところかなぁ?」

「はぁっ!? 意味分かんない!」

「だろうな!  ――ってうおぁ!?」


 リーシアと一緒に床にアリナリーゼを拘束していると、横合いから炎弾が放たれる。

 まさかハルカが裏切ったのかとも頭をよぎったが、炎弾を放った張本人はミレニオだった。

 炎弾が俺に着弾し、俺と巻き添えにリーシアまで横合いにふっとばされ壁に激突する。

 結構な威力ではあるが、ハルカにもらった炎弾よりは何倍もマシだった。


「お、お兄ちゃん!リーシアさん!」

「アリナリーゼさん!さぁ今のうちに貴方だけでもお逃げください!」

「こ、この御恩は必ず!」


 ――パリィン!!


 拘束の解けたアリナリーゼは立ち上がり、窓を突き破って逃げ出した。

 ハルカにアリナリーゼを追うように言うと、ハルカも一発ミレニオに炎弾を食らわせてから窓からではなく、部屋の出入口から普通に出て行った。

 あれで追いつくとでも思っているのだろうか…。


「さてと…大丈夫か?リーシア」

「あぁ、大事無い。お前の巻き添えになっていなければな」

「それぐらいの皮肉が言えるんだったら大丈夫だな。お前も同罪だからな?」


 俺は立ち上がり、リーシアを抱き起こす。リーシアは少し足の捻挫をしていた。

 そのままリーシアに肩を貸してハルカに怒りの炎弾を食らって壁際でめちゃくちゃ痛がっているミレニオに歩み寄る。


「おいてめぇ何してくれてんだみすみすこのチャンスを不意にしてくれやがって」

「何の話ですか!? あとあなた達は誰なんです!?」


 案の定、正義は我にありと言わんばかりにミレニオが俺に食って掛かってきた。

 その瞬間、俺の脳内では言葉八百と言わんばかりのあらゆる論法が頭を駆け巡り、このミレニオという男をどのように黙らせられるかシミュレーションされ、的確な言葉を導き出す。

 そして、俺は、開き直った。


「誰なんて関係無いだろ!俺が今言いたいのは俺の今抱きかかえている友人がもしかしたらお前が一生償っても償いきれない傷を抱えたかもしれないことにあるんだ。ほら見ろ。この女の足を、歩けないほどの重症なんだ紳士としてどうよ?」

「それはあなた方がいきなり殴りこみに来たから!」

「俺は女性に向かって炎弾を飛ばすなんていう非常識極まりない行為の責任を君に説いているんだよミレニオ君? ちなみに俺は足フェチだ、もしもこのリーシア様が一生歩けない身になってみろお前どう責任を取れる?ちなみに俺だったら切腹する」

「り、リーシア騎士兵団長様!? も、申し訳ありま――」

「まぁまぁ良いじゃあないか。ランディ。 緊急事態なんだから炎弾くらい使いたくなるのもわかるぞぉ?戦場ではいつも何があるかわからないからな? 君の判断力と魔法の力はぜひ騎士兵団に欲しい」

「あ、ありがとうございま――」

「そうだ君には私の代わりに騎士兵団長を努めてもらわねば困るからな。なんせ私は二足歩行の権利を絶たれてしまった、かも、しれないからなぁ? 男の子として責任はとってもらわないと」

「そ、そんな――」

「そう思うんだったら。この殴り込みを黙認しろ、いいな?」


 俺らを客観的に見るんだったら…はっきり言って当たり屋だ。

 俺達は前々から計画していたかのような白々しい三文芝居&茶番を繰り広げ、ミレニオを論破する。

 実際には論破出来ていないため、なんとも言えない結果だが。


「いいか?ミレニオ? あの女は現在極秘に騎士兵団が追っている、理由を聞けばお前も一発で事の重大さや緊急性がわかると思うから言っておこう」

「り、理由…ですか!? 一体あの人に何があると――」

「勇者の召喚を北方の帝国で行った」

「――!? でもそれは!」

「宣戦布告だよ…わかってんだろ?これは公務の代官様の正当なる権利を使った家宅捜索だよ。探しものはこの家の財産に目が眩んだ婚活敗北者の魔法がとりえのババァだ。何か文句はあるか」


 俺の言葉の高速列挙にミレニオが黙る。

 流石にこの世界では勇者の召喚がどう云う結論に至るのか、腐っても鯛な騎士兵団に努めているご高尚な剣士様のご子息様であられるためかお分かりになられるようだ。

 その腐った成人論者が善意という服を着たような顔をしていても中身は本物そのもの。

 最低限の世界情勢ぐらいはご理解があるようだ。

 俺はミレニオを壁際まで追いやり、さらに胸ぐらをも掴みあげて、恐喝した。


「言っておくがこのことを公表してみろ、お前の親父さんのことも全てバラしてやる。今度の定例広報で大々的に取り上げて、別世界のマスゴミとやらの目が血走り、思わず一番大きなスペースにでっち上げ記事を作ってしまうぐらいの大物にしてやるよ!」

「お、私の親父が何をしたというんですか!親父は、立派な騎士兵だと!」

「その話はその糞親父の上司である、このリーシア様にでも聞いてみるこったな」


 俺に言われてミレニオがリーシアの方に視線を向けると、リーシアは首肯した。


「君の父上…アル=レニオス一曹兵は、部下に苛虐な暴力を働いて、現在座敷牢入りだ」

「そんな…!ぐ、具体的に何をしたというのですか!?」


 ミレニオが泣きながらリーシアに問いただす。リーシアはこれ以上ないほど冷たい眼差しで、今までミレニオの親父がしてきた数々の虐待行為を列挙して見せた。


「まずその剣でミスを働いた部下の腕を切り落とす、同じような理由で胸を一閃、さらに理由など無しにそこら辺を歩いていた一兵卒といきなり決闘をして両足を切り落とし……」

「も、もういいです! …もう、わかりました……」


 ミレニオはがっくりと肩を落とし、その双眸から涙を零す。

 男の割には女の子らしい可愛い顔が台無しだった。


「幻滅したか?」

「はい……昔から、優しかった父が…そんな…そんな…」


 流石にちょっと可哀想になってきた。

 俺は胸ぐらを掴んでいた手を離し、ミレニオの肩に手を当てた。


「将来親父とは違って良い騎士兵になるんだぞ? あと、戦争を止めるために協力しろ」


 俺が手を離すと、ミレニオは一生懸命涙を拭き取り、鼻をすする。

 そして俺は手を差し伸べて、ミレニオを引っ張りあげた。

 ミレニオは涙を零しながらも俺に返事を返した。


「はい……はい……は――」

「ならまずは俺達についてきて、一緒にアリナリーゼを捕まえることから始めようじゃあないか」

「え!? なんで!?」

「当たり前だ馬鹿野郎。ここにおわすのは天下の騎士兵団長リーシア様だぞ。調度良かったな。リーシア様は現在休暇という名の召喚士を捕まえる旅をしてらっしゃる。それに付いて行ったらお前の実力を鍛えてもらえ、さらには騎士の何たるかの教訓になるだろう」

「な、なるほど…」

「そうと決まればさっさと付いて来るがいいこの愚民が。そうだ俺も鍛えてやろう。これでも昔、騎士兵団に居た頃は騎士兵団長になる前の リーシアの左腕を務めていた男だ。それなりの実力はあるつもりだ」

「そうなんですか?」


 ミレニオがリーシアに聞いてみると、リーシアは明後日の方向を向いた。


「まぁ…そうだな。今ではコイツはちょっと強いぐらいの実力しかないが」

「うるさいよバカ。さっさとついてこいミレニオ!アリナリーゼを追ったハルカと合流する」

「は、はい!」


 そんなこんなで、ミレニオに対する八つ当たりも終わり、俺達は召喚士を追うのだった。

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