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優しき本性と邪悪な本能


 そんなこんなでなんだかんだ、俺とハルカは騎士兵の訓練を受け、ゴブリン退治に赴いた。


 結局リーシアには弛んでいるだの何だのと言われて説教を受けてしまったわけで。

 あの後、リーシアは俺達にある程度戦闘におけるイロハを教えると、仕事に戻っていった。

 ハルカに槍術を教えていた、あの悩める少年は俺達に付いていこうとしたが、そこは上司に止められた。


 ということで、今はゴブリン達が現れるという城下町東区の町外れに来ていた。

 どうやらここから出てくる行商の馬車を襲っているらしいので、静かに待つことにした。

 それと俺はゴブリンの前に丸焼きにされかかったのでちょっとだけ手負いだ。

 なんだか最近負け続けな上に勝利をしていない気がする…この前の盗賊には横槍入れられたし。

 ここらへんで俺も活躍して最近の汚名を返上致したいところだ。


「ここで出てくるらしいけど…準備はいいか?ハルカ」

「うん…大丈夫。さっきはごめんね。お兄ちゃん」

「いやもう気にするなって。お前は十分今強いってことだろうが、うじうじしてねぇで胸張ってろ」

「う、うん…それでお兄ちゃん。ゴブリン達居ないようだけど、どうするの?」

「どうするもなにも待つしかないだろ。出てくるまでちょっと話でもしておくか」


 座るには丁度良い岩場に座って、ゴブリン達が現れるのを待つ。

 俺の方は視線は遠くに置きながらも、意識はハルカの方に向けた。ハルカも同じようにする。


「そういえば、お兄ちゃんはリーシアさんってどういう人なの?」

「あー? えっと…そうだな…言ってしまえば、バカと天才のハイブリッドみたいなやつだ」

「へぇ…外見じゃあすっごい優秀そうだったけど…」

「実際優秀だよ。俺が騎士兵団に入る頃には、もうリーシアは若干15歳で小隊長だったんだ」


 俺が門兵になる頃には、すでにリーシアは騎士兵団の奥義を体得していたことを思い出す。

 やっぱりアイツは俺が相手できる枠を超えている相手だ。そう思うとこの前の馬車騒動は絶対に手加減されている。

 努力の仕方を知っている天才、俺の中ではそうゆう評価だ。

 だが、アイツは重度のバカであり、空気が読めない迷惑な奴なのには間違いはない。


「そんな年齢で騎士兵団に入れるの?」

「あぁ、一応入れる。騎士兵団入団年齢の基準は15歳から…十分騎士に志願することは可能だ」

「じゃあ私も騎士兵団に志願したら入れるかな?」

「入れるぞ。ただ、自由になることは出来ないがな」


 俺はただ遠くを見つめて、過去を思い出す。

 俺の中で騎士兵団に所属していた日々は、ただただリーシアに対する不満を聞くだけのつまらない日々だった。

 当時の騎士兵団は年功序列を当たり前としていて、実力で成り上がってくるリーシアに批判的だった。

 最近はさらに頭角を現したようで、もはや不満をもぶった切る勢いでのし上がっているようだが。

 なんて…昔のことを思い出すとなんとなく憂鬱になるから、回想するのはやめよう。


「そういえば、ハルカは元の世界で何か武術でも学んでいたのか? 正直力が強いわ足腰は強いわでびっくりなんだが」

「元の世界で、マーチングバンドっていう音楽行進部で、大きな旗を一生懸命振ってたから…それでかな?」

「へぇ…華奢な見た目の割にはすげえことやってたんだな」

「まぁ、打楽器も吹奏楽も出来なかったから、せめて…ってね…」


 話を進めていくうちにどんどんとハルカの顔色が暗くなっていく、元の世界で何かあったのだろうか。

 いや、傷口を開くような真似をするべきじゃないな。ここは察してそれ以上は聞かないでおこう。

 さて…結構な時間待ったのだが、一向にゴブリンが現れる気配がないな…なぜだ?


 などと少し疑問を抱いていると、俺達の後方から馬車が通りかかった。

 俺はその馬車に乗っている初老のじいさんに目を向けて、馬車が通り過ぎていくのを眺める。

 …待てよ?


「あの、すいません。ちょっと聞いてもいいですか?」

「はい、この老人めになんでしょう?」

「ここらへんでゴブリンって出ますよね。なぜ、今通ろうと?」


 俺の問いかけに初老のじいさんはあぁ…っとつぶやいて、答える。。


「今は昼でしょう? ゴブリン達が馬車を襲うのは人々が疲れてきた夕方ですじゃ」

「へぇ…ちなみにマーサの森を通らないのは?」

「昼は其処にゴブリンが出るのですじゃ、最近の行商人も困り果てておってですなぁ…」

「そうですか。ありがとう」

「ほっほっほ、若人さん、がんばってくださいの…では」


 調子よく爺さんは馬車を走らせて去っていく。 やっぱり時間帯のせいか…。

 夕方になれば視界もすこし悪くなるので戦闘しづらくなる…としたらやはり森に突っ込んだ方が早いか。

 じっと馬車の方を見ていた俺にハルカが問いかけてきた。


「どうするの?」

「森の中に入ろう。どうせゴブリンを一匹二匹潰したらそっから集まってくるんだ。すぐに終わるだろ」

「うん。わかった…」

「ココらへんで行商が使っているマーサの森にある道路がある。そこなら目印も多いし迷わない」


 そう言って俺とハルカは平原を少し歩いて、マーサの森を目指す。

 マーサの森は比較的安全な森林地帯で、城下町のすぐ近くにあったりする。

 行商の関係で道も舗装されており、旅人も良くここを通って王国から旅立つという話を聞かなくもない。


 俺達は城下町傍のマーサの森に入る。


 森に入ると、なにやら不気味な雰囲気がただよい、俺が見たこともないような果実がそこら中に群生していた。

 魔物はこういった不気味な雰囲気…いや、この場合漂っているのは正しくは《瘴気》か。

 この《瘴気》につられて集まってくる習性がある。、《瘴気》自体は魔物達が独占している大陸から飛来したものらしい。

 瘴気は少なからず、この大陸に元々生息していた動物にも影響を与えており、瘴気に当てられて動物は魔物になる。

 …っということが最近の王国での学会で発表されたらしい。


「お兄ちゃん。ここ、なんだか不気味な感じだよ…」


 どうやらハルカもそれを少なからず察していたようで、周りを見回しては、不安に眉をしかめていた。

 俺はこの際だったので、《瘴気》について軽く説明をした。

 ハルカも最近こういった知識を簡略的に学ぶ習性が付いたようで、首肯して理解した素振りを見せる。


「つまり、その瘴気が出ているところは危険ってこと?」

「そうだな。っと言っても俺がハルカを守るから心配するな」


 ハルカの肩に手を置き、にかっと笑うと、ハルカは明るい笑顔になって「うん!」と頷いた。

 やはり妹というのは良いものだな。こう、守るものがあるっていう感じだ。

 俺とハルカは周りに注意を配りながら、瘴気が漂う森のなかを進んで行く。

 やはり行商人が舗装してくれた道は獣道と違って歩きやすく、疲れが溜まってこない。


「そういえば、お兄ちゃんは魔法は使わないの?」

「あー…いや、厳密には使わないっつうか使えないんだなこれが」

「どうゆうこと?」

「発火魔法を一応使えるけど、薪に火を灯すのに5分はかかる」

「…こう、なんていうか不便だね」

「そうだな…っとハルカ、一旦止まれ。魔物だ」


 前方にいた4足歩行の魔物を見つけて俺は言う。

 度々騎士団の中でも買われている戦闘犬、《アサルトドッグ》だ。

 野生らしく、毛は不揃いで硬そうだ。なにやらところどころ返り血がびっしりと付いていて、怪我もしている。


「…ワンちゃん?」

「アサルトドッグだ。強敵だからここは距離を取るぞ」

「でもあの子、怪我してるよ?」

「ほっとけ。元は動物だったんだろうが、瘴気の影響で魔物化している。近づくのは危険だ」


 むりやりハルカの袖を掴んで脇道に引っ張り込む。

 そして俺達はアサルトドッグから離れて、しばらくあの魔物が道から去るのを待った。

 すると、アサルトドッグはなにか獲物を見つけたのか、獣道に駈け出して消えていった。


「正直ゴブリンより強いから今の俺達では相手をするには難しい。極力アイツとの接触はしないでおこう」

「わ、わかったよお兄ちゃん」

「さて…どうしたもんか…正直アサルトドッグまで居るとなると、この瘴気は怪しいな」

「どうするの? ゴブリンを見つけるまで探索する?」

「そうしよう。あわよくば瘴気の素になってる物を見つけてリーシアに報告する」

「素なんてものがあるの?」

「あったらの話だ。瘴気について俺は今の情報以上に詳しくはないからな…んっ?」


 ハルカと歩きながら話していると、道の真ん中に何やら不穏なものが転がっていたのを見つける。

 俺はそれを目を凝らしてじっと見つめると、骨や肉の残骸から、何かの死体だということがわかった。

 ハルカと一緒に何かの生物だった跡に近づいて、それが何の生物かを確かめに行く。

 この緑色の肉片と、近くに転がっている木製の棍棒…これは…。


「…ゴブリンの死骸か? 随分と食い荒らされてやがるな。こりゃゴブリン退治の手間が省けたわ」

「お兄ちゃん…大丈夫なのこれ…うっぷ!」

「無理はせずにあっちを向いてろ。これは俺が調べておく」


 ふむ、無造作に食い荒らされているところを見ると、どうやら先程のアサルトドッグにでもやられたか?

 首筋であったであろう場所にある歯の造形が犬のそれであるのが確認できる。

 俺はゴブリン達を退治した証になる、棍棒や爪を一応採取しておく。コレは大事な作業だ。


 ――ガサッ!


「……っ!?」

「お、お兄ちゃん…!」


 ハルカの方を見ると、ハルカは茂みの方に向いていた。

 しまった!もしかして俺達は誘い出されたのか!?


 敵の存在に気づいた俺達に、アサルトドッグが茂みから出てきて、犬歯を剥きだしにする。

 俺はハルカの前に躍り出て、拳を構える。ハルカも後ろに一歩下がってスタッフスピアを構えた。


「やられたぜ…こいつは逃げられねえな」

「どうするのお兄ちゃん…?」

「こうなっちまったらしかたねえ。徹底的にぶっ潰して明日の晩飯を犬鍋にでもしてやるのさ!」


 俺が叫びを発すると、アサルトドッグは大口を開けながら俺達に襲いかかってくる。

 まず最初のターゲットは一番近い位置にいた俺。

 俺はアサルトドックが飛び込んできたところを間一髪頭を掴んで投げ飛ばした。

 投げ飛ばされたアサルトドッグは体を半ひねりして、地面に見事に着地し、また猛スピードで襲いかかる。


「ぐわっ!!!」

「お兄ちゃん!?」


 アサルトドッグの牙が俺の左腕に食い込み、肉を引きちぎろうと締めあげてくる。

 とっさにアサルトドッグの顔を殴り、ひるませると、アサルトドッグは俺から飛び退いた。

 どうやらある程度の攻撃でひるませることは可能らしいが、多分ダメージは通っていないだろう。


「ハルカ!こいつは動きが早い!殴って鈍らせるから魔法で焼け!」

「わかったよ!当たらなくてもいいから《フロストⅠ》!!」


 アサルトドッグの動きに合わせてハルカが自分の目の前に氷柱を突き立てる。

 すると突如目の前に出された氷柱をアサルトドッグは体を捻って避けると、ハルカと一旦距離を取った。

 俺はハルカに代わって、氷柱の前に立つと、それを思いっきり拳で殴り上げた。

 大きな体躯を持つアサルトドッグに氷の礫が降り注ぎ、動きを一気に制圧する。


「そこだ!やれ!」

「今度は当たって!《フレイムⅠ》!!」


 ハルカは動きの止まったアサルトドッグに向かって、手の中で作った火球を投げつける。

 その火球にギリギリ反応したアサルトドッグは真正面の火球に対して横っ飛びに回避する。

 火球は、アサルトドッグに直撃とはいかなかったが、誘爆した際に後ろ足を焼いた。


「ゴメン!外しちゃった!」

「いや、十分だ!《砕破…》――いや、違うな、《震牙武蓮脚》!!!」


 俺は正面から殴りかかるのをやめて、飛び上がった。

 そしてとっさに判断したのが功を奏し、アサルトドッグは怪我した後ろ足で地面を蹴りあげて飛び込んできていた。

 飛び上がった俺の足元にアサルトドッグが飛び込んで、俺は上空から思いっきり足を踏み下ろした。


 ――ガスッ!!ガスガスガスガスガスッ!!


 俺の振り下ろした足を頭で受け、地面に叩き落とされるアサルトドッグ。

 戦闘意思が消えかかるアサルトドッグに対して、俺は足を再度踏み降ろし、それを繰り返す。

 まるで釘をハンマーで打つがごとく、何度も何度もアサルトドッグを踏みつける。


「オラオラオラオラァ!こんなもんかよ!!」

「お、お兄ちゃん…そこまでするのは流石に可哀想だよ…」


 俺が豹変したようにアサルトドッグの頭を踏みつけまくるのを、ハルカが戸惑ったように言う。

 その言葉を聞いて、俺は我に返ると、ゆっくりとアサルトドッグから足を下ろした。

 …いや。


「オラァ!」

 ――ガスッ!


 もう一回だけ思いっきり踏みつけてから足を下ろす。

 前に一回この技を放って復活した魔物がいたんだ、念には念を入れて追撃しておく。

 すっかり息の上がった俺は、ハルカの方に向き直ると、彼女は槍を抱えて絶句していた。


「……。」

「ふぅ…ふぅ…すまん、びっくりさせたか?」

「う、うん…すこし、ね」

「テンションが上がったりするとこうなるんだ。あんまり気にしないでくれ」


 それを言うと、ハルカはうつむき、押し黙ってしまった。

 瘴気で殺気立つ森の喧騒が、俺達の無言により、より一層騒がしくなったように感じた。


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