人々の持つ力の本質
「なぜ私が殴られねばならんのだ!おのれランディ!」
「そうだよ!確かに服のこととやかく言ったのは悪かったけどげんこつは無いんじゃない!?」
「うるせぇ!いつまでもグチグチと人の外見バカにしやがって!」
俺はハルカとリーシアの前をガツガツと歩き、後ろの二人は頭を抱えながら俺に付いて来る。
そのまた後ろにいる二人の騎士兵は兜の裏で小さく笑いをこらえていた。
そしてそんなことでわーわーと言い合っていると、通路の先にあった扉がひとりでに開く。
「何やら騒がしいね…どうしたんだい?」
扉から出てきたのはなんとも綺羅びやかな法衣を纏い、全体的に美男子だとわかる顔をしていて、なんとも優しげな雰囲気を持った青年だった。
歳は俺よりも三つほど上…いや、それ以上はありそうな荘厳な雰囲気を持っている。
「へ、陛下!これは失礼しました!」
その男性を見るやいなやリーシアはすぐに頭を下げ、同時に後ろの部下も頭を下げる。
…なるほど、この人が国王陛下ということか。
陛下と呼ばれた青年は俺とハルカに一度目を配り、リーシアに向かって頭をあげるように言う。
「ははっ!君のその楽しそうな声を聞いていると、別段迷惑でもないさ」
「あ、ありがたきお言葉…」
再度頭を垂れるリーシアを見て、今度は俺に視線を向けてくる。
陛下の視線はまっすぐと俺を捉えてくるため、なんだか自然と気が張ってくる。
「君が、ランディ=オウルバロン君…だね? そちらの可憐な女性は?」
「あぁ、はい。俺はランディで、こっちは妹のハルカです」
「よ、よろしくお願いします」
「ふむふむ…」
陛下は俺の少し後ろに居るハルカを値踏みするような目で見る。
その目にハルカは臆したような様子を見せたため、俺はハルカを背中に隠した。
「これは失礼。…私の名は《ロメロ=ハーケン》と言う。是非ともハーケンと呼んでくれ」
ハーケン陛下は俺とハルカに握手を求め、俺はハルカに代わって握手を返しておいた。
「そっちのハルカ君には、どうやら嫌われてしまったみたいだね」
「いや、コイツただ単に人見知りっていうか、《渡り人》だから、まだまだ慣れてなくて」
「そうか、ジロジロと見つめて悪かった。この通りなので、せめて握手ぐらいはどうだろうか」
ハーケン陛下は頭を下げ、ハルカに握手を求めると、ハルカも遠慮気味に握手を返した。
「それで、俺達に何の用で呼んだんですか?」
「ふむ、あまり多くの騎士兵に聞かれたくないことゆえ、ここで話すけど…実はね、君たちにリーシアを連れてマーサの森の瘴気問題をクリアしてきてもらいたいんだ」
「「……はぁ?こいつと…?」」
俺とリーシアの抗議じみた反応が重複して、リーシアと俺は二人で睨み合う。
「「……。」」
「はっはっは、仲が良いことは良いことだ」
一人、ハーケン陛下は口を開けて笑い、ハルカは何があったのかという顔で俺達を見る。
俺とリーシアはお互いを睨みつけあいながら釘をお互いに指しあった。
「……いい加減空気を呼んで邪魔だけはすんなよ?リーシアさん?」
「……せいぜい足手まといにならないようにがんばるがいい。ランディよ」
「「ふんっ!言われなくとも!!」」
再び俺達の声がお互いに重なる。
ハーケン陛下は吹き出しお腹を抑え、ハルカは困惑し、俺達に静止するように言う。
「二人共…仲良くしよう、ね?」
「「……。」」
ハルカによる必死の説得に俺もリーシアも肩をすくめ、一旦落ち着いてにらみ合いを止める。
「…喧嘩してるとハルカを怪我させちまいそうだから、ここらで真面目にやるか」
「…確かに、ハルカ殿を傷つけるようなことになれば、騎士失格だからな」
お互い矛を収め、共闘の意思を認め合ったところで、ハーケン陛下が声を挟む。
「……とりあえず、依頼は了承ということでよろしいかな?」
「…いや待て、その前に質問がある」
「なにかな?」
「なんで俺達が行く必要があるんだよ?騎士兵団もこの前から動いてたじゃねえか」
「……うむ、それなんだけどね」
ハーケン陛下は少し難しそうな顔で顎に手を当てる。
やがてその体制のままで、俺の質問に、真摯に答えてくれた。
「実は、瘴気に酔って倒れた騎士兵が、探索中で続出してね。探索どころではなかったのさ」
「そんなところの中に居たのに、そういえば私達何にもなかったよね?お兄ちゃん?」
「あぁ、そういえば…なんでだ?」
「それについては君の体を調べさせてもらわないとわからないが、とりあえず君たちは瘴気に対して耐性があるようだからね。頼ませてもらうのだよ」
「なんで耐性があるなんてわかるんだ?」
「瘴気について報告を受けたリーシアの言うところ、君たちは何時間にわたってマーサの森で狩りをしていたようだね? 騎士兵団が瘴気に対して保ったのはたった40分くらいだったんだ」
「なるほどな…そら耐性があるようにしか思えないわ」
「そうだ。そうゆうことだから…」
お願いだ。と言ってハーケン陛下は俺達に向かって言う。
騎士兵団に居た頃のよしみときっとハルカは断らないだろうってことで、俺とハルカは一応依頼を受けようとは思うのだが…一つだけ腑に落ちないところがあった。
「なんでリーシアを連れてくんだ? こいつも瘴気に対して耐性持ってんのか?」
「あぁ、彼女の属性本質は《聖域》と《正義》らしいからね。瘴気に対して基本的に無害なのさ」
「「……属性本質?」」
俺もハルカも初めて聞く単語に首をかしげる。これは俺がアルトレリアの生まれだろうと知らないことだった。
リーシアは「まぁ知らなくても無理はないだろう」と言いながら説明するために口を開こうとするが、その前にハーケン陛下が先立って説明してくれた。
「最近、この世界の魔法を司る《大妖精》という種族と交流が深まってね。彼女たちが言うには、私達にはどうやら育ち方によって各種属性が付いて来るらしいんだ」
育ち方…ねぇ。それならば俺に付けられる属性本質ってのは一旦何なんだろうなぁ…?
俺とハルカは一旦疑問を投げかけるのはやめてハーケン陛下の話を黙って聞き入れる。
次にハーケン陛下は《この世界の魔法の原理》について話し始めた。
「この世界の魔法は基本的に私達の目には見えないほど微弱な妖精たちの力を借りて放つことができるが、どうやらその妖精たちにも人格や人種というものはあるらしくてね。妖精たちはどうやら自分の本質に見合った人間に力を貸すのだということだ」
「…へぇ~じゃあ私の魔法も、その目に見えない妖精さんの力を借りてるんですね」
「そのとおりだ。それで本質に見合った人間に付いた妖精が集まった推移により体に起こる特殊な変化を…属性本質というその人特有の特殊能力となる」
指先を光らせ、その指先から出た光で俺達の目の前に何かを書き込んでいくハーケン陛下。
やがて幾何学模様のような何か文字を浮かび上がらせると、それがまた別の文字に変化していく。
「その《大妖精》という種族に属性本質の調べ方を教えて貰い、君たちの本質も一応調べられる」
「そんな文字で分かるのか?」
「わかるさ。ふむ、どうやらランディ君の属性本質は《暗闇》と《猛火》なようだ」
「……どんな効果があるんだ?」
「そうだねぇ…大方、瘴気が効かないとか、怒りっぽいとかかも知れないね?」
怒りっぽい…? それは属性本質による特殊能力というよりは俺の性格だろう?
なんだかかなり曖昧なようだ。 …ハルカを見るとまたコチラは別の文字が浮かび上がっていた。
「ハルカ君は…ふむ、《氷結》と《悲哀》だね。効果は氷結魔法の行使が強力なのだね」
「後半の《悲哀》っていうのはなんでしょう?」
「ちょっと勉強不足でわからないかな。まぁ気にすることじゃないよ。…属性本質はよくわかったかな?」
ひと通り説明が終わったようでハーケン陛下は幾何学模様の文字を消すと、俺達に問う。
俺達は両方共首を縦に振って首肯した。
「それはよかった。そんなわけでリーシアは騎士兵団きっての実力者であり、瘴気が効きにくい稀有な体質を持っているわけだから、君たちと共に行かせるというわけさ」
「…事情はわかった。とりあえず瘴気を払う方法がわからないんだが、それはどうすればいい?」
最低限何か手立てがあればと思い、聞いてみたのものの、陛下は首を横に振った。
「私にもわからない…瘴気の発生源でもあれば見つけて、断ってくればそれでいい」
「わかった。曖昧だがこの前と同じようにゴブリンぶっ飛ばしながら何か探せばいいわけだ」
「うん、シンプルで良いね。では、頼んだよ?」
「…よし、ハルカ、リーシア。さっそく行くぞ」
俺が歩き出すとハルカとリーシアはハーケン陛下に一礼し、俺に付いて来る。
「それにしても俺の本質が《暗闇》と《猛火》……ねぇ」
二人が追いついてこない内に俺は手を眺めながら、先ほどの本質の話を反芻させる。
案外二人が俺のことを厳ついという意味も少しはわかった気がしたが、納得しがたかった。
【――――――――――――。】
「……あん?」
ハルカとリーシアが俺に向かって怒ったように何か騒いでいる中、その声は聞こえた気がした。
鈴の音のようにかすかで、耳に入りやすい、何かを警告する少女の声…。
俺はそんな声を聞いて、何だったんだろうと首をひねりながら、二人の説教を聞き流すのだった。




