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兄より優れた妹など居ない…はず


「いや、絶句だよ」


 広場のボヤ騒ぎから一日。俺達は城へと赴いていた。


 広場の状況は昨日、ハルカが調子よく魔法をぶっぱなしたお陰で悲惨な景観になってそのままだ。

 そして今はその説教をしているところで、ハルカは大人しく俺の話を聞いていた。


 ヒトミはと言うと、ハルカの起こしたボヤ騒ぎに巻き込まないために昨日は一足先に帰らせた。

 後にギルドマスターも絶句したことは言うまでもない。

 っというかなんで魔法をたった五分もしない内に使えるようになるんだよ。

 なにやら派生も効くようになったらしいし…この妹かなり才能入ってやがる。


「大体な? 魔法なんて町中でバシバシ打つもんじゃねえんだよ。…ったく」

「ごめんなさい…」

「反省しているんなら許すけど、次が無いようにしろよ?」

「はい…」

「…っと、目的地に着いたぞ」


 しょんぼりしたハルカを連れて俺は城の前まで来た。機嫌の悪そうな騎士兵が俺を睨む。

 俺は勇み足を決めこみ、ハルカを連れて城の中に入ろうとする…。

 ――ガシャ!

 大きな槍で退路を塞がれてしまった。まぁこれは挨拶なのだから気にはしないが。

 大きな槍を構えた不機嫌そうな騎士兵が俺に叫ぶ。


「何者だ!? 何用でここに来た?」

「すまんな。名乗るのが遅れた…元騎士兵団のランディだ。リーシア部隊長に話があってきた」

「ふん…そこで待っておけ!」


 槍を戻し、不機嫌そうな騎士兵は顎で近くの騎士兵にリーシアを呼ぶように促し、新兵らしき騎士兵が駈け出した。

 ハルカはそんな俺達を心配そうに見つめ、その場に立ち尽くす。

 しばらくしない内に、城の扉が内側から開かれ、リーシアが片手を腰に当てたポーズで現れた。


「私を呼んだか?」

「あぁ、ちょっと用事でな」

「何だ?ハルカ殿絡みか? …お前たちは下がっていいぞ。彼らは私の客人だ」

「「「はっ!」」」


 リーシアが号令すると、騎士兵達は立直し、元の体制に戻る。

 俺はハルカに「行くぞ」と言って、城の中に歩き出すと、ハルカはビクビクしながら付いてきた。

 しばらく城の中を進んでいくと、リーシアは俺たちに背を向けながら話をしてきた。


「そういえば、この街はどうだ?ハルカ殿」

「はい。いい街ですね。活気があってすごく元気になれます」

「そうかそうか。ランディごときが街案内しても不自由を訴えなかったということは、いいことだな」

「あん?なんで俺は今バカにされたんだ…?」

「どうせギルドにでも案内したのだろう? まぁ、まずは資金から稼ぐ気は満々なわけだ…」

「当たり前だろ。こっちの街にも洗濯屋を建てたいんだよ」


 やれやれと言わんばかりに肩をすくめたリーシア、なぜコイツはこんなにも俺に大して挑発的なのだろうか。

 いや、もう騎士兵の時からずっとこうなのだがな。うん。

 というか騎士兵をやめて二年だが…この城を歩くのも久しぶりな気がするなぁ。

 なんて考えていると、もうリーシアの執務室の目の前に来ていた。うん、やはり取っ手が豪華だ。

 褒めるべきところが其処しかないのが難点なのが、このリーシアの部屋なんだがな。


「とりあえず、いらっしゃいだな。どういった要件なんだ?」

「実は、このハルカに槍を買ってやったんだけど、ちょっと心配だから騎士兵団術技を教えてもらおうかと思ってな」

「なるほど、そうゆう要件だったか。騎士兵団は国民の術技の習得は基本的に推奨だ」


 リーシアはハルカを一度見て、その後ハルカの持っているスタッフスピアを眺め見る。

 なるほど、といったようにリーシアが首肯した。


「なら…」

「あぁ、いいだろう。私自らが直接教えこんでやるとしようではないか!」

「ありがとうございます!リーシアさん!」

「じゃあ先に行って待っているぞ!」


 リーシアはおもむろに窓を開けると、窓枠に足を掛けた。こいつ、飛び降りる気か!?

 っていうか軽装だったら問題無いだろうが、このアホは今騎士兵団の重そうな装備をしている。


「あっ!? リーシアさんそこ窓!あとここは三階!」

「大丈夫だ!ではな!」


 リーシアは手を振ると、いかにも重そうなガシャ!という音を立てて窓から飛び降りた。


 ――グキッ!


「いたああああああああああああぃ!?」


 やっぱりアイツ馬鹿だ。

 俺達が窓から見下ろすと右足をひねって悶絶している部隊長と、それを心配そうに見つめる数人の目撃者達が居た。

 とりあえず、アイツ直々に指導を受けさせてもらうことはできなくなりそうだ。

 あいつはアレでも強いから…きっと適任だと思ったんだが、やはり無駄だったか。


「お兄ちゃん…リーシアさんって」

「あぁ、前々から人より先に目的地に着いていることを何かしらこだわっている奴だったが…まさか悪化しているとは」


 未だに悶絶しながら、周りの騎士兵に助けを求める情けない部隊長を見ながら俺は頭痛が酷くなるのを覚悟した。



 それから、部隊長の直接指導はなかったが、代わりに槍に精通する騎士兵が指導することになった。

 その騎士兵とは、俺達が城下町に入るときに、警備兵をしていて、ハルカに一目惚れをしていた彼だった。

 どうやら彼が騎士兵のなかである程度槍術に精通した兵士だったらしい。

 その騎士兵は俺を見るなり「お兄さん!妹さんを僕にください!」と頭を下げたが、丁重にげんこつを入れておいた。

 アホ。初対面でそんな挨拶があるか。


 現在はその騎士兵の教えを受けているハルカ。一生懸命頑張ってはいるものの、ちょっと若干相手が悪い。

 それはなぜかと言うとあの騎士兵。隙あらばハルカの体に自然とボディタッチしようとしていやがるからだ。

 動きがぎこちなさ過ぎてバレバレだぞ。あれは後でげんこつだな。

 とりあえず刺突、払い、抜き払いの基礎的な動きをひと通り教えてもらったハルカは自己アレンジで槍を降り始めた。

 基本がなっているからこそのアレンジなんだろうが、大丈夫なのか…?

 教えた騎士兵もなんだか見とれているようだから、多分…いいんだろう。うん。


「お兄ちゃん!今の動きどうかな!?」

「別にいいが、魔法も組み込むんならもうちょっと大胆に振り回してみてもいいんじゃないか?」


 時々こうやって俺にも教えを乞うが、残念、俺に槍術はわからんので適当だぞ?

 ハルカが槍を振り回してはしゃいで居ると、足を引きずりながらリーシアが俺の隣まで歩いてきた。


「ハルカ殿はどうだ? いい感じか?」

「あぁ、楽しそうに槍を振り回しているよ。それで何だ?」

「…ちょっとだけ真面目な話をする。先程治療を受けながら聞いた話なんだが」

「……。」


 俺は、とうとう槍と魔法の一体型とした槍術を試し始めたハルカを見ながらリーシアの話に耳を傾ける。

 リーシアは近くにいる俺ぐらいにしか聞こえないぐらいの声量でその話を口にする。


「ここから北方の大陸にある国に、どうやら最近《召喚士》が現れたらしい」

「…《召喚士》ぃ? なんだそりゃあ」

「なんでも異世界から人や魔物、物や道具を召喚するとかいう魔術師らしい。ハルカ殿にも関係があるかもしれん」

「あぁ、その話が本当なら、ハルカを異世界に帰せるかもしれねえな…」

「だが所在地がわからんから、しばらくは様子見だ。バックに何があるかもわからん」

「そうだな…」


 《召喚士》…か。なるほど、ちょっとはハルカを異世界に帰せる手立てが立ったな。

 異世界から何かを召喚することのできる魔術師、これはもう少し情報が欲しいところだな…続報に期待か。


 とりあえずまたハルカの方に意識を向けると、どうやら魔法と槍術による攻撃にかなり慣れてきたようだった。

 そろそろ実力を見るには丁度良い頃合いかな…。


「ハルカ!ちょっと俺と模擬戦と行かないか? 今のハルカの実力も知りたいし」

「うんいいよ!お兄ちゃんが相手でも手加減しないんだから!」

「よし、本気で来いよ!」


 俺はバッグから小手を取り出して腕に装着し、騎士兵を押しのけてハルカの目の前に躍り出る。

 ハルカは槍を構えて低く体制を取り、俺に向けて突貫しようとしていた。

 だが、まだ合図は始めってすらもいない。俺も負けじと拳を構える。

 余計な怪我をされても困る上に俺が本気を出せばどっちかが怪我をするので、今回は手を抜いてガードしようかね。


「リーシア。合図してくれねぇ?」

「分かった。これより模擬戦を始める!勝負の内容は一本勝負!どちらかが一撃入れれば勝ちだ!」


 リーシアは高らかに手を振り上げる。

 俺とハルカは双方身構えながら相手をじっと見つめて視線を外さない。

 やがて、リーシアの振り上げていた手は振り下ろされる。


「始め!!」


 リーシアの合図によって火蓋を切って、まずハルカが俺に接近する。

 俺はとりあえず槍を受け流すだけの体制を取り、刺突を読む…。

 ――ガッ!という音と共にハルカの刺突は受け流されるが、受け流しに反応したハルカが素早くバックステップをした。

 反応早いな…一撃を入れようと思っても多分空を切っていた自信がある。


「行くよ!《瞬風槍》!!」

「おっとぉ!?」


 先程よりも大分早い刺突が俺に目掛けて放たれる。俺は同じように受け流しを取りながらバックステップする。

 ハルカはそこを狙ってなのか手のひらに火球を作ると、それを俺に投げつけてきた。


「当たって!《フレイムⅠ》!!」

「なんだそのかっこいい術名!《灼炎段》!!」


 ハルカが放った火球に対して、俺は魔法と同じ要領でできる《闘気》により足に火炎を纏った。

 そしてハルカの放った火球に火炎を纏った足で回し蹴りを食らわせて、火球を散らす。

 魔法は同属性の攻撃によって相殺することが可能だ。

 というか知り合い相手に本気で火炎弾を飛ばしてくる魔法使いって一体。


「まだだよ!」

「うわ!!」


 ハルカはここぞとばかりに接近して、火炎をなんとか退けた俺を肉薄する。

 俺はハルカが振るう槍を払い、退けるだけで精一杯になりながらなんとか避ける。

 というか…早い! とにかく素人の動きじゃねえ!何だコイツ!!

 ハルカは守りに徹している俺に対して思いっきり横薙ぎに槍を振って払おうとする。

 また早い!上体を低くして避けようかと思ったが、それも間に合わないほどに早い!

 俺はその槍を小手でなんとかガードして退けた…と思ったが。


「そこだよ!《フレイムⅠ》!!」

「ぐあっ!?」


 槍の横薙ぎをガードすることによって、がら空きになった俺のボディにハルカの火球がぶつけられる。

 火球をぶつけられた俺は5mほど吹き飛び、地面に背中から叩きつけられた。

 周りで見ていたリーシアも、騎士兵も唖然とした顔でハルカを見つめていた…。

 一人、ハルカだけが、俺を吹き飛ばした結果を見て、はしゃぎだした。


「や、やった!? お兄ちゃんに勝っちゃった!?」

「うっは…痛ぇ……」


 ――俺は見事、妹に負けた。まぁ油断した上に手加減した俺が悪いのだが…。

 その後、いつのまにやら足の痛みを忘れるほどキレたリーシアに鍛えなおされたのは言うまでもない。

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