瘴気の森を救え! ~短剣と魔蟲と閃光と~
「――凍ってしまえ!《氷一閃》!!」
「――凍って!《フロストI》!!」
アサルトドッグを相手に、二人の声と連撃が重なる。
二人の強力な氷の連撃により、アサルトドッグの体のあちこちが凍り、動きが止まる。
「もらったぜ!《砕破掌》!!」
俺の気合が入った声が、紫がかったモヤが漂うマーサの森に響く。
三人の技を一身に受けたアサルトドッグは悲鳴を上げ、地面をバウンドして息が途絶え、絶命する。
敵を倒したことを確認した俺は構えを解き、リーシアはその広幅の剣を鞘に収め、ハルカはスタッフスピアを持ったまま深く深くため息を吐いた。
「ふぃ~…やっぱり三人居ると効率が違うな」
「そうだね。二人共すっごい連携してくれるから魔法を挟むのが楽だよぉ」
少し遠くに居たハルカが持ってきたタオルで顔を拭きながら言う。
「実際ハルカ殿が安定して後方射撃をしてくれるお陰で随分とこちらも楽をしてもらっているよ」
「いえいえ!私なんてさっきから誤射しかけてまくってますし!」
「ハルカ、そうゆう時は素直に褒められておけよ、そいつ引かねえぞ?」
「そ、そうなの…? じゃあ、ありがとうございます」
「うむ。まだまだ頑張ってくれ」
リーシアに褒められ、ハルカは照れながらも天使的な笑みを浮かべる。
それに癒やされたっぽいリーシアもかなり張り切り始めているようだった。
…さて。
俺達は現在、ハーケン陛下が言っていた要請にしたがって瘴気が漂うマーサの森を探索中だ。
マーサの森は未だにこの前来た時と同じようにゴブリンとアサルトドッグが蔓延っている。
未だにコレ以上の強敵が出ないのが幸いではあるが、瘴気の発生源も未だに見つけられていないというのもあり、俺達は未だにマーサの森を彷徨っているのであった。
「流石に属性本質の効果で瘴気が効かないとは言え、この空気が悪い中何時間も歩くのは酷だな…」
「すぐに発生源を見つけられるといいんだけど…まぁ、そううまくいくかってとこだな」
「何気にモヤで視界も少し悪いですしね…」
「さて、どうしたものやら…」
俺は顎に手を当て、リーシアは腕を組み、ハルカがその場に座り込んだ。
「とりあえず、探索しないことには何も見つけられねぇだろ。さっさと探そう」
「それもそうだな。ほら、ハルカ殿、大丈夫か?」
「だ、大丈夫です…」
「ハルカ、まさか瘴気がつらいとかじゃないよな…?お前だけ、瘴気の影響を受けるみたいだし」
「いや、それはない。私の属性本質である《聖域》は一定距離さえ保てば瘴気の影響を受けない」
「ですから、少し疲れただけなんです。すみません…心配させて」
「いいや、今のうちに少し休もうな」
そう言って俺はその場にあぐらをかき、リーシアも同様に近くの岩に腰掛けた。
ハルカもリーシアと同じ岩に腰を掛け、ため息を吐いた。
そしてハルカの様子を見て、リーシアが小さく笑みを漏らす。
「…ふっ、それにしても、あのランディが他人を気遣うようになるなんてな」
「そういえば、騎士兵団に居た頃のお兄ちゃんってどんな感じだったんですか?」
そう言われて、リーシアは少し唸り、人差し指を立てながら昔の事を思い返した。
「昔は《狂犬》って呼ばれるほどの暴れん坊かつ傍若無人なヤツでな。手を焼いたよ」
「リーシアさんは、その時お兄ちゃんとどんな関係だったんですか?」
「ハッキリ言えば上司と部下だったな。ランディが問題を起こし、私が止めに入る。鉄板だったさ」
「へぇ…今みたいな感じじゃなかったんですね」
「そうだな…今では少しずつランディの方が落ち着いてきてて、接していて気が楽な関係だ」
「あん…? んだよ…」
俺は二人の視線を直に浴び、話の内容を聞いていたためか、気恥ずかしかった。
そして俺は何故か二人から顔を背けて、心にもない言葉を口にしてしまった。
二人は俺の反応を面白いものでも見るかのような目で見ていて、やがてクスリと笑った。
「……。」
「あれ?どこに行くの?お兄ちゃん」
気恥ずかしくなってスッと立ち上がった俺にハルカが問いかけてくる。
俺はハルカとリーシアに背を向けながら、少し大声でこう叫んだ。
「見回りだよ!ちょっと偵察に行ってくる!」
俺はズカズカと二人を置いて森の奥へと進んでいく。
後ろの二人の様子は見えなかったが、なんとなくクスクスと笑っているような気がした。
「ええい!畜生!言いたい放題言いやがって…ったく」
ズカズカと足あとを付け、足元を踏み荒らしながら進んでいくと、霧がどんどん濃くなってきた。
俺は一度足を止めると、少し辺りを見回した。
「なんだ…? なんか、瘴気に流れがあるような…?」
風か何かだろうか…。俺は向かい風のように瘴気が正面から吹いてきているる方へと足を進める。
その先を行くに連れて、瘴気のモヤがドンドンと濃くなって、やがて広いところに出てこれた。
「……何だあれ?」
広い、林の広がる広場の真ん中、何やらモヤの流れの中心かのように、短剣が突き刺さっていた。
「なんで短剣が…? もしかしてアレがこの瘴気の発生源なのか?」
俺は二人を呼ぼうかとも思ったが、そんなことするのも面倒だったため、意を決してそれに近づく。
――ドガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!
「な!? さ、サイズワームだと!?」
俺が短剣に近づこうとしたまさにその時、横合いから勢い良く木々をバッサバッサと切り倒しながら、前足が鎌で出来た巨大な魔蟲、サイズワームが飛び出してきた。
すぐさま臨戦態勢を取りつつ、サイズワームと距離を取る。
リーシアとハルカは、この音に気づいただろうか? 気づいたとしても追いついて来るのにかなり時間が掛かるだろう…応戦するしかない。
「来いよ虫野郎!この前のリベンジマッチをさせてもらおうじゃねえか!」
「………?」
「リーシアさん。どうかしましたか?」
リーシアさんが突如立ち上がって耳を澄ませる。
そして私に少しだけ黙るように頼み、私は口を閉じて、問いかけるのよやめる。
私も釣られて耳を澄ませると、遠くから何かが倒れる音や、金属音が聞こえてきた気がした。
「…ランディの行った方から大きな音が聞こえる」
「――!? お兄ちゃんに何かあったんじゃ!?」
「ハルカ殿!急ぎましょう!」
私は横に立てかけて置いたスタッフスピアを手に取り、リーシアさんを追って、駈け出した。
――ガキィイイイン!!!
「オラァ!! 《砕破掌》!!」
俺はサイズワームの懐に潜り込み、その土手っ腹に大きく振りかぶった拳を叩き込む。
大きな衝撃を受けて、サイズワームの体は少し浮き上がり、数メートル後ろに飛んだ。
『――――――!!』
とても聞き取れないような奇声を上げてサイズワームは俺に向かって鎌を振るう。
大きく上体を仰け反らせて鎌を間一髪で避けて、俺は「ヘヘッ」と笑う。
そして俺は自分の腰に手を回して、事前に持ってきていた円盤状の武器をサイズワームへ投擲する。
円盤状の武器…ソーサーは見事にサイズワームの鎌の根本に刺さり、目の前の魔蟲は奇声を上げて、ソーサーを取ろうとするが、前足が手ではなく鎌な為うまくいっていない。
「うらぁああああああああああああああああ!!!」
俺は明らかに隙が出来ているサイズワームに向かって飛び蹴りを叩き込み、魔蟲は後方へと木々をなぎ倒しながら吹っ飛んでいく。
そして追撃の為に俺は魔蟲へと突撃するが…。
――ヴォン!!
「うわっと!?」
間一髪。 切り返しに飛んできた大きな鎌による横薙ぎを避け、俺はその場に足を止めた。
その間に魔蟲は体制を整えて、俺に鎌で斬りかかろうと腕を振り回す。
俺は体重移動とステップで鎌を一撃、二撃と避けて、三撃目に繰り出された鎌をガードする。
「くっ…うわっ!」
ガードしたは良いが、その威力を受け止めきれずに、腕を弾かれて俺の体が横に転がる。
すぐに起き上がろうとするが、上を見ると、既に次の攻撃が振り下ろされようとしていた。
「……ぐっ!」
「大丈夫かランディ!? エルミリアン流防盾術!『ソニックイージス』!!」
――ガキィン!!
俺が防御のために腕をクロスさせたその時、横合いから声と共に俺と魔蟲との間に割り込んできて、左手に持った大きな盾で魔蟲の鎌を弾く。
盾の持ち主は、右手に広幅のブロードソードを持ち、その長い金髪をなびかせたリーシアだった。
「なにこれ大きいカマキリ!? さっさと燃えちゃってよ!『フレイムⅠ』!!」
さらに俺の後ろから気合の入った声と共に炎弾が飛び出していき、魔蟲へ炎が爆裂した。
魔蟲はたまらずたたら足を踏み、少し焦げた肉体をその鎌で切り捨てた。
俺が後ろを振り向くと、牙を剥きだしにして魔蟲を見つめているハルカが其処に居た。
「おせーよ」
「ごめんねお兄ちゃん。瘴気のせいでちょっとだけ迷っちゃった」
「ランディ、こんな昆虫相手に手こずっている場合じゃないだろう!? 本気を出せ!本気を!」
「悪ぃ悪ぃ、ちょこっと遊んでたわ」
俺は転がって倒れていた状態から立ち上がり、拳を構え、サイズワームと対峙する。
サイズワームは鎌の付いた前足を大きく広げて威嚇して、俺達と睨み合う。
「ハルカ!魔法で先制だ!」
「うん!『フレイムⅠ』!」
ハルカは炎弾を手の中で作り、それを魔蟲に向かって投擲する。
そして俺とリーシアがそれと共に駆け出し、炎弾が魔蟲に的中して炸裂する。
俺は炎弾が命中し、怯んでいる魔蟲の腹に向かって拳を振りかぶり、リーシアは無言で剣を構える。
「リーシア!てめぇは足止めを頼む!俺があの虫野郎をふっとばす!」
「いいだろう。――《虎龍双》!」
魔蟲の振り下ろした鎌をリーシアは気合の声と共に繰り出した剣で弾きつつ飛び上がり、そして的確に魔蟲の顔面を切り裂き、俺とバトンタッチして一度下がる。
「いい加減……死ねよ! ――《飛鷹煉葬鳳雀華》!!」
顔を切り裂かれ、もだえ苦しむ魔蟲の頭に俺は普段よりも高く、とにかく高く飛び上がり、飛び蹴りを繰り出す。
飛び蹴りの勢いにより出た熱風が辺りの瘴気を消し飛ばしながら、モヤを裂け破り、魔蟲の顔を撃ちぬく。
気づくと、魔蟲を突き破り、俺は地面に不時着し、地面を転がっていく。
『――――――――――――!!!!!!!!!』
――ズドンッッッ!!!!!
埃をまき散らしながらサイズワームの体が地面に崩れ落ちる。
俺は地面に転がったまま確認すると、片膝を付いて立ち上がって、ハルカたちの下へと駆け寄る。
駆け寄ると、ハルカは歓喜の声を上げており、興奮冷めやらぬという感じだった。
「大丈夫だったお兄ちゃん? も、もう大丈夫だよね!ね!」
「――いや、まだだ! ハルカは炎の魔法を準備して、リーシアは盾構えろ!」
「え!? あ、うん!」
「了解した!ぬかるなよランディ!」
俺の一喝に、ハルカとリーシアが気を引き締め、魔蟲の死体を睨みつける。
――ピクッ
「「「……!?」」」
頭を撃ち抜かれ、死体となったはずの魔蟲の肉体がぴくりと動き、俺達は武器を引き締める。
そして魔蟲の体は段々と茶色に変色し、ボコボコと何かが死体の中から出てこようとしていた。
――ズルリ!!
魔蟲の中から黒く、細長い、禍々しい印象を持つ何かがはい出てくる。
それはサイズワームなどの手が鎌となっている魔物には当たり前のように寄生している魔蟲だった。
その寄生魔蟲は、母体であったサイズワームから離れ、肉体を槍のようにして俺達に襲いかかる。
「出たぞ!寄生魔蟲だ! 焼き払えハルカ!」
「いやああああ!でっかいハリガネムシ!? こっちに来ないでよ!」
破れかぶれになりながらハルカがハリガネムシと言った寄生魔蟲に炎弾を投擲する。
炎弾は見事命中し、その黒く細長い体に猛火が燃え移る。
そして、火は炎となり、やがて茶色く変色していたサイズワームの死体にも火の手があがり…。
数分としない内に、サイズワームが倒れていた場所には、燃えカスと少しの隅だけが残ったのだった。
「ふぅ…とりあえず、もう大丈夫だよね…」
ハルカが安堵の声を漏らし、リーシアが剣を鞘に差す。
俺はというと、すっかり疲れきり、その場にへたり込んでため息を漏らした。
そんな俺にリーシアが檄を飛ばす。
「まったく、貴様は馬鹿か! あまり無茶はするな!」
「すまねぇ。だけど俺だって不足の事態だったんだ」
「これからは勝手に一人で隊列を離脱することは許さんぞ! …まったく」
「あぁ……すまんかった」
リーシアは俺に腹を立てて怒って、俺が謝り、ハルカがリーシアをなだめる。
俺も大人げないことは出来ないため、反論はしない。勝手にどこかに行ったのは俺だ。
少しの間、リーシアから説教を受け、ようやく許しをもらえた俺は、林の真ん中にある、短剣が突き刺さっている場所へと歩く。
しばらく俺が短剣をまじまじと見つめていると、ハルカとリーシアも駆け寄ってきた。
「なにそれ? 短剣、かな…?」
「これは…随分とまた真新しそうな短剣だな。最近突き刺さったのがわかる」
「…ということはコレが瘴気に何か関係があるっぽいな」
「…どうするの?」
ハルカが不安そうに俺に問いかけてくる。
リーシアも俺の判断に任せるといったふうに沈黙し、決定を見届ける。
「とりあえず抜いてみないことには何も言えない」
俺はそう言うと、躊躇わずに、地面に刺さった短剣を、片手で引き抜いた。
するとどうだろうか。瞬く間に紫のモヤが晴れて、森のなかに明るい陽の光が広がったのである。
「見て!瘴気が消えていくよ!」
「瘴気の発生源はそれの可能性が高いな…どれ、ランディ、その短剣は持ってて大丈夫か?」
リーシアに言われて、手の中にある短剣をまじまじと見つめるが…特にこれといって害はない。
「あ、あぁ…今ん所は何もない ――ってなんだ?」
俺はリーシアに大丈夫だと言おうとした矢先、なにやら短剣がカタカタと動き出した。
なにやら物凄い嫌な予感がして、俺は短剣を放り投げた。
――カッ!!
すると突如、放り投げた短剣が激しい光を放った。
俺、ハルカ、リーシアはそれぞれ、突然の激しい閃光に目をくらまされ、目を閉じる。
『――ありがとう。』
目を閉じていると、耳元でそんな声が聞こえてきた。
それは陛下と話をした後に聞こえた声とは全く違う声だった。
次に目を開けると、俺は、目の前にハルカ、リーシアの顔がすぐそこにあった。
どうやら光の炸裂により、気絶していたようで、俺は地面に倒れこんでいることに気づく。
俺は起き上がって周りを見回すと、そこは俺達が短剣を抜いた場所だった。
とりあえず俺は未だに地面に横になっている二人を起こすために、二人の肩を揺らす。
「おい、起きろ」
肩を揺らすと二人はすぐに起き上がった。
若干ハルカが眠気眼で、リーシアが頭を抑えてふらふらと立ち上がる。
「…ふぇ? 私達、どうなったんです?」
「…………うっ、気絶してたか……」
「大丈夫か?」
とりあえず俺は二人をその場に座らせて、一旦ショックから立ち直させる。
しばらくすると二人は完全に目が覚めた。
そして少しだけ渋い顔をしたリーシアが俺に問いかけてきた。
「さっきのは一体なんだったんだろうか…」
「さぁな……」
「……何かの兆候なのか?」
「…さぁな」
俺とリーシアは二人して押し黙る。
そしてハルカが俺達二人の静寂を破って話しを切り出す。
「光った瞬間のあの時…二人はなにか聞こえましたか?」
「…あれか。俺は聞こえた。リーシアはどうだ?」
「私も聞こえたぞ。ただ私の場合はパニックで何を言っているかわからなかったが…」
「…そうですか」
俺達三人は先ほどの声が何なのかそれぞれ考え、また沈黙する。
コレ以上の熟考が無意味だと気づき、俺は二人にある提案をする。
「とりあえず、瘴気は晴れたんだ。陛下に報告しに行かないか」
俺の提案に二人はそれぞれ頷く。
こうして俺達は、モヤが晴れて歩きやすくなったマーサの森を歩き、きた道を戻るのだった。




