予期せぬ遭遇
――ガキィン!!!
「うぜえんだよ!この虫野郎が!」
鉄と鉄がぶつかり合う、乾いた金属音が不気味な森いっぱいに鳴り響く。
俺の目の前には前足に大きなカマを持った巨大な虫「サイズワーム」が俺に向けてカマを振り下ろしていた。
周りには血だらけで突っぷくしている死体…俺の仲間だ。
俺は自分の武器である小手を装着した拳を思いっきりサイズワームに打ち込む。
流石に威力不足なのだろうか、俺の176cmの二倍はあるサイズワームには少し仰け反らせるくらいしかできない。
「ちっ…!砕けちまいな!《砕破掌》!!」
仰け反らせたサイズワームの胸に思いっきり拳を押し付けて、サイズワームを吹き飛ばす。
だが、サイズワーム自体は三歩くらいの距離しか吹き飛ばず、巨大なカマを横薙ぎに振り回す。
俺はその横薙ぎの攻撃を上体を低くして躱し、もう片方の腕から俺めがけて振り回されたカマを飛んで避ける。
「いつまでもしぶてえやつだなぁ!コイツで終わりだ!《震牙武蓮脚》!!!」
サイズワームの頭を踏みつけ、地面に縫い付ける。そして俺は地面に埋もれたサイズワームを何度も踏み砕く。
「オラオラオラオラァ!!!」
サイズワームは最初の内は抵抗しようとカマを振り回し、もがいていたが、そのうち力尽きたのか静かになった。
俺はゆっくりと足をおろし、倒れたサイズワームに背を向けて周りを見回す。
俺の周りの至る所に散らばる死屍累々、このサイズワームを倒す為に協力してくれた冒険者達だった。
今回サイズワームを倒す依頼を出したのは俺だ。
最近世話になっている村の周辺でサイズワームが目撃され、そのせいで国…ディスタム王国から村への援助をストップされたのだ。
流石にサイズワームを一人で倒すのは無理…と判断した俺は、ギルドへと顔を出して依頼を出し、冒険者を募った。
結果はこのザマ。辺り一面死屍累々。
サイズワームを消耗させてくれたお陰で俺はなんとかやつを倒すことは出来た…と言っても代償は大きい。
…とりあえずは、遺品として、彼らの装備を幾つか貰っておくとしよう。
「あくまで、遺品として…っと、良い物持ってやがる」
冒険者の中に居た戦士の遺体から、回復薬を取り出し、俺のバッグの中に突っ込む。
準備がいいことに越したことは無いが、一撃でやられてちゃ世話ねえぜ。
――ピクッ
「…あん? 今、動いたような…」
先程倒したサイズワームが起き上がったのか?っと俺はサイズワームの死体がある方へ向き直る。
っと…俺が振り向いた時には既に其処居たサイズワームは、俺に向かってカマを振りかぶっているところだった。
「って悠長に言ってる場合じゃ…ぐぁっ!!!?」
――ガキィン! ドガッ!!!
間一髪のところで俺はサイズワームのカマを両手でガードしたが、サイズワームの体格の問題か、俺の身体はいとも簡単に横っ飛びに吹き飛んだ。
そして俺の身体はノーバウンドで太い木に叩きつけられ、バウンドして地面に崩れ落ちる。
やばい、そう思った俺はしびれる腕を我慢しながら、先程戦士からガメた回復薬を飲み干す。
…だが、回復薬の効果はすぐには表れない。そこそこの品質の回復薬であればすぐにでも効果は出るのだが。
「くそっ! この回復薬安物かよ!? 使えねえ!」
言うが遅い。先ほど木に激突した際に負傷した右腕が上がらず、防御の姿勢が取れない。
ついでに俺の身体は同じ理由で足が子羊のように頼りない。これでも回復薬で少しは立てるようになったほうだ。
「油断した…俺も、ここまでか…!?」
サイズワームが重症の俺にゆっくりと近づいて、カマを振りかぶる。
カマが近づいてくる一瞬一瞬が妙に遅い。走馬灯か?
何か願え、何か思い出して後悔しろってことで助けのつもりだろうが…残念だが俺にとってこの一瞬一瞬は地獄だ。
サイズワームが迫る一歩、そのまた一歩で俺の呼吸が早くなる。死の恐怖に身体が怯えているのだ。
沸を切らせたサイズワームがとうとう、俺に向かってカマを振り下ろす。
俺は、恐怖で思いっきり目をつむった。
――ドゴォオオオオオオオオオオオオオオオンン!!!
「はっ!?」
死を悟ったその瞬間。とんでもない轟音が日中の森を、俺の目の前を、サイズワームを襲った。
膨大な埃が豪風と共に爆発四散し、俺の肌を荒々しく撫で、一秒、二秒と耐えると、風は突如として止む。
俺が何事かと思い、思わず目を見開いた時、そこにサイズワームは既に居なかった。
跡形もなく消滅し、俺の目の前にあったはずの木々の集まりは、今の爆発でクレーターとなっていた。
「げっほげほ!ごほ!?」
「っ!? 誰か居るのか!?」
未だに砂埃が舞うクレーターの中から、女の声がした。
なんだ?なにがどうなっているのか俺にはわからない。
今の爆発を生み出した張本人だと言うのならば、なおのこと先ほどのサイズワームよりも警戒せねばならない。
…と言っても俺の身体は未だに痺れており、満足に動きはしないが。
動けない身体を一生懸命引きずってクレーターの近くまで来る…とそこで地面が緩くなっていたためか、足元が崩れ、俺はクレーターの中に滑り落ちた。
「うおああ!!」
ゴロゴロと回転しながら俺の身体はクレーターの奥へと転がり落ち、やがて角度が緩くなって、一番底で止まる。
止まった先で気配がした。やっぱり誰かがそこにいるようだ。
「だ、大丈夫…ですか?」
「あ、あぁ…」
そこにいるのが誰なのか確認したいが、砂埃のせいで顔がよく確認できない。
少し待っていると、砂埃が晴れて、そこにいる誰かが俺を見下ろしているのがわかった。
そして、お互いの顔が視認できるレベルまで、砂埃が晴れる。
「お、お兄ちゃん…!?」
「…あん? 誰だ? おまえ」
其処居るのは、俺の盗賊のような服装とはまるで違う。
俺の住む世界では場違いなぐらい綺麗できめ細かい素材のワンピースを着た。
その綺麗なワンピースをも凌駕するレベルで可憐な、黒髪の可愛い女の子だった。