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そして世界は動き出すか…!?


「どうなってんっすか…俺、この前までブレイクダンスのバトル中だったはずじゃ…」


 異世界より呼びだされた勇者《武井義弘》は、兵士囲う王宮の真ん中で目を点にしていた。

 武井は地面に膝を付いた状態で、横には独身召喚士のアリナリーゼが仁王立ちでどっしり立っている。


「あなたは勇者としてこの世界に召喚されたわ。あとは自由になさい」

「は?いや何いってんすかアンタ。てか誰?ってかここどこ!?」


 アリナリーゼに向かって戸惑い、周りを見回してさらに戸惑う勇者。

 それを見て召喚士は鼻を鳴らすと、老人の男性のほうへ歩み寄っていく。


「ほら、勇者さまは呼んで上げたわよ。報酬早く、早く早く早く早く」

「急かすでない。あとなんだこの男は? さほど勇者らしい格好はしておらんのだが」

「異世界から呼び出した勇者なんて、大抵こんなものよ」


 老人は目の前に居る青年を見据える。

 頭にはスカルデザインの入ったニット帽を被り、ぶかぶかの大きなTシャツにダボダボのGパン。

 完全にB-boyの格好だった。

 だが、美的感覚がアルトレリア視点なため、異世界の美的センスに疎い老人は勝手に納得する。


「そ、そうか…ならば貴様を信じるぞ? ほら、報酬の美男子の情報だ。お見合い取り付けてさっさと行って来い」

「サンキュー!アンタのお陰で独身卒業できたら感謝してあげるわ!ばいばーい!」


 豹変したようにテンションを高くした召喚士がまるで幻だったかのように走り去っていった。

 取り残された青年は「はぁ…?」と絶句し、老人の方に視線を向ける。

 視線の先の老人は頭を抱えて「もう二度と会いたくない」とつぶやいていた。

 やがて気分を切り替えた老人が、威厳を取り戻すかのように高圧的かつ、腰の低い態度で勇者に詰め寄る。


「さぁさぁさぁ、よくお越しくださいました勇者さまぁ! アルトレリアへようこそ!」

「…はぁ。あの、すいません…ステージの名前かなんかっすか?」

「突然お呼びしてしまって右も左もわからないのはわかります!故にご説明させていただきますぞ!」

「あぁ…はい、どうもっす…」


 勇者はテンションが高く自分の話を聞いてくれない老人に対して軽く頭を下げた。


「まず説明致しますると、この世界は今、陰謀によって滅亡の危機に瀕しているのです!」

「はぁ……? それで、なんで俺っすか?」

「勇者さまは我々の世界とは違う異世界から呼び出されし、言わば貴方様は選ばれし勇者!」

「あぁっと…うん?」


 状況がいまいちわかりづらいという顔をして、首をかしげる勇者。

 そんな勇者に老人はまた喋り出し、こう提案した。


「イマイチご自分の立場をわかっておられない様子。お察ししますぞ。外に一度出てみますかな?」

「…えっと、それじゃあ、出るっすけど」

「よろしい!なれば衛兵!勇者さまと一緒に街を凱旋してくるのだ!」

「「イエッサー!」」


 パチンッと老人が指を鳴らすと、周りに居た兵士が勇者の腕をホールドする。


「へっ? いや、ナンっすか!? ちょっ!? ちょおおおおおおおおおおお!?」


 勇者はそのまま、宮殿の外へと連れて行かれ、老人はそれを見て鼻を鳴らした。


「この際、戦闘面に関してはワシはどうでもよい。ただ、脅威となり、平和の礎となるために…」


 老人以外誰もいなくなった宮殿に、一人、願い、抗うためのつぶやきが木霊するのであった。

 老人は疲れたような顔をして、そのまましばらくボケっとしていると…。


「ちょっとーーーーー!?」


 美少年を求めにいったはずの召喚士、アリナリーゼが勇者と入れ違いに宮殿に乗り込んできた。

 顔は真っ赤で何やら激昂しているようで、目は血走っており、今にも殺しに手を出しそうだ。


「召喚士?なぜまた戻ってきた? なんだ、なにか不服でもあったのか」

「不服も不服よ!! アンタの紹介した美男子…あの子、ディスタム王国の方に引っ越してるじゃないの!」

「なんだそんなことか」


 面白くなさそうに、また老人は鼻を鳴らし、タンが絡んだので「カーッ ペッ」と言ってタンを吐き出した。

 召喚士はその悪びれることのない老人の態度に、食って掛かる。


「これって賠償あるかしら!? あるわよね! なんせアンタの手違いなんだものね!」

「あーもうわかったわかった!ディスタム王国に渡るための駄賃渡すからそれでいいじゃろ!」

「ナイス!その言葉を待っていたわ!それじゃあ早く頂戴」


 わざとらしく両手を差し出す召喚士に、老人は「ワシはお前の祖父か…」と言いながら金貨を渡した。

 駄賃に金貨をもらった召喚士は声を上げ、クルクルと踊りはじめ、おもむろに止まると。


「あ、じゃあお釣りにディスタム王国の方には尻尾振らないようにするから心配しないで」

「それはありがたいが。お前さんのことじゃから信用ならんのじゃが…」

「なぁに、ディスタム王国のほうで召喚士としての私を知る人なんて居ないでしょー」


 自信がありそうにアリナリーゼは言うが、老人は未だに信用出来てない様子だ。

 アリナリーゼは一応かなりの実力を持っているため、そう簡単には捕まらないだろうと、老人は考えた。

 だがやっぱり首をかしげる。


「そうなのかのう…? まぁよい、行くならさっさと行くがよい。ワシは疲れたんじゃよ」

「あら、ご老体は大変ねぇ」

「うるさいわい。誰のせいでこんなに疲れたと思ってるんじゃ」

「さっきの勇者じゃないの?」


 どうやら本気でわかってないらしく、思いっきり首をかしげる召喚士。

 駄目だこいつ…と老人は思いっきり肩をがっくりと落とした。


「とりあえずもうそろそろ行ったらどうじゃ」

「そうね。色々と頼んだわよ? ワイズマン=ヴェルカード様」

「はいはい、達者での」


 アリナリーゼは踵を返して、今度こそこの場を去っていき、老人は一人またため息をついた。


「エボナ…わしぁ、また髪の毛が薄くなるかもしれんのう…」


 そんな小さいことでも心配になるほど、老人はかなり精神的に疲れて、寝室に足を向けるのだった。





 一方その頃、異世界から召喚された勇者の方はというと…何故か道のど真ん中で人の目を引いていた。

 単に周りから自然と人目を引いていたのはあるだろうが、勇者は自分から人目を惹きつけていたのだ。

 周りでは、キャラバンによる演奏が流れており、その曲に合わせてブレイクダンスを踊っていた。


「ほらほら!これが俺の必殺のアロンアルファだイェアー!!」

「「「「ふぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」」」


 まるで大道芸人かのようにブレイクダンスを披露し、街を行く人々の歓声を一身に浴びる勇者。

 その後方では、勇者を街に連れてきた兵士はというと、その光景を見て唖然としていた。

 重力を自在に操っているかのように空中を舞い、地面が氷で出来てるかのように地を滑る。

 観客や兵士には、それがまるで魔法か、それとも奇跡かのように見えていた。


「んじゃ、今日のところはコレで俺のステージは終わりっすよウィーアー!」


 ひとしきり踊り続けて、最後に決めポーズを決めた勇者に一際大きな歓声が浴びせられる。

 それを聞いて勇者は悦に浸り、兵士を連れて、その場を去った。


「いやー!気持ちがいいっすねぇ、この世界で踊るのは! リアクションが新鮮っすよ!」

「気に入っていただけたようでなによりです。私達も感動いたしましたよ。勇者様」


 兵士はキラキラと輝いた目で勇者を見つめる。

 ついていっている二人の兵士は共にかなり若輩者なほうで、歳は勇者とそう変わらない。

 勇者は二人の兵士の体をマジマジと見つめ、二人の兵士は首をかしげて問いた。


「どうか…されましたか?」

「いや、二人も結構ガタイが良いから、基本的なことさえ覚えたらブレイクダンスいけんじゃないかーって」

「私達が…あのダンスを…ですか?」

「…この際兵士を辞めて俺達三人でダンサーとしてこの世界に名を馳せてやるってのはどうっすか?」


 勇者が二人に手を差し出しながら言うと、二人の兵士はお互いに顔を見合わせた。

 兵士の内、金髪の兵士は差し出された手に、右手を差し出した。


「俺、ジャッカーです。勇者様、どうか俺達も貴方のようにしてください」

「じゃ、じゃあ俺も!! 俺はガリガンって言います!」


 金髪の兵士、ジャッカーが握手するのを見て、もう一人の長髪の兵士も勇者に握手を求める。

 勇者は、二人と握手を交わすと、やがてこう言うのであった。


「ジャッカーにガリガンっすか。よろしくっす。あと俺のことはもう勇者って呼ぶことはないっすよ」

「え? じゃ、じゃあなんとお呼びすればよいでしょうか…?」


 握手したまま、戸惑う二人に、勇者は思いっきり名乗りを上げた。


「俺は、《B-BOY》! 《B-boy》のヨシヒロっす!」

「《B-BOY》…!」


 B-boyの武井義弘は名乗りを上げると、二人の兵士…いや、新人B-boyは声を上げた。


「ヨシヒロさん!B-boyのヨシヒロさん!」

「なんかよくわからないけど、いい響きだ! B-boy!!」


 二人の新人ダンサーの目の輝きを見て、ヨシヒロは頷き、二人の肩に手をおいた。


「んじゃ、今日からお前たちはB-boyのジャッカーにガリガンっす!」

「「おぉ!!」」

「厳しく、ビシバシとブレイクダンスを教えてやるから覚悟するっすよ!」

「「応っ!!!!」」



 この日、世界は動き出さなかった。

 ただちょっとした変化だけをしただけで、ほかは特に何も起きることはない、平和な日だった。

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